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あかねside
第二話~結奈目線~親友の秘密
しおりを挟むいつも縋っていないと
いつも彼氏がいないと
駄目になりそうで怖かった。
だからあたしは依存してた。
満たされない心が満たせる相手なら
誰でも良かったのかもしれない。
鞄をふてぶてしく担いで
帰ろうとする彼の腕を掴んだ。
「ひどいよ、京平!」
「何がひどいわけ?」
私の手には
他校の女の子と彼、柘植京平との
Kissプリが握られてるっていうのに。
彼は全く、意に返さない…。
溜まった涙を流さないように
細く息を吐き出してあたしは答えた。
「浮気……してるじゃん」
「浮気?」
「結奈とキスとかするくせに…他の子ともこんな」
すっと涙が落ちると、
ああもう止まらない。
泣いてるあたしに、
京平は無情なため息を吐きかけた。
「あのなあ、思い出してみれば?初めの時お前なんて言って俺に縋ったの?二番目でいいから、彼女にしてって言ったの、お前じゃん」
「…そうだけど」
二番目どころか今はもう
何番目かすらわからない。
今がとても苦しかった。
京平の怒りはおさまらない。
「ちゃんとデートの時は結奈の好きなとこ行くし、気持ちよくだってさせてやってんじゃん、感謝出来ないわけ?」
「でも」
あたしが口にした打ち消しの接続詞が
京平の怒りに拍車をかける。
「めんどくせーなあ、もう別れる?」
別れる?
その言葉に肩が震えた。
彼を失うなんて考えられない。
「え、ごめん、やだ!」
あたしは彼に縋り付く。
彼は腕に縋ったあたしを
振り払って言った。
「だってさぁ、うざいよ、お前」
本当にうざたらしそうに、
怒りをため息で逃しながら…
このままじゃ彼に、嫌われちゃう。
だからあたしは
「もうウザいこと言わないから、お願い、別れるなんて言わないで」
思ってもいない言葉で
上辺を繋ぐんだ。
「次、こんなこと言い出したら次こそ別れる」
「うん…ごめんね」
彼が去っていく。
部活を休んで帰ってく。
きっとこの後
他の子とデートなんだ。
もしかしたら
Kissプリの子かもしれない…
夕暮れに染まる校内
涙を、落としながら
あたしはさまよい歩く。
きっと彼女を探してる。
彼女…永倉あかねは
あたしの親友だ。
高校の入学式で
意気投合した。
少しツンデレで
男の子みたいなあかねが面白くて
ずっとあかねの後を追いかけていた。
いつしかそれはあたしの中で
安らぎに変わっていった。
誰とも
付き合った事がないあかねに比べて
あたしはもう京平で5人目だ。
でもそれがあかねと比べて
幸せなことかと言ったらそうじゃない。
いつも泣かされて
いつも苦しくて
いつも浮気されてフラれる…。
1ヶ月すら続かない事もあった。
あかねはそんな馬鹿なあたしの話をいつも
「そんな男とは別れろ」って
「あかねにはもっと相応しい奴がいる」って
そう言ってくれる。
その言葉がいつも、
あたしを落ち着かせてくれた。
今日もきっとその言葉が
聴きたくてあかねを探す。
「でもさ…は……じゃない」
「うん…だけど…しいんだ」
あかねだ。
階段の踊り場から声がする。
男子と話をしているらしい。
あかねの声を聴いたら
ほっとして涙がまた溢れ出した。
話が終わるまで待とうか…
それとも今出ていこうか
迷っていたその時
予想もしなかった言葉が飛び込んできた。
「あかねは、ちゃんと男の子の心持ってる。かっこいいよ」
「だけど私の体…女だ。ホルモン治療だけでもいい、…早く髭が欲しい、喉仏が欲しい。低い声、骨ばった体が欲しい。本当の自分の体に戻りたいだけなのに、なんで年齢制限なんかあるんだよ…馬鹿げてる」
「あかね…」
「もう、こんなの嫌だ、この体のせいで私は、好きな子にも告白できない」
何を、言っているのか
理解できなかった。
あかねが男の子?
ホルモン治療…って何?
好きな子って、誰?
衝撃を受けて言葉も出ない。
身体中から
血の気が引いていくのがわかる。
あたしはその場を静かに立ち去った。
あかねに知られないように、そっと。
話を聞いていたことがわかったら
あかねはどんな顔をするんだろう。
恐かった。
とてつもなく恐かった…。
家に帰った私は
自室のベッド際の壁にもたれ
クッションを抱いて、
くるくるとあかねの事を考えていた。
あかねの心が男の子って…なんだろう。
思い立ってスマホで検索を掛けた。
弾き出されたのは
「性同一性障害」
「トランスセクシュアル」
男の子になりたい女の子
女の子になりたい男の子
どうしてそんなことになるのか
サイトの文章を
何度も読み返すけれど
理解できない…
ホルモンシャワーって何??
結局障害なの?
生まれつきの病気なの?
わからない。
でも…
「あかね、苦しそうだったな」
あんなあかねの声を
あたしは聞いたことがない…。
いつもあたしの前で笑ってるあかねが
今日は涙に濡れた声を絞り出してた。
好きな人が出来たら
あたしはすぐに告白してしまう。
黙っていることが出来ない。
あかねは…
好きな子に伝えたくても
伝えられないって言ってた。
きっとそれって、すごく辛いこと。
「あたし…信頼されて、ないのかな」
相談、してくれなかった。
なんだかとても悲しくなって
あたしはクッションに顔を埋めた。
ピロン
しばらく経つとLINEが鳴る。
開いてみると京平だった。
「明日帰り遊ぶ?暇だから」
うん、遊ぶ!
いつもなら打てる言葉。
待ち望んでたLINE。
だけどこの日は…
送信をタップ出来ない。
嬉しくも…ない。
うん、遊ぶ。と打とうか
今回はいいや、と打とうか
何度も打っては消しているうち
あたしは
深い眠りに落ちてしまっていた。
***
「おーい、結奈」
次の日、泣き腫らした顔を
うっすらメイクで隠しての登校途中
あかねに肩を叩かれた。
「おっはようー」
あかねは今日も元気だ。
本当はあんなに苦しんでるのに
私の前では無理して
明るくしてくれてるのかな。
無理して欲しくない…。
「あ、かね」
涙が滲む。
「え、どうしたんだよ、結奈?」
「無理、しないでね」
「ん?無理、してないよ」
「…うん、結奈、なんでも聞くよ」
「うん、大丈夫?」
あかねは
優しくあたしの肩を撫でる。
女の子の華奢な手のひら。
だけど、ほんとは
心の中は、男の子。
この手は本当は
男の子の手だったかもしれないんだ。
顔がかっと熱くなる。
あかねの体が男の子だったら
どんなだったんだろう。
混乱して頭が爆発しそうだ。
その時、
「あー、結奈」
機嫌が悪そうな京平が
私の前に立ちはだかった。
京平は176cm
あたしは152cm
20cm以上も上から切れ長の目が
あたしを見下げて睨んでた。
「…お、はよ、京平」
肩が小刻みに震える。
怒ってる男の子は、恐い。
あかねはそんな私に気付いたのか
肩を撫でていた手のひらに力を込めた。
「お前さぁ、なんでLINE既読無視わけ」
「ごめ、んと、寝ちゃって」
「あんな早い時間に寝るわけ?」
「昨日、疲れてたみたいで」
「……最低だな、お前人の誘いそんなんして断るわけ?」
「……ごめ」
ごめん、いつも通りの定型文を
言いかけるとあかねが
京平の前に踏み出して言った。
「ちょっと、女にその態度、何様なわけよ。最低なのどっちだよ」
「なんだよ永倉、お前と話してねえんだけど」
「あんたがいつも既読無視してんでしょ、結奈のたった1回の、しかもわざとじゃない。寝ちゃったって言ってんじゃん。それをそうやって責められんの?」
「何?説教?うぜーんだけど。結奈お前も、止めろよ」
京平の苛立ちは頂点だ。
大きく顔を歪めて私に命令する。
逆らえない。恐い。
これで嫌われて別れたくない。
別れはいつも悲しいから。
どんなにひどい男と別れても
あたしは絶対苦しくて
涙に暮れるから。
あんな思いもうしたくない。
その一心であたしは、
あかねの袖を引っ張って
震える涙声で呟いた。
「あかね…もう、いいよ」
「なんで!?いいわけ…ないっ」
耳がキンとするくらい激しい声が響く。
あかねの声だった。
あかねはあたしの肩を
強く両手で掴んで
真剣な眼差しを向けた。
色素の薄い目がキラキラ輝いていた。
「結奈、これでほんとにいいわけ?結奈すっごくいい女なんだよ、いつも笑顔でよく気が付くし、愛情深いし、天然で可愛いしお洒落だし、すっごい魅力的な女なんだよ」
あかねが、あたしを褒めちぎる。
こんな事…
彼氏にも言われたことなんかない。
「だから結奈の魅力に気付けないこんな馬鹿男に振り回されて泣くことなんかない、もっと…いい男いっぱいいる!」
ぽろぽろと涙が溢れた。
あたしより少しだけ大きな体で、
長身の京平をコケにする。
まるでそれは小型犬が
家族を守るために狼に盾突くような
そんな光景だった。
京平は怒りに震えながらも平然を装って
馬鹿にしたようにへらへらと笑う。
「何、永倉、お前結奈のこと好きなの?レズ?きも」
あたしの中で
何かが弾けた。
あかねはいつだってあたしを守ってくれる。
あたしの話に、耳を傾けてくれる。
京平が一度もしなかったこと
幾つもしてくれた、大好きな親友…。
「あかねは、誰よりかっこいい!馬鹿にしないで!」
あたしはそう言い放ち、
気がつくと
京平を平手打ちしていた。
勢いとはいえ、パンっ
その音の気持ちのいいこと。
今まで逆らえなかった。
でもおかしいと思う事は山ほどあった。
心のどこかには
少しすっとしているあたしがいた。
私の平手打ちに怒ったのは京平だ。
今まで
牙を持たない草食動物だと思っていたあたしが
いきなり牙を向いたんだから。
「いっ…てえ、このっ、」
京平の手のひらは圧迫感を率いて
あたしの頭を押さえつけようとした。
あたしは身をかがめて
頭を守りしゃがみこんだけれど
それより早く動いたのは
あかねだった。
あたしの前に仁王立ち
その足を振り提げたかと思うと
京平の下半身目掛けて
思いっきり蹴りあげたのだ。
「女に手あげるような男、男じゃねえよ!」
そう声を荒らげて
膝をつき悶絶する京平を放り
あたしの手をひいてあかねは言った。
「結奈、行こ!」
「…うん」
華奢なあかねの手を強く握りしめて
あたしはあんなに依存していた京平を
1度も振り返らず
あかねの後ろ姿だけを見つめていた。
*゜*゜*゜*゜
「ごめん!結奈の彼氏なのにやりすぎた…」
学校へ行く途中、遅刻覚悟で
あたしとあかねは公園へ立ち寄った。
そこであかねに深々頭をさげられたのだった。
「え、やめて、やめてやめて!」
「でもさ」
「いいの、あれでよかったんだよ」
「なんで?」
「だって!あたしの大事なあかねを、あんな…あんな言い方して欲しくない、ひどいよ、京平とは別れる」
あたしはこの時、
はじめて自立したんだと思う。
「彼氏」という存在を
自分から蹴る決意をしたんだ。
あんなに依存してた。
好きな事も言えないくらい、我慢してた。
でも
彼氏より「あかね」が大切だと思えた今
「彼氏」その立場だけで
側に居てくれるような…
満たされたような気に
なっていただけだった事に
気がつけた。
「ほんとに…いいの?別れちゃって。」
少し、涙ぐんであかねは尋ねる。
どうしてそんな顔するんだろう。
疑問に思いながらあたしは
飛びっきりの笑顔であかねに言った。
「京平に時間割くよりあかねと一緒にいる方がいいや」
すると、あかねは
ぐずっと鼻を鳴らして
目にいっぱいの涙を零し始めた。
「え、泣いてるの…?」
へへ、っと笑いながらも
あかねの涙は止まらない。
「ど、どうしたの?」
「ううん…なんでもないんだ」
「泣いてるのに?」
首を傾げて心配そうに
あかねを覗き込む。
あかねは照れくさそうに呟いた。
「嬉しいんだ…結奈と一緒にいられることが」
手を握られる。
ぎゅっと強く握られた。
とても、冷たい手。
そういえば小学生の頃
手の冷たい人は
心が温かいって聞いたっけ。
あれは迷信なんかじゃなく
本当の話だったんだ…
だってあかねの心は誰より温かい。
片方の拳で目から零れる涙を隠すあかねの姿は
女の子が泣いているというよりも男泣きに見えた。
…かっこいいな
人知れずそんなこと思って照れ隠し
あたしは、あかねの頭を優しく撫でた。
トランスセクシュアルとか
性同一性障害とかあたしには
難しいことはまだわかんない。
だけど、大好きなあかねの心が
男だっていうならそうなんだろう。
あかねはかっこいい。
それから優しい。
あかねの心が好き。
あたしの目に映るあかねを信じよう。
あたしの心にあるあかねへの想いを
大切にしよう。
そしてあかねがいつか自分のことを
打ち明けてくれる日を待ちながら
あかねと生きていきたい。
「あかね」
「ん?」
「学校いこ」
「あーだるっ」
「手つなぐ?」
「え?」
顔を真っ赤にしたあかねが
すごく可愛いと、思えたのは
あかねには黙っておこう。
だって、男の子は
可愛いって言われて
嬉しいわけないよね?
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