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あかねside
第三話~あかね目線~俺になる
しおりを挟む「虎太郎ーーー」
LINEを送る。
既読になってしばらく待っても
一向に返信が来ない。
「既読無視かよっ」
そう入れると
「(๑o̴̶̷᷄﹏o̴̶̷̥᷅๑)」
その顔文字だけが入ってきた。
私はため息をつく。
虎太郎が
学校に出てこなくなってもう四日だ。
騒ぎを聞いたのは三日前
二時間目の業間だった。
クラスメートが
はしゃいだような素振りで
話しているところをみた。
「ねえねえ聞いた!?一組の鈴木虎太郎と雫紗季って出来てるらしいよ」
「え、まじ?どゆこと」
「ねー、ほんとにそういうのあるんだね」
「てか美紀は?雫くんと付き合ってたんじゃないの?」
「実は男好きだったんじゃない?」
「うわ、悲惨、男に寝とられたって?」
「かもよー、美紀可哀想ー」
「男同士で好き合っちゃうのもなんかさー…ノーマルじゃなくて可哀想だよね」
平気な顔をして通り過ぎたけど
心臓が張り裂けそうだった。
人の事情に土足で踏み込んで
面白おかしく噂に加担する人間は
誰のことも可哀想とも思っていないだろう。
ただ人を「可哀想」と思える自分に
酔ってるこいつらが「可哀想」なだけだ。
そもそも、虎太郎は男じゃない。
女なんだ。
お前らより心が綺麗な女だぞ。
叫びたかった。
すぐに虎太郎にLINEを送ってみたけれど
その日は既読にもならなかった。
虎太郎と話したい。
私なら、気持ちがわかるはずなんだ。
私だって男になりたいだとか
結奈の事が好きだとか
他の人間に知られたら
生きていけないくらい落ち込む…。
虎太郎は今どれほど
辛いことだろう…。
虎太郎…
返信のないスマホ画面が
スリープする…。
「ちくしょう」
私は大きな息をついて
机に突っ伏した。
その時だ。
「あーーかーーねっ」
ぎゅっと後ろから抱きつかれた。
ふわっと甘くエキゾチックな香り。
すぐに分かる。
私の大好きな結奈の香りだ。
「結奈!びっくりするじゃん」
「へへへー、何してるの?」
無防備にくっつく結奈の胸が私の腕に当たる。
やばい、心臓が跳ね上がる。
結奈の裸が瞬時に頭の中を駆け巡った。
必死に脳内モードを切り替える。
「あの、あー、と、虎太郎の、ことさ考えてた」
「あー…鈴木くん今、学校来てないんでしょ?」
「うん…」
「鈴木くんとあかね、仲良いもんね」
「…まあね」
仲良いもんね
そう言われて、一瞬戸惑った。
私も、同じだと思われたら…
その想いが先にたってしまう。
友達だって誓い合ったのに。
私だって最低な人間の部類じゃないか。
ぎりっと唇を噛むと
結奈が落ち込んだ私に気が付いて
私を覗き込み、すこぶる不機嫌そうだ。
「な、なに?」
「ねー、あかねってさぁ…鈴木くんが好きなの?」
「は!?え?ない、ないないない」
虎太郎と私は言わば同志だ。
いくら
ちぐはぐな性別を一致させたら
今の体の性別が逆になって
あいつは女、私は男だったとしても
虎太郎が好きだなんて。
そんな風に見えるのかな。
私がじっと結奈の顔を見ると
結奈はほっとしたような表情で
胸を撫で下ろした。
「そーだよね!びっくりした!」
「なんでびっくりするのさ」
「んーなんでだろ…あ、ねえねえ、それよりこれ見て」
ジャーン!と大袈裟に言いながら
結奈が後ろから取り出したのは
ティーンエイジャー向けの雑誌だった。
パラパラと雑誌をめくりながら
「ねー、あたし、どんな髪型が合うと思う?」
「あたし、どんな服装似合う?」
と、結奈は私にしきりに聞いた。
そしてあげくには
「ねえ、あかねはどんな女の子が可愛いと思うの?」
なんて上目遣い。
心臓がもたない…。
最近、こんな事が頻繁だ。
ちょうど結奈が
馬鹿男と別れたあたりからだから
きっと情緒不安定なんだろう。
「ゆ、結奈はさ、どんなことしたって結奈だよ」
「えー?ちょっとでもかわいくなりたいじゃん」
「結奈はどんな格好しても可愛いよ」
「……え?」
結奈の顔が紅くなっていく。
な、なんなんだ、その反応…
調子が、狂う。
ふと窓に映った自分の顔も、紅潮していた。
恥ずかしい。
「や、やだ、急に可愛いとか、恥ずかしーじゃんっ」
「あ、ごめん」
「ううんー、へへ、うれしっ」
結奈は私の大好きな笑顔をつくる。
無防備に笑われると、
私の中の男心が首をもたげた。
結奈が髪をかきあげるその手を掴んで
その心ごと“俺のもの”にしてしまいたい。
この唇にキスしたい。
その胸に、この手で触れてみたい。
衝動をとめるのも、一苦労だ。
結奈みたいに天真爛漫で天然で
少しだけ弱くて守りたくなるような
そんな女、他の男が放っておくはずがない。
また直ぐに新しい彼氏が出来る。
そうしたら私はまた傷つくんだろう。
そう思うと心臓が
鷲掴みにされたように痛い。
たまらず自分を戒めるために聞いた。
「結奈……あのさ」
「ん?」
「新しい男、まだ出来ないわけ?」
「んー…それがねぇ」
「うん」
「しばらくいっかなあ、って」
意外な言葉が返ってきて思わず息を飲んだ。
「…なんで?」
「え。だって私にはあかねがいるし」
「は?」
「え。迷惑?」
「いや。迷惑とかは、ない、けど」
「よかった!」
安堵して微笑む結奈は、また私に抱きついた。
もしかして
もしかしたら
浅はかな期待を胸に抱く。
虎太郎は
もし私が結奈に告白したって言ったら
自分も後に続けと思ってくれるかな。
こんなところで諦められないと
思ってくれるかな。
また、学校出てきてくれるかな。
これは神様がくれた、チャンスかもしれない。
虎太郎を立ち直らせる為の
そして、私を本当の「俺」にする為の。
いや。やめよう
ううん、でも。
そんな葛藤の中、頭一つ分
低いところにいる結奈を見下げる。
私の視線に気がついて
結奈は私を見上げた。
視線と視線が
キスをするようにぶつかった。
朗読をする時
1、2、3、句読点に休むよりも長く
結奈と私の目が合う。
やがて結奈は徐々に顔を紅くして
へへへと、可愛らしく笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、私は決めた。
私は「俺」になろう。
勇気を出すんだ。
俺は、結奈が好きだ
そう、伝えよう。
例えどんな結末になろうと
後悔しない選択をするんだ。
こんなに可愛い結奈を
もう、誰のものにもしたくないだろう。
もう。誰にも泣かされたくないだろう。
だったら心を決めろ、俺。
本当はずっとこの手で
幸せにしてやりたかったんだろ。
何度も言い聞かせて私は
「結奈、放課後…時間ある?」
そう、結奈に伝えた。
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