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あかねside
第四話~あかね目線~失恋
しおりを挟む心地いい風が吹き抜けていく。
「んーーっ、屋上!ひさしぶりー」
呼び出した屋上で
はしゃぎ気味の結奈は
息を吐きながら
思いきりのびをした。
ふと気付くと、左手の薬指に
黄色いリボンが見える。
「結奈、その黄色いリボン、マニュキュア?」
「うん、へへ、可愛いでしょ」
「うん、可愛い。でも、なんで薬指だけ?」
「おまじないだよ」
「どんな?」
「内緒ー」
結奈の甘え声に目眩を覚える。
「で、あかね」
「ん?」
「話って…?」
結奈は上目遣いで
私に尋ねた。
急に心臓が跳ね上がる。
そうだった…私、
結奈に告白するために
屋上に呼び出したんだ。
「あー、えっと……あー……」
あんなに強い決意をもって
「俺」になると決めたのに
土壇場で怖気付く。
結奈の笑顔を
凍りつかせたくない。
でも
後戻りは出来ないから。
「あのさ」
結奈の肩を掴む。
力加減が強すぎたのか
結奈は少し驚いたような
視線を私に向けた。
茶色の綺麗な瞳。
くるんと巻いたまつ毛。
整えられた眉。
嫌味のないチーク。
リップを塗った唇は
……美味しそう。
鼓動が跳ねとんだ。
「私さ」
「うん」
「ゆ、結奈のこと、好きなんだっ」
ぎゅっと目をつむって
叫ぶように告げた。
きっと驚いてる。
女の子なのに?
そんな風に思われるに違いない。
補足しなきゃいけないけれど
全力を出し切ってしまったらしい。
声が出なかった。
「うん」
結奈は、そう答える。
「私もあかねのこと好きだよー」
結奈はありがとう。と笑う。
受け入れてくれたのかと
結奈を見つめる…。
何も変わらない笑顔が
そこにあった。
あー、これ
完全に勘違いしてる。
私の結奈への「好き」とは
違う「好き」を私は結奈に送られたのだ。
とんだ誤算だ。
言い方が悪かったのか
それとも元々脈なしだったからなのか
そう簡単に上手くいくわけがないか。
正真正銘の男が女に告白するのとは
わけが違う。
淡い期待も、今や何処吹く風。
馬鹿げてる。涙が出そうだ。
だけど、この告白を
勘違いされたまま
薄ら笑いで終わらせる気には
なれなかった。
せめてもの悪あがきと
私は声を絞り出す。
「違う」
「え?」
くるんとした大きな目が
私を覗き込んだ。
ちくしょう、かわいい。
「私が結奈を思う好きと、結奈が私を思う好きは違うよ」
「え、おなじだよ?」
「私。本気で…」
「あたしだって本気だよー」
結奈は天然全開
いつもの調子だ。
伝わらない。
「違うよ結奈」
「え…違うの?」
「うん、ごめん」
やっと視線をあげ、見つめた結奈は
さっきまでの笑顔が凍りつき
今にも泣き出しそうな顔だった。
好きな女に、こんな顔させるなんて
結局私は、「男」になれない。
私はその場に居るのが忍びなくなって
結奈を置き去りにすると
逃げるように屋上をあとにした。
何とも格好悪い幕引きだ。
とぼとぼと歩く。
夕暮れの通学路は切ない。
「あー…やば、つら」
本気の好きが、わかってもらえない。
それは、きっと今までの私が
女だということを
利用してきたからだ。
心の底では
男になりたい
そう思いながらも
女で居ることで
結奈と密接に関わっていた。
女同士で仲良くなったからこそ
男と女の友達ではありえないような
濃厚な触れ合いがあったんだ。
その濃厚な触れ合いに
脳みそが爆ぜ飛ぶような
甘い快感を得ていたのも確か。
私はずるい事をした
これはその罰。
そして、報い。
「……どうすればよかったんだよ……っ」
好きだと気付いた時に
気持ちを伝えていたら
「本気」と、わかってもらえたろうか。
いや、それでも結果は同じ。
私はきっと振られるんだろう。
「どうあっても、無理…ってことか」
GIDという障害を理解できない人には
私は所詮、女でしかないんだ。
突き上げるような悲しみが押し寄せて
私はたまらず、しゃがみ込む。
堪えろ、堪えろ
何度も自分に言い聞かせたけれど
目じりに浮かんだ涙は止められない。
重力のままポトポトと落ちる涙は
アスファルトを黒く濡らした。
「虎太郎……っ」
助けを求めようとスマホを取り出す。
だけど、騒動に巻き込まれ心を痛めて
学校すら出て来れない虎太郎を
困らせることは出来ない。
私はスマホを握りしめたままで
涙が枯れるまでそこに留まり続けた。
よくやく家に辿り着いたのは
もう十時を回った頃だった。
玄関で靴を脱いでいると
心配していたのか
母さんがリビングから顔を出す。
「あかね、心配したわ」
「別になんも無い」
「だって遅いから」
「私、もう高校生だよ、先輩らと集まりあればこんくらいの時間にはなるさ、心配しすぎ」
「そう?」
「そうだよ」
母さんは、身長が小さくて
緩いウェーブのかかった天然パーマ
大きいバストとヒップ
化粧だってしなかった日はないくらい
お洒落に気を遣う人だった。
女らしい体。
この影響をそのまま受けたのが私だ。
にこにこと笑う母さんを
壁に押し付けて
なんでこんな体に産んだんだ
何度もそう言っている夢を見る。
本当は一番、傷つけたくないくせに。
「ねえ、あかね、目が真っ赤じゃない」
「あー…」
やばい、見られた。
すっかり忘れてた。
私は僅かながら黙り込んで
必死に言い訳を探す。
まさか女の子に振られたなんて
言えない。
「あー…映画見てきたんだよ」
「映画?」
「そー、泣けるやつ!」
「えーいいなあ、お母さんもあかねと一緒に見たかったぁ」
こういう絡みつくような仕草
ふいに結奈を思い出す。
結奈を思えばまた涙が溢れそうで
私は母さんに
「あー、また今度ね」
永遠に来ないだろう「また今度」を武器にして
階段下の自室に入った。
「結奈……っ」
思い出しただけで
男がくすぐられるような
あの視線遣い、あの香り。
「俺の……もんにしたかったな」
叶わぬ願いをふいに口に出せば
やっぱり涙は零れ落ちる。
普通の男でも
失恋したらこんな風に泣くのかな。
それとも私の体が女だから
こんなに弱いのかな。
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「え、違うの?」
結奈の好きとは違う、そういった時の
結奈の顔つきが忘れられない。
凍りついた笑顔。
本気の好きは伝わっただろうけど
明日が……怖い。
「虎太郎みたいに、俺も明日休もうかな」
そんな言葉を投げ捨てて
私は大きなため息をついた。
寝転んだ布団。
すぐ側の窓からは
三日月が見えた。
その月明かりが妙に寂しくて
私の目からは音もなく涙が流れ
「ちくしょう…っ」
言葉にならない憤りを
呟きながら
枕を濡らし続けたのだった。
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