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虎太郎side
番外編~虎太郎目線~キス
しおりを挟む「やっ。やだ、紗季っ!やだってばっ」
「いって、叩くなよ」
「だって、だって、だっっってぇぇぇぇ」
私はトランスセクシュアルの
鈴木虎太郎。
つまりは
体と心の不一致を抱える、
女の子になりたい男の子。
紆余曲折を経て
三ヶ月前小さい頃から
片想いをしていた雫紗季と
両想いになった。
彼氏……って言って、いいのかな?
今、その紗季と
負けず劣らずの攻防を繰り広げている。
どうしてかと言うと…
「なんでだよ。キスくらいいいだろ」
「やーーーーだああああっっ」
紗季がキス魔で
隙さえあれば唇を狙ってくるからだ。
私は寸での所でそれを阻止している。
「なんでそんなに嫌がるんだよっ」
「…そ、それは……あの……」
「んんー?」
「い、言わないっ」
「なんだとぉー?」
「紗季なんか知らないっ馬鹿っ」
「馬鹿っておまえなぁー」
紗季は口をへの字に曲げて
ため息をつくと、
リモコンをとり
部屋のテレビをつけた。
紗季の顔色を窺うと
完全な拗ねモードだ。
嫌がりすぎた……
理由を知れば
紗季も納得してくれるかと
私は細く声を出した。
「あのぅ、紗季?」
「んー」
わざと
テレビに集中するふりをしてる。
手のかかる彼氏、だね。
私は息をつくと
勇気を振り絞って
紗季の隣にぴったりと寄り添った。
「…ごめんね?」
「んー」
「紗季とのキスが…嫌なわけじゃないんだよ」
「じゃあなんであんなに嫌がるわけ」
「……私、ほら、ひ…」
「ひぃ?」
「髭がさ……」
「ひげぇ?」
「午後になるとどうしても生えてきちゃうじゃん、紗季とあご触れたりする時、気になって…」
紗季は、私の顔を
きょとんと見たかと思うと
大声で笑った。
「ひ、ひど!なんで笑うのさっ」
「だって、そんな事俺気にしねえのにっ」
「いくら紗季が気にしなくても、私が気になるんだよっ」
一笑に伏されて
本気で泣きそうだ。
髭だけじゃない
女の子より濃い体毛や
喉仏、大きな手
平らな胸とシンボル
私にとって
男を感じる部分を見せたり
触れられたりする事は
極力避けたいことだったりする。
自分で見るのも触るのも嫌なものを
好きな人に見られたり触られたり…
心が折れそうなくらい嫌だ。
紗季には
少しでも可愛く見せたい。
綺麗だなって思ってもらえる私を
感じて欲しい。
こんなこと言っても紗季には
わかってもらえないのかな。
静かな絶望が心の隙間から
吹き荒んだ。
紗季は私が
本気で落ち込んだ事を察して、
体をテレビに向けたまま
大きな手で私の頭を撫でた。
「んー、じゃあさ」
紗季は天井を向いて
唸ったあとで笑う。
「髭剃りしたあとならキスできるわけ?」
「まあ…それなら今よりは拒否らないよ」
「ふーん、そういうことなら♪」
紗季は跳ねるように立ち上がると
戸棚から自前のシェイバーと
ジェルを取り出して
私の元へ近づいてくる。
「え!?今剃るの!?」
「そー、特別に俺が剃ってやる」
「え!?や、やだ、恥ずかしいっ」
私が顔を隠すように嫌がると
今度は紗季も負けじと言う。
「コタ」
「…はい」
「選ばせてやるっ」
「何を?」
「髭面のままキスするか、大人しく俺に髭剃りさせるか」
「どっちもい」
「嫌はなし!」
普段は優しいくせに
少し、Sっ気の出た紗季は
ちょっとかっこいい。
これはどっちか
選ぶ他無さそうだ。
「……髭ありのちゅーは…嫌」
「よし、じゃあこっち向け」
「ね、ねえ、自分でやっちゃだめなの?」
「往生際悪いぞ」
そう言われて観念した。
紗季が手のひらで温めた
シェイビングジェルを
私の頬と鼻の下、あごに塗っていく。
「紗季っ」
「あー?」
「私、の顎…チクチク、しない!?」
「まー、気にすんなー?」
やっぱりチクチクするんだ。
なんのプレイなのこれー。
恥ずかしくて顔から火が出そう。
ふと気付けば
紗季の真剣な顔が
目の前にあった。
もうだめだ、後ろにはベッド
前には紗季、両頬には髭。
四面楚歌。
もう心臓壊れるっ。
ウィィンと動き出すシェイバー。
しょりしょりと
髭を剃り落とす音もまた
恥ずかしさを助長する。
私は軽い目眩を覚えるくらい
恥ずかしいって言うのに……
紗季は何故
こんなに楽しそうなんだろう。
前々から少しSっ気は
あると思ってたけど
これは少しどころじゃないっ
ドSかもしれない。
紗季とは幼馴染みで
小さい頃からずっと一緒だった。
大抵の事は
知ってるつもりでいたけれど
まだまだ知らないこともあるらしい。
そういうところに
ふと気づけた時
困っちゃうこともあるけど
それでもやっぱり
新しい紗季を知れるのは
嬉しいことだ。
「はいよ、おーしまいっ」
「あ、りがと」
髭剃りの終わった顎を撫でる。
生まれたての赤ちゃんみたいに
つるつるの肌だ。
思わず、微笑みが漏れる。
紗季はその笑みを見逃さない。
「おー?コタちゃん可愛いお顔で笑いまちゅねー」
「やめてよ、もー、紗季はいつも冗談ばっかり!」
そう言って紗季の肩を叩くと
その手はあっけなく紗季に掴まれた。
ドキン、心臓が跳ねる。
さっきまでのふざけた顔つきからは一変。
真面目な紗季の視線が注ぐ。
「冗談なんかじゃ、ねえよ?」
「な…に?」
「コタは可愛いよ」
そう囁いて
紗季は私に口付けた。
押し付けられた唇の隙間から
温かくやわらかいものが
私の内部へと侵入してくる。
その時に、当たった紗季の顎は
やっぱりチクチクした。
でも、私は紗季の顎の
このチクチクが男らしくて大好きなんだ。
はぁ、漏れる吐息。
愛しくてたまらない。
紗季は、私を抱き締めて
「おあずけくらった分…もっとキスしていい?」
そう吐息混じりに訊ねる。
「聞かなくて、いいよ」
そう呟き笑う。
そして私はまたゆっくりと
目を閉じて、紗季の愛を受けた。
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