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虎太郎side
第五話~虎太郎目線~lastepisode
しおりを挟む「虎太郎、学校、何時まで休む気なの?」
「……」
「もう7日よ、どうする気?何があったの」
「別にずる休みじゃないもん…」
「それならそれで病院行かなきゃならないでしょ」
「頭痛いだけだってばっ」
「それくらいなら学校行けるでしょ?」
上手く伝えられない。
考えてみれば当たり前だ。
私がお母さんにかける言葉は全て
「嘘」と等しい。
自分の一人称すら、まやかしだ。
お母さんにもし
「俺」は「私」なんだって話せていたら
靴箱に入っていたあの殴り書きの手紙の事も
相談できただろうか。
ううん
出来っこないよ……。
お母さんが傷つくもん。
思いを深めるほど、悲しみは溢れ出す。
「もう俺のことは放っておいてよっ!」
とうとう私は心配するお母さんに
苛立って声を捨てた。
「虎太郎…今日も紗季くん待っててくれてるのよ」
「…っ」
紗季…その名前を聴いただけで涙が浮かぶ。
会いたい。
会いたい。
でも
会いたくない。
会えない。
諦めたお母さんが
階段を降りていく気配を感じながら
私は布団をかぶって
パジャマの袖で涙を拭った。
スマホが鳴り画面が光る。
LINEだ。
何度も鳴る小刻みな音に
思わずポップアップを見ると
次々にメッセージが表示されている。
「コタ、学校出てこいよ」
「この間のこと気にしてんなら」
「もう誰もなんも言ってねえよ」
「俺も何も気にしねえし」
「コタも気にするな」
「コタがいねえと学校灰色笑」
しばらくの間。
紗季はきっと待ってるんだ。
放置された沢山の言葉
未読のLINEが既読になるのを。
LINE画面
紗季の名前、タップしようと思い悩む
親指が戸惑っては動きを止める。
「…俺、お前がいないと寂しいわ」
寂しいなんてそんな言葉反則。
心臓が抉られ、決心が揺らぐ。
『 俺とはいない方がいい』
確かにそう思ったし
確かに紗季にはそう伝えたのに
涙を零しながら
紗季とのトーク画面を開こうとしたけれど
あの日のクラスメートの言葉と
ルーズリーフの、赤文字。
男同士
変態
異常者
心無い言葉に当てこまれた私は
すっかり自信をなくし
自分がわからなくなっていた。
「学校……やめたい」
口にする想いは本音だろうか。
紗季がいない場所はきっとつまらない。
「独りでどこか遠くに行きたいな」
独りでなんて本当は嘘。
頭の中では紗季が笑ってるくせに。
痛む心を抱えたまま、
不眠気味の私はいつの間にか
夢の中へ誘われ、
ふわふわと舞うように
眠りへと落ちていった。
深い眠りの底で、夢を見た。
光の中で紗季が手を差し伸べている。
私はその手を迷わずとった。
「コタ、綺麗だよ」
魔法の言葉がかけられる。
するとどうだろう。
「俺」の真っ平らな胸は
ふっくらと膨らんで
死ぬほど嫌だった髭も
喉仏もなくなった。
コンプレックスの長身も
ありえないくらい小さくなって
あっという間に紗季を
見上げられる可愛い女の子になれた。
淡いピンク色の
可愛いワンピースの裾を
はたはたとはためかせて
つばの広い帽子を被っている。
「紗季」
高く細い声が
私の口から零れ落ちる。
夢にまで見た、
なりたかった「私」だ。
「コタ、可愛い」
紗季はそう言って
私を抱き締める…
今こそ
素直になれる
好き、やっと言える。
そこで目が覚めた。
幸せすぎる夢の余韻。
胸の膨らみはなくなり
朝には剃ったはずの髭も
不精に伸びていた。
喉に触れると喉仏の骨が出っ張っている。
「……「俺」だ……」
嘘をつき続けて生きる、「俺」だ。
何一つ、進まない現実に
夢の中で伸ばした指先が震える。
「も、疲れた…っ」
涙が浮かんでは零れ始める
その時だった。
インターホンがなったかと思うと
「失礼しますっ」
聞き覚えのある声。
聞き間違えるわけが無い。
紗季だ。
「ちょっと紗季くん!」
お母さんの言葉と共に
バタバタと階段を駆け昇る音がして
やがていっときの間ののち
戸惑いがちな紗季の声が
ドアの向こうから聞こえた。
「コタ…」
声が出ない。
私はベッドの上で体を小さく丸めた。
「コタ…起きてるか?」
「……帰ってよ」
「どうして」
「もう関わらないって言った…じゃん」
紗季は大きく息をついて、疲れた声を絞り出す。
「ここ…開けてくんね?」
「やだったら!」
今の私は
拗ねてわがまま言いまくる子どもみたい。
自分でも思う。
私、可愛くない…。
こんなだから神様は
私にちゃんとした体を
くれなかったのかもしれない。
そう考えたら
胸が苦しくなった。
「しかたないな、このまま話すから聞いてほしい」
ドア一枚隔てた向こうの
紗季の低い声が耳に響く。
「俺さ、美紀と別れたんだ」
は……
え?
別れた……?
唐突に突きつけられた事実
一瞬、頭がついてこない。
理解した瞬間
私はベッドを飛び抜けて
ドアを縋り開けていた。
【性と言う名の鳥籠】
虎太郎編⑤~虎太郎目線 ㊥
-Last episode-
「な、なんで!?」
「おっ…と」
突然、開いたドアに
身をひいた紗季と目が合う。
幼馴染みとして育った。
物心ついた時から
一緒にいた。
幼稚園も小学校も中学校も高校も
ずっと一緒だった。
1週間も会わなかったことはない。
久しぶりに見る紗季の顔は
ほんの少し、やつれたように見える。
「コタ、やっと会えた」
照れくさそうに笑う紗季がいた。
「話したいから、中、入ってもいい?」
カーテンが締め切られた、
真っ暗な私の部屋を指差して
紗季は鼻の頭をかく。
その表情は安堵に満ちていた。
こんな顔されたら
断るわけにいかないじゃない。
「…いいよ」
私は部屋の入口に立ち塞がっていた身体を
少しだけ、ずらす。
紗季が部屋に入る。
ふわっと鼻をくすぐった紗季の匂い。
なんだか、たまらなく、恥ずかしい。
勝手に紅潮していく頬。
紗季に悟られる前に
僅かでも平常に戻そうと
紗季の後を歩きながら
熱い顔を両手で包んだ。
紗季は当たり前のように
私のベッドの枠に背中を預けて座る。
私の部屋に来た時の
いつもの紗季の居場所だった。
私は、机の椅子へと腰をおろす。
目の前の鏡に私のパジャマ姿が映し出された。
そういえば、パジャマのままだ。
お母さんが買ってきた、青の。
こんな色、本当は嫌い。
ピンクがいい。
紗季の前でパジャマ姿も恥ずかしいけれど
男、という枠組みにはまる自分も許せなかった。
きっと私は
苦虫を潰したような顔をしていたんだろう。
「コタ?」
我に返ると心配そうに
私の様子を窺う紗季がいた。
「ううん、なんでもない。ごめんね、こんな格好で」
「いや、仮病だろ、パジャマぐらい着とけ」
いつもの調子で笑う紗季に、心底ほっとする。
私は紗季につられて
1週間ぶりにやっと笑うことができた。
「それで、原田と別れたって…?」
「あー、うん」
「なんで?」
「ちょっと思うところあって」
紗季はそう、言葉を濁す。
私にはきっと、言い難いことなんだろう。
その心の内を読んで黙り込むと
紗季はあぐらをかいた足に
頭を寄せた。
「ごめん!」
突然、謝られて訳も分からず聞き返す。
「え?何?何で紗季が謝るの」
謝らなきゃならないのは
私の方なのに。
私のせいで紗季まで…
そう思った矢先、頭を下げ続ける紗季から
思いがけない言葉が飛んできた。
「黒板の相合傘、美紀の仕業だった」
「え…、なんで」
「俺が振った腹いせで」
驚いたけれどすぐに合点がいった。
あのルーズリーフも
私の靴箱に入れたのはきっと原田だ。
だから声をかけたあの時
あんなに焦っていたんだろう。
だけど、それでも腑に落ちない事がある。
「紗季に振られた腹いせであんなこと…するの?俺、原田の機嫌損ねるようなこと何か……」
「コタのせいじゃ…ない」
紗季はそれっきり、黙り込む。
沈黙が重い。
一体、どうしたっていうんだろう。
紗季は深呼吸を何度か繰り返す。
私にまで緊張が伝わってくるようで
落ち着かない…。
やがて紗季は私に告げた。
「俺が別れる時に、言い方悪かったつーか」
「言い方?」
「あー、でも、この言い方もあれか。本当のこと言っただけだし」
「本当のこと?」
いまいち要領を得ない紗季の顔を
私が覗き込むと、その瞬間
紗季の目に光が宿った気がした。
ドキッと一度高鳴った鼓動は
もう止められない。
切れ長なのに
瞳の大きい紗季の目に
吸い込まれそうだ。
「な、なに?」
「俺」
「うん」
「美紀に、コタが好きだって言って別れた」
え……?
今
なんて言った……?
私が、好きって
嘘…聞き間違い……?
言葉にならない。
唖然と口を開いた。
挙動不審に目が動き出す。
私の様子をしげしげと見ていた紗季は
私が嫌悪感を抱いているとでも
勘違いしたんだろう。
必死に想いを伝えてくれた。
【性と言う名の鳥籠】
虎太郎編⑤~虎太郎目線 ㊦
-Last episode-
「お前は男だ。女が好きだと思う。俺も男だ。今までは女が好きだった。でも今はお前が気になる。変態だと思われるかもしんないけど、仕草がすげえ可愛いと思う、タッパ俺よりでかいけど…本気で守りたいと思う。この一週間、ほんとに寂しかった。この一週間…死にそうだった」
これは、さっきの
夢の続きなの……?
涙が溢れる。
そして、紗季は告げた。
「びっくりさせてごめんな、でももうただの幼馴染みなんて嫌なんだよ」
私を真っ直ぐに見つめて
口をへの字に曲げて
少し潤んだ目で。
「お前に彼女出来るとか考えただけでズキズキすんだよ」
そして紗季はとうとう、
確信を
私がずっと言えずにいた想いを
はっきりと、告げた。
「俺はお前が好きなんだ」
もう、涙が止まらない。
「紗季ぃー……あー……」
おかしな声をあげて泣きじゃくる私に
紗季は今まで
見たこともないくらい戸惑っていた。
「な、泣くなよ、謝る!謝るから!邪な気持ち抱えたことは悪かったよ、なあコタ、ごめんな」
違う、違うんだよ紗季。
嬉しいんだよ紗季。
言葉にならない想いを
少しでも伝えたくて
紗季の制服の裾を小さくつまむ。
「コタ…?お前どうしちまったの?」
紗季は、やっと
私が嫌悪感で泣いているわけでないことを
わかってくれたみたい。
ためらいがちに
私の大きな背中に手のひらを置く。
拒絶されないことを確かめるように
ゆっくりと背中を撫でて
優しく、抱き締めてくれた。
やっと叶う?
叶うの?
気持ち、伝えても
いい?
男同士という想いを抱いての告白は
どんなにか怖かっただろう。
だからこそ、嬉しい。
その恐怖を乗り越えるだけの
価値が私にはあったんだと思えた。
今度は、俺の……ううん
私のことを知ってもらいたい。
どんなに恐くても
もう。逃げたくない。
「紗季……っ、俺、俺ね」
「うん」
「ほんとはね………っ」
「俺」は「私」なんだ
そう真実を伝えたら
紗季に好きと言われた私と同じくらい
あんぐりと口をあけて
驚いていたけれど
紗季はこっちが拍子抜けするくらい
意外とあっさり
「そうだったのか、辛かったろ?」
そう言って受け入れてくれた。
その上、
何故だかすごく嬉しそうに
私の手を握りしめる。
「不思議だな…。女だってわかった途端、こんなにでかい手なのに、か細く感じる」
でかい手、は余計だけど…紗季らしい。
思わず笑みが溢れると
目に溜まった涙も一緒に零れ落ちた。
私には紗季にもうひとつ
伝えなきゃいけないことがある。
私は深呼吸を何度も繰り返して
やっと、長年の想いを吐露しようと口を開いた。
「中途半端な、体だけど……っ、俺はちゃんと」
紗季が好き、伝えようとしたら紗季は
指先でちょんと私の唇に触れて言う。
「もう無理しなくていい、コタは女なんだろ、「私」でいいんだよ」
ああ
何も恐がる必要はなかった。
たとえ誰に受け入れてもらえなくても
幼い時からずっとそばに居てくれた
紗季を信じればよかったんだ。
紗季はいつ私が打ち明けても
きっとわかってくれた。
今更……そんなこと
しみじみ感じる。
目は酷く、腫れていると思う。
大造りな男の顔は可愛くなんてないだろう。
髭だってそのままだし
パジャマ姿で髪の毛だってきっと寝癖だらけ。
高い喉仏から発せられる声は
男のそれで間違いない。
夢のように理想の私じゃない。
だけど、伝えたい。
ちぐはぐな性という鳥かごに
苦しみながらも
紗季を一途に愛したんだという事。
私は口を開く。
飛びっきりの笑顔を向けた。
「私は、紗季が好き」
その瞬間、私はやっと
紗季にきつく抱き締められる幸せを得た。
-了-
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