性という名の鳥籠

幸介~アルファポリス版~

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虎太郎side

第四話~虎太郎目線~ひとりぼっち

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「なー、明日朝練ないんだ、一緒に学校いこーぜ」



「うん」



紗季とそんな約束をした翌日のこと



クラスに足を踏み入れたら



そこは昨日までの心地いい教室ではなかった。




ガヤガヤという喧騒の中で



ひそひそ、くすくす



奇異なる目が私に向けられる。



気が…遠くなった。



私は今…何を見ているんだろう。




黒板の大きな相合傘。



片方には「虎太郎」……私の名前。



もう片方には…紗季の名前。




一体……どうして?



必死に隠してきた想いが露呈した。





「ねえー、何これー?」


「何、お前ら出来てんの?」



クラスメイトが嘲笑しながら


私たちに話しかける。



わ、らわなきゃ。


笑い飛ばさなきゃ。


早く……


おかしく思われる。





でも、どうやって


笑ったらいいの?




紗季はどんな顔してる…?




すぐ隣に感じる温もりを


見つめることが恐かった。




何も言えずに俯いた私に


ヘラヘラと笑った2人組の男子の


とどめの一言が飛んできた。



「まさかマジかよ」


「コタ&サキへんったーーい」




目の前が、暗い。


体から血の気が引いていく。


指先が冷たい…。




「お、俺……ちょっ、とトイレ」


一番、ベタで疑いが確信に変わるような


はぐらかし方をして私は教室を飛び出した。



やばい、どうしよ
 

終わった


終わっちゃった


きっと私の気持ちが


クラスメイトの誰かにバレたんだ


紗季に迷惑をかけた





どうしよう


どうしよう



頭が正常に回らない。



涙ばかりがこぼれ落ちる。




「う……」


必死に声を押しころして


心の中で紗季の名を何度も呼んだ。




その時


「おい、コタ」


背から紗季の声が聴こえる。



ぴくんと反応した私の体は


硬直したように動かなくなった。



紗季は私の肩を叩く。



「小学生でもあるまいし、なあ!馬鹿馬鹿しいったらよ。俺とコタが?なにあれ」



無理に笑いながら、紗季は私に言う。





私は小さい頃、心の中の女を隠しきれずに


小さないじめにあったこともあったけれど


紗季は真っ当な男子だった。



友達と外で遊ぶことも好きだし


多少適当なところをのぞけば


人あたりのいい性格だ。



…クラスメートから


あんなこと…言われて


動揺しない人なんていない。




震える声から


紗季の動揺が痛いほど伝わって


馬鹿馬鹿しい、その言葉に傷ついた。





ねえ、紗季


「俺」は、本当は「私」なんだよ。


本当は紗季が大好きなんだよ。




伝えられない想いを噛んで私は言い放つ。





「もうさ、一緒にいるのやめない?」


「え…、なんでだよ」


「こんな噂まで立つんだよ、男同士でこんな疑惑立ったら彼女出来ないじゃん。普通に嫌だよね」


「気に、しなきゃいーじゃん」



戸惑った紗季の声。



心が痛いけど……


「幼なじみっていったって何時までも一緒ってわけにはいかないし、何より俺が気になる。しばらく近付かないで。お願い」




私となんか一緒にいるべきじゃない。



紗季は正常なんだから。



異常な私なんかが側にいちゃいけないんだ。




「待て、待てって、コタ!虎太郎!」



何度も私の肩を掴む紗季の手を


とうとう私は振り切って、保健室に逃げ込んだ。




具合が悪い…、そういう事にして


白いカーテンが揺れる保健室のベッド


布団を頭から被り


親指を噛むと私は涙を零し続けた。



すすり泣きすら漏れないように


ぐっと息までひそめて泣いた。





紗季……好きだよ


紗季……ごめんね


私……普通じゃなくてごめん


普通の男友達じゃなくてごめん


好きで……ごめんね



好きとごめん


入り混ざった想いで


心も頭もぐじゃぐじゃだった。





結局、放課後の放送が聴こえるまで


私は保健室の


ベッドのひとつを独り占めした。




保健医が起こしに来て


私の顔を見るなり驚く。




「虎太郎くん…、あなた大丈夫?」



いくら声をころしても、


泣き腫らした目は隠せない。


保健医が私を心配そうに見つめた。




「大丈夫です…帰ります、ありがとうございました」


「そう?気をつけてね」


私は保健医に会釈をすると、廊下に出た。




下駄箱に繋がる長い廊下が


オレンジ色に染まっていく。



紗季と一緒に下校して


カラオケに行った一昨日は


夕焼け綺麗だねって


笑い合っていたのに…


今日の夕日の残影は何故、


こんなにも悲しいんだろう。



目尻から零れるくらい


また、涙が溜まった。





下駄箱のあたりに誰かいる。


女子だった。


私は慌てて涙を拭い、窺い深く歩み寄る。



「あ……」



原田美紀……紗季の彼女だった。


今朝の騒ぎを原田も聞いたはずだ。



正直今は会いたくなかったけれど


紗季の為だ、一言、違うよと言っておきたい。


私に背を向けている原田に声をかける。




「原田、あの」


原田はビクッと肩を震わせて


勢いよく私を見た。




「こ、コタくん」


「あの…さ、今朝の……知ってる?」


「まあ、そりゃああれだけねぇ、大騒ぎしてれば耳悪くたって気付くよねえ」




嘲笑に近い笑みを浮かべて私を見る原田の目。


睨まれているようで落ち着かない…。




「あれ、違うから。紗季とは幼なじみでしか……ないよ」


「わかってるよ、紗季くん、男だし、コタくんも男だもん」


「…うん」


「でもさ、紗季は普通だけど、コタくんに問題あるんじゃない?」



「え?」



「男のくせに、なんか他の男子と違うじゃん?男子なのに花好きで、ほら、カバンのチャームもテディベアって…普通男子もつかな?それに男の子とつるまないし、不思議ちゃんチックだし。そういう所からこういう噂って出るんじゃないの?男子なんだからもう少し男子らしくしたらいいよ。髪も長過ぎ!紗季、まるっきり被害者だよね」



男、男だから、男なんだから

男なのに、男のくせに



何度も、言われてきた言葉


その度にお腹の中で泣いて


上辺を取り繕ってきた。



だけど、上辺を取り繕えないくらい


原田の言葉は身に染みてキツかった。



紗季が被害者なら……私は、そっか





加害者なんだ。




私のせいで、なんて、分かりきったこと。


だけど


面と向かって言われるとこんなにも苦しい。




「ごめん、俺、なよっちいからな」


飲めない涙を無理やり体の奥へ押し込めて


私は原田に笑いかけた。



「もーホントだよ、もうちょっと男らしく!気をつけてよ、こたくん!」


原田もにっこり笑って、私の背を平手で


べしっと一度強く叩いて下校していった。



その後ろ姿を見送って、やっと私は涙を拭うと


自分の靴箱のドアを開けた。




「え…?」



そこには一枚のルーズリーフが入っていた。



赤いボールペンで書き殴られた文字。




驚きのあまり、私は


誰かから私に宛てられた「手紙」を手放した。



ひらひらと、舞い落ちたルーズリーフには






男女


変態


異常者


学校来んな





そう、書かれてあった。









…とぼとぼと帰路につく。



心無い言葉が書かれたルーズリーフ


どうしていいのかわからずに


まるめてポケットへ突っ込んだ。



まるでポケットのある右足の方から


血の気がなくなっていくようだった。



今さら涙なんか出ない。



私が「異常」だということは


わかっているから。




でも


どうして



どうしていけないんだろう。



女の子が羨ましくて


メイクだってしてみたいし


スカートだって履きたい


そう思うことの何が悪いの?




真っ平らな胸なんて嫌で



男の子のシンボルが


自分の体に生えていること自体


気持ち悪くてたまらない



こんなに苦痛なのに


それでも男で


い続けなきゃならないの?




せめて人と変わらずに


接して欲しかった。




「異常」かもしれないけど



私は、みんなと何も変わらない、



一人の人間なのに。





「はあ……」


ため息を吐いて見つめた空は


もう、一等星が輝き始めていた。





「紗季……大丈夫、かな……」





紗季の名を口にした途端


涙が込み上げて地面に落ちていく



「紗季ぃー……」



助けて。




スマホを抱き締めて



それでも求められない救いに



心が、壊れそうだった。




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