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虎太郎side
第三話~紗季目線~別れ
しおりを挟む「久しぶりだね」
「んー?」
「カラオケー」
「おー」
「ねえね、紗季は何歌う?俺は何歌おっかなー、米津玄師とかいいなー」
カラオケ屋へ向かう途中。
虎太郎は上機嫌で鼻歌まじりだ。
虎太郎を見つめる俺の視線に気がついたか
虎太郎は口元に手を当てて
「えへへ」と笑った。
その姿は、女そのものだ。
男友達に女を感じるなんて
本当、どうかしてる。
本当に重症かもしれない。
見つめていた事を
不審に思われないように気を配る。
「やけに機嫌いいじゃん」
「…え?」
虎太郎は、一瞬、目を丸くして
俺を見下げると、慌てて言った。
「あ、ほらほら、勉強忘れて騒げるから!」
まるでとってつけた言い訳のようだ。
悪戯心に花が咲く。
「とかなんとか言ってさー、俺と一緒にいられんの嬉しかったりする?」
「あー…そりゃあ幼馴染みだからね」
つん、と顎先をあげて虎太郎は
少しばかり不機嫌そうに呟いた。
その姿を見て俺にも不機嫌が伝播する。
“なんだ、幼馴染みだから…か”
そんな事考えてしまってから
はっとして俺は顔を赤らめた。
男友達相手に、何、考えてんだ。
虎太郎を盗み見ると
サイドに垂れた髪の毛を
指先でくるくると弄っていた。
やっぱ、こいつの仕草
女っぽいよなあ…
そう思って虎太郎を見ていると
「あ、コタ」
髪に小さな葉っぱが
絡みついている事に気がついた。
こいつ、トトロの森から来たのかよ。
不意に笑いが込上げた。
「え、何笑ってるのさっ、なんか俺おかしい!?」
急に焦り出して
髪やら服装やら気にし出す虎太郎が
とても可愛らしく感じる。
「コタ、ちょいまち」
微笑んだ俺は
虎太郎の頭についた葉っぱを
摘んでとってやった。
「あ。葉っぱか」
「トトロに会ってきたんだろ?」
「なんでそうなるの」
虎太郎は、噴き出して笑った。
俺の目線より少し上の虎太郎の頭。
身長では虎太郎に勝った試しがない。
「お前、今、身長何センチあんの?」
「あー、198センチ」
「でかっっ、身長くれよっ」
「あげるよこんなの、いらないもん」
「男のタッパはあった方がいいぜー?」
「…うん」
「コタ、お前、なんでバレーやんなかったんだよ。俺、お前と一緒にやりたかったのになあ」
「俺は……」
何か考え込むように俯いた後
一気に紅潮した顔を片手を立ててサッと隠した。
「は!?なにそれ」
「い、いや、あの、触れないでっ」
「いやいやいや、気になる、何その反応!」
嫌がられると聞きたくなるのが人間だ。
俺は虎太郎の手首を無造作に掴んで
虎太郎の顔をまじまじと見つめあげた。
「や、め」
日に焼けていない不健康な虎太郎が
茹で上がっていた。
桃色のほっぺたは、ほんの少しだけ
虎太郎を健康的に見せる。
「なんでバレー部入んなかった?」
「な、なんでって」
「そのタッパでお前中坊ん時からバスケにバレーに引っ張りだこだったじゃん」
「俺が昔から運動嫌いなの知ってるじゃん」
「違う、お前は運動嫌いなんじゃねえよ、いつも側にいる俺が目立ってただけ」
睨むように見つめると、虎太郎はばつの悪そうな顔をして言う。
「……なんで、そんなとこばっかり鋭いんだよ……」
俺には分かる。これは、虎太郎の白旗だ。
俺は虎太郎の手首をゆっくりと離し
勝ち誇った顔で尋ね直した。
「で?」
「笑わないでよ?」
「笑わねーよ」
「ほんとかなぁ…」
訝しげな表情を浮かべる虎太郎に
俺が眉を顰めて応戦すると
ようやく虎太郎は話し始めた。
「……俺は紗季を」
「ん?俺を?」
「見ていたかったんだよ」
「ん?」
「だ、だから、プレイに夢中になっちゃうより、紗季から目を離さずに……応援、したかった、っていうか……」
は?
な
な
「な、なんだその理由!!」
俺の方が赤面だ。
女みたいな事言いやがって。
不意打ちもいいところだ。
「なんだ、ってなんだよー、恥ずかしいの我慢して言ったんだから!少しは感謝したらどう?」
「……あ、そか、……おう、あ、りがと…う」
「あ、珍しい、紗季が素直だ」
虎太郎は嬉しそうに笑いながら
後ろで手を組んで
俺の数歩先を歩み出す。
その手を……俺はとっさに掴んだ。
くんっ、と引っ張られて虎太郎は
驚いたような顔をした。
「ど、どうしたの?」
どうしたのかなんて
自分でも分からない。
ただ、駆け回る馬の蹄の音のように
心臓が高鳴っている。
「あ……あ、えっと」
言葉にならない。
おかしく、思われる。
でも、この手を離したくない。
「俺…っ、嬉しかったぞ!」
「え?」
「応援してくれて、ありがとなっ」
「あ、…うん」
虎太郎は笑った。
嬉しそうに笑って
恥ずかしそうに
口元を隠した。
仕草が可愛い。
抱き締めたい。
男同士なのに
虎太郎が女に見える…。
そこで初めて俺は自覚した。
俺は虎太郎が好きだ。
ずっと一緒にいた。
一緒にいてくれた。
この先もずっと一緒にいたい
そう思えるのは
彼女の美紀じゃなく
虎太郎だ。
「……別れてくんねえかな」
次の日、俺は彼女の美紀に
別れを切り出した。
身勝手だとは思うが
虎太郎への想いを自覚した以上
嘘をつくことは出来なかった。
世間でいう変態ってやつでも
虎太郎が相手なら
それはそれでいいのかな
そう思える。
美紀は、顔を強ばらせて尋ねた。
この泣き出しそうな顔……苦手だ。
「どうして……?私、何か悪いこと…した?」
「…ちがう、美紀は悪くねえよ」
「どういうこと?」
「好きな男が、いる」
「お、男!?」
美紀は衝撃を受けて、目を皿のようにした。
そりゃあ、そうだ。
俺ですらまだ頭では
よくわかっていないのかもしれない。
そんな事を今から別れようという彼女に
話す必要があったのかと躊躇いを感じたが
ここまで来たら後に引くすべはない。
「俺……コタが気になるんだ…」
「コタ……くん」
「だから、美紀……ごめん」
唖然としていた美紀は
徐々に激高して
俺をその手のひらで打った。
「ほんっと、サイテー!変態っ!」
そう吐き捨てて走り去っていく。
頬が痛い。
でもこれは、当然の痛みだ。
こんな俺を信じて
付き合ってくれていた、美紀を
俺は裏切ったんだから。
本当はこうなる前に
別れるべきだった。
俺の中で、美紀の存在が
なきゃ生きられない空気じゃなく
あることにも気づけない空気になった時点で。
「はああああ………俺、何やってんだ」
廊下に頭がつくくらい
腰を低く落とし
しゃがみこんで項垂れる。
未だ引かない美紀の
平手打ちの痛みを噛み締めながら
想う人はやはり虎太郎だった。
きっと思いは伝えられない。
どんなに俺が虎太郎を
女として認識していようが
虎太郎はれっきとした男なんだから。
今まで培ってきた虎太郎との想い出や
関係性をぶち壊したくない。
それなら、一生1番近い親友の
幼馴染みで構わないと思っていたんだ。
この時までは…。
明日、俺たちの関係が
壊れるような大事件が起こるなんて
この時、俺は知る由もなかったから。
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