性という名の鳥籠

幸介~アルファポリス版~

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虎太郎side

第二話~紗季目線~揺れる想い

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俺には親友がいた。



正しくは幼なじみで親友だ。



虎太郎という男っぽい名前だし



連れションもした事がある。



痛いほど男だと言うことは


わかっているんだ。



わかっているはずなのに


虎太郎に女を感じる事がある。



この違和感は…なんなんだろう。






「キレイだよ、羨ましいくらい」


バレー部の朝練あがり、教室へ行くと


虎太郎が教卓に花を飾りながら


その花に話しかけていた。



くすっと、笑顔が零れ落ちる。




生物委員の虎太郎は朝がはやい。


早く来ては花壇の花に水をあげたり


クラスの花瓶に花を生けたりしながら


朝の時間を優雅に過ごしているようだった。




「コタ、おはよう」


「あ、紗季、おはよ」


俺に笑いかけて


前に垂れていた髪を


耳にかける仕草が女のようだ。


髪…かき上げるなら


もっと男らしくしろよ。




そんなこと思いながら


声を上ずらせた。


 
「あー、課題やってきた?」
 

「うん、やってきた」


「答え合わせさせて」


「もおー紗季は…答え合わせとか言って写したいだけだろー」


「ウケる」


俺は笑いながら、ひらひらと手を出した。


しばらく俺を睨むように見つめて、


ため息をついた虎太郎は、


しかたないなあと言いながら


自分の机の中を漁り始める。



「そういえば…紗季」


机をゴソゴソしながら


虎太郎が呟くように言う。



「んー?」


「美紀ちゃんとは…どう?」


心臓が、跳ねた。


美紀というのは、俺の彼女。


原田美紀のことだ。



「あー、まあ、変わりねえよ」


「相変わらず熱いわけだ?」


「あったりまえー」


「ふぅん」


面白くなさそうに相槌をうつ虎太郎。


どうしてそんな態度をとるんだろう。


今、どんな顔をしてる?


気になる…


肩を掴んでこっち向かせて


その顔を、見てやりたい。



とんだサイコパスだ。




「なあ、お前は?」


「うん?」


「浮いた話聞かねえけど、最近どう?」


「俺のことは…いいよ」


「なんで?」


「なんでも」


「秘密主義ー」


虎太郎は苦笑しながら


探し当てた課題のノートを持って


俺へ近付いてくる。



「はい、どうぞ」


「あー、サンキュ」


差し出されたノートをとろうとすると


虎太郎はノートを掴む手に力を込めた。



「紗季、本当はだめだよ?ちゃんと自分でやんなきゃ」


「なんで?」


「なんで、って。将来、困るだろ?」


「あー。じゃあ虎太郎のこと影武者にしてもいい?」



俺はいつもの調子で


そう、けらけらと笑った。


すると虎太郎は突然


悲しそうな顔をして、こう言い放った。





「ずっと、側にいられるわけじゃないよ」




心臓が、止まるかと思った。




「は?お前…何言ってんの?」



俺は戸惑いながら、息を吐く。


今、俺は上手く、笑えているだろうか。



「高校だって俺、紗季のレベルに合わせるの大変だったんだよ」

「でも、入れたじゃん」


「紗季はバレーの推薦で体育大学行くだろ?」


「どうかな、ま、そーなりゃ嬉しいけど」


「うちバレー部、強いもん。インターハイ行けるだろうし、紗季エース候補だろ。俺はスポーツ無理だもん」


息を吐くようにたんたんと虎太郎は口にする。


「大学入ればお互い家も出るだろうし、俺は紗季と一緒にいられるこの三年間で、紗季にきちんと勉強してもらうことを目標にするんだ」


にっこりと笑って、虎太郎はこんなに残酷な事を言う。


「俺がいなくても、ちゃんと出来るようになんなよ?」


悲しくて、寂しくて、腹立たしくて


その後のことはよく覚えていない。



ただ、ぶっきらぼうに


「あー、そーかよ。友達甲斐のない奴」


そんな悪態をついた気がする…。




*゜*゜*゜*゜*゜*゜



「紗季くん、今日放課後待ってていい?」


彼女の原田美紀がチャームポイントの


チワワみたいな目を俺に向けて言った。




「んー…」


今日はそんな気分じゃない。


部活やってさっさと帰って


ふて寝したい気分だ…。



「今日体調悪い」


その場限りの嘘をついた。


でも美紀はごまかせない。



「……今日一緒に居たくない?」



上目遣いでこう言われてしまっては



うん、と肯定することも出来ない。



「あー、いいよ、待ってて」 


「よかった!」



美紀はこういうとこ、あざといなと思う。


俺が乗り気じゃないのも


断りきれないのもわかっていて


わざわざ聞くんだから。




*゜*゜*゜*゜*゜*゜


放課後、校内の桜並木の道を抜ける。


桜の葉っぱが色付いていた。


夕焼けに透けて、余計燃えてるみたいに見える。


並木道を抜けた先にある校門に


既に美紀はいた。

 

「あ、紗季くん」


「おー…早い」


「だって私が遅れたら会える時間自分のせいで減るってことでしょ?そんなの勿体ないじゃない」


「あーそうだね。帰る?」


「うん」



通学路を歩む。



一定の距離が出来たのは


一体何時からだろう。



付き合い始めは



隙間を作るのも勿体なくて


通学路の端っこをぎゅっと


ひとかたまりになって歩いてた。



恋人だったらもっと


引っ付いていなきゃならないだろうか。


でももうくっつかなくたって


そんなに辛くはない。



俺はため息をついた。


世の中ほんと、違和感だらけ。



男だから女だからとか


友達だから、恋人だからとか


そんな常識に


とらわれる俺自身に嫌気がさす。




「ねえ、紗季くん」


美紀が突然、俺の袖を引っ張る。


「んー?」


あれあれと指差す方向を見て


俺は思わず言葉を無くした。



視線の先には


虎太郎が4組の永倉あかねと


仲良さそうに寄り添う姿があった。



公園のベンチに座り


雑誌か何かを見ているらしい。


虎太郎は見たこともないくらい


リラックスして笑っていた。



「コタくんやるぅー、あれ絶対付き合ってるよね」

「…ねえ」

「え?」

「なんにも、聞いてねえ」

「あー、恥ずかしかったのかな?コタくんこういうの初めてでしょ、奥手っぽいもんね。紗季くんにもなんて言っていいのかわからな…紗季くん?」

「あー……」


俺はがしがしと頭をかいた。
気持ちが悪い。動悸が走る。
みぞおちあたりが苦しい。



急にどうしたんだろう。



虎太郎が永倉と笑っていることが
……面白くない。




「……美紀、遊び行こ」


「え、いいの?」


「美紀と一緒にいたい」


「嬉しい、なかなか言ってくれないから」


「いつも、思ってるよ」



そう告げると、


自分が思う違和感のない恋人を演じるべく


ぴったり美紀にくっついて肩を組んで


いつもの通学路を反れ、繁華街へと歩み出した。





いつも、一緒にいたいなんて



……嘘だ。


本当はもう夫婦みたいな感覚になってる。



いても、いなくてもいい。



どっちだっていい。



美紀と二人で生きるには


俺はもう自立しすぎてしまったのかもしれない。




その日、美紀とカラオケを楽しんだあと


俺は彼女をホテルで抱いた。



抱いたら迷いとか戸惑いとか


いらないもの全部吹っ飛ぶような気がしたんだ。


でも、憂さ晴らしのようなそれは


俺の中に罪悪感をもたらしただけだった。




「いつまでも、何してるの!電話にもさっぱり出ないで!」


夜更けに帰った俺は


母さんの小言を聞き流しながら


中二階へ向かい自室に入った。




ブラインドを締めようとした時


向かいの虎太郎の部屋がふと目に入る。



「まだ…起きてるのか」



閉め切られたカーテン。


煌々と漏れるあかりを見つめていると


虎太郎の影がふわふわと


動いているのが見えた。



「…いて」


ちくっと刺されるような胸の痛みを自覚した途端


俺の目からは涙が滔々と流れ出した。



胸の痛み、胸のもやつき


溢れる涙、言い様のない喪失感


この感情の行き着く先がなんなのかなんて


そんなこと俺は考えたくもなかった。




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