【R18】特殊スキルは聖水でした。

日向沖

文字の大きさ
3 / 97
1章 王都ルーデリー 出会い編

1-2 ナツキとミーシャ

しおりを挟む
 どうやら彼女も商品らしいが、口がふさがれている為会話ができない。
 馬車の揺れはかなりあるのに、不思議と酔いはしなかった。
 
 どの位時間が経っただろうか。
 逃げ出すタイミングをうかがっていたのだが、それどころではないようだ。

 馬車が大きく揺れ、横に倒れる。
 奴隷商の護衛達が何かを叫んでいるが、内容までは分からない。
 
 今がチャンスなのは間違いない。
 そう思い荷台から出ると、一人の女性が奴隷商の護衛達を次々と切り倒しているのが見えた。
 近くに短刀が落ちている、恐らく戦闘で飛んできた物だろう。

 タイミング的に逃げることは出来ただろうが、縛られた兎人の少女が気になり荷台に戻る。

「なんだか分からないが一緒に逃げよう。」
 
 そう声をかけると目に涙を浮かべながら少女はうなずいた。
 彼女の手足のロープを短刀で切り、こちらの手のロープを切ってもらう。

「早くここを離れましょう。」

 そういって二人で荷台から出ると、あたりは護衛の死体だらけだった。

 この惨状を引き起こした張本人はと言うと、目の前で六本の腕を持つ巨人と対峙していた。

「ナツキ!!」

「ミーシャ、無事でよかった。
 後で追うから、先に逃げてくれ。
 君を守りながら勝てる相手ではない。」

 どうやら刀を振るうあの女性は「ナツキ」で兎娘は「ミーシャ」と言う名前らしい。

「ここは小屋の近くだ。
 先に行って待っててくれ。」

「分かった!
 待ってるから、必ず来てね!」

 会話を終えると、ミーシャは俺の手を引いて案内する。

「この近くに放置された小屋が有るの、今はそこまで走りましょう。
 詳しいことは、後で。」 

ーーーーーーーーーー

 小屋は思ったより遠く、そして思ったより大きかった。
 小屋と言うには大きすぎるが、屋敷と言うには小さい、「家」と言ったところだ。
 中に入ると、多少埃っぽいものの綺麗に片付いていた。

「私はミーシャ、さっきはありがとう。」

「いや、俺は何も。
 それよりも、「ナツキさん?」は大丈夫なんですか?」

「ナツキなら大丈夫、「セイストロール」程度にやられる器じゃないもの。」

 セイストロールとはさっきの巨人の事だろう。

「フクダトシカズです、宜しくお願いします。」

「随分かしこまった喋り方するのね、あなたもしかして貴族?」

「いえ、どうやら「迷い人」らしく、右も左も分かりません。」

「へぇ、初めて会ったわ。
 見た目はヒューマンと変わらないのね。」

「それよりも、ここは一体?」

「ここは、以前以来の報酬でナツキが貰った家なんだけど、ほとんど来ないの。」

「これからどうするんですか?」

「問題はそこよね、あなたの事をもっと聞かせて頂戴?」

 彼女たちのこれからを尋ねたつもりだったが、こちらの事を心配してくれているようだ。

ーーーーーーーーーー

 「迷い人」と言うのは極稀に別の世界から来てしまう人の事を指すらしい。

「「迷い人」の多くは特殊なスキルを操り「何か」を成し遂げた人が多いの。
 でもほとんどが南大陸での話で、この中央大陸では「迷い人」の報告はないの。」

「そしてこれは忠告なんだけど、「迷い人」だというのは隠したほうがいいわ、盗賊の件みたいな事がまた起きるわよ。」

「幸いにもこの国は流れ者に寛容な中間貿易大国、身分証の発行はさほど難しくない。
 その分他国では下に見られることも有るけどね。」

「こちらの事は今話した通りです。
 ミーシャさんはどうして捕まっていたのですか?」

 こちらの質問に、彼女は顔を赤くしながら説明してくれる。

「実はね、仕事であの奴隷商の後をつけているときにヘマして捕まっちゃったの。」

 そのあと小さく呟いた「一生の不覚だわ。」まで聞き取ることが出来た。

「ナツキが助けに来てはくれたものの、仕事は失敗ね。」

 そういって肩を落とす。

 「ギィ」と音を立てドアが開く。

「そうでもないさ。」

 そこに立っていたのは、少し苦しそうなナツキ。

 その右手は奴隷商の首を持っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...