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第1章 運命の女神
7 昇格試験開始
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翌朝、朝の六つ鐘が鳴る一ザン前に、アトロポスはシルヴァレートとともに冒険者ギルドに到着した。昇格試験の手続きをするために受付に向かうと、ミランダが手を振って声を掛けてきた。
「ローズさん、おはようございます。早いですね」
「おはようございます。初めてなので遅刻すると不味いと思って……」
「それにしても、昨日は驚きました。闇属性なんて、あたし、初めて見ました」
「どうも……お騒がせしました」
アトロポスは苦笑いを浮かべながら頭を下げた。
「そちらは?」
ミランダがアトロポスの隣りにいるシルヴァレートに視線を移しながら訊ねてきた。
「シルヴァです。えっと、私の恋人……」
「わあ、彼氏さんですか? 素敵な方ですね。受付嬢のミランダです」
「シルヴァです、よろしく。昇格試験まで時間があるので、その前に俺も冒険者登録をしようと思って早めに来ました。手続きをお願いできますか?」
人当たりの良い笑顔でミランダに接するシルヴァレートに、アトロポスは少し焼き餅を焼いた。
(ミランダさんって、美人で胸も大きいし……。ちょっと心配かも……)
二十代半ばで自分よりも女としての色気を持つミランダを見つめながら、アトロポスは内心穏やかでなかった。その様子を見て、シルヴァレートがアトロポスの耳元に口を寄せて囁いた。
「変なこと考えてると、またお仕置きするぞ」
内心を見透かしたシルヴァレートの言葉に真っ赤になって、アトロポスは彼を睨みつけた。
(こんなところで、何てこと言うのよ)
昨夜のお仕置きは凄かった。アトロポスは何度も涙を流しながら許しを乞うた。だが、その願いは聞き入れられず、かつてないほどの歓悦の極致に何度も押し上げられた。全身の痙攣が止まらなくなり、アトロポスは生まれて初めて失神した。今朝は中級回復ポーションがなければ起き上がることさえ出来なかったのだ。
(あんなの毎日されたらおかしくなっちゃうわ。今度したら絶対に文句を言ってやるんだから)
アトロポスは心の中でそう決意をすると、意識を現実に引き戻した。
「では、申請書を渡しますので、ご記入をお願いします」
二人のやり取りに気づいた様子もなく、ミランダは羊皮紙の申請書と羽ペンをシルヴァレートの前に置いた。
「ローズさんはこちらにご記入ください。剣士クラスB昇格試験の申込書です」
「はい」
アトロポスは申請書に書かれた注意事項やルールに目を通し始めた。
(武器は剣のみ……長剣や細剣、細短剣など剣か刀であれば何でも可か……。致命傷になる攻撃は禁止されているのね……。勝ち抜き戦で優勝者が試験官と戦う権利を得るのね)
試験官は剣士クラスSのギルドマスターだとミランダは言っていた。
(さすがに剣士クラスSに勝てるとは思えないから、剣筋や力量を確認するための模擬戦ってところかしら?)
「ミランダさん、今日の受験者は何人くらいいるんですか?」
人数によって決勝戦までに戦う回数が変わると思い、アトロポスが訊ねた。
「八人です。一回戦と二回戦を突破すれば決勝戦です」
「私以外は全員剣士クラスCですか?」
「はい。クラスFはローズさんだけなので、がんばってください」
ミランダが笑顔で告げた。
(ダリウス将軍はどのくらいのクラスなんだろう? 王宮最強と呼ばれているくらいだから、クラスCってことはないわよね? つまり、受験者は全員がダリウス将軍よりも格下だとすると……。問題は、クラスSのギルドマスターね)
「優勝者はギルドマスターと模擬戦をやるみたいですが、ギルドマスターってクラスSでしたよね? レウルーラ王宮最強と呼ばれているダリウス将軍とどっちが強いのかな?」
単なる興味本位の質問を装って、アトロポスは探りを入れてみた。
「ああ、ダリウス将軍ですか? あの方もお強いですよね。お忍びで時々ギルマスと訓練をされていますよ」
ミランダが重要な情報をさらりと告げた。アトロポスは身を乗り出したい衝動を抑えながら、ミランダに訊ねた。
「そうなんですか? それでどちらが強いんです?」
「お勝ちになるのは、いつもダリウス将軍です」
(なるほど。クラスSと言っても、ダリウス将軍ほどじゃないのね。それなら何とかなりそうかな?)
ミランダの言葉に、アトロポスは少し安心した。
「でも、ここだけの話ですが、ダリウス将軍と模擬戦をすると疲れるってギルマスがいつも愚痴るんですよ」
「そうなんですか? 実力が伯仲しているということですか?」
(もしそうなら、油断できないわね)
だが、アトロポスの考えはミランダの言葉に打ち消された。
「違いますよ。将軍に花を持たせるために、ギルマスはいつも僅差でわざと負けているんです。将軍の力を見極めて、気づかれないように負けるのは大変だって言っています。たぶん、本気を出したら一瞬で勝負がつくんじゃないでしょうか?」
「ぎ、ギルドマスターって強いんですね……」
(ダリウス将軍の攻撃を見切って、手加減して勝たせているって……? そんなこと、相当の実力差がないと不可能じゃない?)
アトロポスは自分の考えが甘かったことを思い知らされた。
「あ、この話はホントに内緒ですよ。あたしが話したなんて知られたら、怒られちゃいますから……」
「もちろんです」
(剣士クラスSっていうのは、想像以上みたいね。気を抜かないようにしないと……)
「これでいいですか?」
アトロポスは気を取り直すと、申込書にサインをしてミランダに渡した。ほぼ同時に、シルヴァレートも記入し終えた申請書をミランダに差し出した。
「こっちも書き終わりました。これでお願いします」
「ありがとうございます。ローズさんはこれで申込完了です。シルヴァさんは魔道士クラスをご希望ですね。ただいま処理して参りますので、登録料の金貨一枚をお願いします」
「はい。こちらで……」
アトロポスが譲った黒革のコートの内ポケットから革袋を取り出すと、シルヴァレートは手に取った金貨をミランダに手渡した。
「では、手続きして参ります。少々お待ちください」
そう告げると、昨日と同様にミランダは奥の事務所に入って行った。
「ダリウスを赤児扱いするなんて、上には上がいるもんだな」
二人きりになると、シルヴァレートがアトロポスの耳元で囁いた。
「そうね。今の私じゃ勝てそうもないわ。でも、せっかく強い相手と戦えるんだから、胸を借りるつもりで精一杯やってみる」
勝てはしなくても、全力でぶつかってみようとアトロポスは思った。アトロポスの考えに賛同するように、シルヴァレートが大きく頷いた。
ミランダからシルヴァレートのギルド証を受け取ると、二人は地下の訓練場に向かった。訓練場の広さは一階の倍近くあり、四方には観戦用のベンチが並べられていた。
アトロポスは入口に近い観戦席にシルヴァレートを残し、訓練場の中央に向かってゆっくりと歩を進めた。訓練場には受験者七人とギルドマスターらしき人物がすでに立っていた。
「揃ったな。では、これから剣士クラスBの昇格試験を始める。私が冒険者ギルド・ザルーエク支部のギルドマスターをしているアイザックだ。本日の試験官を兼ねている」
アトロポスが受験者の一番左手に並んだのを確認すると、アイザックが受験者たち全員を見渡しながら告げた。
「試験方式は一対一の勝ち抜き戦とし、優勝者が私と模擬戦を行う。その模擬戦で私がその者の実力を判断し、合否を決定する。つまり、ここにいる八人の中でクラスBになれるのは一人だけだ」
受験者たちの間に緊張と闘志が湧き上がった。誰もが自分こそと思っているに違いなかった。その様子を満足そうに見渡すと、アイザックが続けた。
「一応、上級回復ポーションは持ってきているが、致命傷になる攻撃をした場合は失格とする。四肢の切断くらいなら構わないが、首を刎ねたり心臓を貫くような即死攻撃は厳禁だ。そのような攻撃をした場合、失格となるだけではなく処分の対象とする。これは戦闘ではなく試験だと言うことを忘れるな」
アイザックの言葉に受験者全員が頷いた。
(手足なら斬り落としてもいいって、結構過激なのね)
上級回復ポーションは即死でなければ四肢の欠損まで復元するとシルヴァレートが言っていたことをアトロポスは思い出した。
「それでは対戦相手を発表する。名前を呼ばれた者は返事をしろ。第一試合、一人目はランドルフ」
「おう!」
横一列の中央付近にいた大男が叫ぶように声を上げた。身長は二メッツェ近くあり、二の腕の太さはアトロポスのウエストほどもあった。武器は巨大な両手大剣だった。刃渡りは百四十セグメッツェくらいあり、刃幅は一番太いところで二十セグメッツェくらいもあった。
(あんな重い剣、良く振り回せるわね)
アトロポスは呆れたように男が背負っている両手大剣を見つめた。アトロポスの細短剣など、一撃でへし折られそうだった。
「二人目はローズ」
「はい」
(嫌な予感が当たったわ。最初はあの大男が相手なんて……)
アトロポスは小さくため息をついた。ランドルフの攻撃はすべて避けるかいなすしかないだろう。四、五ケーゲムくらいの重さがありそうな両手大剣を素早く振り回せるとは思えなかった。
第二試合以降の組み合わせを、アトロポスは聞いていなかった。どうせ第一試合を終えたらすべて見学するつもりだったからだ。
アイザックは全員の組み合わせを発表すると、ランドルフとアトロポスの二人だけを残して他の六人に観戦席へ戻るよう命じた。
訓練場の中央で、ランドルフとアトロポスが向かい合った。身長差は三十セグメッツェ以上あり、体重差に至っては六十ケーゲムはあると思われた。端から見ると大人と子供の対戦だった。
「クラスFのくせに『夜薔薇』とかいう二つ名を名乗ったらしいな! 小娘があんまり調子に乗らない方がいいぜ!」
ランドルフが両手で両手大剣を構えながら吠えるように叫んだ。気の弱い者なら竦んでしまいそうな大声だった。
「ランドルフさんって言いましたか? それって、まるでヒロインをいじめる悪役みたいな台詞ですよ」
アトロポスの言葉に、観戦席で座っている受験者たちから失笑が沸き起こった。それが聞こえたのか、ランドルフの顔が怒りで赤黒く染まった。
「おい、ギルマス! 早く開始の合図をしろ! この小娘に、少し大人の教育ってもんを教えてやる!」
(ほう。この少女が例の闇属性持ちか? 昨日、ミランダが興奮して騒いでいたな。ふむ。なかなかやりそうだが、ランドルフ相手にどこまで通じるか楽しみだ)
内心の笑みを顔には出さずに、アイザックが左腰の長剣を抜き放った。右手で高く掲げると、アトロポスの方を向いて訊ねた。
「ローズ、用意はいいか?」
「はい」
アトロポスは左腰の細短剣の柄を右手で握ると、両脚を少し大きめに開いて重心を落とした。踵は軽く上げ、前後左右どこにでも即座に反応できるように構えながら頷いた。
「よし、始めッ!」
アイザックが右手の長剣を真っ直ぐに振り落とした。
冒険者ギルド・ザルーエク支部の地下訓練場で、剣士クラスBの昇格試験が始まった。
「ローズさん、おはようございます。早いですね」
「おはようございます。初めてなので遅刻すると不味いと思って……」
「それにしても、昨日は驚きました。闇属性なんて、あたし、初めて見ました」
「どうも……お騒がせしました」
アトロポスは苦笑いを浮かべながら頭を下げた。
「そちらは?」
ミランダがアトロポスの隣りにいるシルヴァレートに視線を移しながら訊ねてきた。
「シルヴァです。えっと、私の恋人……」
「わあ、彼氏さんですか? 素敵な方ですね。受付嬢のミランダです」
「シルヴァです、よろしく。昇格試験まで時間があるので、その前に俺も冒険者登録をしようと思って早めに来ました。手続きをお願いできますか?」
人当たりの良い笑顔でミランダに接するシルヴァレートに、アトロポスは少し焼き餅を焼いた。
(ミランダさんって、美人で胸も大きいし……。ちょっと心配かも……)
二十代半ばで自分よりも女としての色気を持つミランダを見つめながら、アトロポスは内心穏やかでなかった。その様子を見て、シルヴァレートがアトロポスの耳元に口を寄せて囁いた。
「変なこと考えてると、またお仕置きするぞ」
内心を見透かしたシルヴァレートの言葉に真っ赤になって、アトロポスは彼を睨みつけた。
(こんなところで、何てこと言うのよ)
昨夜のお仕置きは凄かった。アトロポスは何度も涙を流しながら許しを乞うた。だが、その願いは聞き入れられず、かつてないほどの歓悦の極致に何度も押し上げられた。全身の痙攣が止まらなくなり、アトロポスは生まれて初めて失神した。今朝は中級回復ポーションがなければ起き上がることさえ出来なかったのだ。
(あんなの毎日されたらおかしくなっちゃうわ。今度したら絶対に文句を言ってやるんだから)
アトロポスは心の中でそう決意をすると、意識を現実に引き戻した。
「では、申請書を渡しますので、ご記入をお願いします」
二人のやり取りに気づいた様子もなく、ミランダは羊皮紙の申請書と羽ペンをシルヴァレートの前に置いた。
「ローズさんはこちらにご記入ください。剣士クラスB昇格試験の申込書です」
「はい」
アトロポスは申請書に書かれた注意事項やルールに目を通し始めた。
(武器は剣のみ……長剣や細剣、細短剣など剣か刀であれば何でも可か……。致命傷になる攻撃は禁止されているのね……。勝ち抜き戦で優勝者が試験官と戦う権利を得るのね)
試験官は剣士クラスSのギルドマスターだとミランダは言っていた。
(さすがに剣士クラスSに勝てるとは思えないから、剣筋や力量を確認するための模擬戦ってところかしら?)
「ミランダさん、今日の受験者は何人くらいいるんですか?」
人数によって決勝戦までに戦う回数が変わると思い、アトロポスが訊ねた。
「八人です。一回戦と二回戦を突破すれば決勝戦です」
「私以外は全員剣士クラスCですか?」
「はい。クラスFはローズさんだけなので、がんばってください」
ミランダが笑顔で告げた。
(ダリウス将軍はどのくらいのクラスなんだろう? 王宮最強と呼ばれているくらいだから、クラスCってことはないわよね? つまり、受験者は全員がダリウス将軍よりも格下だとすると……。問題は、クラスSのギルドマスターね)
「優勝者はギルドマスターと模擬戦をやるみたいですが、ギルドマスターってクラスSでしたよね? レウルーラ王宮最強と呼ばれているダリウス将軍とどっちが強いのかな?」
単なる興味本位の質問を装って、アトロポスは探りを入れてみた。
「ああ、ダリウス将軍ですか? あの方もお強いですよね。お忍びで時々ギルマスと訓練をされていますよ」
ミランダが重要な情報をさらりと告げた。アトロポスは身を乗り出したい衝動を抑えながら、ミランダに訊ねた。
「そうなんですか? それでどちらが強いんです?」
「お勝ちになるのは、いつもダリウス将軍です」
(なるほど。クラスSと言っても、ダリウス将軍ほどじゃないのね。それなら何とかなりそうかな?)
ミランダの言葉に、アトロポスは少し安心した。
「でも、ここだけの話ですが、ダリウス将軍と模擬戦をすると疲れるってギルマスがいつも愚痴るんですよ」
「そうなんですか? 実力が伯仲しているということですか?」
(もしそうなら、油断できないわね)
だが、アトロポスの考えはミランダの言葉に打ち消された。
「違いますよ。将軍に花を持たせるために、ギルマスはいつも僅差でわざと負けているんです。将軍の力を見極めて、気づかれないように負けるのは大変だって言っています。たぶん、本気を出したら一瞬で勝負がつくんじゃないでしょうか?」
「ぎ、ギルドマスターって強いんですね……」
(ダリウス将軍の攻撃を見切って、手加減して勝たせているって……? そんなこと、相当の実力差がないと不可能じゃない?)
アトロポスは自分の考えが甘かったことを思い知らされた。
「あ、この話はホントに内緒ですよ。あたしが話したなんて知られたら、怒られちゃいますから……」
「もちろんです」
(剣士クラスSっていうのは、想像以上みたいね。気を抜かないようにしないと……)
「これでいいですか?」
アトロポスは気を取り直すと、申込書にサインをしてミランダに渡した。ほぼ同時に、シルヴァレートも記入し終えた申請書をミランダに差し出した。
「こっちも書き終わりました。これでお願いします」
「ありがとうございます。ローズさんはこれで申込完了です。シルヴァさんは魔道士クラスをご希望ですね。ただいま処理して参りますので、登録料の金貨一枚をお願いします」
「はい。こちらで……」
アトロポスが譲った黒革のコートの内ポケットから革袋を取り出すと、シルヴァレートは手に取った金貨をミランダに手渡した。
「では、手続きして参ります。少々お待ちください」
そう告げると、昨日と同様にミランダは奥の事務所に入って行った。
「ダリウスを赤児扱いするなんて、上には上がいるもんだな」
二人きりになると、シルヴァレートがアトロポスの耳元で囁いた。
「そうね。今の私じゃ勝てそうもないわ。でも、せっかく強い相手と戦えるんだから、胸を借りるつもりで精一杯やってみる」
勝てはしなくても、全力でぶつかってみようとアトロポスは思った。アトロポスの考えに賛同するように、シルヴァレートが大きく頷いた。
ミランダからシルヴァレートのギルド証を受け取ると、二人は地下の訓練場に向かった。訓練場の広さは一階の倍近くあり、四方には観戦用のベンチが並べられていた。
アトロポスは入口に近い観戦席にシルヴァレートを残し、訓練場の中央に向かってゆっくりと歩を進めた。訓練場には受験者七人とギルドマスターらしき人物がすでに立っていた。
「揃ったな。では、これから剣士クラスBの昇格試験を始める。私が冒険者ギルド・ザルーエク支部のギルドマスターをしているアイザックだ。本日の試験官を兼ねている」
アトロポスが受験者の一番左手に並んだのを確認すると、アイザックが受験者たち全員を見渡しながら告げた。
「試験方式は一対一の勝ち抜き戦とし、優勝者が私と模擬戦を行う。その模擬戦で私がその者の実力を判断し、合否を決定する。つまり、ここにいる八人の中でクラスBになれるのは一人だけだ」
受験者たちの間に緊張と闘志が湧き上がった。誰もが自分こそと思っているに違いなかった。その様子を満足そうに見渡すと、アイザックが続けた。
「一応、上級回復ポーションは持ってきているが、致命傷になる攻撃をした場合は失格とする。四肢の切断くらいなら構わないが、首を刎ねたり心臓を貫くような即死攻撃は厳禁だ。そのような攻撃をした場合、失格となるだけではなく処分の対象とする。これは戦闘ではなく試験だと言うことを忘れるな」
アイザックの言葉に受験者全員が頷いた。
(手足なら斬り落としてもいいって、結構過激なのね)
上級回復ポーションは即死でなければ四肢の欠損まで復元するとシルヴァレートが言っていたことをアトロポスは思い出した。
「それでは対戦相手を発表する。名前を呼ばれた者は返事をしろ。第一試合、一人目はランドルフ」
「おう!」
横一列の中央付近にいた大男が叫ぶように声を上げた。身長は二メッツェ近くあり、二の腕の太さはアトロポスのウエストほどもあった。武器は巨大な両手大剣だった。刃渡りは百四十セグメッツェくらいあり、刃幅は一番太いところで二十セグメッツェくらいもあった。
(あんな重い剣、良く振り回せるわね)
アトロポスは呆れたように男が背負っている両手大剣を見つめた。アトロポスの細短剣など、一撃でへし折られそうだった。
「二人目はローズ」
「はい」
(嫌な予感が当たったわ。最初はあの大男が相手なんて……)
アトロポスは小さくため息をついた。ランドルフの攻撃はすべて避けるかいなすしかないだろう。四、五ケーゲムくらいの重さがありそうな両手大剣を素早く振り回せるとは思えなかった。
第二試合以降の組み合わせを、アトロポスは聞いていなかった。どうせ第一試合を終えたらすべて見学するつもりだったからだ。
アイザックは全員の組み合わせを発表すると、ランドルフとアトロポスの二人だけを残して他の六人に観戦席へ戻るよう命じた。
訓練場の中央で、ランドルフとアトロポスが向かい合った。身長差は三十セグメッツェ以上あり、体重差に至っては六十ケーゲムはあると思われた。端から見ると大人と子供の対戦だった。
「クラスFのくせに『夜薔薇』とかいう二つ名を名乗ったらしいな! 小娘があんまり調子に乗らない方がいいぜ!」
ランドルフが両手で両手大剣を構えながら吠えるように叫んだ。気の弱い者なら竦んでしまいそうな大声だった。
「ランドルフさんって言いましたか? それって、まるでヒロインをいじめる悪役みたいな台詞ですよ」
アトロポスの言葉に、観戦席で座っている受験者たちから失笑が沸き起こった。それが聞こえたのか、ランドルフの顔が怒りで赤黒く染まった。
「おい、ギルマス! 早く開始の合図をしろ! この小娘に、少し大人の教育ってもんを教えてやる!」
(ほう。この少女が例の闇属性持ちか? 昨日、ミランダが興奮して騒いでいたな。ふむ。なかなかやりそうだが、ランドルフ相手にどこまで通じるか楽しみだ)
内心の笑みを顔には出さずに、アイザックが左腰の長剣を抜き放った。右手で高く掲げると、アトロポスの方を向いて訊ねた。
「ローズ、用意はいいか?」
「はい」
アトロポスは左腰の細短剣の柄を右手で握ると、両脚を少し大きめに開いて重心を落とした。踵は軽く上げ、前後左右どこにでも即座に反応できるように構えながら頷いた。
「よし、始めッ!」
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