魔王の娘(6歳)は勇者が欲しい

わたちょ

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勇者の受難

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 ユグドラシル歴3184年。魔族からの進軍が始まった。それから十年余り経った3197年。魔族からの進軍によって始まった戦争が魔族からの提案により休戦。話し合いののち終戦と相成った。数々の遺憾は残りながらもこれ以上の戦いを多くの者は望まなかった。
 戦争終結のセレモニーが世界中で行われ、魔王と勇者が二人並んでいる姿が見られた。勇者はにこやかに笑う。これからの平和を告げるように。
 だがその間勇者は魔王からの圧力を感じてちびらないようにするのに必死だった。魔王の目はなんてことをしてくれたんだと勇者に語っていた。彼がこの戦争終結をよく思っていないのがありありと伝わってくる。それでもそう決めたのは魔王だ。愛する娘に勇者と婚約するから戦いをやめてと云われ泣く泣く承諾したのは魔王。
 え、マジでそんな事で戦い終わるの。
 俺が何年も戦い続けてきた意味ってと勇者が思っても仕方ない。
 つつがなく終わるセレモニー。世界中で行われる復興には魔族たちも力を貸した。これも私の婚約者が住む世界をより良い世界であってほしいと娘が懇願した結果だ。魔族たちは尽力を尽くすこととなりわずか半月ほどで住処を追いやられていた大勢の人々が平穏に住む場所が完成していた。それを見た勇者は改めて魔王の持つ桁外れな力を思い知り、経緯はどうあれ戦いが終わってよかったと胸を撫で下ろした。





 そして何だかんだで平和になった世界。やるべきことをすべてなし久しぶりに生まれ故郷である村に戻ってきた勇者はどうしようかと頭を悩ませた。彼の頭を悩ませる問題はどう仲間に今回の件を説明するかである。十年も戦い続けそれでも倒すことのできなかった敵とどうして和解することになったのか。その説明を……勇者はできる気がしなかった。
 魔王の娘と婚約したのはまだ各国の偉い人たちしか知らない事実である。この世界を支えてきた勇者が平和のためとはいえ魔王の娘六歳の女の子と婚約したなどと公表できるはずもなかった。今の所は秘匿されるべき案件だ。とはいえ長く苦楽を共にしてきた仲間たちには話しておくべきだろうと勇者は考えたのだが、いざその時が来ると勇気が出ないものである。
(六歳で十何歳も離れた女の子と婚約とか俺やばい奴じゃん。みんなに引かれるだろう)
 嫌われる心配こそしていないもののひかれること承知で話をするのは辛い。やっぱり言わないでおこうかななんて弱気なことを勇者は思った。村の門で悩んでいたが勇者の足が数歩村から外に出た。ゆっくりと後ろにふりかえろうと……。

「やっぱり勇者じゃねえか帰ってきたんだな!」
 ぴしりと勇者が固まった。明るい声が響いたのにさぁと血の気が引いていく。何時もならその声を頼りに思うのに今日に限ってはなんで声かけてくるんだよと怒鳴りたくなった。
「やあ、アバンディ。久しぶり」
「おお。もう話し合いは終わったのか」
「そうだな……。終わったな」
「じゃあ、これからは落ち着いて村で暮らせそうだな。良かったな。お前の夢だっただろう勇者」
「ああ……」
 眩しい笑顔が続く。キラキラのその笑みは何時もなら見ている勇者も笑顔になるのだが今日は顔が引きつるばかり。言いたくないとその言葉だけが勇者の頭の中を巡っていた。勇者に声をかけてきたのは牛の耳をしたムキムキマッチョの笑顔がさわやかな男。勇者の仲間だった男だ。彼の持つ怪力には何度も助けられてきた。その上見た目によらず賢くその知恵にも何度も救われてきた。勇者が今生きているのも彼がいたからだ。言わないわけには……。だけど。
 勇者は悩む。苦悩する。そんな勇者に
「あ、そうだ勇者魔王の娘と婚約したんだって。どんな子だったんだ」
 爽やかにまるで世間話をするようにあっさりと仲間アバンディ、斧使いは告げた。勇者が固まる。えっと呆気にとられた声が出る。信じられないと斧使いを見つめる目は涙目だった。
「何でそれをって」
「なんでって姫さんが」
「え? 姫?」
 勇者が思い浮かべるのは金髪の美しい少女。仲間として共に旅をしたこともある大人しいが正義感が強く芯のある少女だ。ユグドラシルの中でも一番の大陸の御姫様なのだが、そう言えば城に行っても合わなかったような。何時もなら勇者が行けば姿を見せてお茶を入れてくれたりお菓子をくれたりするのに……。
「勇者の馬鹿あああああああああああああああああああああああ!」
「えっ、って、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 怒鳴り声のすぐ後勇者の絶叫が響いた。その前にめっきょと云う何かが凹む音がしており勇者はお腹を押さえて地面に蹲る。
「な、なんで……」
 突然の攻撃に対処ができず死にかけの勇者は茫然と上を見あげる。そこには三人の人影が並んでおりあっと勇者は声を上げた。
「最低。小さい女の子と。婚約だなんて……」
「勇者様がそんな趣味だったなんて私知りませんでした。近寄らないでください」
「ごめ、ごめんなさい。私どうしても一人じゃ抱えきれなくって」
 睨み付けてくる褐色肌の少女に顔をそむけた僧侶姿の少女。二人より一歩後ろで勇者に謝る金髪の美少女。幼馴染に僧侶、そして姫様。勇者の仲間の女の子たちだった。彼女らの目は明らかに軽蔑の色をしていた。
「ちが、待って違うんだ」
 云うも空しく勇者の手は地に落ちた。

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