転生巫女は『厄除け』スキルを持っているようです ~神様がくれたのはとんでもないものでした!?〜

鶯埜 餡

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16.前世もこの世も同じ悩みがある

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 連れていかれた先はこの離宮の食堂のような場所で、三人の男性が待っていた。三人とも美形で、茶髪の男性は前世でいう体育会系のような感じ、ニコラス殿下よりも淡い赤色の短髪の男性は物腰が柔らかそうな人、長い黒髪を後ろで一つ結びした男性はいわゆるオタクのようなちょっと引きこもってそうな人だった。
 というか今更だけど、なんか十七歳にしてイケメンさんが勢ぞろいするなんて、まさかこの世界って乙女ゲームの世界じゃないよね。もちろんこの世界が乙女ゲームだった場合でも、私は知らないんだけれどさ。

 三人はそれぞれレオン・バウレスト、ヴィルヘルム・タリンプ、エリック・ベルゼックと自己紹介したあと、食事をとりながらミミィや私たちの話を興味津々に聞いてきた。
「なんでこんな人たちが私たちに興味あるのでしょうか?」
 私よりもミミィの方がよく話しかけられていたので、暇を持て余した私はふと部屋の隅を見ると、アイリーンがにっこりと笑いながらユリウスさんに尋ねているのを見つけてしまった。
 ユリウスさんもアイリーンと同じ笑みを浮かべている。これはあのパターンですな。
 耳をそばだてるだけにしておこう。すすんであの会話には入りたくない。
 命大事。
「新種の魔物の発見というのは一大事ですよ。そんな発見した人を放っておけるわけないでしょう」
 彼女の問いかけにそう返答するユリウスさん。
 まあ、そっかぁ。
 そうですよねぇ……だって、新種なのかどうかは私にはわからないけれど、とにかく封じこめの儀式を行っても封じこめられない魔物って今までになかったもんだからねぇ。
「王宮にくるのだけでも面倒なのに、面倒ごとが増えないといいのですが」
「大丈夫ですよ。それを見越してジェイドもあなた方を連れてきたのでしょう」
 アイリーンは大きく肩を震わせたが、あれは確実に演技だろう。絶対に演技でしかない。そんな彼女にユリウスさんはあっけらかんと笑う。
 うん、やっぱり怖いわ。蛇と蛙のようだよ。

「で、ミコちゃんってこの辺の子じゃないよね?」
「え? ええ、ビリウってご存知ですか?」
 アイリーンとユリウスさんの様子を見ていると、隣から声をかけられた私は、一瞬、ここがどこだったか忘れそうになった。
 声をかけてきたのは茶髪の男性、レオンさんといって、たしか騎士団長さんだったはずだ。そうか。ここら辺、王都近郊だと黒髪は少ない方なのか。
 エリックさんも黒髪なのだからまったくいないわけではないのだけれど、珍しいのだろうか。私が故郷の名前を言うと、レオンさんは大きく頷いた。
「ビリウ? もちろんさ! 冒険者たちが使う武具や防具を作ってるところだろ?」
「そうです!」
 自分の故郷がほかの地域の人、それも高位の人に知られているとなると嬉しいもんだ。ここに来るきっかけとなったローザさんも知っていたけれど、より嬉しかった。
 レオンさんは少し複雑そうな顔をして続ける。
「本当は俺もビリウの職人たちの作ったものを使いたいんだけれど、騎士団では個人で買うのが禁じられててさぁ」
「そうなんですか?」
 そう言ってくれるだけでも嬉しい。
 私が実家の工房を継げなくても、使いたいと思ってくれる人がいるだけで嬉しく思う。
「そうそう。既得権益? 談合の禁止? とりあえずそんなような理由で、王都周辺の工房で作ってるものを使わされるんだよねぇ」
 レオンさんの言った意味がよくわからなかったけれどへぇと頷いておく。
「俺一人がビリウの職人のもの持ちたいってごねても、騎士団として契約しないとだめって言われてさ」
 ふむむ。なるほど。
 ようやくなんとなくわかったような気がする。
 まあ、前世の日本だってそうだよねぇ。
 私自身は会社勤めをしたことがないけれど、神社で使う榊や三方、和紙や筆といった消耗品だって決められたところからしか納入してもらえなかったからなぁ。
 一回、町の書道具を扱うお店で、そのとき使っていたものよりもいいものを見つけて、こっちを使わせてもらえないか尋ねてみたのだけれど、そういう決まりがあるからダメだって言われちゃったんだよねぇ。
 上司の祢宜さんもどうにかならないかと思っていたらしいけれど、祢宜さんのさらに上司の人に許可されなかったって言っていた気がする。
 レオンさんはというと、むしろやる気になっている。瞳がめらめらと燃えている。
「だから、俺が大将になるか、宰相補佐が宰相になったらこんな規則廃止してやるんだって思ってるわけ」
「そうなんですか、頑張ってください」
 うん、純粋に頑張ってほしい。
 私ができなかった分、レオンさんには頑張ってもらいたい。
「それまでに潰されてないといいのだが」
 レオンさんの決意を聞いた瞬間、第三者の声が入りこんできた。
 えっとぉ、黒髪のちょっとオタクっぽい人だから、エリックさんですね。たしか侯爵だっけ。領地は聞いたことのない地名だけれど、ビリウの村からそんなに離れてない場所って説明していたような。
「うっわ、ひっでぇな」
 レオンさんとエリックさんは仲がよろしいようで、気安く喋っている。そうか、たしか二人とも同い年で実家同士も血が繋がっているとかなんとかって言っていたような気がする。
「ひどくはないぞ、レオン。事実だろうが。お前の単細胞のような脳みそでうまくいくはずがない」
「言いがかりはやめろよ」
「お前なぁ」
 エリックさんはジトっとレオンさんを見ている。
 しかし、それを気にすることないレオンさんはそれはそうとと、エリックさんに最大級の爆弾を投げこむ。

「そういうお前こそ、いい加減表舞台に出てきたらどうなんだ」

「いや、今は結構。意外とこの生活も悪くない」
 すぐにその依頼を断るエリックさん。
 なにかあるんだろうか。ちょっと気になったので尋ねてみることにした。
「あのぅ、エリックさんってどんな生活されてるんですか?」
「こいつはなぁ、代々おう――――」
「言うな!!」
 私の問いかけにレオンさんが答えようとしたが、エリックさんは大声で怒鳴って遮る。なにがあったのかと、それまで和気藹々と喋っていた人たちが一斉にこちらを見るが、それに構うことなくエリックさんは首を横に振る。
「すまない、ちょっとは言いたくないんだ」
「そうですか、わかりました」
 ま、そんなもんよねぇ。出会って早々に私生活を教えてくれる人なんていないよねぇ。
 エリックさんは“今は”って言ったんだし、もっと仲良くなったら教えてくれるかもしれないから、そのときを待っていよう。
「……――いいのか?」
 え?
 私の返事に少し驚いた様子のエリックさん。レオンさんも驚いているが、なにも言わない。
「いや、お前はお前・・・・・なんだな」
 私の戸惑った表情にごめんなと謝る黒髪イケメンエリックさん
 やっぱりどういった心境の変化なのかわからなくて、聞き返すと、ほんの少しだけ傷ついたような顔をするけども、首を横に振って呟きだすエリックさん。
「夜会でもそうだが、女どもはすぐになんでも聞きたがる。人が踏みこんでほしくないようなことも平気で踏みこんでくる」
 あらぁ、なるほどねぇ。
 言われてみれば、大学や高校でも他人のスペースパーソナル・スペースにずけずけと踏みこんでくるのは女性が多かった。
 こちらの世界でもそういった女性が多いのだろう。
「……ごめんなさい」
 私は同じ女性として謝罪したが、謝るなと言われてしまった。
「むしろ、こちらこそ怒鳴ったりしてすまない」
 エリックさんはそう謝ると、殿下に呼ばれたと言ってレオンさんとともに去っていった。


 エリックさんとレオンさんのやり取りで口が乾いてしまったので、なにかのみものをと思って動こうとすると、目の前に淡いピンク色の液体が入ったグラスを差しだされた。
「やはりロクなことにならないもんだな」
 一瞬、ジェイドさんかと思ったのだけれど、そのグラスを持っていた人の声は彼の声とは違っていた。
「へ?」
 驚いて間抜けな声を出してしまったが、早くグラスを受けとってほしいんだけれどと言われてしまったので、ありがとうございますと慌てて受けとると、なんでもないよと爽やかな口調で返された。
 その男性、淡い赤い短髪の男性、ヴィルヘルムさんはにっこりと爽やかな笑みを浮かべながら君がミコちゃんなんだと髪を撫でてきた。その手がすごいすべすべなのが、髪越しでもわかる。
 下手するとこの人、女性よりも美しい肌してませんかね!?
 まさかそっちの気おネエでもあるんですか!?
「いや、こちらの話だよ。それよりも君って案外平凡な娘なんだね」
「平凡って……ほかにどんな感じを想像されました?」
 自分が呟いた独り言を脇にどけて、すごく失礼なこと言いませんでした!?
 私はすぐには怒っちゃだめだ、すぐには怒っちゃだめだと言い聞かせながら聞くと、ヴィルヘルムさんはうーん、どうだろうねぇと考えこむ。
「たとえば絶世の美女とかだろうか?」
「疑問形で答えられましても」

 マジか。
 この人頭おかしくないか。自分で言っておいて、疑問形で返すって一番やっちゃいけないような気がするんですけれど。

 というか、この人も侯爵なんだっけ。さっきのエリックさんとは違った意味で危険なんですけれどっ!!
 この国大丈夫なの!?――――っていっても、私はこの国の中枢には関係ない、関係したくないんですけれど、ねっ!!
 私の脳内がパニックになっているのを傍目に、クククッと笑うヴィルヘルムさん。
「意外と遊びがい・・・・がありそうだねぇ」
 その言葉に背中がゾクゾクした。
 決して面白いとかそんなんじゃない。純粋にこの人に対して恐怖を抱いたのだ。
「冗談さ。とはいえ、キミが面白い、ユニークな人間であることには間違いないさ」
 ヴィルヘルムさんは笑いながら、私の髪を結んであった紐をほどいて梳きはじめる。なにか得体のしれない恐怖に私は動けなかった。
「王宮浄化師なのだから、私の領にも来るのでしょう? そのときを楽しみにしているよ」
 私の髪型を滅茶苦茶にした彼は不気味な予告だけを残して去っていく。渡されたグラスに入っていたピンク色の液体は、見た目とは裏腹に甘ったるいものだった。
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