転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね!? ~平凡に生きていくために、私は諦めないんだからっ!~

鶯埜 餡

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九歳

未来への宣戦布告

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「伯母さま、お願いが――――っ。お姉さまぁ」

 リリスの声が途中で途切れる。
 途切れた原因は、この中で最も身分が高いミスティア王女への挨拶をすっ飛ばして、伯母に『お願い事』をしようとしたからで、アリアはヒールで彼女の足を踏んだのだった。

 
「ミスティア王女殿下、フレデリカ伯母様、ご招待いただきましてありがとうございます」
 アリアはきちんとした礼をとった。すると、アリアの言葉に目を瞬かせたフレデリカだったが、猫のように目を細めながら微笑んだ。

「いつもの『お願いごと』はよかったの、アリアちゃん?」

 フレデリカの誘惑に負けそうになるが、そこはぐっとこらえたアリアだったが、彼女がなびかないと見るや、目標をリリスに定めたフレデリカはクスクスと笑った。

「で、リリスちゃんは何が欲しいの?」

 伯母の言葉にリリスはすぐに言葉を発すことができず、数回、口をパクパクさせたが、やがて喋り出した。

「あの――――――」



「リリス!」



 アリアは、今度は、はっきりと強く言った。

「――――――――っ!」

 姉の威圧にリリスは負けた。それを見たフレデリカは、あら、つまらないの、と言って、奥に割り当てられた私室へ向かった。
 その場にはミスティア王女とアリア、そしてリリスの三人が残された。




「アリアお姉さま」


 上級侍女に連れられ中庭に来て花を摘んでいた三人は、それぞれの遊びにふけっていた。

 ちょうど今は春先。
 パンジーやシロツメクサと言った花が咲いていたので、前世で習ったような花冠を作っていのだが、途中でミスティア王女がアリアに話しかけてきた。

 リリスがひとり、二人からは離れたところに行った時だったので、王女が近づいてきたので、王女がアリアに何を話したいのかはすぐにわかった。

「何でしょう、王女様」

 彼女はあくまで『家臣の娘』という立場をとった。ゲームの中では、アリアとミスティアの接点はわからなかったが、ゲームの性質上、ため口だった、なんていう展開がありそうで、折れるものは少しでも折っておきたかったのだ。

 もっとも、今までのアリアはため口で話していたようで、かしこまって話しかけた時の王女の呆然とした表情は見逃さなかった。


「あ、あの。お姉さまはお人が変わられたようですが――――――――」

 ミスティア王女はうかがう様にアリアに訊ねる。
 アリアはええ、そうですね、と頷く。

 自分の変わり具合に驚くのは、家族だけじゃないだろう。
 彼女はそれを理解していた。そして、まだ・・純真なミスティア王女だからこそ、ある程度の真実を言おうと思った。

「少しばかり思い出したくないことを思い出してしまったんです。それには私自身の今後が含まれているので、できるかぎり不安要素を取り除きたいのです」

 転生前の記憶について話すつもりはなかった。義姉の言葉に目を見開くミスティア王女は少し悩んだ後、口を開いた。


「では、先ほどお母様の『お誘い』を断ったのも――――――」
「ええ、その通り。おそらくあの人がこれから先、変わることはない」

 先ほど見た伯母が変わることはないだろうし、あの人の未来なんてどうだっていい。だけども、アリア自身を含め《悪役令嬢》三人はまだ、これからだ。
 だからこそ、二人に変わる気があるのならば、アリアは手伝いたい。もっとも、ミスティア王女は『変わる』のではないが。

「殿下、もしかすると、私はあなたにずっと仕えるって言ったことがあったかもしれません。ですが、こうなってしまった以上、私の身を護るためにも、あなたに仕えるということは叶いません。ですが、もし、あなたが生き延びることを選択するのであれば、私はそのお手伝いをします」

 アリアは九歳とは思えない言葉を言った。
 ミスティア王女はまだ五歳。本来ならば、蝶よ花よと育てられる年頃だが、何せこんな環境だ。ろくにアリアたち姉妹以外と喋ったこともないだろう。


「私はまだ、本当に守りたいものはありません。ですが、いつかきっと守りたいものが出てくるかもしれません。それを護れるように力をつけていくつもりです。
 よろしければ、あなたもそれができた時に、護れる力をつけませんか?」

 アリアは少しだけハッタリをかました。
 本当はそんなものを作るつもりもなかったから。それにまだ、母親以外の誰もアリアに協力してくれる人なんていない。
 だが、ミスティア王女は頷いた。

「はい。お願いします」
 その頷きにアリアはホッとした。では、近いうちに私は殿下に会いに来ますね、そう笑顔で言えることができた。



 そして、夕暮れ時に王宮から帰宅したアリアは、その足で母親のもとを訪れた。

「お母様、伯母様のことで少しお伺いしたいのです」

 今まで自分から行くことのなかった母親の部屋だったが、その場所は覚えていたようだった。
 突然の娘の訪問に、母親が驚くと同時に嬉しそうだったのは見間違いだろうかと思ってしまった。

「フレデリカの事?」
 エレノアは伯母のことを敬称付けで呼んだ。母親も元は王族の一員らしいが、現時点で身分が上なのはあちららしい。

「はい、そうです。なぜ、お父様も国王陛下も伯母様の浪費をお知りになっているのにもかかわらず、何も言われないのでしょうか?」

 前世でこのゲームをプレイしているときから気になっていたことを聞いた。
 エレノアは娘が聞いてきた内容について少し驚き、少しゆっくりと息をついたのち、答え始めた。

「マグナムの実家である、このスフォルツァ公爵家は先代まで、王宮内――まつりごとという意味合いでは全く発言力はありませんでした。でも、あの人が陛下の愛人となった時から、マグナムは財務相という立場を得て、ようやく名ばかりの公爵じゃなくなった」

 アリアはそれで思い出した。
 確か、スフォルツァ家は伝統ある家柄だが、攻略対象の一人、アラン・バルティアの実家、バルティア家とは異なり、政治という面においてはほとんど無能と言ってもいいくらいだったことを。
 母親の言葉で納得がいった。

「だから、あなたが超えるべき相手はフレデリカです。間違えないで」
 エレノアの言葉にはい、と頷いた。

「お母様」

 ゆっくりとアリアは母親を見た。

「私は必ず、伯母様を超えてみせます。なので、全てを私に教えてください」

 アリアは頭を下げた。たった一日で変わった娘に、どのように母親は見るのだろうか、と緊張した。

「分かりました。では、徹底的にマナーを学んでもらい、王宮に侍女としてあがってもらいましょう」
 エレノアは娘の覚悟に自らも動くことにしたようで、彼女の目も真剣なものだった。
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