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十歳
アリア、攻略対象の噂を聞くってよ
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ダンスの講義のあとは、バイオレット氏による座学だった。
今日は今度の夜会でアリアと同じくデビューする子女についてのおさらいだった。
「アリア嬢と同じ公爵の子女は五名おられます。
ベルガモット嬢とマリアンナ嬢、ミシェル嬢とマクシミリアン殿、リデル殿ですが、それぞれの家名や家紋、領地の位置などは覚えておられますかな?」
彼の言葉にアリアはええ、もちろんよ、と言ってすらすらと答えた。
「左様にございます」
バイオレット氏は笑顔でそうです、と褒めた。
「そういえば、マクシミリアン・フェティダも今回がデビューなのね」
アリアは今回、成人する五人の中で、彼に興味を覚えた。
もちろん、公爵令嬢としてではない。
『ラブデ』の攻略対象の一人としてだ。
バイオレット氏はアリアが興味を持った名前に軽く驚いたのを見て、あら、と小さく呟いた。
どうやら、自分が彼に興味を示すとは思わなかったようだった。
「今まで参加したお茶会では聞いたことない名前ですよね?」
そうアリアが尋ねると、そうですなぁ、と頷いた。
「そもそもあちらの領地は王都から少し離れていること、そして、なによりもマクシミリアン殿のお体の方が強くないみたいで、領地の方で安静にされていたとか。
今年のシーズンにはどうやら間に合ったようで、ようやく、だそうで」
バイオレット氏は王宮での指導はすでに行ってはいないが、やはりかなりの情報通で、アリアでさえ知らないことを教えてくれた。
「マクシミリアン・フェティダ、まさか彼と一緒の夜会になるとわねぇ」
講義の後、自室に戻ったアリアは、例のノートを久しぶりに取り出して開いた。
マクシミリアン・フェティダ。
現フェティダ公爵の長男であり、アリアの二つ上の青年(らしい。
実家のフェティダ家はスフォルツァ家と同じように、名門であるものの、あまり権力を持たなかった家であった。
ここ数代の間でもスフォルツァ家とは違って、王族に嫁がせられるような年の釣り合いが取れる娘がおらず、そして、反対に王家から降嫁できるような当主、もしくはその子息もいなかったようだ。
そのうえ、数代前の当主が日和見主義だったため、体よく閑職へ追いやられ、今現在は前世でいう窓際族、という立ち位置のようだった。
奇しくも前世での涼音は、窓際族に追いやられた刑事がバディを組んで事件を解決する、ドラマにハマった時期があり、よく見ていた、という思い出もある。
閑話休題。
ただ、今の当主はスフォルツァ家の先代当主と同じようにどうやら野心を持っているようであり、現在の権力者――フレデリカ・スフォルツァに取り入っている、というのがもっぱらの噂だった。
そんな実家の状況もあったのか、彼はデビューする前までは静かな領地で静養していた、と『ラブデ』の説明書にも確かに書かれていた。
ちなみに彼のルートはこんな内容だった。
デビュタントと同時に、王太子付きの文官となったものの、妹王女であるミスティア王女の降嫁先として挙げられたようで、彼が十五歳、王女が八歳の時に婚約者となるのだ。
しかし、あまりにも幼かった王女は完全にマクシミリアンの範囲外であり、彼女のわがままにも呆れていた時に、たまたま見かけた下級侍女のベアトリーチェに心惹かれていくという話だ。
まあ、七歳も下の婚約者なんて、ディートリヒ国王も難しい事を突き付けるよね。
彼のルートをプレイしていた時に、そう思った。
現実的な意味合い――涼音が社長令嬢であること――をもってしても、その可能性は否めなかったが、現代人からすると、少し年の差が七つ、というのはハードルが高い。
そんな難しさを覚えたものの、涼音は彼のルートでのエンディングにおけるスチル――通称“ほのぼの日向ぼっこ”スチル――は好きだった。
このスチルはクリスティアンのハッピーエンドのスチルと同じくらいには『ラブデ』でのスチルの中で人気が高いものだった。
ちなみに、マクシミリアンのどのルートでも出てくるベアトリーチェが彼を介抱するスチルも覚えていて、よく『ラブデ』仲間と語り合ったものだった。
もちろん、現実問題ではすでに『ラブデ』の世界でのフラグは折り始めていて、根本的な部分であるアリアとベアトリーチェの関係性も良好だ。
だから、既に出会ってしまっているユリウス以外の攻略対象とベアトリーチェが出会ったとしても、中途半端な状態でフラグを立てることや悪役令嬢としてのイベントは起こしたくない。
だからこそ、しばらくは逃げるのが一番の手段だが、そういうわけにもいかない。
ともにデビューとなる攻略対象者の一人、マクシミリアン・フェティダには十分注意しよう、と改めて誓った。
しかし、そのノートを見返していると、肝心なことに気が付いた。
王太子であるクリスティアンはこのシーズンでデビューとなるのだろうか。
彼もまた、アリアやベアトリーチェと同じ十歳だ。
デビューは一体いつなのか、お茶会でも話題に上がっていなかった。
確かアリアとクリスティアンは同時に成人し、同時に婚約発表したんだったっけ。
『ラブデ』内ではそういう設定だ。
しかし、ここまでゲームと違う行動をとればどうなっているかわからない、というのが実情だ。
翌日以降に家庭教師の二人やダンスの講師兼『ラブデ』のサポート役であるクレメンスに聞いたが、本当に知らないのか、彼女の質問に答えることはなかった。
今日は今度の夜会でアリアと同じくデビューする子女についてのおさらいだった。
「アリア嬢と同じ公爵の子女は五名おられます。
ベルガモット嬢とマリアンナ嬢、ミシェル嬢とマクシミリアン殿、リデル殿ですが、それぞれの家名や家紋、領地の位置などは覚えておられますかな?」
彼の言葉にアリアはええ、もちろんよ、と言ってすらすらと答えた。
「左様にございます」
バイオレット氏は笑顔でそうです、と褒めた。
「そういえば、マクシミリアン・フェティダも今回がデビューなのね」
アリアは今回、成人する五人の中で、彼に興味を覚えた。
もちろん、公爵令嬢としてではない。
『ラブデ』の攻略対象の一人としてだ。
バイオレット氏はアリアが興味を持った名前に軽く驚いたのを見て、あら、と小さく呟いた。
どうやら、自分が彼に興味を示すとは思わなかったようだった。
「今まで参加したお茶会では聞いたことない名前ですよね?」
そうアリアが尋ねると、そうですなぁ、と頷いた。
「そもそもあちらの領地は王都から少し離れていること、そして、なによりもマクシミリアン殿のお体の方が強くないみたいで、領地の方で安静にされていたとか。
今年のシーズンにはどうやら間に合ったようで、ようやく、だそうで」
バイオレット氏は王宮での指導はすでに行ってはいないが、やはりかなりの情報通で、アリアでさえ知らないことを教えてくれた。
「マクシミリアン・フェティダ、まさか彼と一緒の夜会になるとわねぇ」
講義の後、自室に戻ったアリアは、例のノートを久しぶりに取り出して開いた。
マクシミリアン・フェティダ。
現フェティダ公爵の長男であり、アリアの二つ上の青年(らしい。
実家のフェティダ家はスフォルツァ家と同じように、名門であるものの、あまり権力を持たなかった家であった。
ここ数代の間でもスフォルツァ家とは違って、王族に嫁がせられるような年の釣り合いが取れる娘がおらず、そして、反対に王家から降嫁できるような当主、もしくはその子息もいなかったようだ。
そのうえ、数代前の当主が日和見主義だったため、体よく閑職へ追いやられ、今現在は前世でいう窓際族、という立ち位置のようだった。
奇しくも前世での涼音は、窓際族に追いやられた刑事がバディを組んで事件を解決する、ドラマにハマった時期があり、よく見ていた、という思い出もある。
閑話休題。
ただ、今の当主はスフォルツァ家の先代当主と同じようにどうやら野心を持っているようであり、現在の権力者――フレデリカ・スフォルツァに取り入っている、というのがもっぱらの噂だった。
そんな実家の状況もあったのか、彼はデビューする前までは静かな領地で静養していた、と『ラブデ』の説明書にも確かに書かれていた。
ちなみに彼のルートはこんな内容だった。
デビュタントと同時に、王太子付きの文官となったものの、妹王女であるミスティア王女の降嫁先として挙げられたようで、彼が十五歳、王女が八歳の時に婚約者となるのだ。
しかし、あまりにも幼かった王女は完全にマクシミリアンの範囲外であり、彼女のわがままにも呆れていた時に、たまたま見かけた下級侍女のベアトリーチェに心惹かれていくという話だ。
まあ、七歳も下の婚約者なんて、ディートリヒ国王も難しい事を突き付けるよね。
彼のルートをプレイしていた時に、そう思った。
現実的な意味合い――涼音が社長令嬢であること――をもってしても、その可能性は否めなかったが、現代人からすると、少し年の差が七つ、というのはハードルが高い。
そんな難しさを覚えたものの、涼音は彼のルートでのエンディングにおけるスチル――通称“ほのぼの日向ぼっこ”スチル――は好きだった。
このスチルはクリスティアンのハッピーエンドのスチルと同じくらいには『ラブデ』でのスチルの中で人気が高いものだった。
ちなみに、マクシミリアンのどのルートでも出てくるベアトリーチェが彼を介抱するスチルも覚えていて、よく『ラブデ』仲間と語り合ったものだった。
もちろん、現実問題ではすでに『ラブデ』の世界でのフラグは折り始めていて、根本的な部分であるアリアとベアトリーチェの関係性も良好だ。
だから、既に出会ってしまっているユリウス以外の攻略対象とベアトリーチェが出会ったとしても、中途半端な状態でフラグを立てることや悪役令嬢としてのイベントは起こしたくない。
だからこそ、しばらくは逃げるのが一番の手段だが、そういうわけにもいかない。
ともにデビューとなる攻略対象者の一人、マクシミリアン・フェティダには十分注意しよう、と改めて誓った。
しかし、そのノートを見返していると、肝心なことに気が付いた。
王太子であるクリスティアンはこのシーズンでデビューとなるのだろうか。
彼もまた、アリアやベアトリーチェと同じ十歳だ。
デビューは一体いつなのか、お茶会でも話題に上がっていなかった。
確かアリアとクリスティアンは同時に成人し、同時に婚約発表したんだったっけ。
『ラブデ』内ではそういう設定だ。
しかし、ここまでゲームと違う行動をとればどうなっているかわからない、というのが実情だ。
翌日以降に家庭教師の二人やダンスの講師兼『ラブデ』のサポート役であるクレメンスに聞いたが、本当に知らないのか、彼女の質問に答えることはなかった。
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