転生したからって、ざまぁされなくてもいいよね!? ~平凡に生きていくために、私は諦めないんだからっ!~

鶯埜 餡

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十歳

鋼の覚悟

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「アリア、それで国王陛下とのお話はどうだった?」

 帰宅後、待ち構えていた母親に捕まった。成人前ならいざ知らず、既に大人と認定されているアリアの行動にいちいち親がついて行くのはおかしいと、エレノアは今日の国王との話し合いには参加しなかったのだ。
 アリアも母親に話さなければならないことがある。
 二人は談話室へ移動し、そこでメイドに温かいものを持ってきてもらい、飲みながら話をすることにした。

「王妃様の下級侍女になるように、と言われました」

 アリアの言葉にエレノアは眉をひそめた。

 そう。本来ならば、公爵令嬢としてはおかしな話だ。
 けれども、これには何かしら裏があると最初からアリアも思っている。

「陛下の話からの推測でしかありませんが、おそらくは王妃殿下からの入れ知恵、もしくは王妃殿下によって私は試されているのではないでしょうか」

 王妃と王太子である長男が暗殺されかけた話は伏せた。しかし、それ以外の部分を話しつつ、アリアは気になっていたことを伝えた。すると、エレノアも確かにそうね、と同意した。


「王家にも以前の私の噂は伝わっているはず。でも、王宮から私たちは締め出しを食らわなかった。それは何故か、という部分を考えると明白です。間違いなくあの人の影響でしょう」
 娘の言葉にそうだわね、と頷くエレノア。

「その私が変わった。ミスティア王女殿下の侍女を含め、今まで参加した茶会に出席していた貴族からも『私が変わった』という噂が殿下の元へ伝わる」

 おそらく私なら、それが本当なのか確かめたくなります。
 アリアはそう言い切った。
 もちろん、王妃自身ではないから、それが本心なのかどうかは分からない。でも、可能性は否定できない。

「それに、国王陛下は何かを思案するように私と話されていました。というか、すでに決定したことに対して、それで本当に良かったのか、というような感じで迷われていると言った方がいいのでしょうか」

 アリアはそこでいったん一息入れた。

「それに私がまだ婚約していないことを挙げ、それを利用する、とも言っていました。それも私には腑に落ちないのです」

 娘の疑問に母親は無言で先を促した。

「貴族社会では一般的と言えるのかわかりませんが、たいていの男性は現物もしくは金銭と引き換えられるものを人に与えようとします。対照的に女性は形に残らないものを人に与えようと思いませんか?」

 アリアは少し前世でのことを思い出していた。涼音には彼氏と呼べる存在がいなかったが、彼女の周りではそのような傾向があったので、なんとなくであったが、言ってみた。
 力説した彼女にエレノアは少し驚いたが、今までの娘の言動を考えて見ると、すぐにこの子だから知っていてもおかしくない、と理解することにした。

「そうね」

 自分に対する母親の気持ちを知らないアリアは、そんな母親の落ち着いた答えに反対に驚いた。だが、それを表面に出すそぶりもなく、続けた。

「なので今回、本来は何か形に残るものを国王陛下は私に渡したかったんだと思います。しかし、どこかで王妃殿下が国王陛下に頼みこみ、王妃付きの下級侍女に任命するという形に残らない報酬になったんだと思うんです」

 アリアの推測にこの時ばかりは少し恐怖を持ってしまった。

「今回の話は私にとっても悪い話ではありませんし、あの女に対していい切り札となると思います」

 エレノアはあからさまに怯えたそぶりを見せなかったが、アリアはわずかな表情の変化には気づいてしまった。だから、少し先の話をすることにした。しかし、母親は少し眉をひそめた。

「そうね、あの女がすぐにぼろを出すとは思わないけれど、いつかの時の切り札――いえ、牽制にはなるわね」

 エレノアはどうやら切り札という言葉に抵抗を感じているようだった。
 確かにアリアが仮に将来、子供ができた時、自分たちを守るために自ら危険な場所に飛び込んでいってほしくはないと願ってしまうだろう。だから、母親の気持ちもよく分かった。

「はい。ですから、何年になるのかは分かりませんし、休暇には戻ってきますが、しばらくの間、王宮に詰めています」

 王宮の侍女は職種や出身爵位問わず、住み込みだ。

 たいていの場合、上級侍女としてあがる者たちは花嫁修業の一環で来るので、短くて数か月、長くても一年しかいない。その間はほとんどの場合、個室が与えられる。一方、下級侍女たちはたいてい一年以上、二、三人の共同生活が待っている。彼女たちは手際が良かったり、何か特技を持っていない限りは下級侍女のままで終わる。実家を継いだり、政略的な結婚の必要性がでたり、貴族に求められることがなければ、一生涯王宮で過ごす、ということもありうる。
 よほどの例外措置が取られない限りはアリアも下級侍女である以上、共同生活を送ることになる。
 誰と一緒になるか分からないが、嫌がらせを受けることだってあるだろう。
 だけども、それは避けては通れない道だ。

 自分が転生者だと知ってから、アリアは全てのことにおいて、逃げ出さずに勉強を続けてきた。そのかいもあって、それまでとは正反対の意味、良い意味で最も貴族らしい娘というあだ名がついているのにも気付いている。

 そして、今回のことについてもマチルダとユリウスを保護して、そこから貴族や騎士団の人脈を引き出すことに成功している。
 しかし、それだけでは今のアリアは不十分だと思っていた。
 前世では多忙な両親にかわって、炊事以外の家事はしていたこともあったが、この世に来てからはそういった類のことを一切していない。

 今回、下級侍女の役割でどこまでこなすことになるのかはわからないが、もしかしたらそういった類のことも必要になってくるかもしれない。

 そう思いながらも王宮に上がる日まで、ずっと公爵家の中で静かに過ごした。
 来年の夜会への出席に向けて必死に勉強しているベアトリーチェともあまり喋らなかったし、リリスやユリウスともほとんど喋らなかった。

 私がいなくなっても、リリスは何もしないよね?

 一応、母親も残るわけなのだが、そこだけが少し心配だった。

 そして、王宮に上がる日がやってきた。
「では行ってまいります」
 アリアは十歳の子供が持つのには少し大きい鞄を持って、王宮へ向かう馬車に乗り込んだ。
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