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3.お日様のハーブティー
それぞれの会議
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ユーゲンビリツ五大公国南部、エルスオング大公国の最大都市、ベルッディナに建つ大公邸。建物は質素なつくりだが、五大公国の中でもっとも古くからある大公邸。その中でも大きい部屋に年齢や服装がバラバラな五人の人間が顔を突きあわせていた。
「さあ、ようやく揃いましたので、始められますね」
少し赤みがかった茶色の髪をした青年が肩を竦めながらそう言う。少年のような幼い顔立ちをしているが、ここに揃っている面子の中で最も大公にふさわしいいでたちをしている。そこには楽しい雰囲気はない。
「――――誰のせいだか」
いかにも軍人っぽい男が青年に悪態をつく。彼の言う事には間違っていない。なぜなら青年が遅れてきたのだから。しかし、この会議は五人のうち、誰か一人でも欠けては成立しない。なぜなら、エルニーニ帝国から百七十二年前に独立したときには、バラバラだった五大公国。
「キミたちは相変わらずだね」
女性らしい声――ではなく、男装をした女性がいがみ合っている二人に呆れる。彼女は唯一の女大公。父親存命時から男子としての教育を施され、この会議に初めて参加した時から、残りの四大公と渡り合えていた。ほかの四か国もそう。各大公国の力だけではかの帝国と相対することができなかった。
「嬢ちゃんも言うねぇ。だぁから、いまだに婿が見つからねぇんだよ」
この中で最年長の男性が女大公を皮肉する。しかし、それを女大公が取り合うこともない。まともに取り合っていては、四大公の思うつぼだ。そして、彼らに利用される。かつての先祖たちも同じだ。彼らはほかの四大公を利用しあうことにしたのだ。
「さて、僕たちがこうやって足を引っ張っている間に帝国が攻めてきたらどうするんだい?」
この国の君主であるものの、なぜか一般人にしか見えない男がほかの四人のやり取りを下らないと一喝する。四人の大公は渋々この国の大公――アンゼリム・エルスオングの方を向く。そう彼らは『協力』をするのではない。互いを『利用』しあうのだ。その互いの足を表立って引っ張り続けるのは得策ではない。五大公国共通の法律を決め、統一された基準で貨幣が流通させるほうが『帝国』に攻められるよりも幾分もましだ。
束の間の平和を確認し、次の一年、束の間の平和を守るためにこの会議が行われる。
「では、これより第百二十八回五大公国会議をはじめようか」
そして、大公邸から少し離れたところでも会議が始まろうとしていた。
比較的豪華な部屋に年齢も性別もバラバラな十五人が円形のテーブルの前に座っている。彼らは共通の白衣と胸元の黄色いアザミのバッジを付けている。
「なんか、今回はエルスオングさんところがよう働いてるようですなぁ。うちんところももう少し働いてもらわんと困りますねぇ」
鮮やかな金髪をもった女性が手元の書類を見ながら、残念そうにつぶやく。すると、近くの席に座っている茶髪の女性がやんわりと否定する。彼女は結局はあなたもでしたか、と小声で呟いた。
「ご冗談を、リュシルさん。本来はこんな『事件』なんてあってほしくはありませんよ」
茶髪の女性――エルスオング大公国調香院長シャルロッタ・マザーグリムの言葉にそやけどねぇ、と不服そうに返すリュシル・メルフォン=グランデル、フレングス大公国の調香院長。名門貴族の出身である彼女は、どうやら成果がモノを言うと信じているようだ。
「まったくだな。『香り』を使われる犯罪なんぞあっては困る」
シャルロッタを挟んでリュシルとは反対側の席に座っている男性はひげを触りながら頷く。
ダミアン・ブジリスキ。
金持ちしか調香師になれないと言われる中、ミュードラ大公国の調香院長は名も無き平民から調香師に成り上がった運の良い男。彼を知らない人間はモグリと呼ばれるくらいほど有名人だ。
「しかし、アイゼル=ワードさんとこは危機管理が甘いようですね」
シャルロッタの真正面から声が上がる。
爽やかな笑みとともに毒づいた青年はミハイル・メルセベス。調香師の家系に生まれ、当時最年少の十三歳の時に調香師になり、カンベルタ大公国国立調香院にそのまま入省した。とんとん拍子に出世し、同じく当時最年少、二十歳で調香院長になった。しばらくはその年齢を更新されないだろうと言われている人物だ。
「……――何も言えないな」
控えめな声でリュシルとダミアンの間から声が聞こえた。でっぷりと太った体格に合わず小声の男、グレゴール・ミルイア=フォン=ヴァーヴェン、アイゼル=ワード大国国立調香院長は苦虫をかんだような顔をした。シャルロッタやダミアンの言葉は間違っていなく、反論しようがない。特にシャルロッタには頭が上がらない。
「さて、はじめましょうか」
シャルロッタの宣言にドーラを含む参加者たちは全員、背筋をすっと伸ばした。
「さあ、ようやく揃いましたので、始められますね」
少し赤みがかった茶色の髪をした青年が肩を竦めながらそう言う。少年のような幼い顔立ちをしているが、ここに揃っている面子の中で最も大公にふさわしいいでたちをしている。そこには楽しい雰囲気はない。
「――――誰のせいだか」
いかにも軍人っぽい男が青年に悪態をつく。彼の言う事には間違っていない。なぜなら青年が遅れてきたのだから。しかし、この会議は五人のうち、誰か一人でも欠けては成立しない。なぜなら、エルニーニ帝国から百七十二年前に独立したときには、バラバラだった五大公国。
「キミたちは相変わらずだね」
女性らしい声――ではなく、男装をした女性がいがみ合っている二人に呆れる。彼女は唯一の女大公。父親存命時から男子としての教育を施され、この会議に初めて参加した時から、残りの四大公と渡り合えていた。ほかの四か国もそう。各大公国の力だけではかの帝国と相対することができなかった。
「嬢ちゃんも言うねぇ。だぁから、いまだに婿が見つからねぇんだよ」
この中で最年長の男性が女大公を皮肉する。しかし、それを女大公が取り合うこともない。まともに取り合っていては、四大公の思うつぼだ。そして、彼らに利用される。かつての先祖たちも同じだ。彼らはほかの四大公を利用しあうことにしたのだ。
「さて、僕たちがこうやって足を引っ張っている間に帝国が攻めてきたらどうするんだい?」
この国の君主であるものの、なぜか一般人にしか見えない男がほかの四人のやり取りを下らないと一喝する。四人の大公は渋々この国の大公――アンゼリム・エルスオングの方を向く。そう彼らは『協力』をするのではない。互いを『利用』しあうのだ。その互いの足を表立って引っ張り続けるのは得策ではない。五大公国共通の法律を決め、統一された基準で貨幣が流通させるほうが『帝国』に攻められるよりも幾分もましだ。
束の間の平和を確認し、次の一年、束の間の平和を守るためにこの会議が行われる。
「では、これより第百二十八回五大公国会議をはじめようか」
そして、大公邸から少し離れたところでも会議が始まろうとしていた。
比較的豪華な部屋に年齢も性別もバラバラな十五人が円形のテーブルの前に座っている。彼らは共通の白衣と胸元の黄色いアザミのバッジを付けている。
「なんか、今回はエルスオングさんところがよう働いてるようですなぁ。うちんところももう少し働いてもらわんと困りますねぇ」
鮮やかな金髪をもった女性が手元の書類を見ながら、残念そうにつぶやく。すると、近くの席に座っている茶髪の女性がやんわりと否定する。彼女は結局はあなたもでしたか、と小声で呟いた。
「ご冗談を、リュシルさん。本来はこんな『事件』なんてあってほしくはありませんよ」
茶髪の女性――エルスオング大公国調香院長シャルロッタ・マザーグリムの言葉にそやけどねぇ、と不服そうに返すリュシル・メルフォン=グランデル、フレングス大公国の調香院長。名門貴族の出身である彼女は、どうやら成果がモノを言うと信じているようだ。
「まったくだな。『香り』を使われる犯罪なんぞあっては困る」
シャルロッタを挟んでリュシルとは反対側の席に座っている男性はひげを触りながら頷く。
ダミアン・ブジリスキ。
金持ちしか調香師になれないと言われる中、ミュードラ大公国の調香院長は名も無き平民から調香師に成り上がった運の良い男。彼を知らない人間はモグリと呼ばれるくらいほど有名人だ。
「しかし、アイゼル=ワードさんとこは危機管理が甘いようですね」
シャルロッタの真正面から声が上がる。
爽やかな笑みとともに毒づいた青年はミハイル・メルセベス。調香師の家系に生まれ、当時最年少の十三歳の時に調香師になり、カンベルタ大公国国立調香院にそのまま入省した。とんとん拍子に出世し、同じく当時最年少、二十歳で調香院長になった。しばらくはその年齢を更新されないだろうと言われている人物だ。
「……――何も言えないな」
控えめな声でリュシルとダミアンの間から声が聞こえた。でっぷりと太った体格に合わず小声の男、グレゴール・ミルイア=フォン=ヴァーヴェン、アイゼル=ワード大国国立調香院長は苦虫をかんだような顔をした。シャルロッタやダミアンの言葉は間違っていなく、反論しようがない。特にシャルロッタには頭が上がらない。
「さて、はじめましょうか」
シャルロッタの宣言にドーラを含む参加者たちは全員、背筋をすっと伸ばした。
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