水鏡に照らされた嘘

鶯埜 餡

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冬霞の章

現在と未来

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 そして、駅についた。
 ここに戻ってくるときには毎回使う駅だが、その時と様子が全く違っていた。
「人が少ないな」
 そう独り言をつぶやくと、優華も頷いた。
「なんか寒く感じるね」
 康太と全く同じ感想を抱いたようだった。

 しばらく二人とも無言でいた。やがて、優華が口を開いた。
「嫌だったらそのままでいいんだけれど」
 突然の優華の言葉に康太はまた何か自分が彼女を傷つけてしまったかと思ってしまった。まだ、康太から目をそらす優華からは、一歩引かれている感覚があったからだ。
「どうした?」
 康太の問いかけに優華は再び迷うそぶりを見せたが、結局、ある願いを口にした。

「――――――もし、よければ、私のことを優華って呼んでほしいな、昔みたいに。あ、あと、時々連絡してもいい?」

 思ってもいない言葉だった。
「もちろんだよ、優華」
 彼は迷いなくそう答えることができた。
 やがて、時間が迫っていることに気付いた彼女は出発した。彼も別の改札口からホームに降りて、来た電車に飛び乗った。
 アパートに戻り、明日の準備を済ませて窓から見た空は澄んでいて、そこには今まで最も綺麗な満月が浮かんでいた。ちょうどその時、彼のスマホが鳴った。ディスプレイには見たことのない電話番号だったが、なぜか彼には彼女以外からの電話ではない、という自信があった。通話モードにすると、案の定、彼女の声が聞こえた。
 彼女はホッとしていたし、康太もその声を聴いてホッとした。
 康太はその電話で優華に告白した。
 たったの数時間で彼女が了承してくれるか分からなかったが、言うだけ言ってみた。すると、すぐに了承してくれた。

「ありがとう」

 彼女には感謝しかなかった。
 こんな自分を好きだと言ってくれて。




 しばらくして、優華の親戚の家に挨拶回りに行った。当人である優華自身は了承しても他の人は反対するのではないかと、覚悟していたが、全く杞憂だった。さすがに梓さんからは『人の気持ちを弄ぶんじゃない』と、踏み潰されそうだったが、彼女の子供にまた命を救われた。その後、康太の親戚にも挨拶回りをして、優華と婚約者として交際できるようになった。


 やがて、季節は一巡りして、優華と再会して二回目の春になった。今日は下宿先のアパートを引き払い、優華とともに婚姻届を出しに行く予定だ。
 あの再開劇の後も、彼女には様々な迷惑をかけた。
 だが、今回は彼女も自分も強くなっていたおかげで、自分たちはここまで来ることができたと思っている。
 優華と待ち合わせた時間よりも少し遅れてしまっていたので、駆け足で階段を上がる。階段を上がりきると、彼女の姿が見えた。自然と、微笑んでしまった。彼女も微笑んでくれた。
 彼女が駆け寄ってきたので、力強く彼女を抱きとめた。
「お待たせ」
 優華の耳元で囁くと、くすぐったそうにした。

「行こうか」
 そう言って、手をつなぐと、はにかみながら頷いてくれた。
「うん、一緒に行こう」
 繋いだ手にはお揃いの指輪が煌めいていた。
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