【サクッと読める】2ch名作スレまとめ

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魔王「なに!?勇者がまだ“ハジマリの村“にいるだと!?」

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~魔王城~

魔王「なに!?勇者がまだ”ハジマリの村“にいるだと!?」

側近「はい。報告によるとそのようです」 

魔王「なぜだ!?なぜ勇者はまだそのような場所にいる!?」 

側近「魔王様、落ち着いて下さい」 

魔王「落ち着いていられるか!」

魔王「勇者が旅に出てもう10年が経つ!なのにどうして勇者はまだハジマリの村にいるのだ!!」 

側近「ハジマリの村は魔界からも距離が遠く、比較的平和な村と聞きます」 

側近「勇者はそこが気に入り、魔王退治とかどうでもよくなったんじゃないですか?」

魔王「そんな勇者がこの世にいる訳ないだろ!!」 

魔王「勇者が来ないせいで財務大臣から文句が出てる!」 

魔王「城の至る所に隠した宝箱の中身を、使用期限が切れない様に入れ替える費用とか、配備した魔物の人件費が無駄だと!」 

側近「じゃあ宝箱の設置も魔物の配備もやめにしましょう。勇者はきっと来ませんよ」 

側近「勇者が来なければ来なくてもいいじゃないですか?」 

魔王「それはならぬ。人間界を侵略する為には勇者を倒す必要がある」 

側近「しかし、勇者が来ないならばどうしようも……」 

魔王「閃いた!」 

側近(嫌な予感…) 

側近「何でしょうか?」 

魔王「我輩自ら勇者を説得してくる」ゴゴゴ… 

側近「え?ちょっと待って下さい!魔王様!」 

魔王「期待して待っておれ!」ヒュンッ 

側近「あ」 

側近「行ってしまわれた…」 




















~ハジマリの村~

魔王「ふむ、ここがハジマリの村か」

魔王「側近から聞いた通り、平和な村だな」 

魔王「お!何か良い匂いがする……」 

魔王「露店か…。名物『魔牛串』」 

店員「おひとついかがですかー?」 

魔王「………」ゴクリ… 









魔王「うむ、美味である」 

魔王「側近はこういう物も食べさせてくれないからな。こうやって買い食いするのもたまにはいいな」モグモグ 


「きゃーーー!!」 


「出たぞー!!魔牛だー!!」 



魔牛「モオオオオオオオオオオオ!」



魔王(大きくて丸々太った魔牛達だなぁ) 

魔王(あれ?もしかしてこっちに向かってきてる?) 



村人A「そこのお前!逃げろー!」 


村人B「危ないぞー!!」 



ドドドドドドドドッ!! 



魔王(しかし、たかが魔牛だ。何匹いようがこの魔王にかなう訳がない) 


ザシュ! 


??「よっと、危なかったね?」ニコッ 

魔王「そなたは誰だ…?」 

魔王(あれだけ居た魔牛の群れを一掃するなんて) 

??「俺?俺は……」 










勇者「”勇者“だよ」 










~酒場~

勇者「どうした?遠慮しないで飲んでよ。俺の奢りだし」 

魔王「そなた、本当に勇者なのか?」 

勇者「そうなんだよ。自分でも似合わないと思うけど、勇者なんだよね」 

魔王「そうか…。ところで、そなたのレベルが凄い事になっているが……。どうして魔王を倒しに行かないのだ?」 

勇者「うーん。ちょっと色々訳があってね」 

魔王「訳とは?」 

勇者「うーん…」ジロジロ 

魔王「な、なんだ?」 

勇者「君に言ってもどうしようもないし」 

魔王「どうしようもないって…」ムカッ 

魔王「言ってみなきゃ分かんないだろうが!」 

勇者「うーん…。でも、君弱そうだし…」 

魔王「」ブチッ 

魔王「この魔王に向かって弱そうとは何事か!!」 

魔王「……!!」

魔王(はっ!しまった!) 

魔王(つい勢いで名乗ってしまったではないか!) 

勇者「」プルプル 

魔王(くそ!まさかハジマリの村で対勇者戦になるとは!) 

勇者「ぶっ…あっはははははっ!」 

魔王「!?」 


ゲラゲラゲラゲラ 


魔王(なんだ?他の奴らも笑って…) 

勇者「あははははっ!げほっごほっ…」

勇者「何言ってるの君?見かけによらず変な冗談言うね」 

魔王「なっ」 

魔王「冗談じゃない!私は本当に魔王なんだ!」 

勇者「あははは、うん、分かった分かった。いいよ、魔王でも」 

魔王「だから本当だって!」 

勇者「まあ魔王なら強いし頼りになるかな?それじゃあ話すよ」 

勇者「今から10年前、俺は勇者に任命されたんだ。で、すぐにこのハジマリの村に来た」 

勇者「そしてそこでこの村の人達が時々村で暴れまわる魔牛に困っていたんだ」 

勇者「そこで俺は魔牛を倒した。でもいくら倒しても倒しても魔牛が湧いて出てくるんだ」 

魔王「……それで?」 

勇者「出てくる魔牛を倒し続けて今に至る」 

魔王「………」

魔王「それだけ?」 

勇者「それだけ。いつの間にか他の仲間も帰っちゃって…」 

勇者「俺も最近、故郷のママから手紙が来てさ。『魔王を倒す気ないなら帰っていらっしゃい』って」 

魔王「………」

魔王「お前は誰だ?」 

勇者「え?だから勇者って──」

魔王「勇者の仕事は村の警備か何かなのか!?」 

勇者「!」ビクッ 

魔王「魔牛は魔界から流れてくる魔力に影響を受けた牛だ」 

魔王「貴様が魔王を倒しに行かずにのんきに魔牛退治ばかりしているから、魔族は領土を広げこのハジマリの村にも影響が出ているんだ」 

勇者「………」 

魔王「勇者の仕事は魔王を倒す事だ。そうだろう?」 

勇者「たしかに……」

魔王(決まった!これで勇者がちゃんと魔王退治の旅に出てくれるぞ!) 

勇者「だけど、ここを離れたら誰が村の人を守るんだ?」 

魔王「ええい!勇者がそんな小さな事を気にするな!」 

勇者「小さな事なんかじゃない!この村の人は良い人で、勇者らしくない俺にも呆れないでいてくれた」 

魔王(何だこいつ?勇者の癖に面倒くさい奴だな) 

魔王「要するに、この村が魔牛に襲われなければよいのだな?」 

勇者「?」 

魔王「………」

勇者「何をしている?」 

魔王「結界を張っている」 

魔王「魔牛が入れないようにする」 

勇者「!」 

魔王「村長よ、名物は無くなるかもしれないが、よいな?」 

村長「大丈夫です。必要とあれば我らも魔牛を狩りましょう」 

村長「思えば、我々は勇者様に甘えてきました。勇者様には魔王を倒すという目的があったというのに」 

勇者「いいえ。甘えていたのは俺の方です」 

勇者「皆さんの優しさに甘えて、勇者としての自分から目をそらしていました」 

村長「その…魔王さん?というお名前でいいのでしょうか?」 

魔王「うむ、そうだと言っているだろう」 

村長「あなたの酒場での演説、皆心に染みました。勇者様は我々だけの勇者様ではないと」 

村長「さぞ名の知れた賢者様と存じます。本当にありがとうございました」 

魔王「だから魔王だって言っているだろう!」 

勇者「俺からもお礼を言うよ。魔王、本当にありがとう」 

魔王「……まあ、いいけど」 

魔王「これで旅を始められるんだろう?」 

勇者「うん、今すぐにでも。今までの遅れを取り戻したいし」 

魔王「そうか」 

魔王(よっし!計画通り!) 

魔王「じゃあ、我輩はこれで──」


ガシッ 


魔王「?」 

勇者「魔王、頼みがある」 

魔王「どうした勇者よ?」 

勇者「“俺とパーティを組んでくれ”」 

魔王「!!」 

勇者「頼む」 

魔王「断る」 

魔王(だって魔王だし) 

勇者「前のパーティメンバーは俺に呆れて帰ってしまった」 

魔王「じゃあまた集めればいいだろ。てか手を放せよ」ギリギリ 

魔王(この馬鹿力!) 

勇者「君を弱そうだと言った事は謝る。どうしても君に随行願いたい」 

魔王「………」

魔王(今思うとこの勇者、お人好しそうだし同じ事を繰り返しそうだな) 

魔王(いっそ申し出を受けて、ちゃんと魔界に行くまで監視した方がいいのか?) 

魔王「……はぁ」

魔王「わかった、いいぞ」 

勇者「いいのか?!」 

村長「良かったですね。勇者様」 

魔王「で、どこへ向かう予定なのだ?」 

勇者「マヨイの森だよ」 

魔王「マヨイの森?」 

村長「マヨイの森とはその名の通り、とても入り組んだ森です」 

魔王「そこを抜けるにはどのくらいかかる?」 

村長「魔物も出ますし、そうですね……。一週間、長ければ二週間近くはかかります」 

魔王「二週間!?」 

勇者「まぁそのくらいは──」

魔王「勇者」 

勇者「ん?何だ?」 

魔王「我輩をどうしても連れて行きたいと言うなら、今すぐ出発だ」 

勇者「え?」 

魔王(やる気がある内に早く進まなければ…) 




















勇者「マヨイの森ということだけあってかなり迷ったが、魔物自体は大した事なかったな」 

魔王「それは勇者がレベル100もあるからだろ…」 

勇者「魔王も十分強いよ」 

魔王(何か上から目線……ムカつくな) 

魔王「ところで勇者。そなたは何故素手で戦ってるんだ?」 

勇者「武器はすぐに壊れるんだよ。殴ったり切ったりするごとに壊れるから不経済だろ?」 

魔王「いや、もっと良い武器買えよ。この町ならもっと良い武器売ってると思うぞ」 

勇者「うーん。でも疲れたし、服も汚れたし…」 

勇者「一回、宿屋に行って風呂に入りたい」

魔王「いや、まず武器を買え」 

勇者「でも疲れてるんだ。明日買う」 

魔王「駄目だ。そなたみたいな奴は、明日になったらまた明後日。明後日になったらまた明々後日って言うんだろ!」 

勇者「な!」ムカッ 

勇者「決め付けだよ!」 

魔王「図星だろ」 

勇者「違う」 

魔王「武器屋に行こう。他の装備も揃えるぞ」 

勇者「でも休む事も重要だ。ノーダメージと言っても二日も森の中を歩いていたんだ」 

魔王「武器屋」 

勇者「宿屋」 


……ぐぅぅぅ 


勇者「魔王、お腹減った?」 

魔王(我輩の腹ながら、何て空気の読めない奴だ…)/// 

勇者「じゃあ、宿屋に行こうか」 










~宿屋~

宿屋の主人「いらっしゃいませー」

宿屋の主人「って、もしや貴方様は勇者様で!?」 

勇者「いかにも。俺は勇者だが?」 

主人「ほ、本物で?」 

勇者「本物だよ」 

主人「うわあああん!良かったー!」 

主人「王から宿屋を営めと命を受け、苦節10年にしてようやく勇者様がいらっしゃった!」 

勇者「あの…」 

主人「そこのアルバイト!今すぐ例のあの部屋を準備しろ!勇者様がいらっしゃって下されたんだ!」 

主人「ああ、本当に感激しております。ハジマリの村から出ないと聞いておりましたが、今回はどうして旅を再開されたのでしょうか?」 

勇者「この者のおかげだ」 

魔王「!」 

主人「こちらのお方のおかげですか?」 

勇者「ああ」

主人「本当にありがとうございます!なんとお礼を言っていいか…うぅぅ」 

魔王「大の男の癖に泣くでない。それにお前が感謝する事ではない。勇者が魔王城に来なければ我輩が困るのだ」 

魔王「我輩は魔王なのだからな」キリッ 

主人「ぷっ…あっははははははは!!なんとご冗談もお上手なのですね!」 

魔王「冗談ではない!!」ムカッ 










~部屋~

魔王「おお…」 

勇者「おお…」 

魔王「たかだか小さな町の宿屋の部屋だと侮っていたが、人間界の村の宿とは皆このような部屋なのか…」 

勇者「いや、これは……」

勇者「王都の最高級宿と同等かそれ以上の部屋だよ」 

魔王(よっぽどここの宿屋の主人は、勇者を待ちわびていたのだな…) 

魔王(その気持ち、我輩にも痛いくらい分かる) 

魔王「しかし…」 

魔王「もしかして同室か?」 

勇者「そのようだね」 

魔王「………」 

勇者「何だよその顔は?」 

勇者「心配しなくても大丈夫だよ。俺は子供には興味ないから」 

魔王「違う!誰が子供だ!誰が!」 

勇者「あはは、いいから先にお風呂に入りなよ。俺は後でいいから」 

勇者「あ、一応言っとくけど、覗かないから」 

魔王「その軽口を今すぐ止めねば、舌を切り落とすぞ!」ギリッ 










~風呂~

魔王「うわ…広い。我輩専用の風呂より広いな…」 

魔王「しかも貸切か」 


カラカラ… 


魔王(戸の開く音?) 

宿屋の娘「失礼いたします」 

宿屋の娘「私はこの宿屋の主人の娘です。勇者様のお背中を流しに参上いたしました」 

宿屋の娘「あれ?勇者様ではない?」 

魔王「勇者は後で入ると言っていたぞ。それにお前はそんな事をする必要はない」 

魔王「父親に言われたからって、うら若き娘が裸の男の前に出てくるべきではない」 

宿娘「まあ…うふふ、違いますよ。私からお父さんに申し出たのです」 

宿娘「私が小さい頃からお父さんはいつか来る勇者様の為に、この宿を改装してきました」 

宿娘「勇者様がこの宿に来るのを楽しみにしていたのは、何もお父さんだけじゃないんです」 

宿娘「私だって楽しみにしていました。だからこそ、勇者様ご一行にお持て成しをしたかったのです」 

魔王「そ、そうか。しかし勇者は大して疲れている訳でもないし、背を流すのはやめた方がよいぞ?」 

宿娘「ふふ、あなたは凄いですね。とてもしっかりしています」 

宿娘「流石その年で勇者様のお共なるだけはありますね」 

魔王「?」 

魔王(その年?) 

魔王「娘よ。我輩はいくつに見える?」 

宿娘「まあクイズ?」 

魔王「そ、そんなところだ」 

宿娘「そうですね……」










宿娘「“10歳”ぐらいですかね?」 










~翌朝~

勇者「」モグモグ 

魔王「」モグモグ 

勇者「なぁ魔王、昨夜から元気がないようだけど何かあったか?」 

魔王「そなたには関係ない」キッパリ 

勇者「そ、そうか…」 

魔王「」モグモグ

勇者「………」

勇者「あのな、魔王。俺はこれから武器を見てこようと思うんだが君もどうだ?」 

魔王「遠慮する」 

勇者(やはり様子がおかしい…) 

勇者「じゃあ、何か欲しい物とかある?ついでに買ってくるけど」 

魔王「別に」 

勇者「じゃあ、して欲しい事とかあるか?」 

魔王「何でもよいのか?」 

勇者「もちろん」 

魔王「そうか…」

魔王「なら、日が沈むまで戻って来るな」 










魔王「うむ、勇者は行ったか。よしっ」 

魔王「あー…マイクテストマイクテスト…聞こえるか?見えるか?側近よ」 


側近『………はい!聞こえます!』


側近『良かった。ようやく連絡がとれ──』


側近『え!?』 


魔王「………」 


側近『どうしたんですか?随分可愛らしくおなりなりましたね…』 


魔王「どうしてかは我輩が知りたい」 










側近『はぁ…。それで勇者をハジマリの村から連れ出して、昨夜、自分が縮んでいると知ったと』 


側近(どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう…) 


魔王「これはどうすれば戻るんだ?これでは勇者が魔王城に着いてもまともに戦えないではないか?」
 

側近『そうですね……。もしや魔力も弱っておいでで?』 


魔王「……どうすればよい?」 


側近『ハジマリの村と魔界では物理的にも世界的にも遠すぎます。通常移動は不可能です』


側近『そこを魔王様は無理に移動なされた。その所為で一時的に縮んでしまわれたのかと』


魔王「そうか…」 


魔王「そんな予想が出来たんなら、どうしてあの時止めなかった!そなたは我輩の側近だろう!」 


側近『止めたのに聞かなかったのは魔王様でしょう?』


魔王「まあとにかく、時間が経てば戻るんだな?」 


側近『おそらくその通りだと』


側近『それと、魔界に近付けばその分戻りも早いと思われます』


魔王「そうか!なら良い!勇者を連れて魔界に向かえば一石二鳥じゃな!」 

側近「え?」 

側近「最後まで案内なされるおつもりで?」 

魔王「当たり前だろ。勇者は我輩以上のものぐさな男だ」 

魔王「しっかり勇者の役目を果たすよう監視しなければ」 

側近「………分かりました。では、我々は魔王様のお帰りをお待ちし、勇者戦に向けて準備を整えます」 

魔王「うむ。では留守を頼むぞ、側近」 










~夕方~

勇者(魔王、なんだか元気がないようだったけど……。風呂に入る前にからかいすぎたか…?) 

勇者(魔王は早く俺を魔王城に行かせたいらしいし、町で聞いた魔王を倒す為の情報を知れば少しは機嫌がよくなるかな?) 


ガチャ 


勇者「魔王っ!町で魔王についての情報を聞いてんだ!」 

魔王「ん?どんな?」 

勇者(あれ?何か機嫌が直ってる…) 

魔王「どんな情報だ?」 

勇者「いや、隣国に勇者の剣があるという噂なんだが…」 

魔王「うむ、分かった。明朝、出かけようぞ」 

勇者「!」 

勇者「今直ぐ出発とは言わないのか?」 

魔王「馬鹿なことを言うな。夜はしっかり寝なければ疲れも癒えないのだぞ」 

魔王(体を癒して、魔翌力の回復をし、我輩は元の姿に戻るのだ!) 

勇者(昨日と何か言ってる事が違うぞ…) 

勇者(まあ、俺も今日は歩きまわって疲れたし、その方が良いけど) 

勇者「分かった。では明日出発しよう」 




















~隣国関所~

勇者「はい、通行手形」 

兵士A「……!!」

兵士A「まさか……貴方様が勇者様!?」 

兵士B「え?本物で?あの10年間ハジマリの村に引き籠っていたという噂の、あの勇者様!?」 

勇者(何か、凄く馬鹿にされている気分だ) 

勇者「で?通っていいの?」 

兵士A「は!どうぞお通り下さい!勇者様とお供の方も!」 

魔王(誰がお供だ…)ムカッ 



??「キャンっ!」 

兵士A&B「!?」 

兵士A「今の鳴き声…勇者様?」 

勇者「なに?」 

兵士B「その袋の中身は何ですか?」 

勇者「何でもないよ」 

兵士A「あ!あれはなんだ!」 

勇者「え!?」 


どさっ 


子犬「キャウン!」 

勇者「あ!大丈夫か?」 

兵士A「勇者様、こちらの注意書きはお読みになられたでしょうか?」 

兵士B「我が国では犬の入国は禁止されております」 

勇者「そこを何とか…」 

兵士A「駄目です、これは法律です。犬をこの国に持ち込んでは誰であろうと死刑になります」 

兵士B「それは勇者様、あなたであっても例外ではありません」 

勇者「昔はそんな法律なかった」 

兵士A「昔はそうでしたが、今は違います」 

兵士A「それからこの門には高度な魔法がかかっています」 

兵士B「隠しても直ぐに門が犬をはじき出しますからね」 

勇者「……分かった」 










~隣国の外~

魔王「だから言っただろう。そんな犬、捨ててしまえ」 

勇者「そんな事できるか!まだ子犬なんだぞ?大きな獣に食べられてしまうかもしれない。餌がなくて野垂れ死んでしまうかもれない…」 

魔王(また始まった…) 

勇者「魔王も可哀そうだと思うだろう?」 

魔王「思わんな」キッパリ 

勇者「な!」 

勇者「この冷血人間め!」 

魔王「勇者が甘ったるいだけだ。いいか?弱い物は淘汰されるのは自然の摂理だ」 

勇者「でも俺達は今、この犬を救う事が出来る。出来るのに置いてなんていけない」 

勇者「この国での用事を終えたら、次の国で飼い主を捜すから」 

魔王「はぁ…」 

魔王「分かった」 

勇者「え?」 

魔王「方法はある」 










~隣国関所~

兵士A「今度は犬を連れて来ませんでしたよね?」 

勇者「もちろん」 

兵士B「隠しても魔法がかかっているので直ぐ分かるんですからね?」 

勇者「分かってる」 

勇者「……あ!!」 

勇者「あれはなんだっ!?」 

兵士A&B「え!?」 

兵士A「………何もないじゃないですか」 

勇者「ははっ、さっきのお返しだよ」 

兵士A「勇者様って子供っぽいんですね」 

勇者「ん?何か言ったか?」 

兵士B「いいえ、何も。ではお供の方も一緒にお通り下さい」 










~隣国 町内~

魔王「随分と賑やかな国だな。いつもこうなのか?」 

勇者「いや、栄えているとは聞いていたが、これではまるでお祭りだ。きっと何かあるのだろう」 

勇者「それより……」 

魔王「?」 

勇者「驚いたよ。君の言う通り注意を逸らしたけど、犬を隠したまま通れた」 

勇者「一体どうやったんだ?」 

魔王「関所の壁に魔法陣があったのは分かったか?」 

勇者「ああ」 

魔王「それに細工をしてやったんだ。これでもうあんな魔法陣は無効だ」 

魔王「どんな強力な魔法であっても、その元を絶ってしまえば簡単に無効化出来る」 

勇者「魔王は本当に物知りだな。さすが賢者という事だけある」 

魔王「だから我輩は魔王だ!」 





勇者「じゃあ早速、王城へ向かうか」 

魔王「そして王から“勇者の剣”を貰うんだな?」 

勇者「そうだ。王様から俺が真の勇者と認められたら、剣を頂けるらしい」 

魔王「そこが一番心配だがな」 

勇者「え?」 

魔王「魔王の我輩が言うのも何だが、そなたには勇者としての自覚が足らなすぎる」 

魔王「ハジマリの村の村人やその犬の事だって、そなたは小さな事に囚われている」 

勇者「そんな事言われたって……あ!」 

魔王「なんだ?」 

勇者「犬がいない!さっきまで袋の中で動いていたのに!」 

魔王「………穴が開いてる。恐らくここから逃げたのだろう」 

勇者「探さなきゃ!こんな国に一匹でいては殺されて──」

魔王「勇者!!」

勇者「!!」

魔王「我輩がさっき言った事をもう忘れたか?」 

勇者「しかし……」 

魔王「この国は法律で、誰であろうが犬を入れてはいけない事になっている。そなたが犬を入国させた事がバレたら、この国の王は何と思う?」 

勇者「………」 

魔王「仕方ないんだ。この国の外にいようが中にいようが、どうせあの犬は死ぬ運命にあったんだ」 

魔王「このまま城へ向かうぞ」 










~謁見の間~

勇者「お久しぶりです。王女様」 

王女「………」 

大臣「よくぞ参ったと、王女様はおっしゃっています」 

勇者「え?ああ、そうですか…。えっと、貴方は?」 

大臣「私はこの国の大臣です。王が不在の今、王に代わりこの国を治める王女様の補佐をしております」 

勇者「王様が不在?一体どうして?」 

大臣「それは貴方の所為ですよ。勇者殿」 

大臣「貴方がいつまで経っても勇者の剣を取りに来ないから、王は魔族との戦争の前線に立ち、直々に指揮を取っておいでです」 

大臣「あと数年は遠征から戻られそうにありませんから、勇者の剣はお渡しできません」 

勇者「そんな…」 

魔王「おい、王女」 

大臣「何だお前っ!!王女様に向かって馴れ馴れしい口をきいてっ!!」 

魔王「王女、そなたは王の代理であろう?なら、そなたが勇者を真の勇者と認めて剣を授けてくれんか?」 

魔王「話を聞くに、そなたと勇者は知り合いなのであろう?」 

大臣「ええい!勇者殿のお供と言えども、それ以上の無礼な口の聞き方は許さぬぞ!」 

王女「………」 

魔王「我輩は貴様になんぞ聞いておらん!王女に言っておるのだ!」ムッ 

魔王「少しは黙ってろ!ハゲ!」 

大臣「なっ!」 

大臣「勇者殿!供の者はもっと慎重に選んでいただかなければ!」ワナワナッ 

勇者「王女様、無礼を承知で申し上げます。俺との約束を覚えていらっしゃいますか?」 

大臣「勇者殿!ですからっ!」 

勇者「王様は魔王を倒した者の願いを何でも叶えて下さるとおっしゃった」 

勇者「幼い頃、俺が魔王を倒したら、俺は王女様と結婚してこの国の王になると願っても良いとおっしゃいましたね?」

大臣「勇者殿!王女様に対して何と言う事をおっしゃるのですか!」 

王女「………」 

大臣「くっ…」 

大臣「勇者御一行がお帰りだ!城外まで皆でお見送りを致せ!」 

兵士達「は!」 

勇者「なんだ君達…」 

魔王「無礼者!放せ!」 

勇者「王女様!どうして一言も口をきいて下さらないんですか?!」 

王女「………」 

大臣「勇者殿、王女様は緊張しておられるんです」 

大臣「何と言っても明日は──」





大臣「王女様の“結婚式”でいらっしゃいますから」ニヤリ 

勇者「!?」 

大臣「ぷぷっ、振られてしまわれましたね。勇者殿」 




















~宿屋~

魔王「何なんだ!あの王女も大臣も!」 

勇者(おかしい) 

勇者(王女と最後に会ったのは10年以上も前だが、いくら緊張していたってあそこで何か反応はあるはずだ) 

勇者「魔王」 

魔王「なんだ?」 

勇者「俺、もう一度王女と話してみる」 

魔王「正気か?」 

勇者「確かめたい事があるんだ」 

魔王「無駄だ。あの女の態度を見ただろ?いくらそなたが気にかけたって望みはなしだぞ」 

勇者「違う。昔見た時と随分印象が違う」 

魔王「……つまり、何かあるんじゃないかって?」 

勇者「ああ」 

魔王「分かった。でも明日は王女の結婚式だし、恐らく門前払いを食うぞ」 

勇者「そんな事は承知だよ」ニコッ 

魔王「………」 




















~城の門前~

兵士C「ふああ…眠い」 

兵士D「おい、欠伸なんかしてるところ見られたら減給じゃ済まないぞ!」 

兵士C「あー……王様がいなくなってから色々やり辛くなったな」 

兵士D「バカ!誰が聞いてるか分からないんだぞ!」 

兵士C「でもさぁ、本当の事じゃん…」 

兵士C「今回の王女様の結婚も、大臣が裏で糸を引いてるって噂だぜ?」 

勇者「ほう?詳しく聞かせて貰えないかな?」 

兵士C&D「!」ビクッ 

兵士D「誰か…ぐはっ」 

勇者「君はちょっと眠っていてくれ」 

兵士C「!」ガタガタッ 

勇者「さて、邪魔者は消えたし、王女様と大臣の話を聞かせて貰おうか?いいよね?」 

兵士C「はっはい!」 

魔王(こやつ、勇者の癖にめちゃくちゃ怖いな…) 

勇者「まず大臣が王女様の結婚の糸を引いているという話だが、どういう事だ?」 

兵士C「はい…実は王女様の結婚相手は大臣の息子なんです」 

勇者「!」 

兵士C「王様が遠征に行かれてから王女様が代理を務めている……というのは名ばかりで、実際は大臣が国を仕切っています」 

兵士C「その頃から王女様は以前とは違ってとても無口になられました」 

勇者「……そうか。どう思う?魔王」 

魔王「どうもこうも、明らかに大臣が怪しいだろうな」 

兵士C「ええ!そうなんですよ!」 

兵士C「大臣が実権を握ってから我々兵士の給料は減って、ちょっとした事でもすぐに減給だ!」 

兵士C「カカアにも安月給とどやされるし何もかもが大臣の所為…ぐはっ」 

勇者「よし。行こうか」 










魔王「なあ、勇者…」コソッ 

勇者「なんだ?」コソッ 

魔王「そなた、王女の部屋を知っているのか?」 

勇者「ああ」

勇者「昔、城に招かれた事があってさ」

魔王「ほう?それはどうして?」

勇者「実はさ、俺の祖父も勇者だったんだよ」 

魔王「え?」 

勇者「でも魔界に足を踏み入れてからそれっきり。多分、祖父達は殺されてしまったんだろうね」 

勇者「勇者の孫っていうのもあって、俺は城に招かれた」 

勇者「そこでよく幼い王女の遊びお相手をさせられたよ」










勇者「ここが王女の部屋だ」 

魔王「何だか、あっさりここまで来てしまったな」 

魔王「罠の可能性もあるが」 

勇者「あの兵士の話じゃ、特に変わった命令は出ていないようだったし、大丈夫だろう」
 

カチャ 


勇者「開いた…」 



~王女の部屋~

王女「」ス-

魔王「寝てるな…」 

勇者「王女様、起きて下さい。王女様」 

王女「……?」パチリ 

魔王「あ、起きた」 

王女「!!」 

勇者「寝所に忍び込んだ無礼をお許しください。俺はどうしても貴方と話が──」

勇者「え?うわっ!?」 


がばっ 


王女「ちゅっちゅっ♪」 

勇者「!?」/// 

魔王「なっ!?」/// 

勇者「おおおおお王女様!おやめ下さい!」/// 

王女「ペロペロ♪」 

魔王「このっ!勇者から離れろ!アバズレがあ!!」ゲシッ! 

王女「キャウン!?」 

勇者「キャウン?」 

魔王「キャウン?」 

魔王「まさか!」 

王女「クーン?」 


ぶちりっ 


勇者「魔王!王女様のお召し物に何を!?」 

魔王「やはり……この女、王女ではないぞ」 

勇者「え?」 

魔王「獣の臭いがする」クンクン 

魔王「おそらく、この王女は何か獣と姿を入れ替えられたのだろう」 

魔王「操り人形にする為に…」 

王女「ワン!ワンワンワンワオーン!!」 

勇者「王女様っ!ちょっと静かに…」 


どどどどどどどどど… 


大臣「王女様!いかがなさいましたか!?」 

大臣「王女様の上着が肌蹴て…!?」 

大臣「ええい!勇者ともあろう方が王女に向かって暴行とは何事であろうか!」 

大臣「ささっ王女様。こちらにいらっしゃい」 

王女「キャンキャン♪」 

大臣「よしよし、怖かったですね?」 

魔王「大臣よ。よくそんな事が言えるな」 

勇者「本物の王女様はどこだ!」 

大臣「ふん。何の事やら?」 

勇者「とぼけるな!」 

兵士「大臣様、いかがなさいましたか?」

大臣「兵士達よ!勇者とクソガキを地下牢へぶち込んでおけ!」 

兵士「え?」

大臣「これは命令だ!」

兵士「は、はっ!」

勇者「くっ放せ!」 

魔王「勇者!止めろ!抵抗するな!」 










~地下牢~

勇者「………」 

魔王「本当に抵抗しなかったな」 

勇者「魔王が抵抗するなと言ったからだろう。おかげで服がボロボロだ」 

魔王「すまん」 

勇者「謝罪なんてよしてくれ。仮に逃げたとしたら、もう一度忍び込むのは大変だしな」 

勇者「それに、魔王には何か考えがあるんだろう?」 

魔王「ああ。但しもう一度、王女の傍に行く必要がある」 

勇者「分かった」 


ぐにゃり 


勇者「すごいな……。その体つきで鉄格子を曲げるなんてどんでもない力だ……」

魔王「なに、ただ魔力を手に宿しただけだ」


カシャン 


魔王&勇者「ん?」 

子犬「」ガタガタガタ 

魔王「あの時の犬!」 

勇者「それ…もしかして牢屋の鍵?助けに来てくれたのか?!」タタッ 

魔王「まさか恩返しに来るとはな」










勇者「思ったより兵士が少ないな」 

魔王「王女をどこか別の場所に隠して、そこの警備を固めているのかもな」 

勇者「このままでは王女が大臣の息子と結婚させられてしまう…」 

子犬「ワン!」 

勇者「何だ?君も王女が心配なのか?」 

魔王「なるほど…」 

魔王「犬よ。そなたは王女の居場所を知っているのか?」 

子犬「ワン!」 

勇者「なに?本当か?」 

魔王「行け、犬」 

子犬「ワン」トコトコ… 










勇者「ここか」 

魔王「教会か。そのまま朝になったら結婚式でもあげるつもりか?」 

勇者「そんな事はさせない」スゥ… 


ドカン!ガラガラガラ! 


大臣「何だ!?くそ!またお前達か!」 

勇者「王女様を返して貰う!」 

子犬「ウゥー…ワンワンッ!」 

大臣「なぜその犬が!?」 

大臣「くそっ!兵士ども!こいつらを皆殺しにしろ!」 

兵士「しかし、相手は勇者様ですが──」

大臣「ええい!私の命令がきけないと言うのか!」 

大臣「貴様も貴様の家族も全員縛り首にするぞ!」

兵士「うっ…勇者様方、お許し下さい!」ジャキッ 

兵士「家族の為です!お許しを!」ジャキッ 

勇者「邪魔をするなら容赦はしないぞ」 

子犬「ワン?」 

魔王「よいしょっと。犬とは持ってみると意外に重いものだな」 

勇者「どうした魔王、犬なんか抱きあげて…」 

勇者「それにどうして犬を俺に近付けて…」


ぶちゅー


勇者&犬「!?」


ぼん! 


勇者「げほっ!ごほっ!なんだこれは?」 

兵士「え?」 

兵士「まさか、あれは?」 

大臣「チッ…」 


「「犬が王女様に!?」」 


魔王「きっと今頃、あの偽王女は子犬の姿になっているだろうな」 

兵士「一体どういう事ですか大臣!?」 

大臣「くっ…こいつらだ!」 

大臣「こいつらが王女に怪しい術をかけたのだ!」 

大臣「この王女も偽物だ!」 

勇者「なんて往生際の悪い奴だ!」 

王女「誰が偽物ですって?」 

大臣「」ビクッ 

王女「おい、誰が偽物ですって?」 

大臣「い、いえ…その…」 

王女「よくもわたくしを犬畜生の姿に変えてくれましたね」 

王女「しかも貴様のドラ息子と結婚させようとするなんて…」 

王女「貴様と息子の四肢を馬車に繋げて、国中引き回して差し上げますわ」 

大臣「そ、それだけは!!」 

魔王(あれ?) 

魔王(我輩何か間違えた?) 

兵士「王女様だ…」 

兵士「我々の王女様だ!帰っていらっしゃったんだ!」ウッ 

兵士「王女様万歳ー!」グスグス 

兵士「お帰りなさいませー」 

魔王「勇者よ、ひとつ問いたい」

勇者「ん?」

魔王「あれが本当に王女なのか?」

勇者「ああ、昔と全く変わってないよ」 










~謁見の間~

王女「勇者、そして供の者。おかげで助かりましたわ」 

勇者「いえ、王女様がご無事で何よりです」 

王女「力に勇気。そして畜生…いいえ、小さな生き物への慈しみの心」 

王女「貴方が勇者にふさわしい事がよく分かりましたわ」 

王女「アレをここに」 

兵士「はっ!」

王女「受け取りなさい。これが勇者の剣です」 

王女「貴方ならきっと魔王を退治できるでしょう」 

勇者「は!ありがたき幸せでございます」 

魔王「で、質問があるんだが」

魔王「王はどこだ?」 

王女「!」 

勇者「なにを言っている魔王?」 

勇者「王様は遠征に言っていると聞いたではないか」 

魔王「馬鹿者。普通、王が戦争にかまけて、何年も国をあけるか?」 

王女「元々、あなた方に隠すつもりはありませんでした」 

王女「只今、王の元へ案内いたしますわ」 










~地下室~

勇者「これは…」 

王女「ええ、この国の王ですわ」 

勇者「しかしこの姿…まるで石造のようだ!」 

魔王「石化魔法か」 

魔王「王が前線に出ていたというのは本当だったのだな」 

王女「ええ。このおぞましい魔法は誰にも解く事ができません」 

王女「しかし…魔王様とおっしゃいましたか?さぞ高名な賢者様と存じられます」 

王女「どうか、わたくしの父を救って下さいましっ」ペコッ 

魔王「無理だ。これはかけた術者にしか魔法を解除できない」 

王女「そんなっ!?」 

魔王「もしくは術者を倒す。しかし、何千万もいる魔族の中から一人の術者を探し出す事は至難の技だ」 

勇者「魔王!それしか方法がないのか?」 

魔王「……ある」 

魔王「この魔法は常に術者から魔法をかけられている状態にある」 

魔王「つまり、術者が魔法を使えないようにすればいい」 

勇者「それはどういう事だ?」 

王女「えっと、勇者様が魔王を倒せばよいということですの?」 

魔王「うむ。魔界という地は魔力に溢れておる」 

魔王「しかし、その魔力を全て己の力に換えられる者は極めて少ない」 

魔王「魔界に溢れる魔力を自分の力に変え、更に他の魔族に与えられる存在がいる」 

魔王「それが魔王だ」 

魔王「魔王は直接魔力を取りこめない殆どの魔族に魔力を与える事が出来る変圧器」 

魔王「魔王を失えば、魔族は今までの様に魔法を使えなくなる」 

勇者「難しくてよく分からないが…」 

勇者「つまり、魔王を倒せば王様の魔法は解けるという事か?」 

王女「そして他の魔族も力を失い、世界は平和になりますわ…」 

勇者「分かった…。俺は絶対に魔王を倒す!」 

魔王(くくく、計画通り。これで勇者はかなりやる気になった) 

魔王(但し、魔王城で死ぬのは我輩ではない!) 

魔王(貴様だ!勇者!) 

勇者「魔王」 

魔王「はっはい!?」ビクッ 

勇者「大変な旅路になると思うが、これからも付いて来てくれるか?」 

魔王「ああ、よいぞ」 

魔王(まぁ念の為、もう少し監視をしてもよいか) 

勇者「これからも宜しくな!」 




















~船上~

勇者「勇者の剣と言っても、錆びてボロボロだな」 

勇者「これでは魔物の一匹を倒す前に壊れてしまいそうだ」 

魔王「王女の話を聞いていたか?この勇者の剣には“水の石”と“火の石”が必要と言っていただろう」 

勇者「ああ。でも水の石か…どこかで聞いた事があるような…」 

??「あ、お前もしかして勇者?」 

勇者「ん?」

友人「久しぶりだな。俺だよ、友人だよ」 

勇者「おう、10年ぶりか?」 

魔王「勇者、こやつは?」 

勇者「こいつは友人、昔からの縁だ。元気だったか?」 

友人「元気だよ。お前、とうとう魔王退治諦めて帰って来たの?」 

勇者「違う。というか、とうとうってどういう意味だよ」 

友人「そりゃあ勇者に選ばれた癖に10年もハジマリの村にいるんだ」 

友人「逃げたとか何とか言われて、お袋さんも肩身が狭そうだったぜ」 

勇者「………」 

友人「それより、水の石とか言ってたか?」 

勇者「ああ。魔王退治に必要らしい」 

友人「お前、忘れたのか?水の石って俺らの故郷にある石の事だろ?」 

魔王&勇者「!?」 




















~勇者の故郷・水の町~

勇者「ただいま、ママ」 

勇者母「まあ?どうしたの?急に帰ってきて……。もしや魔王退治を諦め──」

勇者「違うよ。水の石という魔王退治に必要なアイテムを取りに来ただけだよ」 

勇者「ついでにママの顔も見に来た」 

勇者母「ふふ、私はついで?」クスクス 

勇者母「それからそちらのお嬢さんはどちら様?」 

魔王「初めまして、勇者の母上。我輩は魔お──もがっ」 

勇者「仲間の賢者だよ」ニコッ 

勇者母「良かった。貴方にもちゃんとまだ仲間がいたのね」ニコッ 










~勇者の部屋~

勇者「じゃあママ、俺は賢者と話したい事があるから」 

勇者母「はいはい、ママは邪魔者なのね」 

勇者母「後は若い二人でどうぞ~」 


バタン 


勇者「………」

勇者「ふぅー、行ったか」 

魔王「」モガモガ 

勇者「あ、口塞いでたの忘れてた」 

魔王「ぷはっ!いきなり何をする!?」 

勇者「ごめん」 

魔王「我輩はただ、魔王と言っただけ──もがっ」 

勇者「しー!」 

勇者「ママに聞かれたらヤバい…」 

魔王「ヤバいって?」 

勇者「前に俺の祖父が勇者だったと言ったのを覚えているか?」 

魔王「ああ。魔界に行ったっきり行方不明になったっていう?」 

勇者「ああ」 

勇者「ママはその勇者の娘だ」 

勇者「ママの夫、つまり俺の親父だな」 

勇者「親父は勇者ではなかったけど、遠征軍に加わり戦死した」 

勇者「ママは魔族を……魔王を憎んでいる」 

勇者「ママには冗談でも魔王と名乗るな」 

魔王「……分かった」 










~夜~

魔王「側近、聞こえてるか?見えてるか?」 

側近『魔王様?久しぶりですな』 

側近『今はどちらに?』 

魔王「水の町だ」 

側近『おお、魔界にぐっと近づかれましたね』 

側近『そのせいか、幾分成長されたように見えますね』 

魔王「え?本当か?」 

側近『私が魔王様と初めて会った時の頃を思い出します』 

魔王(という事は15歳くらいか…) 

側近『勇者は今どこに?』 

魔王「勇者は自分の部屋だ。我輩は客室を借りたが」 

側近『大変申し訳ございません。もう一度仰って頂けますか?』 

魔王「勇者は自分の部屋だ」 

側近『つ、つまりは、魔王様がお泊りの場所は──』

魔王「勇者の実家だ」 

側近『!?』

側近『うら若き娘が、出会って間もない男の家に泊まるなんて…!』 

魔王「誰がうら若き娘だ!第一、今まで散々同じ部屋で寝泊まりしてきたぞ!」 

側近『魔王様は勇者を倒す事が目的だったはずです!』 

側近『もういっそ寝首を掻かれたらいかがですか?』 

魔王「馬鹿者!」 

魔王「魔王が寝首を掻くなど姑息な真似ができるか!」 

魔王「第一、あいつの肌は堅い!」 

魔王「首に短剣を突き立てても、ビクともしない!」 

魔王「見かけは成長しても、まだ魔力は戻らないしな…」 

側近(もう既に試されたのですか…)

魔王「我輩は断じて卑怯な行為はしない!」 

魔王「それから本題だ。我輩が離れてからの魔界の状況はどうだ?」 

側近『戦線は拮抗を保っていますが、魔王様が魔界にいない為、徐々に力が弱まる者が出てきました』 

側近『早くお帰りになって下さい』 

魔王「そうか…。後どのくらい留守にしていても大丈夫そうだ?」 

側近『半年くらいです。それ以上は我が軍が人間の軍に押され始めるでしょう』

魔王「分かった。それまでには必ず帰る」 

魔王「それから国民の様子は?今年の作物の出来は?」 

側近『今年は酷い凶作です。疫病により死者も多数出ています』 

側近『ご言いつけ通り、国庫から作物を分け与え、疫病には医学の心得のある者を多数差し向けております』 

側近『皆、魔王様に感謝しております』 

魔王「なに、そなた達の協力があるからだ」 

側近『人間界はどうですか?』 

側近『悪い疫病は流行っていませんか?』 

魔王「いや、たまたまそうだっただけなのかもしれないが、少なくとも道には死体は転がっていない」 

側近『何と?』 

魔王「食べ物も十分あるし、子供も驚くほど多い」 

魔王「同じ世界とは思えないくらい、人間界は豊かだ」 

魔王「魔界は力の源である魔力に満ちているが、何かを育てるには適さない土地だ」 

魔王「国民の為に、やはり人間界を手に入れる必要がある」 

側近『ええ。前回の勇者を倒した時、人間達の士気を下げる事が出来、領土を拡大する事が出来ました』 

側近『そしてそのおかげで作物の生産量は増え、新生児死亡率も低下しましたね』 

魔王「それでも人間界の豊かさに比べればまだまだだ…」 

魔王「側近、我輩は我々魔族の為に絶対に力を取り戻し、勇者を倒すぞ」 




















~水の神殿~

魔王「ここに水の石があるのか?」 

勇者「ああ。そして巫女がそれを守っているんだ」 

魔王「魔王退治の為と言っても、持ち出す事を巫女は許すのか?」 

勇者「わからない。だからまず、試しに聞いてみよう」





??「あら?もしかして勇者?」 

勇者「あ、僧侶じゃないか。久しぶりだな」 

魔王「知り合いか?」 

勇者「こいつは俺の幼馴染で、最初のパーティーメンバーだよ」 

巫女「今はこの水の神殿で巫女をしているけどね」 

巫女「ハジマリの村から出たという噂は本当だったのね」 

勇者「魔王退治の為に水の石が欲しいんだ」

巫女「もちろんいいわよ。こちらへどうぞ」





~最深部~

巫女「ここの中に水の石があるわ」 

勇者「この中?」 

巫女「ええ、この中よ」 

魔王「随分と広く深そうな湖だな」 

勇者「湖のどこにあるかは分からないのか?」 

巫女「私が知ってる訳ないじゃない」クスクス 

勇者「おい!」 

魔王「では見つける方法は?」 

巫女「火の石があれば簡単に見つかるそうよ」 

魔王「その火の石はどこにあるんだ?」 

巫女「古文書によると…」ペラペラ 

巫女「サカイ町にあるわ」 

勇者「!?」 

魔王「サカイ町とは?」 

巫女「ここからずっと西の、魔界と人間界の境にある町よ」 




















~勇者の家~

魔王「良かったじゃないか。火の石の在り処も分かったようだし」 

勇者「そうだな」 

魔王「では明朝出発でよいな?」 

勇者「…ああ」 










~翌朝~


どんどんっ 


魔王「勇者ー!起きろー!」 

魔王「起きないなら開けるぞー!」 


どんどんっ 


魔王「開けるからなー!」 


ばたんっ 


魔王「勇者ー」

魔王「……いない?」

魔王「ん?これは手紙?」 


── ── ── ── ──

魔王へ。

サカイ町には俺一人でいる。

お前は大人しく待っていろ。

── ── ── ── ──

魔王「あのバカっ!」

魔王「勝手な事を!」 





友人「あ、あんたは勇者といた──」

魔王「サカイ町はどこにある!?」 

友人「え?何ですか突然──」

魔王「サカイ町はどこだ!?」 

友人「えーっとですね、サカイ町は魔界と人間界の境にある町です」 

魔王「それは知ってる」

友人「長い歴史の間、人間界や魔界の領土になったりを繰り返している町です。現在は人間界の領土ですが」 

友人「要するに、とても治安の悪い町なんです」 

友人「だから勇者は、あんたを連れて行きたくなかったんじゃないですか?」 

魔王「分かった。そなたサカイ町の場所は分かるんだな?」 

友人「え?ちょっと俺の話を聞いていましたか?」 

友人「サカイ町はとっても危険な土地なんですよ?」 

魔王「さっき聞いた」 

友人「それにここからだと遠いし、魔物や獣も出ると言うし──」

魔王「いいからそなたは黙って我輩を案内しろ!」 

友人「!!」 




















~サカイ町~

友人「ようやく着いた……。死ぬかと思った……」 

魔王「何を言う。戦闘中もただ見ているだけだったくせに」 

魔王「第一、お前に合わせて進んだせいで、大分時間がかかってしまった」 

友人「俺はあんた達とは違って鍛練もした事がない素人なんだ。見ていてどれほど怖かったことか…」 

魔王「軟弱な奴め」 

友人「それに何度も言いますが、サカイ町はとても治安が悪いんです」コソッ 

友人「人浚いや強姦、強盗、奴隷売買が盛んに行われていると聞きます」コソッ 

友人「ほら!怖そうな連中がチラチラあんたの事を見ているじゃないですか!?」 

魔王「じゃあここから別行動をとるか?」 

友人「嫌ですよ!怖い!」 



男1「よう兄ちゃん。そのお嬢ちゃんは妹か?」 

友人「いっいえ!全くの他人です!」ガタガタ 

魔王「……」 

男1「まだガキだが、もう商品には出来るな」コソッ 

男2「ああ…。この間、せっかく捕まえた旅人を何者かに逃がされてるしな」コソッ 

男2「早く大勢集めなければ、ボスに殺される」コソッ 

友人「あ…うぅ…」ガタガタ 

魔王「お兄ちゃん!お腹減ったー」 

友人「!?」 

男1「腹が減ったのか?俺達いい店知ってるんだ」 

魔王「本当?お兄ちゃん、案内して貰おうよ!」 

友人「え!?でもっ」ガタガタ 

男2「ほら、妹も腹減ったってさ」 

男2「俺達は妹さんだけ案内してもいいんだぜ?」 

友人「わ、わかりましたよ……。ついて行きますよ……」ガタガタ 





友人(うぅ…何だか人通りが少なくなってきた…) 

魔王「お兄さん達、ちょっと待って…。足早くてついていくのが大変だよ」ハアハア… 

男1「仕方ない奴だな」 

魔王「それに靴ずれがとっても痛いの。ほら、見てよ?」 

男1「ん?どれどれ──」


どすっ!


男1「ぐはっ…」フラッ 


どさっ… 


男2「な、何だお前!?」 

魔王「死にたくなければ、奴隷を逃がしている奴の事を話せ」 

男2「このクソガキが!」 

・ 

・ 

・ 

魔王「そろそろ素直に話す気になったか?」 

男2「はっ話します!話しますから殺さないで下さい!!」ガタガタ 

魔王「それはそなたの話がどれだけ我輩に有益な情報かによるな」 

魔王「心して話せ」 

男2「はっはいー!」ガタガタ 



男2「二週間前、旅人を捕まえていた倉庫が何者かに突如襲撃されたんだ」 

男2「目撃者の話じゃ、犯人は男一人だけだったそうだ」 

魔王「その男の特徴は?」 

男2「何やらボロい剣を持っていたそうで、それから火の石っていう石を探しているようだった」 

魔王(やはり勇者か…) 

男2「それから頻繁に何人も逃がされた。これじゃあ商売あがったりだ」 

男2「これ以上逃がされるようなら、俺達はボスに殺されちまう」 

魔王「次にその男が現れそうな場所は?」 

男2「そうだな…。今夜、奴隷オークションがあるから、もしかしたらそこに出るかもしれない」 

魔王「そうか。我輩をそこへ連れて行け」 

友人「!?」 

男2「いや、そんな事をしたら、本当にボスに殺されちまう!」ガタガタ 

魔王「どうせ死ぬなら、数時間でも長く生きられる方がよいだろう?」 

男2「!」ビクッ 

魔王「ならば我輩を、そなたが捕まえた奴隷という事にすればよいだろう」 

友人「え!?そんな!そのまま売られちゃったらどうするんですか!?」 

魔王「心配無用だ。もしそうなっても逃げればよい」 

魔王「男よ。それでよいな?」 

男2「はっはい!」ガタガタ 

友人「うぅ…でも」 

魔王「そなたは来なくてもよいぞ」 

友人「行きますよ!お供させて下さい!」 




















~奴隷オークション会場~

勇者(ここに捕まった人達が閉じ込められているんだな…) 


ガャチガチャ……カチリ 


勇者(よし、開いた) 


カッ! 


勇者(な!?眩しい!何だこの光は!?) 

??「お前が奴隷どもを逃がしていた奴か?」 

勇者「君は誰だ!?」 

??「人に名を尋ねるなら、先に自分で名乗るんだな」 

勇者「俺は勇者だ」 

??「勇者?あの10年もハジマリの村にいたという?」 

勇者「ああ。お前も名を名乗れ」 

ボス「俺はこの一帯を仕切るギャングのボスだ」 

ボス「お前は奴隷を解放していい気になっているようだが、俺達にとってはお前は立派な盗人だぜ?」 

勇者「……」 

勇者「俺は単に捕まった人達を助けていた訳ではない」 

勇者「本当の目的はあんたに会う事だ」 

勇者「あんたが持つ火の石が必要なんだ」 

ボス「!?」 

勇者「必要であれば損失分の代金は払う。贅沢もせず、10年分の貯めた金がある」 

ボス「へぇ?まさかその為に10年もハジマリの村にいた訳じゃないよな?」 

勇者「……」 

ボス「この石も金で買いたいと?」 

勇者「魔王を倒す為だ。譲ってくれたら嬉しいが、そのつもりはないんだろ?」 

ボス「当り前だ。見ろ」 

手下「ぎゃあああああああ!!」 

勇者「!?」 

ボス「凄いだろ?この石の力で何だって簡単に燃やせるんだ。本気になれば、一瞬で消し炭にも出来るんだぜ?」 

ボス「こんな石を手放せると思うか?」 

勇者「……」

勇者「君は魔王を倒したいとは思わないのか?」 

ボス「10年も閉じこもってた奴に言われたくないぜ」 

勇者「……」 

ボス「だが、考えてやらない事もない」 

ボス「ここでひとつ、俺とゲームをしないか?」 

勇者「ゲーム?」

ボス「ああ。こいつでな」

勇者「トランプ?」 

ボス「お前が勝ったら火の石を譲ってやる。何だったら奴隷の売買もやめてもいい」 

勇者「俺が負けたら?」 

ボス「そのボロい剣を寄こせ」 

勇者「!」 

勇者「これは…」

ボス「噂で聞いたよ。勇者の剣ってヤツだろ?高く売れそうだよなぁ?」ニヤニヤ 

勇者「君っ!」 

ボス「おっと、それとも俺を殺して火の石を奪うつもりか?」 

勇者「……分かった。トランプをしよう」 

ボス「ヒュー、話が分かるな」 

勇者「イカサマはなしだからな」 

ボス「あはは、そんな卑怯な真似はしないさ」 

ボス「真剣勝負だ」 










魔王「ここが奴隷オークションの会場か?」 

男2「お願いですから暴れないで下さいよ」ガタガタ 

男2「それに俺は何も知らなかった事にして下さい」ガタガタ 

魔王「ん?あちらが騒がしいようだが」タタッ 

男2「あ!ちょっと待って下さい!」 

友人「おいて行かないで!」 





ボス「約束通り、その勇者の剣を渡して貰おうか」 

勇者「くっ…」 

魔王「勇者ー!」タタタッ 

勇者「え?魔王!?どうしてここに…!」 

友人「おいて行かないで下さいー!」タタタッ 

勇者「友人まで…まさか追いかけて来たのか?」 


ばきっ! 


勇者「いた…」 

魔王「馬鹿者!何があったか知らないが、何故勇者の剣を他人に渡そうとしている!」 

ボス「威勢のいいお嬢ちゃんだな。この勇者はゲームに負けたんだ」 

ボス「約束通り、勇者の剣を俺に渡さなければならない」 

ボス「勿論、勇者が約束を守らないっていうなら話は別だがな」 

魔王「どうせイカサマに決まっておろう!」 

勇者「やめろ魔王。例えイカサマだったとしても、見破れなかった俺が悪い」 

魔王「では見す見す剣を手放すと言うのか!?」 

勇者「………」

ボス「ならお嬢ちゃん、代案でもあると言うのか?」

魔王「………」 

勇者「魔王……これはもう──」

魔王「勇者の剣の代わりに、我輩でどうだ?」 

勇者「魔王、何を言っている!?」 

ボス「あはははは!本気か?お嬢ちゃん」 

魔王「ああ、本気だ」 

ボス「くくっ、肝が据わってるなぁ。気に入ったぜ」 

ボス「勇者、剣の代わりにこっちのお嬢ちゃんでもいいぜ?」 

勇者「駄目だ!危険だ!」 

魔王「元はそなたが勇者の剣を賭けたのが悪いのだろう」

勇者「でもっ!」

魔王「大丈夫だ、我輩は強い。いざとなったら簡単に逃げられる」 

ボス「まあ、逃がさないがな」 

ボス「この娘を返して欲しければ勝負するんだな。俺には火の石もある。何だって受けてやるぜ?」










~ギャングのアジト・牢屋~

手下1「へぇ、これが勇者の連れか?」 

手下2「なかなか可愛い顔してるじゃねぇの」 

手下1「黙っちゃって、怯えてるのかなー?」 

手下2「『怖いー!早く勇者様助けに来てくださいー!』って言ってみろよ」 

魔王「……」ツーン 

手1「くっ、この女!何とか言いやがれ──」


バタンッ 


手下2「あ…」 

ボス「何故許可なく牢に入っている?とっとと持ち場に戻れ」 

手下2「はっはい!」ガタガタ 



魔王「どうやら、手下の教育がなってない様だな」

ボス「あれだって大分マシになったんだぜ?」 

ボス「そう言えばお嬢ちゃん、名前は?」 

魔王「そなたに名乗る名前なんてない」 

ボス「そうか。では質問を変えよう」 

ボス「なぜ“魔族”が勇者と一緒にいる?」 

魔王「!?」 

ボス「返答次第では、その可愛い顔が消し炭に変わるぜ?」 

魔王「……」

魔王「何故我輩が魔族と分かった?」 

ボス「これを見ろ」

魔王「あつ…」 

ボス「この拳に宿る炎」

ボス「部屋の温度が変わるほどの高温だ」 

ボス「以前はこれ程ではなかった」 

ボス「昨日、横領をしていた手下に火をつけた」 

ボス「しかし、想像以上に燃え上がってしまった」 

魔王「どういう意味だ?」 

ボス「俺は“魔族と人間の混血”だ」 

魔王「!?」 

ボス「驚いたか?この町には純粋な人間は少ない」 

ボス「そしてお前が知っての通り、魔力を直接自らの力に変えられる魔族と変えられない魔族がいる」 

ボス「直接魔力を取りこめる奴の中には他人に分け与える事が出来る奴もいる」

ボス「お前は他人に分け与える事が出来るタイプの魔族だ」 

ボス「恐らくお前から魔力の供給を得て力が倍増したんだ」 

魔王「……」 

ボス「他人に魔力を供給できる魔族は地位が高いと聞く」 

ボス「再度問おう。お前は何の為に勇者と一緒にいる?」 

魔王「そなたが知る必要はない」 

ボス「……まぁいい」 

ボス「どうせ魔族も勇者も信用にならない」 

ボス「絶対に口を割らせてやる」 


バタン 


魔王(我輩はただ、勇者がちゃんと魔界に行くように監視しているだけだ)

魔王(ひいては魔族の為) 

魔王「ただ、それだけの為だ」 










~翌朝~

ボス「よう。気分はどうだ?」

魔王「いい気分ではないな」

ボス「そうか。だがそんなお前に良いニュースがある」 

ボス「勇者から果たし状が届いた」 

魔王「なに?果たし状?」 

ボス「物凄い剣幕で果たし状を突き出してお前の安否を気にしてたらしいぜ?」 

魔王「ふふ、あの勇者が物凄い剣幕か。何だか想像できないな」 

ボス「お前、魔族のくせに勇者と本当に仲がいいのだな」 

魔王「違うっ!」 

ボス「因みに今回はトランプでの勝負ではないが、お前を取り返す代わりに勇者はまた剣を賭けるらしい」 

ボス「火の石は取られたまま、お前も奪え返せず、更には剣を奪われる」 

ボス「くくっ、勇者の悔しがる顔が目に浮かぶぜ」ニヤリ 

魔王「しかし、そなたが持っていても仕方がない物ばかりではないか」 

魔王「それとも、そなたが勇者になる気なのか?」 

ボス「……そうかもな」 

ボス「俺もこの町の人間も、魔族と人間の血が混じっているというだけで言われなき差別を受けてきた」 

ボス「法外な税を課せられ、今よりも更に治安は悪かった。俺達は何度も国に抗議したが一切取り合われなかった」 

ボス「何故なら俺達は人間じゃないからだ」 

魔王「確かにそなた達には魔族の血が混じっている。だが、そなただって火の石がなければ魔力を扱えない」 

魔王「つまりは人間と一緒じゃないか?」 

ボス「国のお偉いさんや他の町の人間にとっては、魔族の血が混じっているというだけで既に人間ではないそうだ」 

魔王「……」

ボス「ある時、火の石を手に入れてから全てが変わった」 

ボス「人間と手を組み、仲間を浚っていた奴らを殺して、生き残った奴を売ってやったよ」 

魔王「それではそなたは同じ事をしているだけだ」 

魔王「それに今は罪のない旅人を売っているということじゃないか」 

ボス「分かっている。だがな、他に産業もないこの町では仕方ないだろう」

ボス「それに、俺にはまだ小さい弟がいる」

ボス「俺があいつを養うにはこの方法しかない。たとえどれだけ手を汚してでもな」

魔王「……お前は本当にそれでいいのか?」

ボス「……」

ボス「まぁこれをずっと続けるつもりはねぇよ」

ボス「俺は魔王を倒して王様に約束させる。混血の者に対する差別の撤廃、そしてこの町の発展をな」 

魔王「無謀だ」 

ボス「魔王を倒す事がか?それとも差別撤廃か?」 

魔王「どちらもだよ」 

魔王「そんな事を考えている暇があったら、さっさと勇者に火の石を渡して先に進ませてくれ」 

ボス「俺は無謀だとは思わない」

ボス「何たって”お前“がいるからな」 

魔王「はあ?」 

ボス「ここではこの程度の炎だ。魔界に入れば周りの魔力が強まり、もっと大きな炎を扱える」 

魔王「着眼点は良いが、勇者の剣は勇者にしか扱えないぞ?」 

ボス「いや、お前さえいれば魔王も倒せる」 

魔王(随分と見くびられたものだな) 

魔王「お前も勇者と共に魔界に行けばよいではないか?」 

ボス「駄目だ。10年もハジマリの村にいたような奴を信用できない」 

ボス「そもそも、勇者に魔王を倒す気はあるのか?」 

魔王「そ、それは…」 

ボス「それよりお前だ。お前も魔王を倒す事が目的なら、勇者を見限って俺と一緒に来い」 

魔王「駄目だ、そなたには無理だ。第一、我輩は魔族だぞ?信用できるのか?」 

ボス「お前なら信用してもいい」 

魔王(どういう意味だ…?) 

ボス「俺はやる気も力も勇者には劣らないつもりだ」 

魔王「寝言は寝て言え。そなたなんぞ、勇者の足元にも及ばんぞ」 

ボス「なら今回の勝負で俺が勇者より強いと分かったら、俺と共に来る気になるか?」 

魔王「はあ?」 

ボス「明日、証明してやる」 

魔王「ちょっと…」 


バタンっ 


魔王「行ってしまった……」 










~翌朝・闘技場~

魔王「今度は何で勝負するつもりだ?」 

ボス「俺は火の石で、勇者は勇者の剣を使う」 

魔王「そうか。そなた死ぬぞ」 

ボス「お前がいれば大丈夫だ」 

魔王「……」 



『それでは今回も始まりました!本日の殺戮ショー!』 



ワアアア! 



魔王「な、何だこれは…」 

ボス「ショーだ。主に他国から移送された死刑囚同士や奴隷同士を戦わせ、観客から収益を得ている」 

魔王「それでこの盛り上がりか?こやつらは頭がおかしいのか?」 

ボス「そうなんじゃないか?」 



『それでは赤コーナー!』



『10年もハジマリの村にいた臆病者と噂の勇者だー!!』 



ブゥーブゥー!! 



魔王「凄いヤジだな…」 

魔王「あ、でも勇者め…」

魔王「こっちに手を振ってる…余裕だな」 



『そして白コーナー!』



『カリスマ性に溢れ、この国一の炎使い!』



『我らがボスだー!!!』 



ワアアアアアアアア!!! 



魔王「ボスは凄い人気だな」 



『それでは試合開始前にルール確認をします!』 



『お互いの武器で相手を殺すまで、もしくは負けを認めるまで試合は続けられます!』 



『リングがありますし、場外に出る事は基本禁止ですが、負けにはなりません!』 



『それから気絶した場合も負けにはなりません!』 



ワアアアアアアア! 



勇者「俺が勝ったら、魔王と火の石を貰う」 

ボス「魔王とは?」 

勇者「あの娘の事だ」 

ボス「ほう。しかしお前は一つ、俺は二つを渡したら割に合わないじゃないか」 

勇者「もし俺が負けたら勇者の剣を渡す。そして俺もお前の言う事を何でも聞こう」 

ボス「へぇ。ならいいぜ」 



『では、試合開始!』 



・ 

・ 

・ 

・ 

・ 

・ 

・ 

・ 

・ 

・ 



魔王「リングが火の海だ…。良く見えないが、中では一体何が起こっているんだ?」 





勇者(くそ…熱い…目を開けていられない) 

勇者(闇雲に攻撃しても危険だし、観客に当たる可能性もある) 

勇者(ボスは何処だ?) 

勇者(それに気のせいじゃない。どんどん炎の温度が上がっている) 





魔王(リングからこの観客席まで距離があるというのに、何て熱さだ…) 

魔王「……ん?あれは!」 





ボス(勇者はあそこだな…。この炎の中で消し炭にならないとは……本当に人間か?) 

ボス(しかし、これを食らえば勇者と言えども)ゴオォォ 





魔王「勇者!後ろだああ!!」 





勇者「!」 


ヒュッ


ガシッ!


勇者「よし!捕らえた!」

ボス「バカなっ!人間の反応じゃねぇ!」

勇者「魔王を返して貰う!!」 

ボス「!?」 










~試合終了後~

魔王「思ったより、あっさり参ったって言ったな」 

ボス「俺だって命が惜しいからな」 

勇者「……」 

魔王「良かったな、勇者。火の石を手に入れられて──」


ゴツッ! 


魔王「痛い!いきなり何をする!?」 

勇者「どうして大人しく俺の家で待っていなかった?」 

魔王「どうして我輩がそなたの言う事を聞かなければいけないのだ」 

魔王「そなた一人では心配だ。現に勇者の剣を奪われそうになったじゃないか」 

勇者「心配なのは俺も一緒だ!」 

勇者「君がいかに腕が立つかはもう分かっている」 

勇者「しかし、君はまだ子供──」

勇者「ん?そう言えば、少し見ない間に随分背が伸びたな」 

魔王「」ギクッ 

魔王「せ、成長期だからな!」 

勇者「そうなのか?」 

勇者「でも、もし君に何かあったら俺は…」

ボス「……」

ボス(何だ。そういう関係だったのか) 

ボス「勇者。ほら、火の石だ」 

勇者「ああ」 


スカッ


ボス「ん?」

魔王「勇者。ちゃんと受け取れ」 

勇者「いや、受け取ったつもりだけど」スカッ 

勇者「あれ?」スカッ 

魔王「火の石が勇者の手から逃げている?」 

ボス「変だな?こんな事今までなかったのに」

勇者「何故だ?」 

魔王「ちょっと見せてみろ」

魔王「……」

魔王「あー…」

ボス「何か分かったのか?」

魔王「ああ、これは魔石だ」 

勇者「魔石?」 

魔王「魔族にしか触れられない石だよ」 

勇者「え?」 

勇者「魔族にしか触れない?」 

魔王「いや、魔族の血が一定量入った人間も触れられる」 

魔王「だからボスも触れられる」 

勇者「魔王…」

勇者「君、本当に魔族の血が入っていたのか…!?」 

魔王「だから我輩は魔王だと言っているだろうが!!」 

勇者「しかし魔石に触れないとなると、どうやって魔王を倒すんだ?」 

ボス「……」

ボス「なあ、俺を連れて行ってくれないか?」

ボス「俺なら火の石を扱える」 

魔王「待て。勇者を嫌っていたくせに、どういう風の吹きまわしだ?」 

ボス「今だって勇者が10年もハジマリの村に篭っていたのは気に食わない」 

ボス「だが分かった」 

ボス「魔王を倒す事が出来るのは勇者だけだ」 

ボス「聞いての通り、俺は人間と魔族の混血だ。この町には俺の様な人間が多い」 

ボス「魔王を倒した者に、王は何でも願いを叶えると言う」 

ボス「俺は魔王を倒し、差別撤廃を求めたい」 

勇者「君の実力は戦った僕がよく分かる」 

勇者「仲間になってくれるなら歓迎するよ」 




















~水の町・水の神殿~

巫女「随分早く火の石を持って帰ってきたわね」 

巫女「何年かかかるかと思ってたけど、本気で魔王退治するつもりなのね?」 

勇者「当り前だろう」 

魔王「それで?どうやって水の石を探すんだ?」 

巫女「古文書によると…」ペラペラ 

巫女「あった。火の石を出してみて」 

ボス「こうか?」 


パアアアア! 


勇者「何だ?何かが光っている?」 

魔王「あの光っている場所に水の石が?」 

巫女「そのようね」 

勇者「じゃあ、ちょっと取って来るね」 

魔王「え?ちょっと待て──」


どぼーんっ


ごぼごぼ… 





勇者(結構深いな…) 

勇者(…見えた!) 


スカッ 


勇者(また触れられないパターンか) 

勇者(魔王なら触れる事が出来るだろうか?) 





ゴボゴボゴボゴボ 


勇者「ぷはっ」 

ボス「お前、よく30分も潜ってられるな」 

魔王「その様子じゃ、水の石は手に入らなかったのか?」 

勇者「ああ、その場にあるのに触れられないんだ」 

勇者「魔王、君ならいけるか?」

魔王「んー、いきたい気持ちはあるのだが、この水なんか気持ち悪いんだ」 

巫女「触れると気持ち悪い?おかしいわね」 

巫女「これは“聖水”なのに」 

魔王・勇者・ボス「それだ!」 

巫女「え?」

勇者「じゃあどうしよう?ボスは水に触れられるか?」 

ボス「水に触る事自体は問題ないが、そこまで息が続かない」 

魔王「なら魔法で周りに空気の膜を張ってみてはどうだ?」 

巫女「無駄よ。この湖には魔法は効かないわ」 

魔王「じゃあ古文書にはどうやって水の石を取ると書いてあるんだ?」 

巫女「そうね」ペラペラ 

巫女「あった」

巫女「古文書によると、火の石で湖の水を枯らせると書いてあるわ」 

魔王「これだけ広く深い湖を全部?」 

巫女「恐らくそういう事じゃない?」 

ボス「方法はそれだけか?」 

巫女「うーん」ペラペラ 

巫女「そのようね」 

魔王「何カ月かかると思っているんだ」 

ボス「試しにやってみるか」 




















~勇者の家~

ボス「疲れた…」グッタリ 

魔王「大丈夫か、ボス?」 

勇者「でも凄いな。水面が数センチも下がった」 

魔王「本当に何カ月かかるんだか…」 

魔王(このままでは、魔界に戻るのが遅くなってしまう) 

魔王(ボスには悪いが、頑張って貰わなければ…) 










~数日後・湖~

ボス「死ぬ…」 

魔王「頑張れ!回復魔法かけてやるからっ!」 

勇者「あー俺も何か疲れたなー」チラッ 

魔王「そなたはただ見ているだけではないか。暇なら装備を充実させるなりして来い」 

勇者「……」 

魔王「うむ、これで大丈夫だな。頑張れボス!」 

魔王(我輩の為に!) 

勇者「なぁ巫女、古文書によると、水の石を取る為にどのくらいの時間がかかるんだ?」 

巫女「そうね…」ペラペラ 

巫女「半年…ぐらいかしら?」 

勇者「は…半年……」 

魔王「汗を拭いてやるぞ?」 

ボス「悪いな…だが、勇者の事はいいのか?」ゼェゼェ 

魔王「何がだ?」 

ボス「だから……ん?勇者?」 

勇者「……」 

魔王「ゆ、勇者?どうしたんだ?」 

魔王(勇者のくせにおっかない顔をしている…!) 


たたたたたたっ 


魔王「勇者?一体どうし──」


どぼーんっ 


魔王「!?」 

巫女「あら?今の音って……もしかして勇者が飛び込んだのかしら?」 










~数時間後~

魔王「巫女」 

巫女「はい?」 

魔王「勇者が潜ったっきり、まだ上がってこないんだが」

巫女「そうね」 

魔王「よもや溺れ死んでいる訳ではないよな?」

巫女「さあ?」 

魔王「!!」 










~水中~


ガツッガツッ 


勇者(勇者の剣を突き立てても、なかなか傷がつかないな…) 

勇者(この魔法陣…) 



「どんな威力の強い魔法だって、その元を絶ってしまえば簡単に無効に出来る」



勇者(魔王が言っていた。恐らくこの魔法陣が魔法を無効にしているんだ!) 


がぼっ 


勇者(そろそろ息苦しいな…) 


とんとん 


勇者(ん、誰だ?) 

勇者「!?」ゴボッ 

勇者(魔王!?)

魔王(これは魔法を無効化する魔法陣だな。傷をつけて魔法陣を無力化するつもりだったのか) 

魔王(ここに突き立てればいい)トントン 

勇者(ここか?) 

魔王「」コクリ 

勇者(よし、行くぞ!せーのっ…!) 


ざあああああ!


ボス「!?」

巫女「湖の水が減っていくわ!」 

ボス「勇者と魔王がいるぜ!良かった、無事だったか」 

勇者「おーい!水の石を手に入れたぞー!」 

巫女「お疲れ様」 

巫女「よくも代々受け継がれてきたこの魔法を解いたわね」

勇者「俺だけじゃ無理だった。魔王、君のおかげだよ!」

魔王「」フラ… 

勇者「魔王…?」


どさっ 


勇者「え…?」 

巫女「魔王さん!?どうしたの?しっかりして!」 

ボス「聖水に浸かったからだ。こいつは指一本触れるのも嫌がっていたからな…」 

巫女「ならこの場所もあまりよくないわね」 

勇者「分かった。俺の家に運ぼう」 




















~勇者の家~

勇者「魔王の状態は?」 

巫女「顔色は少しよくなったけど、まだ目を覚まさないわ」 

勇者「どうして…あの子は湖に飛び込んだんだ…」 

ボス「お前がいつまでも潜っていたからだ。あいつはずっと心配して待っていてたぞ」 

ボス「で、俺らが止めても聞かずに飛び込んだ」 

勇者「!」 

ボス「こうなったのは自業自得だ」 

勇者「……」

勇者「ボス…どうすればいい?どうすれば魔王を助けられる?」 

勇者「こういう時の魔族に対する治療法を知っているか?」 

ボス「サカイ町……魔界の近くに行く必要がある」 

ボス「魔界は魔族の力の源である魔力が溢れる土地だ」 

勇者「それは魔王が──」


ガシャン! 


勇者母「魔王…?魔族…?」 

勇者「ママ…!」

勇者「違うんだ」 

勇者母「その子は賢者じゃなかったの!?」 

勇者母「魔王ってなに!?」 

勇者「違うんだママ。落ち着いて」 

勇者母「あなた忘れたの!?」

勇者母「魔族はあなたのおじいちゃんとお父さんを……!」

勇者「そうだけど、魔王はそうじゃないんだ」 

勇者母「そうじゃないってどういう事!?」 

勇者母「どうして!?どうして!?」 

勇者母「そいつを何処かへやって!今すぐに!」 

勇者「……分かった。今すぐ出て行くよ」 

勇者母「!」 

勇者母「どうしてあなたまで行くの!?」 

勇者母「あなたも殺されてしまうわ!」 

勇者「ごめんママ、放してくれ」 

勇者「今だけは……どうしても譲れないんだ」










~夜~

ボス「言われた通り、馬車を用意したぜ」

勇者「ありがとう、ボス」 

巫女「本当に良かったの?お母様の事…」 

勇者「いいんだ。今度帰った時に誤解を解くよ」

勇者「きっとママも分かってくれる」




















~150年前・魔界~

側近「魔王様の生まれ変わりの者だと聞いていたが……」 

側近「まさかあんな子供だったとは…」 

側近「悪戯ばかりで不真面目で…」 

側近「おまけに堪え性がないとくる……はぁ」 


コンコン 


側近「失礼します、魔王様」

側近「!?」

側近(魔王様が本を読んでいらっしゃる!?)

側近(まさか…真面目に勉強する気になられたのか!?) 

側近「魔王様、何のお勉強をされ──」

側近「え?」 

魔王「ん?何の用だ側近?」 

側近「な、それは…」 

魔王「人間界の絵本だ。見ろ、緑の木が沢山あるぞ」 

魔王「人間界はこの絵本のような世界なんだろうか?」 

側近「魔王様!魔王様たる者が人間界を羨むなど──」

魔王「側近は羨ましくないのか?」 

側近「そ、それは…」 

魔王「見ろ、この絵本の家族の顔を。皆で仲よさげに食卓を囲んでいる」 

魔王「病気や飢餓に対する不安など微塵も感じないぞ」

魔王「皆、満たされている様だ」 

魔王「もしこのような世界ならば、是非とも人間界を手に入れたいものだ」 

魔王「しかし、先代の魔王は人間に敗れたのだったな」 

魔王「どの先生の話を聞いても、人間は魔族より劣っていると聞いたぞ」 

魔王「なぜ我輩たち魔族は何度も人間に敗れるのだ?」 

側近「それは……“勇者”です」 

魔王「勇者?あの伝説の?」 

側近「ええ。魔王様が力をつけると自然と出てくる、人間の化け物です」 

魔王「化け物?」 

側近「そいつは必ず、魔王様を倒しに来ます」 

側近「殆どの魔族は魔界に溢れる魔力を直接力に変えられません」 

側近「そこで魔王様が必要になります」 

魔王「魔王は直接力を変えられない魔族に、魔力を与える事ができる変圧器だから?」 

側近「そうです。よく覚えておいでで」 

魔王「そなたから耳にタコができる程聞いたからな」 

側近「そして魔王様が本来の力を発揮できるのは、魔界の中心である魔王城です」 

魔王「ふむ…」 

魔王「本来の力を持ってしても、魔王は勇者に勝てないのか?」 

側近「いいえ。過去の歴史では、何度か魔王様が勝つ事もあります」 

側近「しかし例え殺したとしても、また人間の中から勇者が出てきます」 

魔王「まるで不死身だな」 

側近「ええ」 

魔王「だが朗報だ。魔王が勇者に勝つ事は可能なのだな?」 

側近「ええ。勝てばその分、人間の士気も下がり領土も広げやすくなります」 

魔王「決めた!」 

魔王「我輩は勇者を倒す!何度だって倒してみせる!」

魔王「そして…」 

魔王「豊かな土地を手に入れ、魔界を誰もが羨むような世界へと変えようぞ!」 

側近「魔王様…」 

側近(そうか、この方もちゃんと成長されているのだな) 

魔王「なんだ、側近?」 

側近「ではその為にはまず、お勉強から始めましょう」 

魔王「えー!?」 




















魔王「」パチッ 

魔王(ここは…) 

勇者「魔王!良かった!目が覚めたか!」 

魔王「勇者?ここは…」 

勇者「サカイ町だよ。巫女とボスは買い出しに行ってるよ。具合はどうだい?」 

魔王「大丈夫だ…迷惑をかけたようだな」 

勇者「いいや、君が湖に飛び込んだのも俺の所為だし」 

魔王「最終の判断をしたのは我輩だ。気にするな」

魔王「ところで、もう魔界に行く準備は出来てそうだな」

勇者「うん。準備はバッチリだ」


ムクッ 


勇者「魔王、君はまだ全快してないんだ。まだ寝ていろ」 

魔王「駄目だ。行くぞ…うっ」 

勇者「まだ休んでいろ」 

魔王「駄目だ。そう言って、また先延ばしにするんだろう?」 

勇者「またその話か」ムッ 

魔王「そなたはすぐ他の者に目移りし、本懐を忘れる」 

魔王「そなたは勇者だ。他の事は気にせず、魔王城に行く事だけを考えておれ」 

勇者「もちろん魔王城にも行くよ。だけど魔王の体が元に戻ってからだ」 

魔王「それだ!どうして勇者の癖にそんな些細な事を気にする!?」 

魔王「本当に魔王を倒す気があるのか?」 

勇者「あるに決まってるだろ!」 

魔王「いいや、ないね」 

魔王「我輩は魔王だ」 

勇者「魔王、本当にどうしたんだ?」 

魔王「そなたに魔王を殺す気はあるのか?」 

勇者「もちろん…。いや、魔王と言ってもお前の事ではなく…」 

魔王「我輩が魔族と分かった今でも、そう言うのだな」スッ 




















ボス「やっと宿が見えてきた」 

ボス「おい巫女。こんなに食べ物を買ってどうするんだよ?」 

巫女「もちろん、魔王さんの為よ」 

巫女「恐らく彼女が回復し次第、魔界に突入すると思うの」 

巫女「魔王退治、さしては世界平和の為にも、早く彼女には回復して貰わないと」

ボス「じゃあその装備も魔王の為か?サイズも測らず勝手に買っても──」

巫女「ふふ、この装備は私の物よ?」 

巫女「教えていなかったけど、10年前、私は僧侶として勇者について行ったの」 

巫女「その時はハジマリの村からいつまでも出ない勇者に愛想をつかしてしまった」 

巫女「けれど今の勇者なら大丈夫。私も今度こそ世界平和の為に戦いたいの」 

ボス「そうか」 

巫女「それに私も水の石を使って自由自在に水を操れるし」 

巫女「一緒に頑張りましょうね!ボスさん」 

ボス「ああ!」 


ドカーン! 


ボス・巫女「!?」 



勇者「いってて…」 



ボス「どうした勇者!」 



魔王「何度でも言おう。我輩は“魔王”だ」 

魔王「そして我々は敵同士だ」 

魔王「そなたに魔王を倒す気があるのなら、もう監視する必要はない」ゴゴゴ… 

魔王「我輩はもう帰る」 

魔王「次に会う時は魔王城だ」 

魔王「さらばだ、勇者」ヒュンッ 

勇者「魔王!!」 

巫女「勇者、どういう事なの?」

巫女「彼女は本当に魔王なの?」 

ボス「あいつが言っていた事は本当なのか!?」 

勇者「分からない」 

ボス「分からない訳ないだろ!お前、ずっとあいつと一緒にいたんだろ!」 

巫女「準備を整えたら、私達も直ぐに魔界に向かいましょう」 

ボス「そうだな。魔王城に行けば、全てがはっきりするはずだ」

勇者「君達、本当に魔王が魔王だと思ってないよな?」

ボス「俺だって分からないし、信じられない」 

ボス「だが……周りを見ろ」 

ボス「一度の攻撃で宿がこんな状態になるんだぜ?」 

ボス「幹部クラス、もくしはそれ以上の魔族である事には変わりない」 

巫女「真偽を確かめる為にも、魔王城に行く必要があるわ」

巫女「良いわね?勇者」 

勇者「…分かった」 




















~魔王城~

側近「お帰りなさいませ、魔王様」 

魔王「ただいま…」 

側近「勇者はどうですか?無事、魔界にはおびき出す事に成功しましたか?」 

魔王「うむ。恐らく明日には魔界に足を踏み入れるだろう」 

側近「そうですか」

側近(てっきり魔界に入るまで見届けられると思っていたが…)

側近「魔王様、お顔の色が優れませんが、何かございましたか?」 

魔王「……」

魔王「側近よ…ひとつ問いたい」

魔王「そなたは“魔族と人間の共存”は可能だと思うか?」 

側近「!?」 

側近「どうされたんですか!?」 

魔王「分かってる。先々代の魔王も共存を試みた。しかしそれは半世紀と持たなかった」 

魔王「何故なら人間は魔族より早く死ぬ。トップは簡単に入れ替わり、約束なんて反故にされる」 

側近「魔王様…」 

魔王「分かっているんだ。だけど…ちょっと考えただけだ」 

魔王「大丈夫だ。我輩はあんな腑抜けの勇者になんぞ絶対に負けない」ギリッ 

魔王「次期に勇者一行が現れる。国民に注意を促せ!」 

側近「はっ!」 




















~魔界~

勇者「ここが…魔界?」 

ボス「話には聞いていたが、酷い場所だな」 

巫女「旧人間領土を過ぎたら、見渡す限りの砂漠ね」 

ボス「ああ、不毛の地だ」 

ボス「だから魔族は人間界を欲しがるらしい」 

巫女「魔族らしい勝手な言い分ね」 

勇者「……」

ボス「どうした?勇者」

勇者「巫女とボスに聞きたい。人間と魔族の共生は可能だと思うか?」

ボス「お前、この期に及んで何を──」

勇者「魔界は金やダイヤが多く採れるという。条約を結んで平和的に貿易したり──」

巫女「無理よ」 

巫女「彼らは力を持っているし、人間にとって脅威以外の何物でもないの」 

ボス「だが魔王を倒したら別だ。魔王を倒せば魔族だって魔力を使えず、力も寿命も人間と変わらなくなる」 

巫女「たとえ倒しても魔王は生まれ変わるからまた元に戻るわ。共存は無理よ」 




















~数日後~

ボス「行けども行けども砂漠だな」 

勇者(二人とも疲れているようだ…。そろそろ何処かで休まないと)

巫女「あ、あれは小屋じゃない?」 

勇者「ああ、あの小屋で休もう」 


キイ… 


勇者「お邪魔します…」 

ボス「誰もいないか?」 


シーン… 


勇者「ああ、いないな。巫女も入って」

巫女「随分埃っぽいわね。ボスさん、火をつけて」 

ボス「おう」ボッ 

勇者「小屋と言うよりこれは家か?」 

巫女「見て、手紙がある。でもこれは魔族の文字かしら?」 

ボス「貸してみろ」ペラ 



───── ───── ───── ───

お父さんへ


おかえりなさい。 

元気ですか?

ご飯はちゃんと食べていますか? 


お父さんが出稼ぎに行ってからすぐに、この村に伝染病が広まりました。 

偉い人がお薬を配ってくれて、伝染病はなくなりました。 

でもお母さんもお姉ちゃんも弟も、薬を貰う前に死んでしまいました。 


それから偉い人が私を王都に連れてってくれるそうです。 

偉い人はおかしな事を言ってたけど、私はもう食べる物を心配しなくても良いって事だと思います。 

なので私の事は心配しないで下さい。 


偉い人はお父さんも歓迎してくれるそうです。 

私は王都に行きます。 


お父さん、この手紙を読んだら王都に来て下さい。 

待ってます。 

───── ───── ───── ───



勇者「伝染病?」 

巫女「でもこれは随分昔の物のようだから、今は大丈夫じゃないかしら?」 

勇者「この手紙の子」 

ボス「ん?」 

勇者「お父さんと会えたのだろうか?」 




















~魔王城~

側近「勇者がとうとう城下まで来たそうです」 

魔王「そうか」 

側近「宝箱の中身に使用期限を超えた物が幾つかありますが、いかがしましょうか?」 

魔王「そのままでよい」 

側近「え?」 

魔王「多少期限が過ぎておっても、あやつらなら大丈夫だろう」 










勇者「さすがに魔王城の中の魔物は外の魔物よりも更に強いな…」 

勇者「かすり傷を負ってしまった…」 

ボス「本当にお前は人間じゃないな」ボロボロ 

巫女「ええ、本当に」ボロボロ 

ボス「あれは宝箱じゃないか?」 

勇者「本当だ。回復アイテムは入ってるか?」 

巫女「罠かもしれないから気をつけて」 


ギイ… 


勇者「これは…」 

巫女「傷薬?だけど」 

ボス「腐ってやがる…」 



ボス「巫女、治してくれてありがとう。流石は元僧侶だぜ」 

巫女「どういたしまして」 

巫女「勇者はどうする?」 

勇者「かすり傷だし、俺はいいよ。舐めれば治る」 

巫女「昔っから勇者は頑丈だもんね」 




















コンコン 


魔王「入れ」 

側近「失礼します。魔王様?何をされているのですか?」 

魔王「ちょっと調べ物だ。それより何かあったのか?」 

側近「勇者どもが魔王の間の近くまで来ております」 

魔王「そうか、分かった。直ぐに準備する」 

側近「では私も配置に就きます」 

魔王「側近……そなたも行くのか?」 

側近「もちろんです。私は魔王様の側近ですから」 

魔王「……そうだな」

魔王「出陣前にひとつ、そなたに命令がある」 

魔王「“絶対に死ぬな”」 

側近「!」 

側近「はっ!分かりました!」 










~魔王の間・入り口前~

勇者(何だこの魔物…強い!) 

側近「ふはははは!勇者、息が上がっておるぞ!」 

勇者「くそっ」 

ボス(後ろがガラ空きだ!)スゥ 


ゴオオオオ! 


側近「チッ…炎使いめ!」 

勇者「覚悟しろ!魔物が!!」タタタッ 

側近「」ニヤリ 


グサッ!


側近「うぅ…」 


バタッ
 

巫女「勇者!何をしているの!」 

勇者「なぜ今の攻撃をわざと避けなかった…?」

側近「さて、何の…事だか?」ヒュー… 

勇者「あの子はどこだ?」 

側近「あの子…魔王様か……」

側近「すぐに会える……さ…」ガクッ 

勇者「どういう意味だ!」 

ボス「やめろ、そいつはもう死んでいる」 

勇者「でも、こいつはあの子を、魔王を知っているようだったのに──」

巫女「勇者、しっかりしなさい!貴方、やる気あるの?」 

勇者「……」 

巫女「貴方は勇者なの!相手が誰であれ、魔王を倒さなければいけないの!」 

勇者「……分かっているよ」










~魔王の間~

巫女「寒い…」 

ボス「それに随分と広い部屋だな」 



??「思ったより早かったな」 



勇者「その声…魔王か!?」 

魔王「ああ、久しぶりだな」

魔王「勇者よ、よくぞここまで参った」 

勇者「あの時、急にいなくなるから心配したんだぞ!」 

魔王「…そうか」

魔王「それよりこの部屋の前に我輩の側近がいたはずだが、そやつはどうした?」 

勇者「この部屋の前にいた魔物の事か?」 

ボス「悪いがそいつは死んだよ」

魔王「…そうか」 

魔王「側近は我輩が子供の頃から面倒を見てくれた」 

魔王「悪さをした時はよく叱り、魔王としての道を説いてくれた」

魔王「側近はな、我輩にとって父親の様な存在だった…」 

魔王「よくも殺したな…」スッ

勇者「魔王?一体何を言って──」

巫女「危ない!勇者避けて!!」 


ドカーン! 


勇者「なっ!何で…魔王?」 

ボス「勇者!いい加減に現実を見ろ!」 

勇者「ボス、何の事だよ…」 

ボス「こいつが正真正銘の魔王だ!」 

勇者「!?」 

ボス「俺らが倒すべき相手なんだよ!」 

勇者「そんな!嘘だろ!?」

勇者「魔王!!」 

魔王「嘘ではない」 


魔王「これで終わりだ。死ね、勇者」


バターンッ!


タタタタタタッ… 


魔王「!!」

魔王「勇者が…逃げただと?」 

魔王「はあ…普通、魔王の眼前で勇者が逃げるか…?」 

魔王「さて…そなた達はやる気があるのか?」 

巫女「くっ」 

ボス「……」 

魔王「いい目だ。二人まとめてかかってこい」










勇者「はあ…はあ…」 

勇者(嘘だ!魔王が…本当に魔王なはずがない!) 


タタタタッ 


勇者(あんなに楽しかったじゃないか!) 

勇者(一緒に馬鹿な話をして笑ったり、俺が困っていたら必ず助けてくれたり…) 

勇者(あれが全部嘘だったって言うのか!?) 



『あー…マイクテスト、マイクテスト…』 


『勇者?聞こえているかー?』 


『そなたが逃げた所為で、ボスと巫女は死んだ』 



勇者「!?」 



『そなたがここから逃げれば、もっと大勢の者が死ぬぞ?』 


『そなたはそれを望むのか?』


『我輩が知る勇者は、誰も死なない事を望むはずだ』


『なら、逃げるな』 



勇者「……」 










魔王「戻って来たか」 

勇者「ああ…本当にボスと巫女を殺したのか?」 

魔王「何だ?死体でも見てみたいのか?」ニヤリ 

魔王「代わりにこれを見せてやろう」 

勇者「火の石と水の石?」 

魔王「ああ、あやつらの遺品だ」 

魔王「勇者よ。ボスは魔王を倒し、混血の差別撤廃を国王に訴えようとしていた」

魔王「いや、それだけじゃない。愚かな事に魔族との共存を望んでいた」 

魔王「絶対に不可能なのにな」クスクス 

勇者「不可能なんかじゃない!」 

魔王「何を根拠に──」

勇者「俺と君だ!」 

魔王「!」

勇者「俺も魔族とは野蛮な連中と聞いていたし、そう思い込んでいた」

勇者「君と出会うまではな」 

魔王「……」 

勇者「でも魔族だって人間と変わらない!」 

勇者「ここに来る途中の空き家に手紙があったよ」 

勇者「その子は家族を失い、自分もどこかに連れ去られようとしているのに、父親の心配をしていた」 

勇者「そんな子が魔族の中にもいるんだ。だとしたら、人間と変わらないじゃないか?」 

魔王「相変わらず甘いな、勇者は」 

勇者「改めて聞きたい。本当は君が真の魔王に操られている」

勇者「こういう事ではないんだね?」

魔王「何だそれは?そなたの願望か?」 

勇者「ああ、そうだよ」ジャキッ 

勇者「君を倒して、真の魔王を誘き出してやる…!」 


パアアア! 


魔王「なに!?石が光って…あ!」 

勇者「火の石と水の石が、勇者の剣に溶けていく……!」

勇者「あの錆びた剣がまるで新品の様に……!」

魔王「…ふん。剣の外見が変わっただけだろう」スッ 

魔王「死ね」スッ 


ドカーン! 


パラパラパラ… 


魔王「意外と呆気なかったな」 

勇者「誰が呆気ないって?」 

魔王「いつの間に!?」 

魔王(くそっ!背後を取られた!) 


ヒュンッ 


ドカーン! 


勇者「外したか…」 

魔王(危なかった…) 

魔王「流石だな。あと1秒でも遅れていたらもろにくらっていたよ」

勇者「次は外さないぞ」 

魔王「……」スゥ 




















魔王「はぁ…はぁ…」 

勇者「はぁ…はぁ…」 

勇者(俺の体力は残り少ないが、魔王だって似た様なものだろう) 

勇者(次の攻撃で、全てが決まる!) 

勇者「おおおおお!!」 

魔王「……」 


ザシュ!


勇者「え…?」

勇者「何故…だ?」 

勇者「俺はただ、動きを止めるつもりで……」ガタガタ 

魔王「ああ、分かってる…」グラ… 


どさっ 


勇者「魔王!?」 

勇者「こんなに血が…!」

勇者「くそっ、今助けてやるからな…!」 

魔王「…いい、やめろ」 

勇者「くそっ!どうして本物の魔王が出て来ない!?」 

勇者「君にこの剣を刺すつもりはなかったんだ!」 



巫女「そうね。彼女はわざと胸を貫かれたわ」 

勇者「巫女!?」 

ボス「勇者、お前の所為じゃないぜ」

勇者「ボス!?」

勇者「どうして二人とも──」

巫女「私達を殺したって言うのは彼女のお芝居よ」 

勇者「そ、そうなのか?じゃあ巫女!魔王の傷を治してくれ!」 

巫女「それは出来ないわ」 

勇者「どうしてだよ!?」 

魔王「それは、我輩が頼んだからだ…」 

勇者「!?」 

魔王「二人は…約束した…」

魔王「魔族との、共生を…」 

勇者「共生?さっき自分で無理だって言っていたじゃないか」 

魔王「勇者の癖に…そんな悲しい事を言うでない」

ボス「俺達は魔王退治の褒美の願いを魔族との共生にした」 

勇者「じゃあ、魔王を退治したふりでも良かったじゃないか!」 

巫女「魔王がいなくなれば、魔族も人間と寿命も力も変わりなくなるわ。だからこうするしかなかったの」 

勇者「そんな…」 

魔王「勇者、我輩も同じだ。人間なんぞ、のうのうと豊かな土地に暮らし、我々を忌み嫌う、嘘つきな生物と教わった」 

魔王「そなたと出会うまではな」 

勇者「魔王…」 

魔王「だから我輩は…信じてみようと思う…」 

魔王「だが…ごほっごほっ…惜しいのは……共生の行方を…見届けられない事だ…」 

勇者「……」

魔王「勇者…」 

魔王「そなたと出会えて……本当に良かった」






























~50年後・サカイ町~

巫女「久しぶりね。ボスさん」 

ボス「ああ、何年ぶりだろうか?」 

巫女「随分この町も賑やかになったわね」 

ボス「魔王退治後、王様の計らいで子供達の教育も行き届き、非人道的以外の産業も樹立できた」 

巫女「それもあるけど、貴方の手腕も大きいんじゃない?市長さん」 

ボス「からかうな。いつもの呼び方をしてくれ」 

ボス「それから見てくれ。あそこの公園を」 

巫女「ん?子供達がどうしたの?」 

ボス「人間の子もいれば、魔族の子もいるんだ」 

巫女「凄いわね…。私達の若い頃では考えられなかった事よ…」 

巫女「彼女にもこの光景を見せてあげたかったわね」

ボス「……」 

巫女「彼女と言えば、勇者は何処へ行ったのかしら?」 

巫女「勇者もこの町に来ているんでしょう?」 

ボス「勇者はあそこだ」 




















兵士「ちょっと止まって!止まれって言ってんだろっ!ジジイ!」 

??「ん?すまない。耳が少し遠くて、よく聞こえないんだよ」 

兵士「だーかーらー、ここは立ち入り禁止なの!!」 

??「ん?何だって?」 

兵士「だーかーらー!」

隊長「どうした?大きな声を出して」 

兵士「こっこれは隊長殿!?」ビシッ 

兵士「この不審人物が侵入しようとしましたので──」

隊長「……」 

兵士「どうしたでありますか?隊長殿?」 

隊長「馬鹿者!この方を誰だと思っている!?」 

兵士「へ?」 

隊長「あの魔王を倒し、人間と魔族の共生を実現させた勇者様でいらっしゃるんだぞ!」 

兵士「えー!?このジジイが!?」 


ガツン 


兵士「いったぁ…」 

隊長「大変失礼致しました!勇者様!」 

勇者「通ってよいのかのぅ?」 

隊長「ええ、どうぞ」 


スタスタ… 



兵士「今のが勇者様か…」

兵士「てか隊長殿!頭が痛いでありますよ!」

隊長「あの方がいなければ、今の私の拳骨でお前の頭は潰れてたな」 

兵士「ああ、隊長殿は魔族の出身でありましたね」




















~旧・魔王の間~

勇者「久しぶりだね、魔王」

勇者「君はいつ見ても変わらないね」 

勇者「サカイ町に寄ったよ。昔より明るくてとてもいい町になっていた」 

勇者「それに人間や魔族という概念も、だんだん廃れつつあるんだ」 

勇者「それは皆が努力したというのもあるけど」

勇者「一番は君のおかげだよ」 

勇者「この勇者の剣は…魔王の魂を肉体に繋ぎ止める役割をしている」

勇者「そして君は死なず、新たに魔王も誕生しない。魔族は人間と力も寿命も変わらなくなった」 

勇者「ただ、人間同士の争いが代わりに多くなったかもしれない」 

勇者「だったら、この剣を抜いてしまってもいいんじゃないかと、ちょっと思うんだ」 

勇者「でもそんな事をしたら、君は凄く怒るんだろうね」クスッ 

勇者「ハジマリの村に残り続けたのは村人を守る為だったけど」

勇者「今思うと、それだけじゃなかったのかもね」

勇者「もしかしたら──」





 君 と 旅 を す る 為





勇者「だったかもね」





     ── END ──

























































































































































































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