【サクッと読める】2ch名作スレまとめ

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勇者「もうがんばりたくない」

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~王城~

国王「そなたが選ばれし勇者だと神託があったのだ」 

青年「私が……勇者ですか」 

国王「勇者よ、死にかけた我が国をどうか救ってほしい!!」


100Gを手に入れた


青年(これだけで旅に出ろと……?) 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

村長「どうかこの村を救って下され!」 

僧侶「勇者様、彼らを助けてあげましょう!」 

戦士「勇者ならやるべきだ!」 

勇者「うん…」 

勇者(お城の兵士をこっちに回せばそれで事足りるような相手なのに…) 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

スライム娘「……」ギュッ 

勇者「……」 

村長「こ、この村を荒らしていた魔物は勇者の仲間だったのですかな?」

僧侶「いえ、どうやら懐いてしまったようなのです」 

村長「左様ですか…」

勇者「……」

村長「ありがとうございました」 

勇者「え?」 

村長「勇者様はお急ぎの旅をしているのでしょう?早く旅立ってはいかがかと」 

勇者「……」 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

関所兵士「魔物を連れているなど貴様が勇者なわけあるか!」 

関所兵士B「殺せ!!」 

勇者「や、やめて!この娘は悪い魔物じゃないのに!」 

スライム娘「…っ」ビクビク 


ズバッ 


勇者「ああっ!!」ドサッ 

僧侶「勇者様!」 

戦士「通行証が見えねえのかよてめぇらァァ!!」ズバッ 

勇者「だ、だめだよ……」

勇者「争い合ったら……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「勇者は殺人鬼だー!!」 

「この街から出て行けー!!」 

僧侶「あわわわ、逃げましょう勇者様!」 

勇者「で、でも、戦士さんの解毒薬が買えない…」 

戦士「ア、アタシはいい、逃げよう……」 

勇者(あの時、ちゃんと関所の兵士達と和解してれば……) 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

騎士「国王はお前たちを切り捨てた。新たな勇者も見つかったそうだしな」 

僧侶「では!我々への支援は──」

騎士「無くなる」 

僧侶「そんなっ!」

騎士「話は終わりだ。ここでお前達には死んでもらう」 

勇者「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エルフ「……」 

勇者「あの…」 

エルフ「疲れてる、休め、寝る?食事?」 

勇者「え、えっと、あの」 

僧侶「このエルフ、私達を村か何かに案内してくれるのかも」 

戦士「そりゃいい、休みたいしな」 

勇者「……」 

勇者(何だろう、何度か見た事ある気がする) 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

勇者「なんで!?なんで僕たちを騙すの!?」 

エルフ「人間は私達エルフの敵、それだけ」

戦士「勇者に助けて貰った癖に恩を仇で返すのかよ!!」 

エルフ「ケラケラケラ」 


ガッ‼︎     ガッ‼︎


僧侶「」ビチャッ 

勇者「なんで……なんで………助けてあげたのに……」 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

戦士「……」フラフラ 

勇者「もう少しだよ、がんばって…」 

戦士「……」

戦士「なぁ勇者」

戦士「もう少しってさ、何がもう少しなんだよ」 

勇者「村だよ!さっきの村人がくれた地図だとこの先に──」

戦士「勇者……」 

戦士「がんばり屋だなぁ…おまえ」 

勇者「戦士まで死なせないよ!当たり前でしょ!?」 

戦士「……」 

戦士(故郷にも帰れなくて、村や町にも受け入れて貰えない) 

戦士(それどころか、世界を救うには人間だって敵になる)

戦士(なのに、よくがんばれるよなぁ) 


ドサッ 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

四天王「ぐあ……」

四天王「勇者、何故それほどまでの力を有していながら人間の味方をする」 

勇者「……しらない」 

四天王「数多もの村や町を救い、世界を救う為に戦って何が楽しい!」 

勇者「……楽しくない」 

四天王「どのような理由がお前を動かす」

勇者「……わからない」

勇者「もういい…」 

勇者「もう……いいんだ」 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

魔王「……」 

勇者「来ないの…?」 

魔王「先程から貴様が無言なのでな」 

勇者「疲れちゃった」 

魔王「ほう」 

魔王「何故に」 

勇者「……わからないよ」 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

魔王「ぐぉぉお……バカな…」 

勇者「……」 

魔王「そなた、何故泣いている?我を倒して嬉しいか」 

勇者「……もういやだ」 

魔王「…?」


ドバン!


騎士「突撃だ!!今ならば勇者も魔王も弱っている!!」ドドドド 

魔王「!?」 

勇者「……」 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

騎士「」ドサッ 

勇者「……」 

魔王「ハァ…ハァ…」 

勇者「……」 

勇者「これで…いいのかな」

勇者「あとは魔王が死んだら……何か変わるかな」 

魔王「……さぁな」ハァ…ハァ

勇者「……」

魔王「勇者よ」 

勇者「なに」 

魔王「そなたの目、何故に死んでいるのだ」 

勇者「……」 

魔王「ハァ…ハァ…我の生もあと僅か…」 

魔王「教えよ勇者」

魔王「何故……そなたの目は死んでいるのだ」 

勇者「……」

勇者「もう…見える必要がないから」 

魔王「何故回復させない…?魔法は使えただろう」 

勇者「傷を塞ぐ必要がないから」 

魔王「死にたいのか?」 

勇者「……」

勇者「生きるだけの……がんばれる気力がないから」 

魔王「……」

勇者「もうやだよ…いやなんだ…」 

魔王「……」

勇者「『勇者なのに』『いい大人なのに』って弱音を吐いたら怒られるしだらしないって言われる」 

魔王「……」

勇者「僕はがんばって皆を助けたよ」 

勇者「ただ御礼が欲しいのに、嫌な顔してお金を渡されるんだ」 

勇者「泊めてって頼むと僧侶の体を欲しがってくるんだ」 

勇者「怪我をした魔物を助けても怒られる、口答えすると罪人になる」 

勇者「がんばってもがんばっても、僧侶は死んだ、戦士も死んだ」 

勇者「みんな、僕ががんばれるようにって、一人で寂しくないようにって派遣されたただの一般人だよ」 

勇者「でも僧侶は少しでも役に立ちたいって魔法を覚えてくれた」 

勇者「戦士も普通の女の子だったのに、僕が勇気出るようにって、勇ましくいてくれた」 

勇者「でも、どれだけがんばっても無駄になるんだ」 

勇者「泣いても誰も優しくしてはくれなかった」 

勇者「沢山優しくしても、助けても、笑っても、がんばっても……」 

勇者「……」 

魔王「勇者…そなたは…」 

勇者「魔王、僕は勇者になる前からこうなんだ」 

勇者「お母さんに褒めて貰いたくて書記官の勉強をしてもね」 

勇者「好きな女の子に振り向いてほしくて体を鍛えてもね」 

勇者「一杯一杯……努力してもね……」ポロポロ 

勇者「“報われない、優しさのない世界”なんだ」ニコッ 

魔王「……」 

魔王「勇者よ、我の生が尽きた時、この城は崩れる」 

魔王「その際に我が座っていた玉座の隠し通路が開く」 

勇者「……」 

魔王「そなたの願いを叶える秘宝、くれてやる」 

魔王「その代わり、約束せよ」 

魔王「その願いを無駄にせぬよう、そなたのやり方で“がんばる”のだ」 

魔王「ぐっ……ゴフッ」 

魔王「さぁ、そなたの願いを聞かせてくれ」 










ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 





勇者「……」フラフラ 

勇者(隠し通路……)フラフラ 

勇者(罠、かな) 

勇者(もういいや……このまま死んでも)

勇者「……」

勇者「……え?」 

勇者「これが……魔王の言ってた秘宝?」 

勇者「……」 



『さぁ、そなたの願いを聞かせてくれ』 



勇者「……」フラフラ 

勇者「お願いです……私の願いを叶えて下さい……」 










   も う が ん ば り た く な い




















───── ───── ───── ───

「……起きて」 

勇者「」 

「起きなさい」 

勇者「……」

母「起きなさいな!今日は大切な試験日でしょ!?」 

勇者「!!」ガバッ

勇者「なっ……お、お母さん?」 

母「早く行かないと復習する時間もなくなるよ!」 

勇者「……」 

勇者(これは……夢?) 

勇者「お母さん……今日ってなんの試験日?」 

母「はぁ!?馬鹿な事言うんじゃないよ!!」バシンッ 

勇者「いてっ…」 

母「今日は『第二次書記官試験』の日でしょうに!」 

勇者(書記官の……試験日…?) 










勇者「……」


「今日は城で書記官試験があるらしいな」 

「ほら坊主!屋台を出すから手伝え!」 

「うへぇ……」 

「はい、いらっしゃいいらっしゃい!!」 


勇者(どういう事だろう……) 

勇者(これじゃまるで……過去の世界に来たみたいだ) 

勇者(仮にここが過去の世界だとしても) 

勇者(僕は……) 

勇者「僕は………どうしてここに?」 

勇者「……」

勇者(どうしても思い出せない。確か僕は魔王を倒して……それから……それから) 



『──願いを叶えて下さい』 



『もうがんばりたくない』 



勇者(!!) 

勇者(僕は何かに願いを告げた…?) 

勇者(これは僕の願い?過去に戻る事が?) 


ドンッ
 

勇者「っと」 

女「す、すいません!お怪我は?」 

勇者「平気だよ」 

女「そうですか!では私はこれで!」 

勇者「うん、試験がんばってね」 

女「はい!」タッタッ 

勇者「……」 










~噴水広場~

勇者「……」

勇者(これが僕の願いなわけない) 

勇者(過去に戻ってもどうしようもないじゃないか) 

勇者(さっきの女の子は試験に合格していた)

勇者(だけど、僕は違う) 

勇者(僕は試験に落ちて、お母さんに幻滅されて……)

勇者(それから数ヵ月、僕はお母さんに何度も落ちた事を責められる) 

勇者(それが僕の過去なのに) 

勇者「……」 



「試験お疲れ様」

勇者「!?」 

「って言いたかったのにな」 

勇者「?」

「こんなところでなにしてるの?勇者」 

「あ、隣に座っていい?」 

勇者「……うん」 

「よいしょ」 

勇者「……」

「……」

勇者「ごめん、君は誰かな」 

「……?」 

勇者「君」 

「私?」 

「誰かなー?」 

勇者「……」

勇者(こんな娘は居なかったはず…。となるとこの目の前にいる女の子) 

勇者(魔物、もしくは罠……?この世界は虚実なの?) 

「……」クスクス

「ごめんなさい」 

勇者「え」 

「初対面だよ、私と勇者は」 

勇者「でも、名前を……」 

「やっぱり気づいてないんだ。手に試験参加要書を持ってるの」 

勇者(あ、これを見たから名前を……) 

「驚かせてごめんね」 

勇者「あ、いや、うん」 

「試験、どうして行かなかったの?」 

勇者「受からないから、かな」 

「だからがんばらないで逃げたんだ」 

勇者「そうだね」 

勇者「……」 

「お疲れ様、勇者はよくがんばったよ」 

勇者「何を……?」 

「勉強、不安、不満、悲壮、つらいこと」 

勇者「どういう事かな」 

「理屈なんて要らないよ。勇者はがんばった」 

勇者「…?」










勇者「……ただいま」 

母「お帰り。試験の結果は?」 

勇者「落ちたと思う」 

母「!!」 

勇者「何を言われても構わないよ」

勇者「僕はもう限界なんだ」 

母「なっ、待ちなさい!あんた何を考えて…!!」 

勇者「出ていくよ。もうお母さんにまた同じ事言われたくないんだ」 

勇者(もう…耐えたくない) 










~教会~

神父「……おや」 

勇者「こんばんは」 

神父「こんばんは、どのような用件かな」 

勇者「すいません。1日だけ泊めて頂けますか」 










勇者「……」 

勇者(これからどうしたらいいんだろう) 


コンコン
 

勇者「はい?」 

僧侶「神父様があなたに飲み物をと」ニコリ 

勇者「そこに置いといてくだ──」 

勇者「!!」

僧侶「?」 

勇者「そ、僧侶さん!?」 

僧侶「あれ?どこかでお会いしましたか?」

勇者「…っ」 

勇者「……」

勇者「僧侶さん、この教会にいたんですね」 

僧侶「はあ、そうですが」 

勇者「……」 

勇者(僕と出会う前の僧侶さん……) 





バタンッ!


勇者「……」


『わ、私僧侶って言います!まだ初歩的な回復魔法しか使えませんが……勇者さんの役に立ちたいです!』 


勇者「……」ポロポロ 


『こんな魔物もいるんですね!敵意は無いみたいですし見逃してあげられませんか?勇者様』 


勇者「あの優しい目は今も未来でもそのままだったんだね」










~翌日~

勇者「……」

「あら?勇者じゃない」

勇者「!」

「凄い偶然ね。まさか同じ教会で一泊してたなんて」 

勇者「本当だね」

勇者「えっと…」

「名前?」 

勇者「そうそう」 

「ふふ、好きに呼んでいいよ」 

勇者「えぇ…」 










「結局名無しなんだね」

勇者「君が自分から言いたくないなら、僕は無理に名前を呼ぼうとはしないよ」

「そうなんだ、ありがとう勇者」

勇者「うん」

勇者「……」チラッ

「さて、何食べに行こっか?」

勇者(地元では見た事ない、綺麗な水色の髪の毛)

勇者(とても綺麗な肌)

「綺麗かな?」

勇者「うん……え?」

「ふふ、ありがとう」










勇者「……」

「美味しそうな料理だね、早く食べたいな」

勇者(さっき……)

勇者(まるで心でも読まれたみたいな気分だったなぁ)

「顔赤いよ勇者、まだ恥ずかしいの?」

勇者「いや、何て言うのかな……あはは」

「楽しい?」

勇者「楽しいって、なにが?」

「………何でもない」

勇者「?」










「……ご馳走さま」

勇者「?」

勇者「まだ残ってるよ?」

「ちょっとお手洗い行ってくるね」

勇者「……」

「それと…またね、勇者」ボソッ

勇者「……」

勇者(なんか不思議な娘だなぁ。僕でも疲れてきた)


バンッ!


店の扉が強く開く


「この店に『勇者』とかいう奴はいるか!!」

勇者「!?」ビクッ










~王城~

騎士「国王様、例の者を連れて参りました」

国王「御苦労」

勇者(な、なんだこの状況……?)


ジャラッ


勇者「この手枷…外して貰えますか」

騎士「駄目だ」

勇者(まるで犯罪者扱い……)

国王「勇者よ、そなたにはこのワシから話があって呼び出したのだ」

勇者「国王陛下が私のような職にもついていない若僧にどの様なお話しが?」

国王「ふむ、実はな」

国王「そなたは選ばれし勇者だと神託があったのだ 」

勇者「……え?」

国王 「魔物共の脅威に晒されている我が国をどうか救ってほしい、勇者よ!!」

勇者「なっ……なっ……」

勇者(なに……これ)

勇者(昨日が書記官試験日なら僕が勇者になるのはまだ2年は先のはず)

勇者(なぜいま勇者に……!?)

国王「勇者よ、引き受けてくれるな?」

勇者「……」










騎士「フン、明日再び城まで来い」

騎士「改めて貴様の使命を確認させるのと、国王様から資金が与えられる」

勇者「100Gぽっちの資金でしょう」

騎士「貴様、切り捨てられたいか?」

勇者「……」


「あ!いたいた、勇者おかえりなさい」


騎士「チッ……命拾いしたな」ボソッ

勇者「では改めてまた明日」

騎士「フン……」ザッザッ



「今の人は?」

勇者「騎士団長だよ」

「偉そうだったね、勇者の方が凄いのに」

勇者「どうかな、僕なんて……」



『 勇者は殺人鬼だー!!』

『国王はお前たちを切り捨てた。新たな勇者も見つかったそうだしな』

『 話は終わりだ。ここでお前達には死んでもらう』



勇者「……」

勇者(何一つ、報われない)

「……」

勇者「……」

「ねぇ勇者、今夜泊まる所ないでしょ?」

勇者「え…?」

勇者「うん…」

「なら噴水広場に行こうよ。泊めてくれる親切な人がいるかも」

勇者「?」










ウェイトレス「……」

ウェイトレス(アタシが……アタシが……)

ウェイトレス(親に何て言えば良いのかな)

ウェイトレス「……」


勇者「もう誰もいないよ。日が暮れて来たし」

「ねぇ、あの人は?」


ウェイトレス「……」ウーン


勇者「えーと、すいません」

ウェイトレス「はい!?」ビクッ

勇者「あの、この辺りで一泊させてもらえる場所ってあるかな」

ウェイトレス「一泊?宿屋なら」

勇者「お金なくて…」

「勇者、警戒されてない?」

ウェイトレス「お金ないなら諦めた方がいいわ」

勇者「ですよね、すいません」

「元気出して勇者、仕方ないよ」

勇者「ああ、うん……。撫でなくていいから」

ウェイトレス(……えっ?)

ウェイトレス(勇者?)

ウェイトレス「ちょっと待って!勇者って…明日正式な任命を受ける勇者よね!?」

勇者「そ、そうだけど?」

ウェイトレス「まさかここで出会うなんて!」

勇者「…!」

勇者(この子、まさか…)



女戦士『がんばり屋だなぁ…おまえ』



ウェイトレス「?」

勇者「君が…女……戦士?」

ウェイトレス「!」

ウェイトレス「騎士様から私の話が伝わってたんですね!!」

勇者「じゃあやっぱり君が女戦士さん!?」

ウェイトレス「は、初めまして勇者様!今夜泊まる所が無いなら私の家に来てください!!」

勇者「……」

「ほら、ね」クスクス










ウェイトレス「」スゥ  スゥ

勇者「……」

「寝ちゃったね」

勇者「楽しそうだったしね。きっと色々想像したら疲れちゃったんだよ」


パサッ


勇者「お休みなさい、女戦士さん」

勇者「……」ポロポロ

「……」

「この人は勇者にとって大切な人だったもんね」ボソッ










~翌日~

国王「これより任命式を行う」

騎士「勇者とその使命に付き従う者達は前へ」


ザンッ!!


勇者「……」

僧侶(ゆ、勇者様ってこの間の……!?)

女戦士(こ、この防具、何でこんなに露出多いのよ……!!)

国王「王としてそなた達に与える権限は──」

勇者(やっぱり話が長いなぁ)

勇者「……」

勇者「王様」

国王「なんだ?」

勇者「何故に彼女達も同行させる必要があるのですか?」

国王「それについては今から言おうと思っていたのだ」

国王「勇者、そなたがやるのは魔物狩り……つまりモンスターハンターになる事だ」

勇者「…!」

勇者(モンスターハンター?どういう事だ…)

国王「近年我が王国の周辺や内部では多数の魔物が増えている」

国王「そなたは勇者として我が王国の秩序を守る為に戦い続けるのだ」

騎士「薄汚い魔物共の親玉も探し出して……な」

勇者「……」

勇者「王様、私には仲間という存在は不要です」

僧侶(!)

女戦士(え…)

国王「勇者よ、まだそなたは未熟だ」

国王「今のそなたでは騎士団長にも敵うまい」

騎士「全くですな」

国王「そなた一人では魔物に太刀打ち出来ぬ。その者達がいるだけでもマシになろう」

勇者「彼女達は貴方の兵士でも駒でもないッ!!」

国王「!?」ビクッ

勇者「僧侶さんは今まで孤児だった自分を拾ってくれた教会で、沢山の人を自分のように困っていれば救いたい」

勇者「そんな想いで誠実に優しく生きて来たんだ!!」

勇者「女戦士さんもだ!彼女は貧しい暮らしをしている両親の為に必死で働いていた!」

勇者「それが、僕のような人間の為に両親への仕送りを止めるなんて間違ってる!!」

騎士「口が過ぎるぞ小僧ッ!!国王に謝罪せよ!!」

勇者「断る」

騎士「貴様……国王、抜刀の許可を!!」

国王「落ち着け騎士団長。相手は若い未熟者だぞ?」

国王「勇者よ、今ならば若さゆえの過ちと見逃そう……。だが、尚の事撤回せぬというのならば──」

国王「騎士団長、ここはそなたの実力を見せてやれ」

騎士「御意に」ザッ!

勇者「……」

勇者(これが……本質)

勇者(僕があの日、勇者として忠誠を誓った人間、がんばる意味の象徴)


ヒュッ……ガツンッッ!!


勇者「……」スタッ!

騎士「ッ……!?」ドサッ

国王「……?」

勇者「王様、騎士団長など私の敵にすらなりません」

国王「ば、馬鹿なっ……」

勇者「もう一度申し上げます。私ひとりで十分です。彼女達を巻き込む必要なんてない」

勇者「勇者は……一人で戦っていれば誰も傷つかなくて良いのです」

僧侶(勇者様……なんて誠実な方なんでしょう)

女戦士(……)

国王「……」

国王「良かろう。ではそなた一人でこれから頼んだぞ」

勇者「ありがとうございます」ザッ










勇者「はぁ…」

「おかえりなさい」

勇者「え、待ってたの?」

「うん」

「!」


戦士「勇者様……」

勇者「……」

(私はお邪魔かな)ソソッ


女戦士「どうして……ですか?昨夜はあんなに楽しそうな冒険の話をしたのに」

勇者「6年だからだよ」

女戦士「6年…?」

勇者「そう、6年」

勇者「6年間という長い旅で楽しかった思い出は、あれしかないんだよ」

女戦士「……」

勇者「僕は今……“本来は”24になる。それでも昨日話したのが楽しい冒険譚の全てなんだよ?」

女戦士「何を言っているのか、わからないです……」

勇者「“君は必ず死ぬ”」

勇者「そう言ってるんだ」

女戦士「っ!!」ビクッ

勇者「僕は君を守れない、絶対に」

女戦士「あんなに、あんなに強いのに……?」

勇者「そうだよ」

勇者「僕は回復魔法が使えない。もしも君が毒に侵されても僕は見ている事しか出来ない」

女戦士「だったら絶対に私は毒に侵されたりしません!!」

勇者「なら君はメデューサの石化で死ぬ、エルフの幻覚魔法で死ぬ、魔王の配下に殺されて死ぬ」

勇者「僕にはもう出来ない。大切な人が死ぬ姿から目を逸らしてがんばる事なんて出来ないんだよ!!」

勇者「君はもう忘れろよ!!日常に戻って平凡で幸せな毎日を作れよ!!」

女戦士「ひ……」ビクッ

勇者「もうがんばりたくないんだよ!僕は!!」

女戦士「……っ」ビクビク

女戦士「……ごめんなさい」ボソッ


タタッ!


勇者「……」


「がんばったねぇ勇者」


勇者「!」

「お疲れ様、帰ろう?」

勇者「…帰る?」

「うん、帰ろ」










~宿屋~

勇者「……」

「当分はここで良いんじゃないかな」

勇者「5日しかもたないと思う」

「一部屋10Gだよ? 十日もあればすぐに勇者にお金いっぱい入るよ!」

勇者「……君も同じベッドで寝る気?」

「うん」ニコリ

勇者「……」

勇者(何でだろう、この子)

勇者(僕と同じ……同じ目をしてる)










~数日後~

リザードマン「」


ドサッ


勇者「……」スタッ!

勇者(これで西城下町周辺の魔物は最後)

勇者(数は大したことない。でも……数日前の早すぎる勇者任命の時と同じで“おかしい”)

勇者(リザードマンは魔王城に仕える、言わばドラゴン族の精鋭だ)

勇者(そんな大物がこんな城下町周辺を襲ってるなんて……)

勇者(この世界は僕のいた世界とは違う世界なのか?)










町長「も、もう魔物を退治されたのですか!?」

勇者「ええ、これで被害も止まるはずです」

町長「素晴らしい……流石は神託の勇者様ですなぁ」

町長「どうぞ、今回の謝礼金です」


ジャラッ


勇者「町長さん」

勇者「200Gあれば十分です。お金より僕は──」

町長「感謝の気持ちならあるよ、君の奥さんから話を聞いた」

勇者「!」

勇者「すいません、その奥さんの特徴を教えて下さい」










勇者「君ね……」

「?」

勇者「僕の奥さんだって言った上に泣いたでしょ」

「うん」

勇者「町長さんが同情して700Gくれた」

「凄い凄い!強い魔物が出たの!?」

勇者「分かるの?」

「国王は勇者が倒した魔物に比例して報酬を払うように呼び掛けまわってるんだと思う」

勇者「……」

「勇者は優しいから、お金いらないって言うと思ってた」

「だからちょっと泣いてみたの」





「それじゃ今日の夕御飯の材料買ってくるねー!」

勇者「……気をつけてね」

勇者(あの子、初めて会った時からそろそろ一週間だけど)

勇者(日を重ねる毎に僕に懐いてる気がする)

勇者「……」

勇者(疑いたくはない。でもあの子はあまりにも……僕に従順というか優し過ぎる)










~数日後~

勇者「……」

勇者(いよいよ半月になるけど、決定的に僕の世界と違う点が見つかった)ガサゴソ

勇者(この世界には…)

勇者(“この国しか存在していない”」

勇者(その代わり僕のいた世界の王国よりも、領土も城下町の広さも想像を絶するものだ)

勇者(以前なら少し離れた位置に存在した村や町も『南城下町』、『北西城下町』という風になってる)

勇者(ここは、どこなんだろう)

勇者(一体僕はどこに来てしまったんだろう)

勇者「……と」パタン


「勇者、南南西の城下町の町長さんが勇者に討伐依頼だって」


勇者「今行くよ」










町長「おお、あなたが勇者様ですかな」

勇者「!?」

勇者「あなたは……」


『 どうかこの村を救って下され! 』

『 勇者様はお急ぎの旅をしているのでしょう?早く旅立ってはいかがかと』

勇者(あの時の村長…)

南町長「早速ですが頼みたい。小さな区画である私の町に何度も荒らしに来るスライムがおりまして……」

勇者「受けましょう、その依頼」

南町長「なんと、本当ですかな!」

勇者「ただし条件があります」

勇者「報酬は要りません」










「報酬、いらなかったの?」

勇者「いらない」

「そっか、まあスライムだしね」

勇者「普通の人間からしたらスライムだって恐ろしい魔物だよ」

「スライムは涙を象徴した精霊なんだよ?怖くないのに」

勇者「精霊?」

「うん、スライムは一粒の涙から生まれた原初にして最古の魔物なんだからね」

勇者「よく知ってるね」

「歴史に詳しいの」

勇者「じゃあスライムが人間に懐く事ってあるのかな」

「懐かないよ」

勇者「えっ?懐かないの?」

「スライム達には共通して基準があるの。他者を“敵”かもしくは──」

勇者「味方?」

「“大切な家族”って認める事」

勇者「……」










~東の森~

勇者「……」ザッザッ

勇者(そろそろスライムが出るはず)ピタッ

勇者「……」

勇者「……そこっ!」


ヒュッ!!


ガゴンッッ!!


ゴーレム「」バラバラ

勇者「ゴーレム……?何故四天王直属の配下がここに!?」ヒュッ!!


ガガガガ!!


ゴシャァアッッ・・・










勇者「ふっ……!」ザッ!

勇者(あの後さらにゴーレムが四体…)

勇者(この森はどうやら僕が知る森とは違うみたいだ)

勇者(あのスライム娘が僕に懐いたキッカケを考えるなら……)



『勇者様、このスライム怪我を……!』

『何があったのかな』

『さぁ……』

『この傷、転んだ訳じゃないみたいだ』

『じゃあ誰が?』

『この森を仕切ってる主……つまりアタシ達にとってはバケモノに値するヤツだな』










スライム娘『な、なぜです……!私達は貴方の為に人間の国に侵入までしたのにっ!』

スライム娘B『い、痛いよ…痛いよお姉ちゃん』

「黙りなさいな」バリィッ!!


バヂバヂィッ!!


スライム娘B『ぅあ''あ '' あ ''っッ!! 』

スライム娘『や、やめて!やめてぇ!!』

「身の程知らずが。この私に謀反の気を起こしたのが間違いよ」

スライム娘『知らない!私達は貴方達に敵対するつもりなんて──』

「あら?じゃあ教えて貰おうかしら。一体誰が私の配下を燃やしたのかしら」

スライム娘『知らない!!お願いだから妹をこれ以上苦しめないで!!』

スライム娘B『お……お姉ちゃん』

スライム娘『お願いだから、お願いだからっ……』



勇者「……」ザッ!

「!?」


ヒュッ!!


ズバンッ!


バヂバヂィッ!!


「なにっ……今の?もう少しで死んでたわぁ」

勇者「……」

勇者(この女……『雷帝』にそっくりだ)

雷魔王「アンタ、何者?良い度胸してるわね」バリィッ

勇者「雷が本体か」

雷魔王「そうよ、だからどうするのかしら?人間」

勇者(……)チラッ

スライム娘「……っ」

スライム娘B「…っ……」

勇者「私がお前の相手をしてやる」

雷魔王「アンタがこの私の相手?」

雷魔王「ハハハ!身の程知らずが!よっぽど死にたいようねッ!!」 バリバリィッッッ


バヂバヂィッ!!


ヒュッ


勇者「……」ザッ!

雷魔王(なっ……雷を避けた!?)

雷魔王「なら放電で!!」バジィンッッ

勇者「……」ヒュヒュッ


ゴガガッッ


雷魔王「ぐぁァッ!!」ドゴォ

雷魔王(う、嘘……なぜ私に物理攻撃が……)

勇者「……」チャキッ

雷魔王「待っ──」


スパッ


ゴトンッ


勇者「……」

勇者(四天王よりも遥かに弱かった……。ならゴーレム達はなんで居た?)

勇者(それよりも今はスライム達が先か)

スライム娘「……!」バッ

勇者「?」

スライム娘「!」パクパク

『こ な い で』

勇者「大丈夫だよ。そっちのスライムの傷を手当てするだけだから」

スライム娘「?」

勇者「……だめかな」

スライム娘「……」

スライム娘B「……」ダキッ

スライム娘「♪」ギュッ

勇者「……」

勇者(この娘、妹か娘がいたんだ)

勇者(でも僕が知ってるスライムはあの時……)

勇者(僕がこの娘達を見つけるのが遅かったから…)

スライム娘「…」トントン

勇者「え?」

スライム娘「……っ」パクパク

『あ り が と う』

勇者「……」

勇者「もう町に近づいたらダメだよ」

スライム娘「……」コクンコクン










「それで、どうしたの」

勇者「どうもしないよ、そこでお別れしてきた」

「そうなんだ」

勇者「あ、でも」ガサゴソ

「?」

勇者「小さいスライムの娘がくれたんだよ、このピンク色のガラス玉」

「ふーん」

勇者「何だろうこれ、ちょっと温かいんだよ」

「勇者の胸に押し当ててみて」

勇者「これを?」

「うん、そうしたら分かるから」

勇者「……」ギュッ


ポワンッ


勇者「!!」

勇者「は、入っちゃったけど……」

「やっぱりね」

「それ、その小さいスライムの“心”だよ」

勇者「ココロ……?」

「スライムが本当に信頼する相手にだけ渡す物」

「何て言うか……」

「とにかくこれで勇者はスライム達が何を言っているか全部分かるよ」

勇者「……」

勇者(あったかい……)

「じゃ、勇者が雷を使う魔王からスライムを助けた記念にパーッとご馳走にしますか!」

勇者「ほどほどにね」

「はいはいっ」タッ

勇者「……」

勇者(あれ…)

勇者(『魔王』まで言ったっけ)










~2ヶ月後~

勇者「……」ザッザッ


ガラガラッ


勇者「……」ザッザッ

勇者(脆いな、かなり風化してる)

勇者(いや違う……この惨状は風化じゃない」

勇者(そう、これは“燃やされた”跡にも見える)

勇者(確か2ヶ月前にスライム娘が言っていた)



スライム娘『あ……来てくれたんですね』

スライム娘『妹の心を受け取って私達の言葉が聞こえるようになったんですよ』

スライム娘『え?どうしてあの時襲われていたのか?』

スライム娘『えーと……今までは命令に従っていれば安全だったのですが、突然怒り狂って来たんです』

スライム娘『何度も呟いてました……確か』

スライム娘『 何者かに配下を燃やされたとか 』



勇者「……」

勇者(あの話が本当ならば、僕のいた世界のスライム娘も同じ理由だったのかもしれない)

勇者(四天王の炎使いは違う……だとしたらおかしい)ガラガラッ


ザッザッ


勇者「どうしてこの『魔王城』が朽ちているんだ……?」

勇者(ここは過去の世界じゃないのか?)

勇者(全てに絶望して、魔王が与えてくれた秘宝に願って辿り着いた優しい世界じゃないのか?)

勇者(だったら……ここはどこ?僕にどうしろと言うんだ?)

勇者「……」

勇者「誰か……誰か教えてよ……」










勇者「ただいま」

勇者(……いない、のかな)

勇者(思えばあの子とも3ヶ月近い付き合いなのかな…早いや)

勇者(国中から来る討伐依頼を完了しつつ、お金は要らない分は全部あの子にあげて)

勇者(てっきり遊びに使ってるのかと思ってたら……いつの間にかこんな一軒家を買ってて)

勇者「ふぅ…… ん?」


カサッ


『帰ってきたら近所の果物屋に迎えに来て』

『多分、雨降るだろうから』

勇者「……」

勇者(そしていつの間にか……本当にあの子は僕の奥さんになったつもりらしい)

勇者(僕はどうしたら良いんだろう)










店主「お嬢さん、傘貸そうか?」

「ありがとう、でも平気だよ」


ザァアアア・・・


「こんな雨でも、迎えに来てくれる優しい人がいるから」

「だから、私は待ってるの」

店主「ふぅん、彼氏かい?」

「えへへ……だったら良いのにね」

店主「違うのかい」

「うん。きっと…彼は私がそばにいても気休めだから」

「だから私は全ての人に代わって優しくいたいの。彼を好きでいたい」

「……なんてね」





パシャッ


勇者「おまたせ」

「ちょっと遅いよ、雨風で体が冷えちゃった」

勇者「あ、ごめん…」

「いいよ、来てくれたのは嬉しかったんだから」

「勇者もお疲れ様……どこに行って来たの?」

勇者「帰ったら話すよ、寒いでしょ?」

「………うん♪」


ギュッ


勇者「!」

勇者「帰ったら温めてあげるね、部屋を」

「えへへ……って部屋か」










「東の朽ちた城……」

勇者「何か知ってる?」

「……」

「どうだろ、分からないかな」

勇者「君でも分からないのか……」

「うん」

勇者(以前の世界なら魔王城は誰でも知っていた、つまり忘れ去られている?)

「勇者、図書館に行ってみたらどうかな」ギュッ

勇者「図書館?」

「何か……見つかるかも」

勇者「分かった、明日行ってみるよ」

「……」

勇者「ありがとう」

「うん……!」










~王立図書館~

勇者「こんにちは、重要閲覧室に入りたいんだけど」

女「これはこれは勇者様!朝から歴史に興味を持つなんて──」

女「え?」

勇者「あっ」

女「あの時の……あー、覚えてます?ちょっとぶつかりましたよね!」

勇者「覚えてるよ、凄い偶然」

女「あはは、あの後試験に合格してこの王立図書館の責任者になったんです」

勇者(やっぱり…)

女「まさかあの時の人が勇者様だったなんて、もしかしたら勇者様が応援してくれたから合格出来たかもしれないですね」

女「それはそうと、何でしたら閲覧室を私が案内しますよ」

勇者「助かるよ、お願いしようかな」





勇者「……」パラパラ

勇者(これじゃない)パタン

女「うーん、東の朽ちた城についてって、ちょっと情報不足ですねぇ」

勇者「地域別の歴史書だと付近のものばかりだしね」

女「『雷帝の年』・『水の月』より以前の歴史書なんて幾らでもありますからねー」

勇者「え?」

女「お忘れですか?今年の中でも今月は最悪ですよきっと」

勇者「そうじゃなくて、年号ってそんな呼び方だっけ」

女「はい?」

勇者「いや、なんでもない」

勇者(そういえば『雷帝の年』って聞いたことあるなぁ)

勇者(何年も旅してると勉強してきた知識が全部うろ覚えみたいになるから)

勇者「ありがとう、また来るよ」

女「はい!」










勇者(やっぱり……僕はこの世界でやり直すしかないのか)

勇者(……)ピタッ

勇者(魔王城が、魔王がいないなら……)

勇者(いや違う。そもそもこの世界に魔王が存在した形跡が無いんだ)

勇者「ここにずっと粘りつくような異物感があるのは多分それが関係してる)

勇者「と思うんだけどな……」

「何が思うの?」

勇者「うわっ……いたの?」

「今来たの。そろそろ勇者が出てくるかなーって」

勇者「いつも勘が良いね」

「うん、はい討伐依頼の紙」

勇者「うん?」カサッ










~西城下町~

勇者(依頼内容は水溜まりに潜む魔物ってなってたっけ)

勇者(既に数人犠牲者が出てるとも書いてあった)

勇者(届いたのはついさっき)

勇者(なのに……)


「助けてくれぇ!」

「イヤァァァ!!」

「誰か!誰かぁ!!」


ゲルスライム「」ビタッ

ゲルスライム「」ビタッ

勇者(数が多い……!!)

勇者(騎士団は何をしていたんだ……!西城下町がこんなになるまで放置するなんて!)チャキッ


商人「うわぁぁあ!!」

ゲルスライム「」ビュルルッ


ズバンッ


ゲルスライム「」ビチャァ


勇者「早く近くの建物に入って下さい」スタッ!

商人「は、はいぃ!」

勇者「……!」


モコモコモコモコ……


ゲルスライム「」ビタッ

ゲルスライムB「」ビタッ

勇者(分裂再生……?いや、似てるけど違う)

勇者(短時間で増殖したのはこれのせいか)

ゲルスライム「」シュルッ

勇者(移動なんてさせない……!)ヒュッ!!


トプンッ


ゲルスライム「」

ゲルスライムB「」


ドパァアアアン!!


勇者(……)

勇者(やっぱりか…)

勇者(四天王の水使いも似たような戦術だから分かる、このゲル状の人形はパーツだ)


モコモコモコモコ………

モコモコモコモコ………


勇者(僕の実力を見抜いて集まって来たか。これで周りに被害は無くなるかな)

勇者「来い、私が相手をしてやる」チャキッ










「……♪」ザァーカチャカチャ

「……?」


モコモコモコモコ………


「……!」


モコモコモコモコ………


水魔王「クスクスクス」

水魔王「こんにちはぁ」モコモコモコ

「……」

水魔王「昨夜の雨で私、知ってるわぁ?あなた勇者とかいう奴の大切な人らしいわねぇ?」

水魔王「ちょっと来てもらうわよ、あの男には借りがあるのぉ」

「………」

「乱暴はしない……よね」

水魔王「さぁ、どぉかしらぁ?」










勇者「……」スタッ!


モコモコモコモコ……ッッ!!!!


水魔人「」

勇者(実力は大したこと無い。でも周囲の家屋に被害を出さずに奴は倒せない)

勇者(“水”である奴に物理攻撃は時間稼ぎにしかならない!)

水魔人「」ブォンッ

勇者「……」ヒュッ


ズバンッ!


スパスパスパパパパパンッッ


水魔人「」バシャァ


モコモコモコモコ……ッッ!!!!


水魔人「」

勇者(キリがない……)

水魔人「」ビュルルッ

勇者(しまっ……地面に溶け込んで…!)


ガシィッ


勇者「うぁ!」ガクッ


ビュルルッ!!


ブォンッ!!


勇者「!?」


ドゴンッ・・・!


勇者(ぐあ……コイツ、思ったよりキツい一撃を……)

勇者「ハァッ!!」

水魔人「」バシャァ

勇者「……!」ヒュッ


スタッ!


勇者(四天王には程遠い……。でもコイツはコイツで苦戦しそうだ)

水魔人「」モコモコモコモコ

勇者「……」


モコモコモコモコ………


勇者「?」

勇者(なんだ?新手?)


モコモコモコモコ………


水魔王「はぁーい?」


「勇者…」


勇者「なっ……!?」

水魔王「状況が理解できたなら武器を捨てなさぁい?」

勇者(なんで、なんであの子が……)ガシャン

勇者「……」

水魔王「こんにちはぁ、私が誰か分かるかしら?」

勇者「さぁ、水の魔王ってところかな」

水魔王「それだけじゃないわよぉ!あなたが2ヶ月前に殺した“雷魔王”のとーっても大切な友達よぅ!」

勇者「目的は復讐?」

水魔王「その通りよ」

勇者「……」

勇者(それで、あの子を……)

「勇者、勇者」

「さっき聞いたの、あの女の弱点は……」ボソッ

勇者(……なるほど)

「どのタイミングで逃げたらいいかな」

勇者「……」

勇者(待ってて、すぐ迎えに行くから)

「うん、分かった」

水魔王「何をひそひそ話してたのかしら?」

勇者「何だろうね」

水魔王「まぁいいわ、どうせあんたは動けないんだし」

勇者「そうかもね」


ヒュッ!! スタッ!


水魔王「は?」

水魔人「!」

勇者「“本体”が出てきたのは失敗だったな」


バシュンッッ


バシュンッッ


ヒュルルルルル・・・


水魔王(なっ!?なんで私、空から落ちてるの!?)

水魔人「……!?」


勇者「破ァッッ!!」


バチュンッッ!!


水魔王(嘘……私の分身が一撃で………)ゾク

水魔王「こ、このぉっ…!!」ザシュンッッ


バシュンッッ


水魔王(また瞬間移動を…!)


バシュンッッ


勇者「……」ピトッ

水魔王「ひっ……」










水魔王「ほ、本当よぉ!!」

水魔王「『マオウ』なんて見たことも聞いたこともないわぁ!!」

水魔王「もう許して……もうあんたには関わらないからぁ!」

勇者「……」

水魔王「ひぐ……痛いよぉ……なんで急に再生出来なくなったの……」

勇者「今の君は半分凍りついてるからだよ。だから液体化出来ないんだ」

水魔王「凍りついてる……?」

勇者「最後に質問に答えてもらう、いいね?」

水魔王「は、はいぃ」

勇者「君の他に知能を持った魔物はどのくらいいる?」










ズバンッ


バシャァ……ジュゥゥ


勇者「……」チャキッ

勇者(あと2人か……)

勇者(いずれも水魔王と変わらないらしいけど、能力は炎と大地)

勇者(四天王もそうだった)

勇者(『雷帝』『水帝』『炎帝』『地帝』の四人だ)

勇者(となると……もしかしたら彼らは僕の知る四天王の祖先に当たる存在なのだろうか)

勇者(でも……)

勇者(分からない事だらけだ)










「おかえり勇者」

勇者「ただいま、大丈夫?怪我はないね?」

「うん」

「かっこよかったよ、さっきの」

勇者「さっきの?」

「ずっとあの魔物に圧力をかけてたでしょ?私に危害を加えないように」

勇者「そりゃ…そうだよ、君はほら……」

勇者「えーと……」

「ふふ、勇者として弱い女の子は守らなきゃ?」

勇者「そう、それ」

「ふーん」

「とりあえずお風呂入ってからご飯にしよ?あなた」

勇者「……」

勇者(思ったより恥ずかしいや)










~数日後~

勇者「ねぇ、大丈夫?」

「え?」

勇者「ここ最近顔が赤いから」

「えー…大丈夫、だよっ」

勇者「本当に?」

「……」

「ちょっと風邪気味です」

勇者「もう……待ってて、すぐ薬買ってくるから」

「行ってらっしゃい、勇者」フラフラ

(勇者、私のために……)

「うれしい…な」キュン










炎魔王「……ガハッ」ガクッ

勇者「命は奪わない、急いでる」チャキッ

炎魔王「き、貴様は一体……」

勇者「死にたいならいつでも勝負は受ける。でも今は急いでるんだ」

炎魔王「くっ……」





勇者(薬草……確かこの先にあったはず)

勇者(あぁもう!どうして今日に限って薬屋が閉まってるんだ!!)ヒュッ!!










炎魔王(……う、ぐっ)ヨロッ

炎魔王(噂通りの強さか。物理攻撃の効かない俺を一撃で仕留めて来るとはな)

炎魔王(俺も帰って一族の者達と鍛え直そう。でなければ水魔王と雷魔王に顔向け出来ん)


フラフラ


“勇者”「どちらへ行かれるのですか?」ドズンッ

炎魔王「!!?」ビチャッッ

炎魔王「ゴフッ…!! 貴様、見逃すと言っただろう!?」

“勇者”「私が言ったのではありませんのでその契約は無効です」


ズバンッ


ボトッ










バシュンッッ


勇者「ただいま!薬草持ってきたから待っててね」

「……」

勇者「……どうかした?」

「勇者、私昨日勇者に何した?」

勇者「何って」

勇者「なんだろう、沢山感謝するような事はしてもらったかな」

「!」

「そ、そう…」パァァ

「ところで、どこに行ってたのかな?」ジー

勇者「く、薬屋だよ」

「ここの裾が焦げてるんだけどなー」

勇者「う……」

「えへへ、甘い甘い」

勇者(ほんとこの子、勘が良いよね)










~数日後 図書館~

勇者「……」ペラッ

勇者「見つけた」

女「見つかりましたか?」

勇者「うん、悪いけど一人にしてもらって良いかな」

女「はい!何かあれば呼んで下さいね?」





勇者「歴史書第2の巻」

勇者「殆どこの国が出来た頃の話だ」

勇者「かつてこの大陸には2つの国が存在し、同じく2つの城が存在した」

勇者「『西の国』と『東の国』」

勇者「現在、王国と呼ばれているのは西の国である」

勇者「じゃあ魔王城があったのは『東の国』?」

勇者「西の国と東の国の力は均衡しており、当時の戦力では決着はつかなかった」

勇者「しかしその後、神と契約した伝説の『戦士』が誕生した」

勇者「戦士一人に東の国は成す術もなく陥落、その後数年間も東の国の王族は奴隷として使われた」

勇者(まさかこの戦士って……『勇者』なのか?)


ペラペラ


勇者(……?)

勇者「あれ……この先のページが切り取られてる」





女「えぇ?ページが破れてる?」

勇者「そうなんだ、どうにかならないかな」

女「わぁ酷い……貴重な本なのに」

勇者「え、写本はないの?」

女「無いですよ、それだけ歴史的価値があるのに……」

勇者「……」

勇者「ちなみに、この破れてる先の内容と同じ時期の歴史書はあるかな」

女「あると思いますよ、今探して見ますね」





女「ありました、一冊しかないですけど」

勇者「ありがとう」


ペラペラ


勇者「……!」

勇者「これって……『魔物図鑑』だよね?」

女「実際に冒険家が旅をしながら魔物をスケッチしたそうです」

勇者「あのさ、ここの冒頭に書いてある事は…本当かな」

女「多分そうですよ、何でですか?」

勇者「……」

勇者(東の国が王国に支配されて二年後に、魔物が突然世界中で現れた……?)

勇者(これは偶然?東の国の怨念が魔物になったとか?)

勇者「……」










「おかえり勇者、今日のお昼はサンドイッチだよ」

勇者「美味しそうだね。これ包んでくれるかな?ちょっと今日も東の方に行って来る」

「東の……?」

勇者「前に話した朽ちた城だよ」

「……」


ギュッ


勇者「え、あの……」

「行かないで」

「あそこには……もう、行かないで……」ギュゥゥ

勇者「……」

勇者「分かった、もう行かないよ」

勇者「でも今夜僕のお願いを聞いてくれるって約束、してくれるかな」

「……分かった」










キマイラ「ガー!!」

勇者「……」ヒュッ!!


ゴシャァッ


キマイラ「」ドサッ

リザードマン「!」

勇者「……」バシュンッッ


スタッ!


リザードマン「!?」

勇者「……」ザシュンッッ

リザードマン「」ゴトンッ

勇者(これで今日の討伐依頼は終わり)チャキッ










~中央城下町 噴水広場~

勇者「……」

勇者(昼間は咄嗟にあんなこと言ってしまったけど)

勇者(何をお願いしたら良いんだろう)

勇者(それに、あの子のあの嫌がり様も…)

勇者「……」

勇者(思えば、あの子とはこの噴水広場で会ったんだよね)

勇者(あの時、彼女は突然話しかけてきて……)

勇者(僕の隣でお疲れ様って、言ってくれた)

勇者(いつも不思議な雰囲気を持ってて、いつも僕の為に小さな事を頑張ってくれる)


……ズキッッ


勇者「っ……ぁ」ガクッ

勇者(な、何……?なんで胸の辺りがこんな……)


ジワッ


勇者「!?」

勇者「血が……」

勇者(服を脱いで止血魔法をしないとまずい……)ビリッ

勇者「えっ」

勇者(傷なんてどこにもない……)

勇者(今のって、一体…)

勇者(……)

勇者(帰ろう、疲れてるのかも)





勇者「……っ」ピタリ

勇者(そう言えば、あの子が僕の隣で居るようになって感じた事があった)

勇者(あの子の近くにいると……疲れが癒えて行くんだ)

勇者(心も、体も、何かに満たされていくような……)










勇者「ただいま」

「おかえり!」パタパタ

勇者「うん、何かあった?嬉しそう」

「ううん、今日も勇者が帰って来てくれたから」

勇者「そっか」

「あのね、今日は商店街で珍しいニューヨクザイっていう……」


ムギュッ


「……!!」ビクッ

勇者「……」ギュゥゥ

「ゆ、ゆうしゃ……?」

勇者「これが幻でないなら」

勇者「君が本当に僕の腕に抱かれてるなら」

勇者「今までの君が本物なら」

勇者「どうか応えて欲しい」

「……」

勇者「僕に君の名前を呼ばせて欲しい……君の名前を教えて欲しい……」

勇者「もっと君の近くに、一緒に居たいんだ」

「……」

勇者「……」

「……」


ギュッ


「それが勇者の“お願い”なんだね」

勇者「うん」

「私ともっと近くに、一緒に居たいんだね」

勇者「そうだよ」

「……」

「いいよ、今度こそ応えないとだよね」

「私の名前は──」



      王 女



王女「東の国のね」

王女「それが私の名前」

勇者「!!」

王女「驚いちゃう……よね」

勇者「東の国って確か、何百年も昔に!」

王女「……」

王女「ねぇ、名前呼んで」

勇者「え、あ……」

王女「勇者」

勇者「……」

勇者「王女」

王女「はい」ギュゥゥ










~翌朝~

勇者「」

王女(えへへ)

王女(可愛いな、勇者の寝てる姿)

王女「……」スゥ


チュッ


王女「……」

王女(最後のお仕事しなきゃ)

王女「行ってきます、勇者」


バシュンッッ










~王城~

国王「なんと……それは真か!!」

騎士「間違いありません!!」

国王「おお……きっと勇者が魔物の親玉を討ったに違いない」

尖兵「報告します!!」ザッ!

尖兵「急速に魔物達が次々と消滅!現在、王国周辺に魔物の姿が確認されないとのことです!!」










“勇者”「なかなかやるじゃないですか。まさかこうも容易く『彼女』を惚れさせるとは」

“勇者”「さて、こうなると『彼』の功績は私以上か」

“勇者”「神に多少の減刑を申し立てしてあげましょうかね」

“勇者”「では行きましょうか」



“勇者”「この下らない弱者のおままごとを終わらせる為にね」


バシュンッッ










バシュンッッ


王女「……」スタッ!

王女(これで、これで私は終わり)

王女(勇者と幸せな人生を送って、沢山沢山……勇者と幸せになる!)

王女(これで、終わり)


ガチャッ


王女「ただいま、勇者!」

“勇者”「おかえりなさい」

王女「ぇ……」

“勇者”「どうかしました?」

王女「……勇者はどこ?」

“勇者”「二階の寝室でまだ寝てました。余程あなたとの夜に満足したようだ」

王女「……」

“勇者”「なかなか貴女を見つけられないと思っていたら、まさかこんな民家に住んでいたとは」

“勇者”「さて、貴女は今の状況を理解していますか?」

王女「っ!!」バシュンッッ

“勇者”「……」

“勇者”(やはり彼を気にして逃げたか。既に行き先も予測済みだ)

“勇者”「亡国の王女」

“勇者”「私が貴女を殺すのではない」



“勇者”「貴女は『彼』に殺される」










~朽ちた城~


バシュンッッ


王女「はぁ……はぁ……勇者……」

王女(“勇者”が……あいつが来たっ……)

王女(今度は大丈夫だと思ったのに、また……)

“勇者”「お疲れですか?」バシュンッッ

王女「……!」

“勇者”「さて、もう貴女は終わりです」

“勇者”「お得意のマジックはあと400年先まで使えない」

“勇者”「まだ駒すら整ってもいない」

“勇者”「ほら、避けないと死んでしまいますよ?」


ヒュッ!!


王女「っっ!!」


ガギィン!!


土魔王「」

“勇者”「へぇ、まだ残してあったんですか」


ガガガガガガガガガッッッッ!!!!


土魔王「」バラバラ

“勇者”「脆い」ヒュッ!!


バガァンッッ


王女「土魔王……!」

“勇者”「四天王にも満たない相手では話になりませんね」

王女「……」ジリッ

“勇者”「さて、命乞いの準備は出来ましたか?」

王女「……」

“勇者”「貴女が存在した事によってどれだけの人間が犠牲になったと?」

“勇者”「罪には罰を、刃向かう者には斧を」


ジャキリッ………ッ


王女(まだ、まだ諦める時じゃない!私は、私は必ず……!)


雷魔王「」ズオオン

水魔王「」ズオオン

炎魔王「」ズオオン


“勇者”「まだこれほどの召喚魔法を使えたとは」

“勇者”「それに、一人は私が殺したはずですが」

王女「勇者が倒す度に蘇って強くなるようにしたの。勇者なら絶対負けないと思ってたから」

王女(もう必要なくなったと思ってたけど、こいつに使うなんてね)

“勇者”「ははっ、出来損ないの彼も一応は勇者を名乗る者ですからね」

“勇者”「まぁもっとも……私はその遥か上に位置するんですが」

王女「行きなさい!」

炎魔王「」ギュオゥッッ

雷魔王「」バリバリィッ

水魔王「」バシャァツ










ベシベシッ


勇者「ん……おはよう」

スライム娘『勇者!た、助けて下さい!』

勇者「!」

勇者「一体どうしたの?」

勇者「!!」

勇者「君、体が透けて…!」

スライム娘『私の事はいいんです!これが私達の幸せなんです!』

スライム娘『それより勇者!今すぐ魔王城に行って下さい!』

勇者「魔王城……」

勇者(何故この子が魔王城という名を?いや、それより──)

勇者「一体何が起きてるんだ?どうしたら良い」

スライム娘『それは……主をたすけ──』


バシュンッッ


勇者「!!」

勇者「よくわからないけど、これは……」

勇者(よくない事が起きてる?)

勇者「王女!どこにいる!」

勇者(王女もいない?くそ、何を呑気に寝ていたんだ僕は!!)バッ


勇者「……」


勇者(彼女は東の国の王女)

勇者(そう、滅亡した国の王女だった)

勇者(間違いなく何か関係してる)

勇者(そして魔王城に近づくのを彼女は嫌がっていた)

勇者(いや違う)

勇者(嫌がっていたんじゃない)



勇者「僕が何か知る事に怯えていたんだ」










“勇者”「さて、片付きました」ザッ!

王女(強い…やっぱり力の大半が無くなった私の四天王じゃ勝てない)

“勇者”(それにしても遅いですね……)

“勇者”(このままではただ殺して終わりになってしまう)

“勇者”(それではいけない)

“勇者”(罪には相応の罰を)

”勇者“(それが神の意思なのです)

”勇者“「もう駒が無いのなら逃げてはいかがです?二秒だけ見逃しますよ」

王女(私は……どうすれば──)


バシュンッッ!!


王女「!!」

勇者「良かった、無事みたいだね」

王女「勇者っ!!」

“勇者”「やっと来ましたか。待ちくたびれましたよ」

勇者「……僕にそっくりな君は何者なんだい…?」

“勇者”「そっくりな、ですか」


ヒュッ


“勇者”「果たしてそうでしょうかね」

“勇者”「そこの王女ならば分かるのではないでしょうか!」スタッ!

勇者(!!)

勇者(一瞬で背後に……!)


ゴバァァンッ!!


黒き灼熱の炎が勇者を襲う


王女「勇者ぁ!」


勇者は瞬時に水魔法を唱えた


勇者「…ぅ、ぐ…」バシャァッッ

“勇者”「詠唱も魔法名も唱えずに水魔法を操れるんですか、凄い凄い」ゴオオオオオ

勇者「はぁ…はぁ…」ジュゥゥゥ

勇者(今の炎……ただの炎じゃない)ジュゥゥゥ

“勇者”「さて、本題に入りましょうか」


バシュンッッ


王女「!?」

“勇者”「この一見すると可憐な少女、貴方にはどう見えます?」グイ

勇者「その子から離れろ……」

“勇者”「……なるほど」

“勇者”「やはり“覚えていない”のですね」

“勇者”「この子は君にとってとても因縁のある相手なんですよ」

王女「やめて!!」バシュンッッ

“勇者”「おっと」バシュンッッ


ガガガガガガガガガッッッッ……!!!!


ドガァッ!!


王女「あっ……」

“勇者”「はは、まだ話しは終わっていません」

勇者「王女……!!」



“勇者”「さて、ここでひとつ問いましょう」

“勇者”「貴方には彼女がどう見えましたか?」

“勇者”「超移動魔法を駆使して、音を越える速度の体術を操る彼女が、貴方にはどう見えましたか?」

“勇者”「果たして、ただの亡国の姫が成せる技ですかね?」

勇者「……」

王女「やめて!!やめてぇ!!」

“勇者”「彼には真実を知る権利がある」

“勇者”「違いますか?」

王女「……」

王女「勇者……私は──」

勇者「安心して、王女」

勇者「君は僕が守る」ニコッ

王女「勇者っ…!」

“勇者”「やはり出来損ないか」

“勇者”「自分の感情を優先し事実から目を背ける」

“勇者”「本当に貴方は愚かだ」

勇者「かかって来い。私がお前の相手だ……!!」


バシュンッッ


ガギィィンッ


“勇者”「では相手をしましょうか」

“勇者”「“あの時”のようにね」ギュオゥッッ


バシュンッッ


バシュンッッ


ガギィン!!


ドガァッ‼︎


 ヒュッ!!


 ザッ!


ゴォオゥッッ ‼︎


バシャァッッ!!


スタッ!


勇者「……!!」バシュンッッ


ガガガガガガッッッッ


ドガンッ!!


 ザシュンッッ


バシュンッッ    バシュン     バシュンッッ


バシュンッッ


“勇者”「へぇ、粘りますね」

“勇者”「実力が上がったんじゃないですか?剣撃や速度だけなら私と大差ありません」

“勇者”「時間がかかってしまいますね、貴方を消すだけで」

勇者「ハァ…ハァ…」チャキッ

“勇者”(さて、そろそろですかね)

“勇者”「あー、でも私が手を下すまでもない」

勇者「なに…?」

“勇者”「だってほら、忘れているようですが我々の敵は何でしたか?」

勇者「……魔王だ」

“勇者”「ならばほらほら、そこにいますよ?」

勇者「!」

王女「ぁ…」

“勇者”「気づいていないはずは無いですよね、先程の彼女の動きで……」

勇者「……」

“勇者”「さて、瞬間移動魔法を操り大地を割らんばかりの力で攻撃を仕掛けられる彼女が人間だと思いますかぁ?」

勇者「……」

勇者「なら僕達だって人間じゃない」

勇者(確かにあの子には秘密はあった)

勇者(ずっと何か僕に言いたそうな何かが)

勇者(でも……こんな奴の言うことじゃないはずだ)

“勇者”「当たり前ですッ!!我々は神に造られた究極の生命体なのですから!!」

“勇者”「だがしかし、そこにいる世界を魔物で包んだ彼女は化け物だ」

王女「……っ」

“勇者”「彼女も理解してるんですよ。貴方の仲間が死んだのも、数多くの村や街で悲劇が起きたのも──」

“勇者”「全部、彼女が原因なんですから」

“勇者”「さあ勇者、貴方は彼女をどう考える?」

“勇者”「守るべき者か、裁くべき者か」

勇者「……」

王女「ぁ……あ……」

勇者「……」

勇者「王女……本当なんだね?君が、本物の魔王って」

王女「ち、違うよ!!」

“勇者”「違わないでしょう?でなければ貴女の──」ジャキッ


バシュンッッ


ガシィッ!!


魔王「……ッ」ギリッ


勇者「!!」

勇者「魔王…!?」

“勇者”「さて、これでもまだ違うなんて言えますかねぇ?」

“勇者”「貴女の影から出て来たこの『魔王』はどう説明するおつもりで?」

王女「魔王……どうして!」

魔王「主よ、勇者の目をよく見ろ」

魔王「もはや勇者は主を守ってはくれない。我が出なければ殺されるのだぞ」

勇者「……」

“勇者”「……」ニヤリ

“勇者”「さぁ出来損ないの勇者よ!貴方に最後のチャンスだ!」バシュンッッ

勇者「……」

“勇者”「“裁きは罰と共に”」

“勇者”「魔王すらも生み出した最強最悪の魔神を貴方の手で討ち倒すのです!!」

勇者「……」

勇者「王女……僕は」

王女「勇者っ…」ビクッ

魔王「下がっていろ我が主」ズン

勇者「……」ヒュッ!!

魔王「チィッ……勇者、貴様には期待外れだ!!」ガギィン

勇者「何が期待外れだって?」

勇者「もう一人の僕は何も間違ってないよ」

勇者「僕は魔王を倒す為に旅をしてきたんだ」ドガガッッ


バシュンッッ


魔王「……」

魔王「勇者よ……我が最後に言った言葉を覚えているか?」

勇者「覚えてないな」

魔王「………そうか」チラッ

王女「……っ……っ」ポロポロ

魔王「どうやら貴様も、そこの奴と同じ神の人形に堕ちたようだな」



”勇者“「さて、お手並み拝見といきましょうか」











ゾンッッ!! ゾンッッ!!


魔王「がぁ……グオオッ!!」ブシャァァァア


ドサッ


王女「ま…魔王……!」

勇者「……」ザッ!



”勇者“(幾ら出来損ないとは言うものの、やはり私の次に生まれた勇者)

”勇者“(無傷で魔王を倒すか)

”勇者“(予想以上の働きですかね)



勇者「王女、君は…」ザッ

王女「ひ……っあ」ガクガク


バシュンッッ!!


勇者「!?」

魔王「その心臓ッ!!貰ったァァアッ!!」ギュオゥッッ


ドズッ・・・・ッ!!


勇者「……」ヨロッ

魔王「……!」

魔王「ば、馬鹿な……貫けないだと…!?」


バシュンッッ


勇者「」ボソッ



ーーーーーーーーーー キィィィィ・・・ンッ



魔王「!?」

魔王(なんだ、この光は……)

魔王(こんな魔法まで勇者は使えたのか)

魔王(王女……)



ーーーーーーーーーー カッッッ!



ズドドドドドドドドドド!!!!



王女「魔王……!」



“勇者”「……」

“勇者”(なんだ……今のは……)



勇者「……」


バシュンッッ!!


王女「ひっ……」バシュンッッ



“勇者”(無駄です。勇者の予知能力は私と同等)

“勇者”(どれだけ瞬間移動魔法を使っても逃げ切れはしない)

“勇者”(まったく、嬉しい誤算だ)

“勇者”(何千年と繰り返されてきたこの戦争が、まさかあんな出来損ないに終わらされるとはね)

“勇者”(しかし先程の魔法はなんだ…?)

“勇者”(見た事がない類の魔法だった…)

“勇者”(彼なりのアレンジを加えた光魔法といったところか?)










バシュンッッ


王女「はぁ…はぁ……ぅ」ポロポロ

王女(やだ……こんなの、嫌だよ)

王女(やっとここまで……勇者と来れたのに……)ポロポロ


バシュンッッ


勇者「……」ザッ!

王女「勇者っ…」

勇者「安心していい」チャキッ

王女「……っ」ビクッ

勇者「傷みは……無いから」

勇者「君は目を閉じて静かにしていればいい」

王女「や、やめて……やめて」

勇者「……」

王女「お願い勇者……やめて」

勇者「……」

王女「私ね…これからも勇者の為にいろいろ頑張るんだよ……」

王女「もっと勇者と一緒に幸せになるんだよ……」

王女「前より、ずっとずっと勇者は……幸せになれるんだよ」

王女「もう、こんな世界で…苦しまなくて……いいんだよ」ポロポロ

勇者「……」

王女「あのね、私の部屋の戸棚にね…勇者の仲間になるはずだった女戦士さんと僧侶さんに向けた手紙があるんだ」ポロポロ

王女「全部終わって……」

王女「あの“勇者”から逃げ切れたら、二人に手紙を出して……皆でお茶会して」

王女「勇者が私に二人を紹介して、それから……」ポロポロ

勇者「……」

王女「それから…ね?あのね」ポロポロ

王女「私がいて、勇者は救われたのかなって…」

勇者「……」

王女「そ……それだけ、言いたかったの」

勇者「……そうか」

勇者「僕は間違ってなかったよ」

王女「今までありがとう……」

王女「勇者」ニコッ


ズバンッッ!!


ゴトッ……




















バシュンッッ


“勇者”「どうやら終わったようですね」

勇者「……」

“勇者”「貴方の功績は神も高く評価されるでしょう」

“勇者”「さぁ、私の手を取って下さい」

勇者「……」チラッ

勇者「その手を取れば、どうなる」

“勇者”「天界です」

“勇者”「我々勇者は人間として生を受けましたが魂は天界の神がお造りになったのです」

勇者「なるほど……」

勇者「なら、私の興味は尽きた」スパッ

“勇者”「……え?」


ブシャァァァア!! 


“勇者”「!?」


バシュンッッ


“勇者”「な、何を血迷いましたか……!」スタッ!

勇者「血迷ってなどない」

勇者「私は確信を得ただけだ」

勇者「何も間違ってはいなかったとな」チャキッ

“勇者”「この……このクズがぁぁぁ!!!」

“勇者”「出来損ないの分際でこの私に傷をつけやがってぇぇぇ!!!」

“勇者”「また殺してやる!!二度と生き返れぬようにね!!」


バシュンッッ


勇者「……」


バシュンッッ


“勇者”(チッ、破損した腕は数分で元に戻りますが……)


ガギィン!!


ドガガッッ!!!! 


ヒュッ!! 


スパッ!! ギギギギギィィィンッッッ!!!!


“勇者”「片腕ではやはり、貴方を殺せないようだ」

“勇者”「さてさて、どうしましょうかね」ゴォオゥッッ

勇者(あの炎……さっきの)

勇者「ただの炎じゃないな、私にも使えるのか?」

“勇者”「無理です、貴方はここで死ぬんですから!」

“勇者”「【ロンギヌス】」ギュギュオゥッッ

勇者「正体は……炎の槍か」

“勇者”「貴方は本当に愚かだ」

“勇者”「天界に行けば永遠の命も得られたというのに」バシュンッッ

勇者「……要らないさ」バシュンッッ




















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~魔王城地下~

「……!」

(魔王が敗れた?また勝てなかったんだ…)


魔王が死滅したことを感じ目が覚めた


寒くて、寂しい地下祭壇で


(早く時空間魔法を発動させなきゃ…)

(じきに勇者は私を見つける)


時空間移動は400年かけて溜めた魔力を使用して発動できる究極の魔法


時空間移動を使えばどこかの平行世界に辿り着く


そして私は“魔王が誕生した日”からやり直す


勇者を敗り、私の自由を手にするまで何度でも繰り返すつもりだ


コツ…     コツ…     コツ…


「……?」


今まで私を追跡していた神の使徒ではなく、初めて違う気配を感じた


(……誰?)


あの勇者でないのなら、もしかすると会話する予知があるかもしれない


そんな考えが私の中にあった


(……え)

(歩みが遅い、体力が低下してるのかな?)

(魔王と互角ってこと?)


だとすれば尚更、魔王を倒した者はあの“勇者”ではないことになる


階段の奥から現れる者を、不思議な気分で待った


「……!」


少ししてその者はボロボロの姿で現れた


フラフラと歩み寄る


何よりその目は……


勇者「……」


“死んでいた”


勇者「……」

勇者「え?」


疲労困憊の彼は足を止め私を見た


その表情の中には困惑の色が見える


もしかしたら彼の目的は私ではなかったのかもしれない


勇者「これが……魔王の言っていた秘宝?」


(秘宝?)


そんなものはない


となると、私を指して言っている?


魔王は彼に何を言ったのだろうか


彼は私をどうするのだろうか?


勇者はしばらく私を見つめている


彼は少しの間を置いて、再び近づいて来た


既に私との距離は僅か


通常なら危険なはずだった


でも……


勇者「……」


傷ついた体よりも、私は彼の目が最も悲惨だと感じた


ゆっくり、ゆっくりと


その近づいて来た彼の手を、私は握っていた


彼はその握られた手から徐々に私の顔へと視線を移す


疲れきっているのか、それとも私が彼の手を握ったからか、深く息を吐いて……


静かに、乞い願うように囁いた


勇者「お願いです……私の願いを叶えて下さい……」

勇者「……」



勇者「もうがんばりたくない」



「……」

「……どうして?」


気づいた時には声が勝手に出ていた


“もうがんばりたくない“


そう言った彼があまりにも悲しかったから


勇者「……」

勇者「戦う理由も、意味も、生きる必要も無いから」

勇者「僕は一度も誰かを救えた事はない」

勇者「本当の意味で僕は誰も助けられなかった」


虚ろな瞳は痛々しく


私の手を握るのにも力は無く


ポツリポツリと、小さな悲鳴のように語っていく


勇者「大切な人達も、結局助けられなかったよ」

勇者「何も出来ない勇者が……生き続ける意味ってなんだろう?」

勇者「もう、僕は限界なんだ…」

勇者「僕が生きる意味なんてない…」

「……」

「ねぇ、あなたは勇者なの?」

勇者「うん……勇者だったよ」


握っていた手が徐々に弱々しくなっていく


もう彼に残された時間は僅かだろう


この全てに絶望した、決して報われる事のない勇者に『魔神』の私が何か出来るのだろうか


その答えは明確だ


彼は勇者であり、私の敵である


私は彼の仲間の仇であり、魔王を生み出した諸悪の根源だ


「……ごめんなさい」

「私には貴方の願いを叶える事は出来ないよ」

勇者「……そうか」


目を閉じて、弱々しく言葉を彼は紡いだ


そんな彼に私は──


“勇者”「よくやりました、勇者さん」バシュンッッ


──最悪の勇者が現れた


“勇者”「離れていて下さい、後は私がやります」

「ぅ……ぅぐ、ああっ……」


四天王も魔王もいない上に時空間移動魔法もすぐには使えない


絶望の状況だ


“勇者”「さて、このまま息の根を止めてあげましょうかね」ゴォオゥッッ

「……っ」


”神の槍“が私の胸に当てがう


こんな所で私は死にたくない


私が死んだら誰が父と母の無念を晴らすのか


手に入れたこの魔神の力で、王国にも勇者にも神にも復讐するのではなかったのか


“勇者”「さぁ、貴女の罪を死で償いなさい」


勇者「……っ!!」ヒュッ


“勇者“「!!」バシュンッッ


勇者が向けた刃先が首元に到達するよりも速く”勇者“は虚空へと消える


そして勇者自身もそれを想定していた


「……っ」フラッ

勇者「君!しっかりするんだ!!」


いつの間に駆け寄ったのか、ボロボロの勇者が私の体を支える


(あれ……)

(勇者は瀕死だったはず…)


違う、そうじゃない


混乱しかけた頭を振って、私はボロボロの勇者を見上げた


彼は勇者のはずだ


ならば、私を討つのが彼の使命ではないのか?


だとすれば、これは全て罠なのでは……


勇者「逃げるんだ」

「!」

勇者「この男は私が止める、君は全力で逃げるんだ」

勇者「早く!!」バシュンッッ


彼は私に逃げろと言い残して、もう一人の勇者に挑んで行った


自分だって勝てないとわかっているはずだ


もうがんばりたくない


そう私に言っていたのに


がんばりたくないのなら、なぜ私なんかの為に戦ってるんだろう


そんな不思議な気分で私は呆然と考えていた




















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

あの時の私は勇者が不思議な存在だった


私を助けてくれた事もそうだけど、それ以上に私には分からないものがあった


それを知りたくて……


いえ、それよりも彼を救ってあげたいと思って……


私は “死んだ彼を連れて”時空間移動を行った


王女「勇者っ……!!」


ぺたりと地面に座ったまま、私は目の前で再び対決している勇者を見ていた


“あの時”と同じように彼は私を守ってくれた


今も彼は私の味方でいてくれる





“勇者”「まだまだ未熟ですねぇ!」

“勇者”「その左腕、貰いますよ!」ギュギュオゥッッ


ザンッッ!!


勇者「がぁぁぁぁぁ!!」ブシャァァァッ

“勇者”「私の【ロンギヌス】に攻撃魔法は効かない」

“勇者”「そして貴方の剣術も私の前では無力!」

“勇者”「出来損ないが真の勇者である私に歯向かうからこうなるのですよ」ゴォオゥッッ










~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

勇者「傷みは……無いから」

勇者「君は目を閉じて静かにしていればいい」


ズバンッッ‼︎


王女(……あれ?) 


ゴトッ……


パシャパシャ


王女(!)

王女(水が私の形に…)

王女(確かこの魔法は、四天王の水帝が使っていた──)

勇者「そのまま、そのまま静かにしててね 」 

王女(!!)


バシュンッッ 


“勇者”「どうやら終わったようですね」 


王女(え…?私が見えていない?いつの間に視覚魔法を……)


勇者「……」ニコッ 


王女(!) 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










王女「……」


今になってやっとわかった気がする


なぜ魔神である私までも、勇者は命を懸けて救おうとするのか



ガッッ!!



ギギギギギィィィンッッッ!!!!



勇者は……


勇者は優しすぎたのだ



ジュゥウウウウッッ!!



勇者「ぐぁぁっ……」ドサッ



もしも割りに合わない依頼をされたのならば断れば良い


もしも心優しいスライムに懐かれて迫害を受けるなら、スライムを斬れば良い


もしも仲間に必要な物を人々が分けてくれないのなら、無理にでも奪えば良い


もしも助けた相手に裏切られたなら、仲間に手を出す前に魔法で吹き飛ばせば良い



勇者「ハァ…ハァ……」ヨロッ

“勇者”「……」ニヤリ



ただそれだけなのに、彼には出来なかった


たとえ依頼してきた内容が勝手でも、その中では確かに困っている人がいるから


たとえ周りの人間に拒絶される事になっても、そのスライムに帰る場所も家族もいないから


仲間を助ける余裕が街の人々にないのは分かっていたから


初めて自分にお礼を言ってくれたエルフだから



勇者「……」フラフラ



だから戦い、手を差し伸べ、目を瞑り、裏切られるまで信じた


その結果が悲劇の連鎖になっても、勇者にはそれしか出来なかった



勇者「……」

“勇者”「……これで終わりです」


ドガガッッ!!


ジュゥウウウウッッ!!!!


勇者「」ドサッ



報われる事を信じて、戦い続けた先には確かな何かを得られると信じて


そして勇者は……絶望しても私を救おうとした


“魔王を倒す為の勇者”だからではなく


“誰かの為に戦える勇者”だから



勇者「」

“勇者”「よく戦いましたよ貴方は」

“勇者”「さて、神には貴方が死んだと再び報告しておきます」

“勇者”「まったく……残念です」

勇者「」



王女(勇者……!!)


あの時と同じだ


勇者は勝てなかった


再生すらさせない神の槍に勇者は心臓を貫かれていた


“勇者”「……」チラッ



王女(!)ビクッ



“勇者”「……」

“勇者”「ふむ、心臓まで肩から両断ですか……」

“勇者”「やるべき事はやった様ですね」

“勇者”「ふぅ」


バシュンッッ!!



王女(い、いなくなった……)

勇者「」

王女「ゆ、勇者……」

勇者「」

王女「……」

勇者「」

王女「勇者、お疲れ様……」ギュッ

勇者「」




















勇者「」

勇者「…」パチッ

勇者「……」

王女「」zzZ

勇者「……」


ギュッ


バシュンッッ




















~天界~

“勇者”「な、何ですって!?」

神「お前は魔神も勇者も、どちらも倒せてはおらぬ」

神「私はそう言ったのだ」

“勇者”「そ、そんな!!ありえません! 確かに勇者の心臓をロンギヌスで貫いたのです!!」

神「愚か者め」

“勇者”「それに王女までも何故に!?」

神「黙れ」

“勇者”「っ……」

神「チャンスは一度だけだ」

神「貴様に天界の兵団を任せる」

神「良いか、必ず勇者を先に消せ」

神「さもなくばお前も含めて私が直々に消してやる」

“勇者”「…御意」ザッ




















バシュンッッ!!


“勇者”「……」ザッザッ

“勇者”(なに…死体が無いだと…)

”勇者“(生きていたのか!?どうやって!?)

”勇者“「勇者……」ギリッ

”勇者“「……」

”勇者“(ふぅ、とりあえず落ち着きましょうか)

”勇者“(どうせ相手は瀕死のはず)

”勇者“(神に任された天界兵達を使えば容易でしょう)

“勇者”(仮に万全の状態になっていたとしても彼は私に勝てない)

“勇者”「どんなカラクリかは知りませんが、結末はもう決まっているのです」




















~寝室~

王女「」

王女「…」パチッ

王女「……」

王女「っ!?」ガバッ

勇者「おはよう王女」

王女「ぇ……勇者…?」

勇者「うん、僕だよ」

王女「……」ペタペタ

勇者「く、くすぐったいな…どうしたの」

王女「だって勇者は──」

勇者「王女、僕と君が初めて会った時の事を教えて欲しいんだ」

王女「……」

勇者「何となく、気づいたんだ」

勇者「君が僕をこの世界に連れてきたんだよね」

王女「……うん」

王女「私が勇者を連れてきた魔神だよ」

勇者「魔神かどうかは知らないよ、君は王女でしょ?」ギュッ

勇者「もう隠し事は無しだからね」

王女「……」ギュッ

勇者「教えて、魔王城の地下で何が起きたの」










勇者「……」

王女「心臓を貫かれた勇者が回復して記憶喪失になってたのは、時空間移動に巻き込んだからだと思うの」

王女「私も自分以外の人を時空間移動させたのは初めてだったし……」

勇者「そっか……」

勇者「僕は一度死んでたんだね」

王女「そう…だね…」

王女「私を逃がす為に」

勇者「そっか」


ギュゥッ


王女「?」

勇者「僕は君に二度も助けられたんだね」

王女「助けたなんて…私は勇者に守られてただけだよ」

勇者「はは、でも時空間移動魔法なんてあったんだねぇ」

王女「うん」

勇者「なら、ここはどこなの?未来?過去?」

王女「行き先はいつも一緒だよ、私が魔神になった日」

勇者「!」

勇者「それって……」

王女「私の国がメチャクチャにされてから二年後」

王女「だったかな」ニコッ

勇者「……」

勇者「じゃあここは過去なんだね」

王女「うん、勇者が任命された“モンスターハンター”は私の時代の勇者だよ」

勇者「でも、王様も僕のお母さんも騎士たちも、みんな僕の知ってる人だったよ?」

王女「えっと…」

王女「時空間移動魔法は、使用者の望む世界に移動するの」

王女「平行世界とも言うらしいけど……詳しくは魔王に聞いてみないと」

勇者「……」

王女「……」

勇者「うーん……」

勇者「隠し事は無しだけど、今する話題ではないね」

勇者「時間も無いしさ」スッ

王女「時間?」

勇者「僕と王女が死んでないのを神達が気づくと思う、そろそろね」

王女「!」

勇者「大丈夫」

勇者「でも、王女に頼みたいことがあるんだ」










モコモコモコモコモコ


水帝「四天王が一人、水帝ここに」ザッ

王女「ハァ…ハァ…」

王女「これで良いの?」フラッ

勇者「ありがとう、ゆっくり休んでて」ギュッ

水帝「……」

水帝「ふむ、もはや事情は語らぬとも察した」

勇者「助かるよ」

水帝「主の涙から生まれた私だ」

水帝「主が勇者に対する感情くらい分かる」

勇者「え、スライムだったの?」

水帝「スライム達の始祖体が私だな」

水帝「私の出自を多少なりとも知ってるのは何故でしょうかね?」

王女「あぅ……」

勇者「……」

勇者(不思議な光景だなぁ)










水帝「ふむ、これで良いのか?」モコモコモコ

水分身「……」

勇者「うん、これでいいよ」

勇者「……」ピトッ

水分身「?」


ビシィッッ


水分身「」

水帝「!?」

水帝「貴様、仮にも私の分身を凍らせるなどっ…!」

勇者「ごめん、念の為に試したくて」

勇者「でもこれである程度確認出来たから、あとは王女を頼んだよ」

水帝「頼んだ?」

勇者「君が彼女を守護して欲しいんだ」

水帝「貴様が主を守らないのか?」

勇者「うん、もう行かなきゃ」

水帝「……」ピクン

王女「水帝?」

水帝(何かが来る……それも軍団クラスの)

勇者「来たかな」

水帝「勇者、私一人では守りきれない!主を連れて逃げろ!」

勇者「大丈夫だよ」ナデナデ

王女「?」

勇者「君に助けられた分、ちゃんと返すからね」

勇者「待っててくれるかな」

王女「……」

水帝(勇者……貴様は一体何を考えているのだ…)

王女「はい、待ってます」

王女「行ってらっしゃい、勇者」ニコッ




















ザザザザザザザザザァァァア……


天界兵長「天界兵団の移動、完了致しました」

“勇者”「御苦労様」

天界兵長「現在兵士達は上空にて待機、勇者様の命令一つで王国に向けて千の兵が突撃致します」

“勇者”「はは、中々の絶景じゃないですか」

“勇者”(素晴らしい……)

“勇者”(神が作りし天使達、リザードマンを遥かに越える魔力の持ち主だ)

“勇者”「……」


ギュオォォォンッッ


天界兵長「!?」

“勇者”「次は四肢を焼き斬って頭と体を切断してやる」ゴォオゥッッ

“勇者”「私を何度も侮辱した償いは必ず受けさせる……」

天界兵「至急報告申し上げます」バサァッ

“勇者”「なんだ、王国の人間が気づいたか?」

天界兵「いえ違います」

天界兵「実は──」


ピッッ


天界兵「?」


ポロッ


天界兵「あれ──」ブシャァァァァ


“勇者”「な……!?」

天界兵長「目標勇者が後方から真っ直ぐこちらへ向かって来ています!!」

“勇者”「向こうから攻めて来ただと…?」

“勇者”「!!」バシュンッッ


天界兵長「ぇごぁぁ…?」スパスパンッ




















~王国城下町・環視塔~

衛兵「」zzZ

水帝「ふむ、上手い事を思いついたものだ」モコモコモコモコモコ


シュピッッ!!


シュピッッ!!


水帝「私ですら思いつかなかったな」

水帝「体内で機関的に圧力を生み出して水を撃ち出すとは」ピッッ

王女「これで勇者のお手伝いになるのかな」

水帝「ならないでしょう」

水帝「私ですら、1、2体を狙撃するのが限界ですし、乱射しても気休めが良い所」ピッッ

王女「……」

水帝「思い詰めるな主」

水帝「私達四天王や魔王様に勝ったのですよ勇者は」

水帝「信じてやりましょう」

水帝「彼は神や国王の使命より貴女を選んで戦っているのですから」

王女「……」




















天界兵「くっ!勇者はどこだ!?」

勇者「……」

天界兵「!!」

天界兵「もらったぁ!!」チャキィッ


バリバリィッ


天界兵「!?」

勇者「そんな程度じゃ僕には勝てないよ」


バヂバヂィィッ!!


天界兵「ぐぁぁぁぁ!!」


天界兵「勇者は雷の魔法を使ってくるぞ!」

天界兵「防護結界を展開する!!」


バシュンッッ!!


勇者「」ボソッ


キィィィィィンッ……


ズドドドドドッッ‼︎!


ゴオオオオオオ‼︎!





“勇者”「!!」

“勇者”「なんだ今のは!?」

天界兵「い、今の魔法で半数が落とされました……!」

“勇者”「何をしてるんだお前達は!!」

天界兵「し、しかし……」

“勇者”「このままでは埒があかない……」

“勇者”「私が勇者を仕留める」

“勇者”「お前達は魔神を討ちなさい!!」


バシュンッッ


天界兵「……」チラッ

天界兵「あんな魔法……初めて見た」ゾクッ




















ザザザザザザザザザァァァ‼︎


勇者「!」

勇者(天使達が僕を避けている……?)

勇者(直接王女を討つ気なら、ここは心配ない)

勇者(それよりも──)



“勇者”「こんばんは、愚かな罪人さん」ゴォオゥッッ



勇者「まずは君をどうにかしないと…だね」

“勇者”「剣を抜いてはどうです?無駄ですが」ギュオォォォンッッ

勇者「あぁ、無駄だろうさ」

勇者「私もそのつもりでここに来たのだからな」

“勇者”「行きますよ……」ググッ

勇者「……」




















水帝「主、ご無事ですか?」モコモコモコモコモコ

王女「うん…ちょっと擦り剥いただけ」


天界兵「覚悟ぉぉ!!」バサァッ


王女「!」バシュンッッ

水帝「っと」バシュンッッ


スカッ


天界兵「!?」


バシュンッッ


水帝「ご無事ですか?」シュピッッ


ドサッ


王女「うん」

王女「えっと……一々確認しなくていいよ」

水帝「主の心象に私は影響されるのでな、仕方ありません」

水帝「心配なんでしょう、あの男が」

王女「うん、心配だよ…」

王女「相手は私達が何千年も逃げ続けて来た勇者だよ」

水帝「だが今は、その勇者が貴女の味方だ」

水帝「それに奴は“三度”負ける事は絶対に無い」

水帝「それは私達四天王が保証する」

王女「え…?」




















ガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!!!


神速の領域で打ち合う両者


大地を煙の如く砕き上げ、土を炭に、空気を焼き尽くし生まれた真空波が辺りを蹂躙する


勇者「……」

“勇者”「ハァ…ハァ…ハァ…」

“勇者”「……!!」ギリッ


ヒュッッ‼︎


ギュオォォォンッッ!!


“勇者”は一瞬で背後に回りロンギヌスを放った


勇者「……」

“勇者”「なっ…!」


しかし勇者はロンギヌスを掴み取り“勇者”を殴り飛ばした


バァァァン‼︎


大地に叩きつけられる“勇者”


“勇者”「グァァァァァ……‼︎」

“勇者”(たった一撃でこの私が……)

勇者「……」スタッ

“勇者”「ロンギヌス!!」バシュンッッ‼︎

“勇者”「はぁああああああっっ!!」ギュオォォォンッッ!!

勇者「……」シャッッ!!


ガガガッ……バヂィンッッ


ドゴォォォォォッ‼︎!


“勇者”「ぅぐっ…がぁ……」ズシャァア

“勇者”(ま、また……まただ)

“勇者”(また私よりも早くなって……)

自身と勇者との力量の差は目に見えて離れていた


“勇者”「私は……私は……」





知らず知らず、遠い昔を思い出していた


王国と名乗るようになった母国で彼は執事を勤めていた


王国は戦争が終わったばかりで、毎日敵国の民が奴隷として市場で売られていた


『東の国』の王族すら、ある者は慰み者となり、ある者はいたぶられ、そして『魔族』と呼ばれた


余りにも惨いと彼は思った


もしも彼等が救われる事があったなら、きっと神の救済しかあり得ないだろうと


手を指し延べる訳でもなく、これが現実なのだと納得していた


その二年後、神に『勇者』の力を与えられた


魔神となった王女の追跡者となってからも、
彼はその考えが変わることは無かった





“勇者”「ファイアアロー!!」ドゴォッッ

勇者「ただの火炎で、私を仕留められるとでも?」


ゴンッッッッッ!!!!!!!!!!


“勇者”「……」


何故、今更思い出してしまったのか


何故にあの頃を思い出してしまったのか


“勇者”には分からなかった


己の中で爆発していた恐怖を拭う事が出来ずにいたから


確実に迫る死


“勇者”「うぉぉぉ!!」ギュオォォォンッッ

勇者「……」

“勇者”「!?」

“勇者”「ゴホッ……」ズシャァア

勇者「……」

“勇者”「ガハッ……」


脳裏に浮かぶ『魔神』が生まれた頃に見た奴隷達の末路


痛ぶられる恐怖と死の恐怖に顔を歪ませ、震えていたあの者たち


そして王女


勇者「……」

“勇者”「わ…私は……死ぬのか」

勇者「まだ殺さない」

勇者「『神』はどこにいる」

勇者「どうすれば行ける?」

“勇者”「……」


『………』


“勇者”(思い…出せない……)

“勇者”(神は私になんと言って下さった?)

“勇者”(私は……何にそんな忠誠を誓っていたのだろう)

勇者「教えてくれ、どうすれば行けるんだ」

“勇者”「……はは」

“勇者”「ははは…はははははは……」

“勇者”「何となく、理由が分かった気がしたんだ」

勇者「……?」

“勇者”「僕は、勇者にはなれないってことだよ」

“勇者”「君もだよ、勇者」ニコッ

勇者「……」

“勇者”「神は何らかの理由があって君が邪魔になったんだ」

“勇者”「だから君も僕もおかしくなっていく……勇者になってしまったんだ」

勇者「何を言ってるんだ」

“勇者”「君は人間の敵であり、人間の象徴なんだよ」




















バシュンッッ


勇者「ただいま」

水帝「早かったな」

勇者「そうかな」

水帝「主の話しを聞いた限り、半日前に殺されたばかりだそうだな」

勇者「まぁね」

王女「おかえり、勇者……」


ギュッ


勇者「……」

王女「勝ったの?」

勇者「勝ったよ」

勇者「最後、彼を救えなかったけどね」

王女「救う?」

勇者「……」ギュッ

勇者「今から、私は神のいる所へ行こうと思う」

王女「かみ……?」

水帝「どうするつもりだ」

勇者「王女を見逃して貰えないか、直接交渉しに行く」

水帝「数千年かけて私達を追っていたのだぞ?」

水帝「向こうは主を殺さなければ満足しないだろう」

勇者「満足はもう出来ないさ」

水帝「?」

王女「勇者……」

勇者「王女、君に伝えなきゃいけないことがある」

王女「なに?」

勇者「許して欲しい」

王女「許すって、なにを?」

勇者「……」

勇者「私が明日明後日に戻る事は無い」

勇者「帰れるのは恐らく……気の遠くなるような年月がかかるだろう」

王女「!?」

勇者「先代の勇者が最期に話してくれた」

勇者「神は天界にいる」

勇者「天界では、神に認められていない者は現世よりも時間の流れが大きく違う」

勇者「数分で数年、数十年と経ってしまうんだ」

王女「……」

水帝「貴様は主を再び独りにするつもりか!!」ガシッ

勇者「独りじゃない」

勇者「魔力さえ回復すれば、また魔王達を召喚出来るんだろう?」

王女「……」

勇者「私はこの物語に決着をつけなければならない」

王女「……」

王女「必ず…帰ってくる?」

勇者「ああ、もちろんさ」

王女「戻ってきたら、抱き締めてくれる?」

勇者「うん、絶対にね」

王女「えっと…」ポロポロ

勇者「王女、どうか泣かないでくれ」

勇者「『愛してる』」

勇者「そんな言葉を言える私達でもないしな」

王女「でも私は勇者が好きだよ」ポロポロ

勇者「私もだ」

勇者「だが私は……」

勇者「『私』なんだ」

水帝「!」

水帝「まさか、貴様はあの頃の……!」

王女「水帝やめて!」

水帝「しかし!主はこれで良いのですか!?」

水帝「貴女はこんな結末を──」

王女「いいの」

勇者「……」

王女「私は…」

王女「『二人』を救えたのかな」

勇者「……」

勇者「そうだな……」

勇者「『私』も『彼』も君に救われたよ」

王女「えへへ、あなたも好きだよ」

王女「私って言うの少しかっこいいし」

勇者「……」

勇者「行ってきます、王女」

王女「行ってらっしゃい、勇者」






























~天界~

神「……」

神「入り口にいた『四天使』はどうした」

神「勇者よ」

勇者「……」

神「戦闘らしい音が聞こえなかった」

神「どうしたのだ」

勇者「先代の勇者に比べれば、大した相手ではなかったよ」

神「文字通りの瞬殺か」

神「やはりお前は生まれるべきではなかった」

勇者「“失敗作”だからか?」

神「いかにも」キィンッ


ズドドドドドドドドドドッッッ‼︎!


ブォォンッ‼︎


勇者「……」ザッ

神「やはりな」

神「既に──」

勇者「シャイニング・レイ」

神「!?」


キィィィィンッ……


カッッッ‼︎!


ズドドドドドドドドドド‼︎!


神「ぐぉおお……!!」ガクッ

勇者「……」

神「ま、まさか……」

神「神の魔法すら会得するとは…」

勇者「なるほど」

勇者「どうりで凄まじい威力だ」

神「フンッ」バシュッッ


ゴガァッ‼︎


勇者「素手の破壊力だけならロンギヌス並みか」ガシィッ

神「!?」

神「お、おのれぇ…!!」キィンッ

勇者「やめておけ」

神「っ……」ピタリ

勇者「今ので分かった」

勇者「貴様では私に勝てない」

神「ぐっ……」

勇者「……」

神「ふ、予想外にも程がある」

神「この神を以てしても、お前の欠陥に気づいた時は戦慄したものだ」

勇者「欠陥だと?」

神「然り」

神「貴様は正真正銘本物の『不老不死』になったのだ」

神「感じておるだろう?」

神「自身の中で渦巻く魔力は無尽蔵に」

神「力は無限に成長していくのが」

勇者「ああ、感じるよ」

神「そうであろう」

神「なんせ与えた力は『耐性強化』だったからな」

神「たしか貴様が生まれたのは『前回』だったか」

勇者「!」

神「ん?なんだその反応は」

勇者「神ならよく知ってるんじゃないか?私の記憶を事ある毎に操作していたであろう」

神「ふん、てっきり記憶が全て蘇ったのかと思っていたが」

勇者「話せ、真実の全てを」

神「よかろう……」

神「3ヶ月前を『今回』として」

神「『前回』とは貴様を私が改めて生み出した時代の戦いだ」

神「私はこれまでの勇者が中々魔神を討たない事に苛立っていてな」

神「もしやこの男では魔神を討つに及ばないのではないか?」

神「そんなことを考えていた」

神「そして再び魔神を数ある平行世界の中で見つけた時、私は決断した」

神「“二人目の勇者”を造ろうと」

勇者「それが私か」

神「ああ、そうだ」

神「だが貴様は最初から私の期待を裏切る男だった」

神「四天王まで辿り着いたのは良かった」

神「しかし、先代勇者と違い突如として精神的不安定に陥ったのだ」

神「そして四天王の一人目である『地帝』にいきなり敗北した」

勇者「なっ…!?」

神「私も心底驚いたものだ」

神「先代勇者に手当てをさせ、再び四天王に挑ませたが、『地帝』を倒した次は『炎帝』に敗北した」

神「次は『雷帝』」

神「その次は『水帝』」

神「ここである事に気付いた」

神「貴様は一度戦った相手には決して敗北しないとな」

神「戦術、魔術、腕力、脚力、魔力」

神「敗北した相手に合わせて急激な成長を遂げたのだ」

勇者「……」

神「その後、魔王と互角の戦いを繰り広げた」

勇者「結果は?」

神「貴様が殺される瞬間に先代勇者が魔王を倒した」

神「もっとも、直後に魔神は平行世界の彼方に逃亡してしまったがな」

神「先代勇者と共に戻った時」

神「貴様の目は先代勇者と違って“異質”なものになっていた」

神「その刹那に私は痛感したのだ」

神「生み出した新たな勇者の末恐ろしい気配に」

勇者「それで私は…」

神「仲間を殺された記憶がお前を変異させたと考えた私は、記憶のみをリセットさせて平行世界に送り込んだ」

神「だがそれこそが最大の過ちであった」

神「旅の中で時折記憶が戻りかけては突然力を増していった」

神「覚えているであろう」

神「四天王が余りにも弱いと感じたはずだ」

神「そして、消したはずの記憶に沿うように、再び同じ運命を辿り出した」

神「まるで記憶が無くとも、何かを信じるようにな」

神「そうして魔王を打ち破り、地下で魔神と対面した時、私は先代勇者に魔神を殺せと命じた」

神「だがそこで貴様は魔神の味方をした」

神「そして先代勇者との戦いになった」

神「貴様が殺された瞬間に私は記憶を消そうとした」

勇者「……?」

勇者「何故中途半端に消すような真似をした?消えたのは地下での事だけだ」

神「中途半端だったわけではない」

神「既に記憶改竄に対する耐性を身に付けていたのだ」

神「故に記憶を消し損ねた上に、魔神と共に平行世界へと消えた」

勇者「……」

神「私が知っている事はこれで全てだ」

神「それでどうする?私を殺すか?」

勇者「生かして置いたらどうする?」

神「どうもできぬ」

神「お前はもう勇者という枠に納まらん」

神「この私ですら殺せないのだからな」

勇者「……」

勇者「もう……王女に関わらないんだな?」

神「王女…魔神か」

神「出来ることなら消したい存在だ」

勇者「あの子はもう魔神じゃない」

神「魔神じゃない?なら問おうか」

神「戦争はどうして起き、王女達は迫害を受けたと思う?」

勇者「!?」

神「王女が居たのは『東の国』というのは知っているな?」

勇者「……」

神「あの国は当時、戦争が始まる前から不穏な噂があったのだ」

神「人間達の間で『魔法』が出回るきっかけとなったのもあの国だ」

勇者「……」

神「『魔神』はいたのだ」

神「ずっとあの国の中で」

勇者「……」

勇者「王女がそうだと?」

神「否」

神「私が思うに『魔神』とは、平行世界とは全く異なる世界から来た力だと思っている」

神「人と人との間で受け継がれ、決して絶える事の無い存在」

勇者「王女は、どうしてそんなものに」

神「大体想像はつくであろう」

神「不穏な噂が人間の間で大きくなり、邪悪さを増し、魔法という知恵を生み出した国を魔だと言った」

神「そして『正義』を翳して戦争が起きた」

神「珍しいことではない」

神「数多の平行世界でも人間は執拗に『正義』を喚きながら争いを生み、悲劇を生み、歴史を作り上げた」

神「そんな悲劇の歴史に埋もれるはずだった王女は新たな悲劇を生む種を宿してしまった」

勇者「……」

神「さて、絶望と憎悪の中で魔神という力を宿した者はどんな結末を辿る?」

勇者「王女と僕なら、きっと正しい道を行けるさ」

神「ふん、なら勝手にするといい」

神「どうせお前達二人を別つ者など居はしない」

勇者「ああ、いざという時は『私』がいるしな」

神「……」

神「勇者よ、肝に命じておけ」

神「いつまでも今の状態が続くとは思わない事だ」

神「『失った記憶の勇者』と『今の記憶の勇者』」

神「二つの人格がお前の中にあるが」

神「いつか必ずどちらかが消える」

神「その前にどうにかしないとな」

勇者「……そうだね」

神「そしてこれは神としての助言だ」

神「人間の敵は『正義』であって『悪』ではない」

神「覚えておけ」

勇者「……」

勇者「ああ、覚えておくよ」


バシュンッッ‼︎





神「……」

神(果たしてお前達が報われる日は来るのだろうか?)

神「……」

神「答えは否だ」






























~1500年後 王国~


バシュンッッ‼︎


勇者「……」スタッ

勇者「!」

王女「おかえり……勇者」

勇者「ただいま」

魔王「久しいな…」

炎帝「遅過ぎだ!何をしていたのだ!」

雷帝「主が泣いた回数なんて800越えてんだからねっ!!」

水帝「久しぶりだな、勇者」

スライム娘「世界はずっと私達が管理していたので問題ありませんよ!」

勇者「僕と別れてどのくらい経ってるのかな」

王女「1500年ちょっとかな」

勇者「そっか……」

勇者「変わらないね、王女」

王女「ほんと?」

勇者「うん、後ろの皆も含めてね」

勇者「……」

王女「勇者…?」

勇者「何だか……王国自体が寂れてない?」

王女「……」

王女「実はね…170年位前から魔力を体外放出させる疫病が流行ってるみたいなの」

王女「私も…いつまで持つか分かんないや…」

勇者「!!」チラッ

魔王「我々ですら、未だに治療法を見出だせないでいる…」

魔王「だが…主に残された時間は多少はあるはずだ」

魔王「勇者と共に人間らしい時間は過ごせる」

勇者「……」

王女「ごめんね、時空間移動するだけの魔力はもうないの」

勇者「要らないよ、君は必ず僕が救うんだ」

王女「私は勇者さえいればそれで幸せだよ」

勇者「……」


グッ


王女「ひゃっ?」


チュッ


王女「!?」

勇者「王女」

勇者「もう一度、僕の願いを叶えて欲しい」

王女「ゆ、勇者……」

勇者「君を救う」

勇者「一緒に君の力が来た『異世界』に行くんだ」

勇者「きっとそこなら、『魔神』が生まれた世界なら、疫病の治療法も見つかる」

魔王(神に聞いたのか……)

魔王(なるほど、それならば確かに)

王女「私、がんばれるかな…」

勇者「大丈夫、僕と君なら」ニコッ

王女「……」

王女「うん、がんばる」ニコッ





その後、勇者と魔神の力を宿した少女は忽然と姿を消した


それまで世界を管理していた魔王達も同じく消え、完全に行方不明となった


彼等の姿を見た者はいない


しかし、それは決して死んだ訳ではない


大切な人のために


自身の未来のために


失ってはならないものを守る為に


彼等は『異なる世界』へと旅立ったのだ


もう──



彼は諦めない



     ── END ──













































































































































































































































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