26 / 63
26.移りゆく環境に適応しなければならない
しおりを挟む
4月も3週目を迎え、夜になっても底冷えしなくなってきた。庭のミオソティス?だったか、なんか青い多年草は花盛りだ。
日課である草取りを終えた俺は、園芸用具を片付けると自室へと向かった。
まったく春になってくると何もかもおめでたくなってくるものだ。啓蟄から調子を取り戻した虫は暴れるわ、夏に向けて雑草は生えるわ踏んだり蹴ったりである。今のうちに方をつけなくてはならないことが多すぎる。
おめでたくなると言えば、俺らの周りにも色々と好感触な変化が訪れた。
まずコズハとユーがめちゃくちゃ打ち解けた。頭脳明晰さと無類のSF好きが相まって、それらの技術やら原理はコズハにとって垂涎ものらしい。
この前も、
「ユーちゃん、素人なりに一つ質問を。何故こんなにも素晴らしい引力中和装置なるものが作れたのに、座標合わせだけは地球の自転に合わせる力技っぷりなのはどうしてなのですか?」
「いい質問だゆー。本来は自転の勢いを使って平行移動するための技術なんだゆー。それと移動装置と非接触式座標固定錨を組みあわせてるだけだ急ごしらえの遊び道具なんだゆー」
「移動装置とは仰っていますが、あの空間では地面を歩くが如く、水中を泳ぐが如く我々は動けていました。推力はどこから放出されていたのですか?いえ、そもそも飛行に用いていた移動手段自体違うと?」
「後者の方だゆー。とある物質を利用して重力を歪めると同時に座標調整の延長線で脳波に合わせて位置を調整していたんだゆー。具体的に書くと……」
難解極まりない話を延々としているのだ。夜中の3時に、無料通信アプリのチャットで。そうでなければ意味もわからない単語で構成された奇々怪々な文章群を、無知蒙昧な俺が一字一句書き記すことなど出来はしない。叩き起されていた時とは別ベクトルで気が狂いそうだ。
俺は通知を切らない派の人間だったが、会話が一往復する前にスマホの縦画面が口調だけ軽妙は論文で埋めつくされたのを見て、電源を切った。
仲良いことは美しきかななどと言うが、2人だけで暴走されると俺の手に負えない。国家転覆などを計らないよう祈るばかりである。
次に、コズハの束縛が過度なものではなくなった。会話に入ってくることも、放課後探索に連れ出されることも、ド深夜に起こされることもない。
理由を聞いてみても、
「今は充電期間なのです。私の方で調べたいことやまとめたいことがあるので、ナナイ君はしばらくの間座してお待ちください」
と、はっきりしない。
俺は深く探らないことにした。あの口ぶりだとどうせまた駆り出されるのだ。であれば今を満喫した方がいいに決まっている。
結果として、俺は初めて8時間睡眠をとることができ、数年間共にしていた原因不明の頭痛から解放された。朝カーテンを開けた時、あまりの朝日の美しさに感動したくらいだ。思考は鮮明になり、視界は開け、世界はバラ色になる。言うなれば、永続デバフが1つ無くなったのだ。間違いなく俺の生きやすさは格段に上昇した。
そして最後に、これは先程言ったことに関連していることだ。端的に言い表すならば一日が、長く感じるようになった。
これまでコズハに拘束されることを前提として家事をし、勉強をし、登校をし、帰宅する生活を続けていた。しかし、急に必要とされていたルーティンが無くなって俺の自由時間は、カンブリア紀の生命くらい爆発的に増えた。
喉が出るほど羨望した『普通の生活』が突如目の前に転がり込んできたのである。
何をすれば良いか分からず、初日はせっかく時間があるならと家の大掃除をしてしまった。部屋の隅から浴室の鏡に至るまで磨き上げて尚時間が余る。先程睡眠の話をしたが、否定的な言い方をすれば余った時間で惰眠を貪ったに過ぎない。
2日目にしてこれに気付けたのは幸運だった。コズハに振り回されないからと、自堕落した生活を送れば、目的なく青春を使い潰してしまっていたに違いない。
青春とはただ与えられるものでも漠然と発生している状態を指すのではなく、掴み取る過程にこそあるのだ。
しかし、ただがむしゃらに足掻いても仕方がない。無計画なまま青春という大海原に漕ぎ出しても沈没と溺死あるいは餓死が待っている。安全な航路の確保、過酷な環境への対応、食料の選択、それに変わる何かが。
言わば、生存戦略が俺には必要だ。
考えろ、俺が青春の真っ只中で遭難しないためには何がいる?
不幸中の幸いにも、俺はコズハに振り回されたことで、人生の半分以上を過酷な冒険とサバイバルに費やしている。つまり、こと生き延びるについてはそれなりに実績があるのだ。それと同じようにプランニングして危機管理と事前準備を済ませ、正しい手段で効率的にアプローチすればより良い成果が得られるはず。
となると、まずは課題の確認だ。
自室に到着した俺は、机の引き出しからノートを取り出す。こうなることを見越して買っておいたものだ。『青春生存戦略』と仰々しいタイトルをつけて、表紙を開く。
浮き足立ったままシャープペンシルを取り、一行目にその先を当てた。そのままの姿勢でしばし考えてみる。
俺は青春に何を求めているのか。
「……」
俺は青春に何を求めているのだろうか。やりたいこととかないのか?
「……?」
あれ、俺は。
「……」
俺は一体、青春に何を期待していたんだっけ。
しんと張り詰めた自室の中。進まないペンと白紙のノート。取り残された俺の周りだけ、時間は一向に進まなかった。
日課である草取りを終えた俺は、園芸用具を片付けると自室へと向かった。
まったく春になってくると何もかもおめでたくなってくるものだ。啓蟄から調子を取り戻した虫は暴れるわ、夏に向けて雑草は生えるわ踏んだり蹴ったりである。今のうちに方をつけなくてはならないことが多すぎる。
おめでたくなると言えば、俺らの周りにも色々と好感触な変化が訪れた。
まずコズハとユーがめちゃくちゃ打ち解けた。頭脳明晰さと無類のSF好きが相まって、それらの技術やら原理はコズハにとって垂涎ものらしい。
この前も、
「ユーちゃん、素人なりに一つ質問を。何故こんなにも素晴らしい引力中和装置なるものが作れたのに、座標合わせだけは地球の自転に合わせる力技っぷりなのはどうしてなのですか?」
「いい質問だゆー。本来は自転の勢いを使って平行移動するための技術なんだゆー。それと移動装置と非接触式座標固定錨を組みあわせてるだけだ急ごしらえの遊び道具なんだゆー」
「移動装置とは仰っていますが、あの空間では地面を歩くが如く、水中を泳ぐが如く我々は動けていました。推力はどこから放出されていたのですか?いえ、そもそも飛行に用いていた移動手段自体違うと?」
「後者の方だゆー。とある物質を利用して重力を歪めると同時に座標調整の延長線で脳波に合わせて位置を調整していたんだゆー。具体的に書くと……」
難解極まりない話を延々としているのだ。夜中の3時に、無料通信アプリのチャットで。そうでなければ意味もわからない単語で構成された奇々怪々な文章群を、無知蒙昧な俺が一字一句書き記すことなど出来はしない。叩き起されていた時とは別ベクトルで気が狂いそうだ。
俺は通知を切らない派の人間だったが、会話が一往復する前にスマホの縦画面が口調だけ軽妙は論文で埋めつくされたのを見て、電源を切った。
仲良いことは美しきかななどと言うが、2人だけで暴走されると俺の手に負えない。国家転覆などを計らないよう祈るばかりである。
次に、コズハの束縛が過度なものではなくなった。会話に入ってくることも、放課後探索に連れ出されることも、ド深夜に起こされることもない。
理由を聞いてみても、
「今は充電期間なのです。私の方で調べたいことやまとめたいことがあるので、ナナイ君はしばらくの間座してお待ちください」
と、はっきりしない。
俺は深く探らないことにした。あの口ぶりだとどうせまた駆り出されるのだ。であれば今を満喫した方がいいに決まっている。
結果として、俺は初めて8時間睡眠をとることができ、数年間共にしていた原因不明の頭痛から解放された。朝カーテンを開けた時、あまりの朝日の美しさに感動したくらいだ。思考は鮮明になり、視界は開け、世界はバラ色になる。言うなれば、永続デバフが1つ無くなったのだ。間違いなく俺の生きやすさは格段に上昇した。
そして最後に、これは先程言ったことに関連していることだ。端的に言い表すならば一日が、長く感じるようになった。
これまでコズハに拘束されることを前提として家事をし、勉強をし、登校をし、帰宅する生活を続けていた。しかし、急に必要とされていたルーティンが無くなって俺の自由時間は、カンブリア紀の生命くらい爆発的に増えた。
喉が出るほど羨望した『普通の生活』が突如目の前に転がり込んできたのである。
何をすれば良いか分からず、初日はせっかく時間があるならと家の大掃除をしてしまった。部屋の隅から浴室の鏡に至るまで磨き上げて尚時間が余る。先程睡眠の話をしたが、否定的な言い方をすれば余った時間で惰眠を貪ったに過ぎない。
2日目にしてこれに気付けたのは幸運だった。コズハに振り回されないからと、自堕落した生活を送れば、目的なく青春を使い潰してしまっていたに違いない。
青春とはただ与えられるものでも漠然と発生している状態を指すのではなく、掴み取る過程にこそあるのだ。
しかし、ただがむしゃらに足掻いても仕方がない。無計画なまま青春という大海原に漕ぎ出しても沈没と溺死あるいは餓死が待っている。安全な航路の確保、過酷な環境への対応、食料の選択、それに変わる何かが。
言わば、生存戦略が俺には必要だ。
考えろ、俺が青春の真っ只中で遭難しないためには何がいる?
不幸中の幸いにも、俺はコズハに振り回されたことで、人生の半分以上を過酷な冒険とサバイバルに費やしている。つまり、こと生き延びるについてはそれなりに実績があるのだ。それと同じようにプランニングして危機管理と事前準備を済ませ、正しい手段で効率的にアプローチすればより良い成果が得られるはず。
となると、まずは課題の確認だ。
自室に到着した俺は、机の引き出しからノートを取り出す。こうなることを見越して買っておいたものだ。『青春生存戦略』と仰々しいタイトルをつけて、表紙を開く。
浮き足立ったままシャープペンシルを取り、一行目にその先を当てた。そのままの姿勢でしばし考えてみる。
俺は青春に何を求めているのか。
「……」
俺は青春に何を求めているのだろうか。やりたいこととかないのか?
「……?」
あれ、俺は。
「……」
俺は一体、青春に何を期待していたんだっけ。
しんと張り詰めた自室の中。進まないペンと白紙のノート。取り残された俺の周りだけ、時間は一向に進まなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる