49 / 63
49.ばかしあい
しおりを挟む
「日付、変わったで。えらい難儀してるみたいやなぁ。リタイアも時間の問題……ククク」
「あんまりじゃないかゆー?露骨に誘導しておいて正規っぽいルートを全部潰すとか、いくらなんでも大人気ないゆー」
「別にええやんか。僕の一ヶ月分の手取り、黙って見とったら飛んでいくんやで?ちょいくらい本気で化かしたってええやん」
「卑劣だゆー……それでも教育者かゆー?」
「物事が一筋縄で行かへんこともあるちゅーことを教えるんも教育者の仕事やろ。教育料や教育料……」
大幣先生の声が尻すぼみに響く。気がついたのだ、フェンスの上に仁王立ちする小さな影に。
「失礼、過払い金の請求に参りました。西上という者です」
「「っ!?」」
コズハはフェンスから飛び降りると、片膝ついて華麗に着地した。
「首のお清めはお済みですか?大幣トリナ先生」
「なんで僕の本名知ってるん?」
「親切な方が教えてくれましたよ。
……っ、大幣先生……」
あまりにコズハが軽々と着地したので見くびっていたが、フェンスの高さは実に3メートル。思ったより高さがあり、膝に響いた。逆にこいつの頑丈さは何なんだ、全身ダイヤモンドなのか?
「待ってたゆー!コズハ、ナナイ!」
「お待たせしました。ユーちゃん」
俺が人知れず悶えている横で、コズハとユーは再会を喜んでいた。
「……そうか、どうせニアやろ。人様の個人情報をなんやと思うとるんやアイツは」
大幣先生はパイプ椅子から立ち上がると、いつも通りの笑顔を俺に向けた。目を細め、口元を釣り上げる、相も変わらず胡散臭い顔だ。
「想像以上に悪い子たちやなぁ。肝試しを抜ける時、経路を外れてええなんて思うたん?」
「ダメとは仰っていませんでしたから」
「そらそうと、物事には順序ってもんがあるやろ。ルールは守って貰わな、払うものも払えへんなぁ」
大幣先生はしたり顔でこちらを見てきた。表情こそ変わっていないが、俺らを追い詰めようとしているのは確かだ。
わざとらしく伸び上がり、一歩一歩近寄って来るその瞬間すら、笑顔の下の細めた目を俺らから離さない。 どこまで緻密に擬態しようと、目を離した瞬間食べてきそうな……動物的な恐ろしさがある。
一瞬たりとも、油断をしてはならない。
そう自分に言い聞かせて、大幣先生に向き合った。
「守ってますよ、ちゃんと。
『あんたらには、玄関から入って屋上を目指して校舎を歩いてもらう。そやけど、屋上の扉には鍵がかかってる。そやさかい校舎を歩き回って鍵を探してもらうで』と、先生は言ってましたよね?」
「そやったかなあ、確か」
「言ってました」
「……おう」
「それで、この話で先生が指定しているのは二点。屋上を目指すこと、校舎を歩き回り鍵を探すこと。俺らはそれを守りました」
「せやけど、鍵はどうしたんや?流石に見つけてへんねやろ」
「ありますよ、ここに」
「……なんやと」
コズハが誇らしげに掲げた鍵を前に、大幣先生は頭をかいた。
「普通探さへんやろ……探したところで詰まるように考えとったのに」
下がった口元から、白い八重歯が覗く。小刻みに動く歯列からは、歯ぎしりが聞こえるようだ。
大幣先生は長い髪たくしあげつつ、きちんと開かれた目で俺を見てきた。
「ほんまに、なんでわかったんや」
「鍵はローラー作戦で、そのほかのクイズっぽいのは全部スルーしました」
「スルーすなや、肝試しやぞ。それにニア……あの化け猫とは会わんかったんか?あいつに会うたはずやのに、なんで無事やねん」
「……興味を無くしたようです」
「はぁ?どういうこっちゃ」
「俺のことを面白みがないから好きに死ねばいいと。その時言われたんですよ、大幣先生の話に乗るのも勝手にしろと。その時思ったんですよ、肝試しを無視してクリアするのが何より先なんじゃないかって」
「……してやられたわ」
大幣先生は額に手を置いて空を仰いだ。肩を落としたその背中は、一回り小さく見えた。
「まさか僕の十分の一も生きてへん人間に知恵比べて負けるとは思わへんかったわ」
「私が気を失っていたタイミングも噛み合っていましたからね。探すべきところは探し、スルーすべきところをスルーできたのです」
「ここまで来たんやったら、運も実力の内や。認めるしかあらへんなあ」
大幣先生は、俺とコズハの濡れた肩に手を置いた。
「おめでとう。ちゃんと買うたるわ、ユーの服」
「……」
「……」
その返事があまりに呆気なさすぎて、大幣先生とは思えないほど顔を朗らかに綻ばせたもので、信じられなかった俺らは顔を突き合わせた。
そんな俺らに、ユーが駆け寄った勢いそのまま飛び込んできた。
「ありがとうだゆー!!!」
涙ながらに叫んで俺らに抱きついてきたのだ。
「お前くっ付くな!汚れるぞ制服!」
「ちょっとユーちゃん、ナナイ君とユーちゃんの高さに合わせないでください。私浮いてます。首でギリギリつっかえてるだけで宙ぶらりんです。あの、ユーちゃん」
抱き合う俺ら3人を遠巻きに眺めつつ、
「どないしよ、明日から。久しぶりにネズミでも取ろか……」
哀愁漂う大幣先生の独り言が聞こえた。
「あんまりじゃないかゆー?露骨に誘導しておいて正規っぽいルートを全部潰すとか、いくらなんでも大人気ないゆー」
「別にええやんか。僕の一ヶ月分の手取り、黙って見とったら飛んでいくんやで?ちょいくらい本気で化かしたってええやん」
「卑劣だゆー……それでも教育者かゆー?」
「物事が一筋縄で行かへんこともあるちゅーことを教えるんも教育者の仕事やろ。教育料や教育料……」
大幣先生の声が尻すぼみに響く。気がついたのだ、フェンスの上に仁王立ちする小さな影に。
「失礼、過払い金の請求に参りました。西上という者です」
「「っ!?」」
コズハはフェンスから飛び降りると、片膝ついて華麗に着地した。
「首のお清めはお済みですか?大幣トリナ先生」
「なんで僕の本名知ってるん?」
「親切な方が教えてくれましたよ。
……っ、大幣先生……」
あまりにコズハが軽々と着地したので見くびっていたが、フェンスの高さは実に3メートル。思ったより高さがあり、膝に響いた。逆にこいつの頑丈さは何なんだ、全身ダイヤモンドなのか?
「待ってたゆー!コズハ、ナナイ!」
「お待たせしました。ユーちゃん」
俺が人知れず悶えている横で、コズハとユーは再会を喜んでいた。
「……そうか、どうせニアやろ。人様の個人情報をなんやと思うとるんやアイツは」
大幣先生はパイプ椅子から立ち上がると、いつも通りの笑顔を俺に向けた。目を細め、口元を釣り上げる、相も変わらず胡散臭い顔だ。
「想像以上に悪い子たちやなぁ。肝試しを抜ける時、経路を外れてええなんて思うたん?」
「ダメとは仰っていませんでしたから」
「そらそうと、物事には順序ってもんがあるやろ。ルールは守って貰わな、払うものも払えへんなぁ」
大幣先生はしたり顔でこちらを見てきた。表情こそ変わっていないが、俺らを追い詰めようとしているのは確かだ。
わざとらしく伸び上がり、一歩一歩近寄って来るその瞬間すら、笑顔の下の細めた目を俺らから離さない。 どこまで緻密に擬態しようと、目を離した瞬間食べてきそうな……動物的な恐ろしさがある。
一瞬たりとも、油断をしてはならない。
そう自分に言い聞かせて、大幣先生に向き合った。
「守ってますよ、ちゃんと。
『あんたらには、玄関から入って屋上を目指して校舎を歩いてもらう。そやけど、屋上の扉には鍵がかかってる。そやさかい校舎を歩き回って鍵を探してもらうで』と、先生は言ってましたよね?」
「そやったかなあ、確か」
「言ってました」
「……おう」
「それで、この話で先生が指定しているのは二点。屋上を目指すこと、校舎を歩き回り鍵を探すこと。俺らはそれを守りました」
「せやけど、鍵はどうしたんや?流石に見つけてへんねやろ」
「ありますよ、ここに」
「……なんやと」
コズハが誇らしげに掲げた鍵を前に、大幣先生は頭をかいた。
「普通探さへんやろ……探したところで詰まるように考えとったのに」
下がった口元から、白い八重歯が覗く。小刻みに動く歯列からは、歯ぎしりが聞こえるようだ。
大幣先生は長い髪たくしあげつつ、きちんと開かれた目で俺を見てきた。
「ほんまに、なんでわかったんや」
「鍵はローラー作戦で、そのほかのクイズっぽいのは全部スルーしました」
「スルーすなや、肝試しやぞ。それにニア……あの化け猫とは会わんかったんか?あいつに会うたはずやのに、なんで無事やねん」
「……興味を無くしたようです」
「はぁ?どういうこっちゃ」
「俺のことを面白みがないから好きに死ねばいいと。その時言われたんですよ、大幣先生の話に乗るのも勝手にしろと。その時思ったんですよ、肝試しを無視してクリアするのが何より先なんじゃないかって」
「……してやられたわ」
大幣先生は額に手を置いて空を仰いだ。肩を落としたその背中は、一回り小さく見えた。
「まさか僕の十分の一も生きてへん人間に知恵比べて負けるとは思わへんかったわ」
「私が気を失っていたタイミングも噛み合っていましたからね。探すべきところは探し、スルーすべきところをスルーできたのです」
「ここまで来たんやったら、運も実力の内や。認めるしかあらへんなあ」
大幣先生は、俺とコズハの濡れた肩に手を置いた。
「おめでとう。ちゃんと買うたるわ、ユーの服」
「……」
「……」
その返事があまりに呆気なさすぎて、大幣先生とは思えないほど顔を朗らかに綻ばせたもので、信じられなかった俺らは顔を突き合わせた。
そんな俺らに、ユーが駆け寄った勢いそのまま飛び込んできた。
「ありがとうだゆー!!!」
涙ながらに叫んで俺らに抱きついてきたのだ。
「お前くっ付くな!汚れるぞ制服!」
「ちょっとユーちゃん、ナナイ君とユーちゃんの高さに合わせないでください。私浮いてます。首でギリギリつっかえてるだけで宙ぶらりんです。あの、ユーちゃん」
抱き合う俺ら3人を遠巻きに眺めつつ、
「どないしよ、明日から。久しぶりにネズミでも取ろか……」
哀愁漂う大幣先生の独り言が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする
エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》
16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。
告白されて付き合うのは2か月後。
それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。
3人のサブヒロインもまた曲者揃い。
猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。
この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?
もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!
5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生!
※カクヨム、小説家になろうでも連載中!
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる