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二章L:その道は聖女との取り引き
四話:魔女はいなくともゴブリンはいる
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王都から走って一時間ほど。俺らは魔女の森の前に着いた。
「ハァ……ハァ……馬のポテンシャル舐めてたわ……なんでこんなクソ遠いところに最高速のまま突っ込めるのよ……」
「知らないですよ……特に彼女は別格なんです。あなたには負けますが血気盛んですよ」
「言うわねローレル。アンタの何考えてるか知らない腹の底を風通し良くしてやるわ」
「どうかご勘弁を。穴が空くのは仕事の予定だけで結構ですからね」
軽口を叩きながら、先程ビオサが開けたトンネルの中をくぐる。
その森のあまりの暗さは、今が昼であることを忘れさせるほどだ。
「うっわ……薄気味悪いわね。魔女はおろかゴブリンも湧きそうねここ」
「口が悪いですよゼラさん。 ゴブリンなんかいないですよ。ここは国境からかなり離れているんですから」
ここ魔女の森は流刑地である。周りを茨に囲まれた天然の要塞は、その内外を隔絶する。そのためこの中に寄り付く人など、ろくな素性ではない。ここを超えた先にまだまだ緩衝地帯は広がるのだが、その途中に村があるとかっていう噂もある。
ただ徴税逃れをするのなら、そう言う場所に流刑者だらけの村を作るのにはうってつけだろう。
そんなことを考えながら、低く屈んで進む。俺の前を、ずっと立ったまま歩けるゼラが憎い。
「ねぇ……もっとこう……なんか野生動物とか居ないわけ?こうも殺風景に森、森、森だと気が狂いそうなんだけど」
「居ませんよ。正確には居ますけれど、ここらの生物は密漁者がいるせいで警戒心が強いんです」
「うへぇ……背景すら陰湿な森ね……。早くこんなとこ出ましょ!」
そういえば禁止薬物の取引現場にもなってるとか何とか……。ところでリンに飲ませたあの薬は本当に毒薬だったのだろうか?そういえばあの時はそそのかされるがまま、特に相手側のことも調べないで買ってしまった。不思議な魅力があったのだ。……一体アレは……。
考えながら歩いていると、
「痛っ!」
何かにぶつかって、尻もちをつく。見上げると、ゼラが立ち尽くしていた。
「何やってるんですか? この森の木々の仲間入りのつもりですか?」
俺がそう言うが、ゼラは何も答えない。見ると、その体は小刻みに震えている。
「……いないって」
「へ?」
「いないって言ったじゃないゴブリン!!!!」
ゼラの横から顔を覗かせると、確かに目の前にはゴブリン三兄弟。こんなところにいるはずも無いのだが……真新しいククリナイフを持っている奴を見てはっきりした。
こいつら徒党を組んで盗賊まがいのことをしてやがる。
「アァ……オアエ……イイア?」
俺を指さし、ゴブリンはそう言った。
「ひいっ!? アンタ!! このゴブリンと知り合いだったりする!?顔が広いのねっ!!」
「いえ。 初対面です。ですが……」
何かがおかしい。ゴブリンは人間ほどとまではいかないが、知性は高く言語を扱う。 多くは人語を解するはずだが……。
「あー……そこ行く御仁。何用ですかな? ここらは不緩衝地帯ですが、この先は人間の国ですよ?」
ゴブリンたちはこちらを見るも、必死に口をパクパクと動かすばかり。口から出てくるのは叫び声だけだ。
もしかして、ここらに住み着いたゴブリン族の独自の言語か?
「ウオッ……イイオエアインア! オエアオ、イアアアイアア……」
一体は他のゴブリンに話しかけているようだが、まるっきり互いの言葉に聞く耳を持たない。独自言語の線は無いな。
「イイ!イイアンアオ、オアエ? アウエエウエ!」
そうやってすがりついてくる。こいつよく見たらどこかがおかしいような……?
[ドスン……]
何かが落ちたような音がして振り返ると、ゼラが尻もちを着いていた。震える指先をこちらに向けている。
「したが…… 」
「したが? どうしたんですか?」
「舌がないのよ……このゴブリンたち……」
そう言われてすぐにゴブリンの口を覗く。
「オウイア? アイアアッアオア?」
開いた口の中、ゴブリン特有の長い舌はどこにも見られずただ真っ暗な空洞になっていた。
「まさか……」
この残忍性……リンの両親を襲った奴と同じ犯人がここにいやがるのか……?
俺が首を傾げていると、
「イイ、イイ! オッイ、オイ!」
そう言って俺の手を引いた。今のは「騎士、騎士、こっち、来い!」か。なるほど、聞き取れるようになってきたぞ。
「ゼラさん。私についてきてください。彼らの目的は少なくとも追い剥ぎではありません」
「わ、わかったわよ……」
ゼラは俺の後ろをおずおずと着いてきた。
「オオ! オオ!」
ここ、ここ! か。ゴブリンは茂みを指さしてそう言った。
促されるままに、茂みをかきわける。
「さーて……お宝でもあればいいですね」
「調子のいいこと言ってんじゃないわよ」
「って……そう、うまいこといきませんよね……」
「っ……!」
俺らは息を飲んだ。そこにはボロボロの男が一人。血まみれで横たわっていたのだ。
「たす……けてくれ……」
「ハァ……ハァ……馬のポテンシャル舐めてたわ……なんでこんなクソ遠いところに最高速のまま突っ込めるのよ……」
「知らないですよ……特に彼女は別格なんです。あなたには負けますが血気盛んですよ」
「言うわねローレル。アンタの何考えてるか知らない腹の底を風通し良くしてやるわ」
「どうかご勘弁を。穴が空くのは仕事の予定だけで結構ですからね」
軽口を叩きながら、先程ビオサが開けたトンネルの中をくぐる。
その森のあまりの暗さは、今が昼であることを忘れさせるほどだ。
「うっわ……薄気味悪いわね。魔女はおろかゴブリンも湧きそうねここ」
「口が悪いですよゼラさん。 ゴブリンなんかいないですよ。ここは国境からかなり離れているんですから」
ここ魔女の森は流刑地である。周りを茨に囲まれた天然の要塞は、その内外を隔絶する。そのためこの中に寄り付く人など、ろくな素性ではない。ここを超えた先にまだまだ緩衝地帯は広がるのだが、その途中に村があるとかっていう噂もある。
ただ徴税逃れをするのなら、そう言う場所に流刑者だらけの村を作るのにはうってつけだろう。
そんなことを考えながら、低く屈んで進む。俺の前を、ずっと立ったまま歩けるゼラが憎い。
「ねぇ……もっとこう……なんか野生動物とか居ないわけ?こうも殺風景に森、森、森だと気が狂いそうなんだけど」
「居ませんよ。正確には居ますけれど、ここらの生物は密漁者がいるせいで警戒心が強いんです」
「うへぇ……背景すら陰湿な森ね……。早くこんなとこ出ましょ!」
そういえば禁止薬物の取引現場にもなってるとか何とか……。ところでリンに飲ませたあの薬は本当に毒薬だったのだろうか?そういえばあの時はそそのかされるがまま、特に相手側のことも調べないで買ってしまった。不思議な魅力があったのだ。……一体アレは……。
考えながら歩いていると、
「痛っ!」
何かにぶつかって、尻もちをつく。見上げると、ゼラが立ち尽くしていた。
「何やってるんですか? この森の木々の仲間入りのつもりですか?」
俺がそう言うが、ゼラは何も答えない。見ると、その体は小刻みに震えている。
「……いないって」
「へ?」
「いないって言ったじゃないゴブリン!!!!」
ゼラの横から顔を覗かせると、確かに目の前にはゴブリン三兄弟。こんなところにいるはずも無いのだが……真新しいククリナイフを持っている奴を見てはっきりした。
こいつら徒党を組んで盗賊まがいのことをしてやがる。
「アァ……オアエ……イイア?」
俺を指さし、ゴブリンはそう言った。
「ひいっ!? アンタ!! このゴブリンと知り合いだったりする!?顔が広いのねっ!!」
「いえ。 初対面です。ですが……」
何かがおかしい。ゴブリンは人間ほどとまではいかないが、知性は高く言語を扱う。 多くは人語を解するはずだが……。
「あー……そこ行く御仁。何用ですかな? ここらは不緩衝地帯ですが、この先は人間の国ですよ?」
ゴブリンたちはこちらを見るも、必死に口をパクパクと動かすばかり。口から出てくるのは叫び声だけだ。
もしかして、ここらに住み着いたゴブリン族の独自の言語か?
「ウオッ……イイオエアインア! オエアオ、イアアアイアア……」
一体は他のゴブリンに話しかけているようだが、まるっきり互いの言葉に聞く耳を持たない。独自言語の線は無いな。
「イイ!イイアンアオ、オアエ? アウエエウエ!」
そうやってすがりついてくる。こいつよく見たらどこかがおかしいような……?
[ドスン……]
何かが落ちたような音がして振り返ると、ゼラが尻もちを着いていた。震える指先をこちらに向けている。
「したが…… 」
「したが? どうしたんですか?」
「舌がないのよ……このゴブリンたち……」
そう言われてすぐにゴブリンの口を覗く。
「オウイア? アイアアッアオア?」
開いた口の中、ゴブリン特有の長い舌はどこにも見られずただ真っ暗な空洞になっていた。
「まさか……」
この残忍性……リンの両親を襲った奴と同じ犯人がここにいやがるのか……?
俺が首を傾げていると、
「イイ、イイ! オッイ、オイ!」
そう言って俺の手を引いた。今のは「騎士、騎士、こっち、来い!」か。なるほど、聞き取れるようになってきたぞ。
「ゼラさん。私についてきてください。彼らの目的は少なくとも追い剥ぎではありません」
「わ、わかったわよ……」
ゼラは俺の後ろをおずおずと着いてきた。
「オオ! オオ!」
ここ、ここ! か。ゴブリンは茂みを指さしてそう言った。
促されるままに、茂みをかきわける。
「さーて……お宝でもあればいいですね」
「調子のいいこと言ってんじゃないわよ」
「って……そう、うまいこといきませんよね……」
「っ……!」
俺らは息を飲んだ。そこにはボロボロの男が一人。血まみれで横たわっていたのだ。
「たす……けてくれ……」
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