友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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五章L:神は高らかに告げる

六話:不確定要素だらけの対策会

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 ナナカたちが去って、客間に取り残された俺とゼラはまだ作戦会議を続けていた。


 「んじゃ、もうちょい込み入った話をするわよ」
   

 ゼラは足を組み、右腕をソファの背もたれの後ろに回す。そしてだらしない格好のまま首だけ俺の方に向けた。ゼラなりにリラックスできる姿勢なのだろう。そのまま喋り始める。


 「まずツメクの魔術よ。 ……そもそも魔術ってのがなんなのかわかんないけどね」

 「ええ。リンが使っていたのは……幻覚のようなものと、洗脳に近いもの、それと……異様に切れる剣。どれもきちんと見られた訳では無いですね」

 「……そういやマザーもリンさんが見えない何かに串刺しにされたって言ってなかった?」

 「それに状況はよく分かりませんけど急所に命中していたんですよね? ……まぐれか……いや、リン相手に心臓を狙って攻撃するだなんてまぐれでは無理ですね」

 「不可視のくせに狙いが正確とか、強すぎにも程があるでしょ。……何か穴が……」

「……これ以上は、実際に見てみないと分かりませんね。その杭のようなものをどうやって刺しているか……そもそも刺しているのかすら私たちには分からないんですから」

 「ぐぬぬ……でも、そうね。 まずこの話は良いわ、話題変えましょ」

 
  ゼラは険しい顔でそう言った。


 「次にこのヒモの外し方です」


 俺は右手に繋がるヒモを掲げながら言った。


 「本当に博打みたいなものですが、もしかしたらツメクの魔術にぶつけられれば切れるのではないかと思います」

 「その心は?」

 「物理的に切断を試みてきましたが、切れる気配がありません。 しかしこのヒモにヒールの力が流れている以上、腕を切り落としても即座に治るためこの拘束を外すには至らないんですよ。つまり、切れはしないものの、このヒモを切るしかないんです」

「……それで? 何か心当たりがありそうだけど」

 「ツメクの攻撃を当てて切ります」

 「なるほど。よく分からないものにはよく分からないものをぶつけようってわけね?」

 「ええ、悔しいですがその通りです。あの魔術の理解不能さ加減、神の力に通じるものがありますからね」


 俺は続けて言う。


「リンは神から見放されました。これを魔術を使ったからだと推測し、魔術の力が神の力と対立構造になっていると仮定します。魔術の力が貴女の祈りの力と対を成す存在ならば、ヒモを切る手立てになるかもしれません」

 「ふぅん……なるほどね」


 感心したようにゼラは言う。


 「もしかしてさっき言ってたのはヒモ切る前提の作戦なの?」

 「いいえ。 切ることができると決まった訳ではありません。私が考えたのはあくまで繋がれたままで戦う方法です」

 「へぇ……早速どうするのか教えてもらおうかしら?」

 「すみませんが教えられません」


 ゼラは俺の言葉に目をぱちくりさせた。


 「な、なんでよ!?」

 「今から多少練習したところで体力を消耗するだけだからですよ。この技は相手も面食らうこと間違いなしですから、動揺している隙に短期で畳み掛ける必要があります。少しでもアグレッシブに動けるよう、体力は温存しましょう」


 というか、ゼラはともかく俺が持ちそうにないのだ 。出来ればツメクが対応出来てい無いうちに、方をつけたい。あわよくばヒモを切りたい。


 「大丈夫。だいたい理解したわ……じゃあ、これでひとしきり話し終わったわけだけど……」


 ゼラが窓の外を眺める。とんでもなく頭を使ったのだが、対して時間は経っていない。まだオレンジの夕焼けが部屋を照らしていた。
 それを確認すると、ゼラは一言。


 「せっかくだし、この際ゆっくりとアンタ自身の話を聞きたいわ」

 「……私の……ですか?」

 「アンタひた隠しにしてるけど……この際隠し事は互いに無しにしましょう。……互いに……その……恥ずかしい目にもあったわけだし、もうこれ以上恥じるべきことも無いでしょ?」


 ゼラはわずかにはにかんだ。西日に照らされる物憂げな目は、どこか理解者を求めているようにも感じた……。


 「……貴女いい雰囲気をかもし出して、リンの幼少期エピソード聞こうとしているでしょう?」

 「クソっバレたか」

 「というか、ツメクの前で公開処刑未遂したのはこの交渉材料を得るためですか?」

「それが何よ! アタシは!アンタより先に!!森の中でしてんのよ!! アンタはいいわよね! 裏口から出てすぐ近くになぜか噴水があって! 音が消せて!!」


 そう言って膨れるゼラ。墓まで持っていかれそうなほど恨まれている。
 観念した俺は、ゼラに向き直るのだった。
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