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五章L:神は高らかに告げる
八話:ある乞食たちがいた
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「こ、乞食ィ?!」
ゼラは声を裏返らせた。無理もない反応だ。
「アンタが乞食!? というか、王国にそんな人たちがいた訳!?!?」
もう、王国に乞食は居ないのだ。その日暮らしの貧乏人は農村部にいるのみ。王国ではそもそも生きられない。
「えぇ、乞食。 今は居ないですけど城の門の外、乞食たちが徒党を組んで共同つ生活しているところがあったんですよ。私はそこにいました」
そこまで言うとゼラは右手こちらに突き出し、待てと訴えかけてきた。こめかみを抑え、眉間に皺を寄せる。
「……ちょっと待って。 頭の理解が追いついてないのよ……。アンタは元乞食で今は騎士……はあ!? 待って本当にわかんない! どういうこと!?」
ゼラはなにか言おうと口を動かしては言いよどみ、もどかしそうに頭をかいている。そして頭を抱え唸り始めた。
当たり前の反応だ。これだから……いや、変に同情されたくなかったのもあるが出自は話さなかったのだ。
騎士になるような家柄の子供は、どこかの貴族の下人として働いて礼儀作法を叩き込まれる。その時点で貴族どころか大貧民だった俺には無縁の話だ。そんな貧乏人がどうして騎士としてここにいるのか。
ゼラは眉を寄せながら口に手をあててつぶやく。
「……驚いたわ……同類だったなんて……」
「同類……そういえば、貴女は孤児院で育てられたんでしたっけ」
ゼラは顔をしかめる。失言したと思っているようだ。
……別に気にしていなかったのだが、それが災いして皮肉っぽく聞こえたようだ。今ばかりは自分の普段の言動を呪う。
「私とてあの付近の幸運にも浮浪者たちにどうにか育ててもらって今があるんです。むしろ同じだと言ってくれて嬉しいですよ、ゼラ」
「アンタがそうなら……良かったわ……」
ゼラの頬は少し緩んだ。しかしどこか腑に落ちない様子だ。
「でも、その生まれでその知識量……どうなってるの? てっきり貴族か何かで教えこまれたんだとばっかり……。どこでなんのために教育を受けてたのよ」
「貴族から貴族のために……って言ったほうが良いですかね?」
俺がそう答えたが、ますます訳が分から無さそうにしている。頭に?が浮かんでいるかのように、ゼラはとぼけた顔をしている。
「貴族からチップをせしめるためですよ」
「なるほど……?」
「馬車に乗って通りかかる商人やら貴族やらに話しかけるんです。
当時の貴族は金払いが良くてですね、有名な詩の一節でも吟じれば大量のチップを恵んでくれたんですよ」
「でも……そんな乞食に色々と教えてくれる貴族なんているの?」
「たまたま乞食の中に事業で大失敗した元貴族が居ましてね、読み書きは彼から教わりました」
「……世知辛いわね」
「あとは劇場の台本とか何かしらの指導本などを盗み見て覚えました」
「本当にタフよねアンタ。 要領良さそうだし、まさかそれを世渡りですら活かすだなんてね……」
ゼラは苦笑いしつつ小さく頷く。しかし、ふと天井を見つめてつぶやく。
「でもアンタ要領いいし、そのまんま稼げたんじゃないの? そこから騎士になるって機会に恵まれても……なかなか大変でしょ?」
俺はゆっくりと首を横に振った。
「のっぴきならない事情ができましてね。 わずか数ヶ月で乞食は私を除いて全員息絶えました」
ゼラ青い顔で生唾を飲んだ。そういった俺も背筋が凍るようだった。あの恐ろしい日々のことがありありと浮かんでくる。
「……一体何があったの?」
恐る恐る聞いてくるゼラ、俺自身も乱れる息を整えてゆっくりと答える。
「リンの父親が、反旗を翻したんです」
ゼラは声を裏返らせた。無理もない反応だ。
「アンタが乞食!? というか、王国にそんな人たちがいた訳!?!?」
もう、王国に乞食は居ないのだ。その日暮らしの貧乏人は農村部にいるのみ。王国ではそもそも生きられない。
「えぇ、乞食。 今は居ないですけど城の門の外、乞食たちが徒党を組んで共同つ生活しているところがあったんですよ。私はそこにいました」
そこまで言うとゼラは右手こちらに突き出し、待てと訴えかけてきた。こめかみを抑え、眉間に皺を寄せる。
「……ちょっと待って。 頭の理解が追いついてないのよ……。アンタは元乞食で今は騎士……はあ!? 待って本当にわかんない! どういうこと!?」
ゼラはなにか言おうと口を動かしては言いよどみ、もどかしそうに頭をかいている。そして頭を抱え唸り始めた。
当たり前の反応だ。これだから……いや、変に同情されたくなかったのもあるが出自は話さなかったのだ。
騎士になるような家柄の子供は、どこかの貴族の下人として働いて礼儀作法を叩き込まれる。その時点で貴族どころか大貧民だった俺には無縁の話だ。そんな貧乏人がどうして騎士としてここにいるのか。
ゼラは眉を寄せながら口に手をあててつぶやく。
「……驚いたわ……同類だったなんて……」
「同類……そういえば、貴女は孤児院で育てられたんでしたっけ」
ゼラは顔をしかめる。失言したと思っているようだ。
……別に気にしていなかったのだが、それが災いして皮肉っぽく聞こえたようだ。今ばかりは自分の普段の言動を呪う。
「私とてあの付近の幸運にも浮浪者たちにどうにか育ててもらって今があるんです。むしろ同じだと言ってくれて嬉しいですよ、ゼラ」
「アンタがそうなら……良かったわ……」
ゼラの頬は少し緩んだ。しかしどこか腑に落ちない様子だ。
「でも、その生まれでその知識量……どうなってるの? てっきり貴族か何かで教えこまれたんだとばっかり……。どこでなんのために教育を受けてたのよ」
「貴族から貴族のために……って言ったほうが良いですかね?」
俺がそう答えたが、ますます訳が分から無さそうにしている。頭に?が浮かんでいるかのように、ゼラはとぼけた顔をしている。
「貴族からチップをせしめるためですよ」
「なるほど……?」
「馬車に乗って通りかかる商人やら貴族やらに話しかけるんです。
当時の貴族は金払いが良くてですね、有名な詩の一節でも吟じれば大量のチップを恵んでくれたんですよ」
「でも……そんな乞食に色々と教えてくれる貴族なんているの?」
「たまたま乞食の中に事業で大失敗した元貴族が居ましてね、読み書きは彼から教わりました」
「……世知辛いわね」
「あとは劇場の台本とか何かしらの指導本などを盗み見て覚えました」
「本当にタフよねアンタ。 要領良さそうだし、まさかそれを世渡りですら活かすだなんてね……」
ゼラは苦笑いしつつ小さく頷く。しかし、ふと天井を見つめてつぶやく。
「でもアンタ要領いいし、そのまんま稼げたんじゃないの? そこから騎士になるって機会に恵まれても……なかなか大変でしょ?」
俺はゆっくりと首を横に振った。
「のっぴきならない事情ができましてね。 わずか数ヶ月で乞食は私を除いて全員息絶えました」
ゼラ青い顔で生唾を飲んだ。そういった俺も背筋が凍るようだった。あの恐ろしい日々のことがありありと浮かんでくる。
「……一体何があったの?」
恐る恐る聞いてくるゼラ、俺自身も乱れる息を整えてゆっくりと答える。
「リンの父親が、反旗を翻したんです」
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