こねくとノイズ

24. 新たに騒がしくなる声

「ちょっとサクラ、動かないでってば！」
「もう大丈夫だから、私一人で出来るから！」
「いいの、私が洗うから！」
　お風呂場でモモが濡れるのを気にせず心配そうにウロウロとする中、大声で叫ぶサクラとノイズ。グシャグシャと髪の毛を洗うノイズの手をつかみ嫌がるサクラの手を振りほどき無理やり洗い、騒がしい声に、はぁ。とため息をつきながらノオトがお風呂場に入ってきた
「ノイズ、うるさい」
「ごめん。ノオトももうちょい我慢して」
　二人から少し離れて体を洗いはじめたノオトをちらりと見て答えると、サクラにシャワーから流れるお湯をバシャッと思いっきり頭からかけた。その時、サクラにかけた水がモモにもあたり、バタバタと慌ただしく脱衣室へと向かっていった
「……ここは、安全にしているの？」
　あっという間に体を洗い終えたノオトが湯船に浸かりながらノイズに話しかける。サクラの背中を洗っていたノイズが、またちらりとノオトを見てすぐゴシゴシと力強く洗いはじめた

「多分、大丈夫。結界を突破されたら危ないけど、今すぐには来れないよ」
「……結界？」
　ノイズがゴシゴシと洗うせいで背中が痛むのを背中を反らし逃れようとしながら、サクラが言うと、ノイズが驚いた様子で洗っていた手を止めた
「えー、結界を知らないの？」
「そりゃあ魔法がない世界で暮らしてたんだもの、知らないよ」
　ノイズの驚く言葉に湯船の縁に腕を置き、二人の様子を見ていたノオトが言うと、ノイズが納得したような顔でサクラの体にまたバシャッと思いっきりお湯をかけた
「結界はね、敵からの魔法が入らないようにした見えない壁みたいなものだよ」
　そう言いながら今度は少し水を足し冷たくなったシャワーをサクラにかけるとビクッと体が動き少し肩も上がった
「サクラが襲われる前に本当は結界を強く張るべきだったんだけどね、忘れてた。ごめんね」
　またシャワーの温度をお湯に戻し、エヘヘと笑って謝るとサクラが少し振り向いた。すると、シャワーから出る湯気の向こうに見えるノオトの側で見知らぬ真っ白な兎が座っていた
「そうね、あの二人の娘なのにね」
　サクラと目が合い、クスッと笑いながらその兎が喋ると、ノイズとノオトが驚いた様子でその声のする方に振り向いた
「リリ……。いつからいたの？」
「ずっといたわよ。ノイズ、その子に迷惑かけているってソナタに伝えておくからね」
「えっ、それは本当にやめて」
　シャワーの水を気にせずノイズの側に来たその兎にノイズが何か言い訳をずっと話している。その様子をサクラが不思議そうに見ていると、ノオトがサクラを手招きをした
「あの兎はソナタさんの使い魔のリリ。あまりこの家には来ないんだけど、さっきのことがあったから来たのかもね」
「使い魔ですか……」
　ノオトの話を聞いてサクラがリリを見ながら呟くと、サクラと目線が合ったリリがノイズと会話を止め、ふわりと飛ぶように跳ねるとサクラの顔の前に止まり、戸惑うサクラをしばらく見た後、クスッと笑って、短く白い手を差し出した
「あなたがサクラね。私はリリよ。これからよろしくね」