冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
377 / 439

第376話 材料仕入れ先変更 中編

しおりを挟む
 ミゼットからの呼び出しで、ポーション製造部に来てみれば、俺を発見した親方に抱き着かれた。
 こちらにそんな趣味はないんだが……

「待っていた!!!」

 親方はそう叫ぶといっそう俺を強く抱きしめた。
 グリズリーの如く。
 痛い。

「親方、アルトが死んじゃう」

 ミゼットが親方を注意してくれて、俺はやっと解放された。
 品質不良で呼び出されて、男に抱きしめられて死んだら、次は何に転生するんだろうかと一瞬考えてしまったぞ。

「ミゼット助かった。親方の腕の中で昇天するところだったよ」

 俺は感謝の意を示した。

「良かった。アルトには解決してもらいたい問題があるから」

「ミゼット、書置きを見てきたんだけど、何があったのか教えてくれるかな?」

「うん」

 そこからはミゼットが俺を呼んだ目的を話してくれた。
 俺が王都に出立してから、しばらくたってポーションの効き目が弱くなったという苦情が多く寄せられるようになったそうだ。
 今までもポーションの等級を勘違いしたクレームが、ごくごく稀にあったそうなのだが、話していくうちに使用した冒険者側の勘違いだったということで決着していたそうだ。
 ところが、今回に関しては数が多く、みなが等級は間違っていないと主張しているとのこと。
 試しに親方がエランをぶん殴って、ポーションを直ぐに飲ませてみたが、どうにも効果が弱くなって治りきならなかったのだという。
 エランの扱い酷いな。

 しかし、それでポーションの効果が弱くなっていたのが判ったのは大きい。
 原因はそこにあることが分かったのだから。
 これが、迷宮内でポーションの効き目が弱くなる魔法が発動していたなんてことだったら、多分一生わからなかったんじゃないかな。
 エランの尊い犠牲は無駄にはしない。

「エランは死んでないよ。ちょっと人間不信になりながらも、今日も働いているから」

 ミゼットが補足説明をくれる。

「じゃあまずは、4M変化点の確認からだね。ポーションの製造で何か変わったことはあった?」

「人は今までと一緒。新人はいないよ。道具も変わってない。やり方も変えてないし、材料もマンドラゴラだよ」

 ミゼットの話だと変化点は無しか。
 でも、それでこんなことになるのは不思議なんだよな。

「マンドラゴラと水の配分を間違っていたりしないかな?」

「始業点検で分量は確認しているから大丈夫」

 そう言われるが、前世では始業点検に嘘を書く作業者がいたので、始業点検の記録を読み返しただけでは安心できない。
 ただ、データロガーも監視カメラもないこの世界では、始業点検の嘘を見抜くのは大変だ。
 ここはひとまずあっているとしておこう。

「ああ、そういやあステラの迷宮から採れるマンドラゴラが不足しているっていうんで、今は他所から仕入れてもらっているんだ」

 親方が思い出したように言う。

「ああ、それは重要な変化点ですね」

 俺がそういったのをミゼットが不思議そうに見る。

「でも、同じマンドラゴラでしょ。ギルドの買取部門が鑑定しているなら間違いないよね」

「ミゼット、確かに同じマンドラゴラなのかもしれないが、それは種族が同じというだけなのかもしれないよ」

 そう、同じ種類でも出来上がりが違うなんてことは、製造業ではよくあることだ。
 材料はJIS規格にそって作られているが、規格の中でのばらつきはある。
 そして、それを許容できるほど製造ラインは柔軟ではない。
 ひも付きと呼ばれる専用に作ってもらった材料で、それに合わせて製造ラインをチューニングするのだ。
 勿論そのひも付きの材料の購入先が変更になるのであれば、客先への変更申請をしなければならない。
 今回の問題もその辺にありそうだな。
 他に変化点が無いようであれば、そこを調べてみる価値はある。

「そういえば、つい最近マンドラゴラってどこかで聞いた気がするな」

 俺の頭にマンドラゴラという単語がよぎった。
 どこで聞いたのだったろうか。

「ちょうどいま新しいマンドラゴラが入荷したってギャランが言ってきたよ」

 死んだ目をしたエランが教えてくれる。
 ミゼットはその言葉を聞いて、俺の袖を引っ張って買取部門へと向かっていく。

「きっとマンドラゴラに問題があるはずよ」

「そう決めつけるのは良くないよ」

 はやるミゼットを軽く諫める。
 問題がマンドラゴラにあるってほど、簡単に不良は解決しないものだからな。

 買取部門につくと、そこには見知った顔が4個並んでいた。
 別に、さらし首になっているわけではなく、首から下がちゃんと体とつながってはいるが。

「あっ」

 向こうも俺に気が付いたようだ。

「先ほどはありがとうございました」

 ルーチェが俺に頭を下げた。
 そう、見知った顔のうち一つはギャラン、他の三つはルーチェ、クレフ、シャンテだった。
 そうか、この人達が運んでいた荷物がマンドラゴラだったな。

「アルト、知り合いなの?」

 ミゼットに訊かれたので頷く。

「王都からの帰りに知り合ったんだよ」

 襲われていたというのは濁す。
 ルーチェ達にも都合があるだろうからな。
 俺の返答を聞いて、三人はどことなくホッとした様だった。
 濁して正解か。

「そうだ、ギャラン。そのマンドラゴラは鑑定し終わったかな?」

 俺が訊ねると、ギャランはやったと答えてくれた。

「本物?」

 ミゼットの質問に

「俺が鑑定したんだから間違いない。今までだってちゃんとしたマンドラゴラだったぞ」

「だって、迷宮から以外のマンドラゴラを使い始めてから、ポーションの効き目が弱くなっているんだよ」

「ミゼット、俺の鑑定はスキルなんだ。間違いはねえよ」

 ミゼットの言葉にギャランが少しむっとした。
 俺もギャランがマンドラゴラとマンドラゴラモドキの鑑定を間違ったのではないかと思っていたが、スキルの鑑定なら間違いは無いか。
 俺の測定スキルだって測定ミスは無い。
 その理屈で言えば、ギャランだってそうなのだろう。

「ポーションの効き目が弱くなったとはどういうことですか?」

 俺達の会話にルーチェが入ってきた。
 自分たちの持ってきた商品のせいで、ポーションの効き目が弱いと疑われて不安になったのだろう。

「ここ最近、冒険者ギルドで製造販売しているポーションの効き目が弱くなったと苦情が結構きているみたいなんだ。俺も王都に出かけていて知らなかったけど」

「何でアルトがその事と関係あるのですか?」

「ああ、自分はここの冒険者ギルドの職員で、品質管理の仕事をしているからね」

 そういえばオーリスの夫としか紹介されてなかったな。
 貴族がなんで冒険者ギルドにいて、ポーションの効き目について首を突っ込んでいるんだろうと不思議に思うのも当然か。

「品質管理?」

 ルーチェから当然の質問が来る。

「品質管理っていうのは言ってみれば問題解決かな。相談窓口で冒険者やら職員やらの困りごとの相談を受けているんだ」

 品質管理という言葉が一般的ではないので、いつも説明に困る。
 前世でも、品質管理って一般的には検査くらいのイメージしかなかったけどね。
 仕事で虫や犯罪者とも戦うぞ。
 犯罪者と戦うのはレアなイベントだけど。

「つまり、ポーションの効き目が弱い問題が発生して、アルトがここに呼ばれたのは職務であるわけですね。貴族の方がどうしてここにいるのか不思議でしたので」

「俺は別に貴族じゃないよ」

「え?」

 やはり勘違いしていたか。
 俺は別に爵位は持ってないし、オーリスの夫というだけの存在だ。
 普通、異世界に転生したら貴族になるだろ!
 という思いはあるが、普通の定義が無いからなあ。
 異世界転生したときの身分の公差ってどんなもんだろ?
 JIS規格にも載ってないからな。

「さて、本題に戻ろうか。ルーチェ達が持ってきたマンドラゴラは本物だ。にも関わらず、ポーションの効き目が弱いのなら、マンドラゴラの成分分析をしてみるべきだろうね」

「成分分析…………」

 成分分析という聞き慣れない言葉に、そこにいた全員がそれ以上言葉が出なかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
【毎週火木土更新】 自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

処理中です...