冒険者ギルド品質管理部 ~生まれ変わっても品管だけは嫌だと言ったのに~

犬野純

文字の大きさ
414 / 439

第413話 ダイヤの刺青 2

しおりを挟む
 女装を終えた俺は調査員からフォックスの似顔絵を受け取る。

「うわ、なんて凶悪な人相だ。こいつはきっととんでもねえ大悪党だ」

 それが俺のフォックスに対する第一印象だった。
 描かれた似顔絵には凶悪犯が裸足で逃げ出すような顔があった。
 そして、右のこめかみ付近にダイヤの刺青がある。
 でも、けっしてチャーミングではない。
 フォックスは直感でこいつが犯人だと思えるくらいには悪人面している。
 あまりの悪人面に、似顔絵を手渡してくれた調査員に訊ねる。

「これ脚色してませんか?」

「そんなことしないよ」

 首を振って否定する調査員。
 それもそうか、彼等は正確な情報を伝えるのが仕事だ。
 ただ、前世で警察の手配書の似顔絵は特徴のある部分を強調するっていうのを聞いたことはある。
 そうすることで、写真よりも印象に残りやすいのだとか。

 さて、人相もわかった事だし、これから早速接触することにするか。

「居場所はわかっているのかな?」

 調査員にフォックスの居場所を訊ねる。
 すると彼は答えてくれた。

「別の調査員が尾行しています。今は酒場で酒を飲んでいるという報告が最後ですね」

「こんな時間からか」

 酒を飲んでいるなら丁度いいが、まだ日は高い。
 どうにもそのことが気になった。

「奴の行動を見張ってましたが、夜になるとオプティの家の周囲をうろつくんですよ。だから、今は時間つぶしなんでしょうかね」

「人目に付かない時間帯にうろつくとなると、ますます怪しいよねえ」

「はい。家の中に監禁している様子は無いので、他の目的があるのでしょう」

「例えば、オプティに人に見られては不味い事情があって昼は動けないから、フォックスはオプティが夜中に帰ってくるところを捕まえようとか?」

「その可能性が高いかなと」

 オプティが依頼料を踏み倒したならそれもわかる。
 が、スート・ダイヤには冒険者ギルドから報酬が払われているし、それはオプティが冒険者ギルドに供託した金だ。
 フォックスに狙われる理由にはならないと思う。

「拷問して吐かせればいいのよ」

 シルビアが物騒なことを言うが、最悪それしかないだろうなと覚悟を決めて、フォックスが居ると思われる酒場へと向かった。

 シルビアには外で待機してもらい、酒場の中には俺一人で入る。
 まだ日が高い時間だということで、中にはほとんど人がいない。
 なので、フォックスは簡単に見つかる。
 奴はカウンターで一人で酒を飲んでいた。
 似顔絵そっくりの悪人面だ。
 調査員の技術に感心する。

 そして、俺はその隣に座る。

「隣、いいかしら?」

「かまわねえよ。というか、大歓迎だ。女っ気がなくてどうしようかと思っていたところだぜ。だが、どうして俺にちかづいてきた?」

 フォックスはこちらを警戒している。
 それもそうか。
 俺だって見知らぬ女性が寄ってきたら警戒する。
 前世では寄ってきた女性は、宗教、詐欺、違法風俗、革命とろくなのがいなかった。
 モテる男子だったらわからないが、彼女いない歴=年齢の俺は、寄ってくるのは全て裏があるという前提だったので、そんな彼女らに引っかかるような事は無かった。
 秋葉原でイルカの絵を買わされるとか、どうしてそんな被害に合うのか理解できないくらいには、警戒できていたのだと思う。
 さては、こいつもその類だな。

 では、納得できるような理由を教えてやろう。

「魔王のせいで景気が悪くてね。客がつかないのよ。そんな時に、昼からこうして酒を飲んでいる男を見かけたら、金の臭いを感じるじゃない。どう、納得した?」

 それを聞いたフォックスはニヤリと笑う。
 その顔は子供が見たら間違いなく泣き出すほど凶悪だった。

「ちげえねえ。最近一仕事終えて懐はあったかい。女を一晩買うくらいは問題ないぜ」

「あら、安くはないわよ」

「フッ、どうだかな。俺が十分払えると値踏みして声をかけてきたんだろう?」

「そうだったわね。でも、いくら商売でもがっつく男は嫌われるわよ。少しここで飲んでいきましょう。それで、その稼げた仕事の話でも聞かせてほしいわ。マスター、こっちにもエールをちょうだい」

 そう言って俺はエールを注文した。
 すぐに木のジョッキに入ったエールが出される。

「それじゃあ、プロージット」

 フォックスと乾杯してから、思わずジョッキを床に叩きつけたくなる。
 が、ここは銀河帝国ではないので我慢した。
 それに、あれはワインだったな。

 さて、そんなことはさておき、フォックスをおだてながら、酒の力も借りてなんとかオプティの事について喋らせようとする。
 だが、中々オプティについては喋らない。

「そうやって二匹のマンティコアを俺が一人で倒したわけよ」

「すごーい」

 どう見てもマンティコアを倒せるレベルには見えないが、盛りすぎた武勇伝に相鎚をうって更に喋らせようとする。

「そんなに強いんじゃ護衛を依頼した商人も、また依頼したくなるわね」

「ああ、次は指名するって言って別れたぜ」

 その言葉に真偽鑑定スキルが使えたらよかったのに、流石にここで使えばバレるのでそれが出来なかった。
 やはり、一旦外に連れ出してシルビアとバトンタッチかな。

「そろそろ行きましょうか」

「そうだな」

 フォックスは俺の分の支払いもしてくれ、二人で外に出た。
 遠くにいるシルビアに合図をして、先回りをしてもらう。
 行き先は予め決めておいた連れ込み宿だ。
 前世風に言えばラブホテルだな。

 宿で受付をして部屋の前に着くと、フォックスは下卑た笑みを浮かべる。
 そんな彼を俺は憐憫の眼差しで見た。
 なにせ、この部屋の中には野生のゴリラより凶暴なのがいる。

「ヘッヘッヘ、天国に連れてってやるぜ」

 そう言ってフォックスはドアをあけた。

「地獄へようこそ」

 俺はフォックスの背中を蹴り飛ばした。
 フォックスは勢いよく部屋の中に雪崩れ込む。

「なにしやが……べふ」

 俺に文句を言おうとしたが、シルビアに殴られて最後まで言葉が続かなかった。
 変な声をあげながら壁に向かって飛んでいき

べキャッ

 という音がして止まった。
 まあ壁に激突したわけだが。
 そして気を失って動かなくなる。

「死んでない?」

 俺はフォックスの顔を覗き込む。

「手加減したわよ。これで死んだら神に見放されたってことでしょ」

 大の男が吹っ飛んでくような勢いで殴っておきながら、手加減したとはどういうことか。
 確かに、フォックスの首があらぬ方向に向いている訳ではないので、手加減したといえばそうなのかな?

 気絶したままだと話を聞けないので、ロープで縛ってから目を覚まさせる。

「な、なんだこりゃ」

 目が覚めたら全身をロープで拘束されていたので、フォックスは驚きの声をあげた。
 その後青くなる。
 なぜならば、床に転がっている彼を睥睨しているのが、邪悪な笑みを浮かべたシルビアだからだ。

「時間がもったいないわ。頭と体が繋がっているうちに、オプティについて知っていることを全部話してもらうわよ」

「へっ、俺が正直に喋るとでも思ってるのか?」

 シルビアの威圧で青くなってるにも関わらず、フォックスは減らず口を敲いた。
 殺されることはないと思っているのかな?
 俺はシルビアの前に立ち、尋問をすることにした。

「残念だが、お前は今から知っていることを全部喋ることになる。オプティの護衛は本当に達成できたのか?」

「喋るもんか」

 フォックスは頑なに抵抗する。
 こいつは意外と根性があるな。
 というか、何かに怯えているように見える。
 勿論それは俺達じゃない。
 こうなったら手っ取り早く尋問スキルを使って白状させてしまおう。

 俺はスキルを使って尋問を続ける。

「オプティは…………」

 と口にしたところで、フォックスが苦しみだした。

「どうした?」

 俺は咄嗟にフォックスに質問した。

「ダイヤの呪いが…………」

 フォックスはそこまで言ってヒデブになってしまった。
 辺り一面が血の海と化す。

「何で殺したのよ!」

 とシルビアが非難してくるが、俺には心当たりがない。
 尋問したらヒデブしてしまうスキルなんて聞いたことが無いぞ。

「いや、俺がやったんじゃないから」

「じゃあどうして?」

 シルビアに言われるまでもなく、俺も何故なのかを考えていた。
 フォックスが死ぬ直前に言った言葉「ダイヤの呪い」、これがキーワードなんだろうな。

 やれやれ、と後ろ頭を掻いて折角の手掛かりを失った事と、血まみれの床をどうやって掃除しようかという事を考えた。


※品質管理のお話の予定です。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

処理中です...