10 / 20
愛とオルゴール
08. 弟の決意
しおりを挟む
「姉さん、少しいいかな」
部屋から出たところでネイサンがいった。
ネイサンの部屋に行き、ソファに座ったはいいが二人ともなんとなく物思いに沈み込んだ。
しばらくしてネイサンが口を開いた。
「僕、あれからリカルドに会ってきたんだ」
ネイサンの言葉に私達は驚いて彼を見た。
ネイサンが自分と同じ年に生まれた同性のリカルドのことを、私がリカルドに感じるものとは違った意味で気にしているのを知っていたからだ。
だから、弟が傷ついたり、嫌な思いをしなかったかと心配になった。
すると、私の視線に気が付いたネイサンが大丈夫だよ、とでもいうように微笑み頷いた。
私は少し複雑な思いを感じた。
先ほど祖父達の前でも見せたその笑顔が、これまでよりも少し大人っぽい仕草に見えて動揺したのだ。
可愛い弟の成長を喜ばなければならないのに、寂しい気持ちになるなんて。
でも、半面、期待する気持ちもあった。ネイサンは長年抱えていたリカルドへの複雑な思いにケリをつけたのかもしれないと思ったからだ。
「リカルドとどんな話をしたの? その、貴方、平気?」
「ああ、僕は大丈夫だよ。
姉さん、僕はリカルドと話しができて良かったと思っているんだ。彼には感謝している」
「そう。それはよかったわ」
弟は本当に大人になってしまったようだった。その変化についていけないでいる私に笑みを見せたネイサンは、普段通りの口調になって言った。
「そう言えば、リカルドは小さい頃、僕たちの姿を覗き見た事があって、その時、姉さんの事を御伽噺にでてくるお姫様みたいだと思ったって言ってたな。
姉と義弟だけどさ、たぶん、あいつの初恋相手は姉さんだったに違いないよ」
「まあ、そんな馬鹿なことを言って」
「ははっ、いや、絶対そうに違いないよ。態々僕にそう言ったくらいだからね。
そうだな、このゴタゴタが片付いて、僕らがもう少し大人になったころに、姉さんと僕、それからリカルドで話をするのもいいかもしれないな。
あ、でもその頃には我が物顔で自分も一緒でなければ駄目だとかいう人がいて、弟といえども簡単には会わせてもらえなくなってたりしてね? アンソニー様は姉さんの事に対して色々煩いこと言いそうな人だもの」
ネイサンの軽口に私は笑った。
「アンソニーはそんな、煩いことを言ったりするような人じゃありません。姉弟の語らいにまで文句をつけたりしないわ」
意地悪な弟はこうしてよく私たちのことをからかってくるのだ。
「どうだかね。まあ、とにかく、僕は今回の事、悪いことばかりではなかったって気がするんだ。
もちろん、本当にフォンテーヌ伯爵家に婿養子に行かされるなんて冗談じゃないけれど。
しっかし、なんなんだろうね。父親のことは置いておくとして、フォンテーヌ伯爵っていったいどんな人なんだろう。
こんなこと、普通言い出せないよね? 父は伯爵と懇意にしているのだろうか? これまで誰からもそんだ話しは聞いたことがないと思うんだけど」
「ネイサン」
私は永遠に喋り続けそうな弟の言葉を遮った。弟はきっと大丈夫だと思う気持ちと、それでも先ほどの父親の態度に傷付かないわけがないとわかっていた。だから、言わずにいられなかったのだ。
「あの人はわたくしたちを、貴方を愛していないわけではないわ。あの人なりに愛しているのでしょう、きっと」
私の言葉に、ネイサンは真面目な顔で答えた。
「わかるよ、たぶんね、きっとそうなんだろう。うん、もういいよ、いいんだ。これでいいんだと思う。
姉さん、僕は今回の件できっぱりとあの人を乗り越えて行くつもりだ。
たぶん、もう、そう難しいことじゃないよ。きっと。大丈夫だ。僕は大丈夫」
私はネイサンを抱きしめた。
ネイサンは大人しく私の抱擁を受け入れた。
この日、私たちは、確実に一歩前に進んだのだ。
きっとネイサンは父という名の呪縛を乗り越えていけるだろう。
だから私も母という人を乗り越えるべきなのだ。
部屋から出たところでネイサンがいった。
ネイサンの部屋に行き、ソファに座ったはいいが二人ともなんとなく物思いに沈み込んだ。
しばらくしてネイサンが口を開いた。
「僕、あれからリカルドに会ってきたんだ」
ネイサンの言葉に私達は驚いて彼を見た。
ネイサンが自分と同じ年に生まれた同性のリカルドのことを、私がリカルドに感じるものとは違った意味で気にしているのを知っていたからだ。
だから、弟が傷ついたり、嫌な思いをしなかったかと心配になった。
すると、私の視線に気が付いたネイサンが大丈夫だよ、とでもいうように微笑み頷いた。
私は少し複雑な思いを感じた。
先ほど祖父達の前でも見せたその笑顔が、これまでよりも少し大人っぽい仕草に見えて動揺したのだ。
可愛い弟の成長を喜ばなければならないのに、寂しい気持ちになるなんて。
でも、半面、期待する気持ちもあった。ネイサンは長年抱えていたリカルドへの複雑な思いにケリをつけたのかもしれないと思ったからだ。
「リカルドとどんな話をしたの? その、貴方、平気?」
「ああ、僕は大丈夫だよ。
姉さん、僕はリカルドと話しができて良かったと思っているんだ。彼には感謝している」
「そう。それはよかったわ」
弟は本当に大人になってしまったようだった。その変化についていけないでいる私に笑みを見せたネイサンは、普段通りの口調になって言った。
「そう言えば、リカルドは小さい頃、僕たちの姿を覗き見た事があって、その時、姉さんの事を御伽噺にでてくるお姫様みたいだと思ったって言ってたな。
姉と義弟だけどさ、たぶん、あいつの初恋相手は姉さんだったに違いないよ」
「まあ、そんな馬鹿なことを言って」
「ははっ、いや、絶対そうに違いないよ。態々僕にそう言ったくらいだからね。
そうだな、このゴタゴタが片付いて、僕らがもう少し大人になったころに、姉さんと僕、それからリカルドで話をするのもいいかもしれないな。
あ、でもその頃には我が物顔で自分も一緒でなければ駄目だとかいう人がいて、弟といえども簡単には会わせてもらえなくなってたりしてね? アンソニー様は姉さんの事に対して色々煩いこと言いそうな人だもの」
ネイサンの軽口に私は笑った。
「アンソニーはそんな、煩いことを言ったりするような人じゃありません。姉弟の語らいにまで文句をつけたりしないわ」
意地悪な弟はこうしてよく私たちのことをからかってくるのだ。
「どうだかね。まあ、とにかく、僕は今回の事、悪いことばかりではなかったって気がするんだ。
もちろん、本当にフォンテーヌ伯爵家に婿養子に行かされるなんて冗談じゃないけれど。
しっかし、なんなんだろうね。父親のことは置いておくとして、フォンテーヌ伯爵っていったいどんな人なんだろう。
こんなこと、普通言い出せないよね? 父は伯爵と懇意にしているのだろうか? これまで誰からもそんだ話しは聞いたことがないと思うんだけど」
「ネイサン」
私は永遠に喋り続けそうな弟の言葉を遮った。弟はきっと大丈夫だと思う気持ちと、それでも先ほどの父親の態度に傷付かないわけがないとわかっていた。だから、言わずにいられなかったのだ。
「あの人はわたくしたちを、貴方を愛していないわけではないわ。あの人なりに愛しているのでしょう、きっと」
私の言葉に、ネイサンは真面目な顔で答えた。
「わかるよ、たぶんね、きっとそうなんだろう。うん、もういいよ、いいんだ。これでいいんだと思う。
姉さん、僕は今回の件できっぱりとあの人を乗り越えて行くつもりだ。
たぶん、もう、そう難しいことじゃないよ。きっと。大丈夫だ。僕は大丈夫」
私はネイサンを抱きしめた。
ネイサンは大人しく私の抱擁を受け入れた。
この日、私たちは、確実に一歩前に進んだのだ。
きっとネイサンは父という名の呪縛を乗り越えていけるだろう。
だから私も母という人を乗り越えるべきなのだ。
1
あなたにおすすめの小説
盲目公爵の過保護な溺愛
クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
伯爵家の長女として生まれたミレーヌ。平凡な容姿に生まれた彼女は、美しい妹エミリアと常に比べられ、実の両親から冷遇されて育った。
パーティーでは家族の輪に入れて貰えず、いてもいなくてもいい存在。
そんな現実から逃れようと逃げ出した先で、ミレーヌは美しい容姿をした目の不自由な男性と出会うが──
禁断の関係かもしれないが、それが?
しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。
公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。
そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。
カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。
しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。
兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
愛なんか消えてしまえと願う私は悪くないと思う
ましろ
恋愛
「赤ちゃんができたの」
母の言葉に目眩がした。
我が家の両親は恋愛結婚。身分差から駆け落ち同然で一緒になった二人は未だにその愛は消えず、燃え上がり続けているのだからある意味凄いわ。
でもね? どうしてそんなにも子どもを作ってしまうの⁉
私を入れて子どもは七人。お父さんの給料ではお手伝いさんなんか雇えるわけもなく、おっとりしたお嬢様気質の抜けないお母さんだけで家事育児などできるはずもなく。
そうなると働き手は長女の私だ。
ずっと小さな頃から弟妹のお世話と家事に明け暮れ、それなのにまだ産むと言うの?
「……ねえ、お母さんにとって子どもって何?」
「うふふ。それはね、愛の結晶よ」
愛。愛って何? 私はあなたの愛のために働き詰めなのですけど?
自分達の手に余るなら、そんなモノなど捨ててしまえっ!
❦R-15は保険です。
連載中のものが止まったままのくせに!とは言わないで(泣)
現在、作業中のものがなかなか終わらなくて息抜きのための不定期連載です。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる