政略結婚の作法

夜宮

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悪女のすゝめ

04. 恋人達との邂逅

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 以前私に第二王子の言葉を伝えてきた側近候補に手配させて会うことになった第二王子の恋人だという令嬢は、ふわふわと頼りない感じの下級貴族の娘らしい純真そうな可愛らしい女性だった。

 そして、まるで私という悪女から彼女を守る騎士のような風情を醸し出す第二王子の姿に、なるほど、彼女から見ると王子は頼りがいのある誠実で素敵な男性なのかなと思えた。

 また、令嬢のこちらに怯えたような目は、その実、終始私に向けて、貴女よりも私のほうが愛されてしまってごめんなさいとでも言ってるようだった。

 気を抜けば彼女は私の前で本当にそう口に出してしまうのではないかとこちらのほうが心配になってしまうほどにわかりやすく。

「すまない。貴女に落ち度はないのだ。私は……いや言い訳はしない。すべて私の責任だ。だが、貴女が我々のことを認め、我々のために協力してくれるなんてこんな嬉しいことはない。

 そして、こんな私をこれからも貴女と公爵家は今まで通り支えてくれるといことについても礼を言う」

 第二王子は私が何の策略も持たずに喜んで彼を支えるものだと思い込んでいるようだった。

 クロードが言ったように、第二王子にとってそれは至極当たり前のことだからそれ以上の想像なんてできないのだろう。

 もしかしたら、第二王子もその恋人も、私が彼に何らかの愛情を抱いているという前提でこの件を見ているのかもしれない。

 或いは、私を王妃にしてやるのだからていう気持ちでいるのか。

 だから、彼らのために私が自己犠牲を厭わないのだと考えるほうが彼らにとっては都合がいいのかもしれなかった。

 そう思わせておいたほうがこの場が丸く収まるのならばそれでいい。

 そのほうが何れ訪れるであろう第二王子との折衝も私の有利に進むかもしれないし、本音を言えば、余計な話をするのが面倒に感じた。

 その後、令嬢には聞かせても意味のない話は彼女を除き、第二王子とその側近を相手に手短に纏めた。

「彼女にはヴェルトナー伯爵家に嫁いでもらいたいと思っています。伯爵家は王妃様の派閥でもありますし、次期当主であるクロードは彼女との年まわりもちょうどよいですから」

 私の言葉に第二王子は僅かに眉をひそめたようだった。

「しかし、それではあまりにもクロードに申し訳がないようだな」

 何れ公妾にするためだけの偽装結婚とはわかっていながら、年が近く見目の良いクロードに恋人を預けるのが心配なのだろう。私はその思い上がった考えに笑顔の裏で舌打ちしたい気分になった。

「殿下、実は私には事情があり婚姻は結べないが心から愛しあっている女性がおります。ですから殿下の思い人に懸想することはないと誓います」

 すかさずクロードがそう言ったが第二王子のほうはまだ渋っているようだった。

「だが、伯爵家にも跡取りは必要だろう?」

 流石は腐っても王太子になろうとしている男だ。後継の心配は貴族にとって無視できるものではない。なし崩し的に恋人に迫られる危険性を無視できないのだろう。

「ご心配なく。必要ならば養子をとります」

 そこまで言えば第二王子も少しは安心したようだった。

「そうか、ならば彼女のことをよろしく頼む。どうかあれに優しくしてやってくれ」

 クロードは人の良さそうな笑顔で第二王子に頷く。

「お任せください。屋敷の者達にも徹底いたします」

 王子はもろ手を挙げて賛成したわけではなさそうだったが、どうやっても避けて通れないのならば、確実に自分の目の届くクロードにその役目を任せるしかないと自分を納得させたようだった。

 第二王子が恋人の処遇に関して考えを巡らせいる様子を見ながらクロードが穏やかに続ける。

「ただ、何れ殿下の公妾となられる方をお迎えするにあたり、このまま私が側近でいるのは聊か都合が悪いかもしれません」

 反射的に第二王子は否定しかけたのだと思われたが、少し考えた後、軽く頷いた。

「そうだな。どこか希望があればなるべくお前の意に添えるよう取り計らおう」


「ありがとうございます」


 二人の間に合意がなされると、第二王子は思い出したように私を見て言った。


「貴女のほうはどうだろうか。私ばかり貴女に負担を強いるのだから、貴女の望みも叶えるようにと王からも言われているのだ」

 王とは第二王子にはこの時点では詳細を伝えないことで合意していた。

 私が第二王子の子を二人産むまではその後の計画について大幅な変更もありうることから、子が産まれるまで黙っていてもらったほうが私にとって都合が良いと考えたからだ。

「わたくしのほうは、婚姻後は王太子妃としての役割を果たすため全力でつくすだけですわ。

 ですがわたくしがお役目を果たしたとみなされた時には望みを叶えるというお約束を果たして頂きとうございます。例え、それがどんなものだったとしても」

 私の言葉に第二王子は一瞬警戒したような顔をしていたが、すぐに私の願いなど自分にとって叶えるのがそう難しいものではないと高を括ったのだろう。

「ははは、なんだか、そうまで言われると怖いような気がするな。だが、君の望みが私が認められる範囲のものであれば心配はいらない。その願いを叶えると約束しよう」

 こうして会合は恙なく終わった。私とクロードはその場ではいつもと同じように不用意に互いの目を見ることはなかった……と思う。

 少なくとも、第二王子もその恋人も他の側近達も私たちの関係に気が付いているそぶりはなかった。

 だが、今回はやり遂げたとして、これから益々そういったことに注意する必要があると何度も自分に言い聞かせる必要があった。

 ともすれば私たちの視線は絡み合い、お互いから目を離せなくなってしまうので。

 溢れる想いを完全に隠すというのは難しいものだ。幼い頃からそのように教育され、いずれは王妃になるための努力を重ねている私のような女であっても、気づかぬうちに内心の思いを隠しきれていないのではないかという恐怖を感じ、怯える気持ちが生まれてくる。

 そんなことを本気で考えたこともないだろう第二王子と、その恋人のことが少し羨ましく思えた。
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