寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ

文字の大きさ
88 / 99

八十六

しおりを挟む
 顔を上げると、ナサのお父様はわたしを見て目を細めて頷いた。

「ナサをよろしく。しかし、君の瞳はまったくワシたちを恐れていない、少し不思議な気持ちだな……こんなに綺麗な子がナサの嫁になってくれるとはな。ナサ、大切にするなだぞ」

「はい、幸せにします」

 みんな笑い和んだ雰囲気。そこに近くで大勢の足音が止まった音がして、コチラに向かって走ってくる音がした。

 走ってくる人物を見た瞬間、お父様は満面の笑みで立ち上がると、両手を広げた。そのお父様の胸に『ドン!!』と衝撃音とともに何かぶつかった。

「フォール!」
「タリナ!!」

 受け止めた相手はナサのお母様だった。
 わたしの他のみんなは気付いていたらしく、普通にしているけど、わたしは驚きで隣にいているナサのシャツを握った。

「シッシシ、お袋、親父のことが好きだったからな、こんなんでもなきゃ、死んじまった親父と会えなかったよな」

 と、涙ぐむナサ。

(ナサだって、お父様のこと大好きなのに)

 抱き合った二人と、そのお母様の後に続いてやってきた大勢の亜人たち。その中で立派な鎧を身につけて、先頭に立つ一人の男性が声を上げた。

「何故⁉︎ 十年前に亡くなったはずの父上がここにいる。ナサ、これは一体どうなっているんだ?」

「よっ、兄貴。……前に手紙に強制召喚について書いたろ、それなんだ。親父は何者かに強制召喚されたんだが、精神力が高くて操られていないみたいなんだ」

「アレが、強制召喚というものなのか……」

 ナサより細身のトラの獣人が近付いてきた、その一人をナサは兄貴と呼んだ。

(この方がナサのお兄様……挨拶しなくてはと思っても、今はナサとお父様のことを話をされているし)

「ん、こちらのお嬢さんは?」

「最近送った手紙に書いた、オレの嫁のリーヤだ。シッシシ、可愛くて驚くだろう?」

 ナサにギュッと抱き寄せられる。
 そして、ナサと同じ琥珀の瞳が、わたしを優しげに見つめた。

「ほんとうだ、可愛い。……弟に先を越されてしまうとはな悔しいな」

「それにしても、連れていた人数が多くないか?」

「母上が懲りずにもう一度、ガレーンに行くと言って聞かないからな、予定していた人数の倍にしたから三十人はいる。寝るとこと食料はこの辺で野営をするから安心してくれ」

「アサトたちも夜間は、北門の警備にいるから安心だ」

 と話しているところに鎧を身につけた、カートラお兄様とランドル様が到着した。

「これは一体どういうことだ?」
「報告の内容とは違いますね」

 北門に大型モンスターが現れたとの報告が寄せられた。そのためガレーンの騎士団は国王陛下、王子、訪れた貴族を守り、アトールは両親についていると言った。



「騎士団の誰一人、北門に向かおうとしなかったから、俺達がきた。アサトかナサどういう状況か説明してほしい」

「わかった、俺が説明する」
「こちらで話しましょう」

 離れた場所でアサトとロカは、お兄様達に事情を説明しはじめた。二人はその内容に驚き、信じられないといった表情を浮かべた。

「はあ? 強制召喚されたが強すぎて自我を持っている? さすが亜人の王だな」

「そうですね、強制召喚を跳ね除けることもできたはずなのに。家族に会いたくてきてしまうなんて前代未聞です」

「ーーそれで、あの方を呼んだ召喚士はどこにいるんだ? みんなで探したのか?」

 カートラお兄様の問いにアサト達、ナサは『アッ!』と声を上げる。親父、国王陛下との再会に沸き、そのことを忘れていたのだった。



「すまん、忘れていた」

 アサト達とナサは辺りを見回し、
 カートラお兄様とランドル様ほ顔を見合わせて、

「ランドル、俺たちで近くを探してみるか?」

「そうですね、一連の強制召喚の騒動を起こしたものでしょうから、捕まえなくてはなりません」

 動き出したわたしたちに、ナサのお母様と再会を喜んでいた国王陛下は近くの茂みを指さしして、

「ワシを呼んだ召喚士を探しておるのか? 奴なら、そこに隠れておるぞ」

 と言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...