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パーカーと出汁の香り
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朝食後、シロウさんの店へ向かい、ミルで挽いたコーヒーを淹れてもらった。
いつも飲んでいるインスタントも美味しいけれど、豆から淹れたコーヒーは香りがまるで違う。思わず鼻がぴくりと動いてしまう。
「九さん、苦いと思うので。一口飲んで、ダメだったらミルクと砂糖を入れてください」
「はーい……。うわっ、すごく苦い。でも、香りが香ばしくて美味しい」
「ですよね。コーヒー豆も色々あるので、今度街で買ってきますね」
「やったぁ!」
神様の僕とは違い、狐の妖であるシロウさんは自由にどこへでも行ける。少し羨ましく思うけれど、社でぼーっとしながら彼の帰りを待つ時間も悪くない。
それに、神ラインもある。僕はひとりじゃない。
「そろそろお昼ですね。親子丼を作りましょうか」
「あ、僕も手伝う」
そう言うと、シロウさんは色違いのエプロンを差し出した。胸元には狐の柄。僕が赤で、シロウさんは青だ。
「……もしかして、このアップリケ……」
「おや、気づきました? お揃いにしたかったんです」
「ありがとう。可愛い、嬉しい」
「そう言ってもらえて、俺も嬉しいです」
色違いのエプロンを身につけ、土鍋で米を炊き、親子丼を作る。シロウさんの料理は、どれもあったかい。体だけじゃなく、心まで満たされていく。
食後、ふと気づくと、僕の姿が変わっていた。
布切れだった装いが、いつの間にかきちんとした装束になっている。
「見て、シロウさん。僕、神力が上がったみたい」
「これはなかなか、凛々しい神様ですね」
「ほんと? そうかなぁ? 素敵だけど、前の布切れの方が動きやすかったかな」
装束はきゅっと締まっていて、少し動きにくい。
「九さんは神様なんですから、前の方がいいと願えば、変わるんじゃないですか?」
前の服にしてと願うと、装束から布切れに変わった。体を動かしてみると、やはりこちらの方が動きやすい。
「あ、前の服に変わった。でも、ほんとうは、シロウさんが着てる服の方がいいんだけど」
「俺の? パーカーとチノパンツですか?」
僕はこくこくとうなずいた。
彼は朝着ていたジャケットは脱ぎ、いまはグレーのパーカーに黒のチノパンツ、足元はスニーカーの姿。
僕は布切れだ。寒さも暑さも感じないとはいえ、パーカーには憧れる。
「神印をつけて、俺のを着ますか? 一応洗濯はしてありますから、臭くはないと思いますが」
「……僕が着てもいいの?」
「ええ。九さんもそうでしょうけど、俺も寒さや暑さは感じませんし。パーカーは何着か持ってますから」
シロウさんはパーカーを脱ぎ、Tシャツ姿になると僕に神様の印をつけさせ、頭からパーカーを被せてくれる。
ふわりと、爽やかな柑橘の香りがした。
「九さん、お似合いですよ」
「ありがとう。でも……これ、シロウさんの香りがする。いい匂い」
「いい香りでしょう。俺のお気に入りの洗剤なんです」
たわいもない会話がいい。
シロウさんは優しい。
⭐︎
次の日の昼頃。
僕はふと足を止め、石段の上から店の方を見つめた。風に乗って流れてくる匂いに、あの日を思い出す。
(ああ、そうか。今日はシゲさんとお花さんの、お孫さんが店を使っている日だった)
「……懐かしい。シゲさんの出汁の香りに、よく似てる」
「本当ですね。とても、いい匂いがします」
昼食の準備をしていたシロウさんも、出汁の香りに誘われてやって来た。手には、湯気を立てる二人分のスープパスタの皿がある。
「僕ね。この香りに惹かれて、気付けば店の前にいたんだ」
「そうでしたか。九さんにとって……特別な香りなんですね。さあ、お昼にしましょう」
「ありがとう。この匂いもそうだけど。シロウさんと一緒に食べるご飯も、僕にとっては特別だよ」
それはよかったです、とシロウさんは穏やかに笑み、僕の隣に腰を下ろした。
いつも飲んでいるインスタントも美味しいけれど、豆から淹れたコーヒーは香りがまるで違う。思わず鼻がぴくりと動いてしまう。
「九さん、苦いと思うので。一口飲んで、ダメだったらミルクと砂糖を入れてください」
「はーい……。うわっ、すごく苦い。でも、香りが香ばしくて美味しい」
「ですよね。コーヒー豆も色々あるので、今度街で買ってきますね」
「やったぁ!」
神様の僕とは違い、狐の妖であるシロウさんは自由にどこへでも行ける。少し羨ましく思うけれど、社でぼーっとしながら彼の帰りを待つ時間も悪くない。
それに、神ラインもある。僕はひとりじゃない。
「そろそろお昼ですね。親子丼を作りましょうか」
「あ、僕も手伝う」
そう言うと、シロウさんは色違いのエプロンを差し出した。胸元には狐の柄。僕が赤で、シロウさんは青だ。
「……もしかして、このアップリケ……」
「おや、気づきました? お揃いにしたかったんです」
「ありがとう。可愛い、嬉しい」
「そう言ってもらえて、俺も嬉しいです」
色違いのエプロンを身につけ、土鍋で米を炊き、親子丼を作る。シロウさんの料理は、どれもあったかい。体だけじゃなく、心まで満たされていく。
食後、ふと気づくと、僕の姿が変わっていた。
布切れだった装いが、いつの間にかきちんとした装束になっている。
「見て、シロウさん。僕、神力が上がったみたい」
「これはなかなか、凛々しい神様ですね」
「ほんと? そうかなぁ? 素敵だけど、前の布切れの方が動きやすかったかな」
装束はきゅっと締まっていて、少し動きにくい。
「九さんは神様なんですから、前の方がいいと願えば、変わるんじゃないですか?」
前の服にしてと願うと、装束から布切れに変わった。体を動かしてみると、やはりこちらの方が動きやすい。
「あ、前の服に変わった。でも、ほんとうは、シロウさんが着てる服の方がいいんだけど」
「俺の? パーカーとチノパンツですか?」
僕はこくこくとうなずいた。
彼は朝着ていたジャケットは脱ぎ、いまはグレーのパーカーに黒のチノパンツ、足元はスニーカーの姿。
僕は布切れだ。寒さも暑さも感じないとはいえ、パーカーには憧れる。
「神印をつけて、俺のを着ますか? 一応洗濯はしてありますから、臭くはないと思いますが」
「……僕が着てもいいの?」
「ええ。九さんもそうでしょうけど、俺も寒さや暑さは感じませんし。パーカーは何着か持ってますから」
シロウさんはパーカーを脱ぎ、Tシャツ姿になると僕に神様の印をつけさせ、頭からパーカーを被せてくれる。
ふわりと、爽やかな柑橘の香りがした。
「九さん、お似合いですよ」
「ありがとう。でも……これ、シロウさんの香りがする。いい匂い」
「いい香りでしょう。俺のお気に入りの洗剤なんです」
たわいもない会話がいい。
シロウさんは優しい。
⭐︎
次の日の昼頃。
僕はふと足を止め、石段の上から店の方を見つめた。風に乗って流れてくる匂いに、あの日を思い出す。
(ああ、そうか。今日はシゲさんとお花さんの、お孫さんが店を使っている日だった)
「……懐かしい。シゲさんの出汁の香りに、よく似てる」
「本当ですね。とても、いい匂いがします」
昼食の準備をしていたシロウさんも、出汁の香りに誘われてやって来た。手には、湯気を立てる二人分のスープパスタの皿がある。
「僕ね。この香りに惹かれて、気付けば店の前にいたんだ」
「そうでしたか。九さんにとって……特別な香りなんですね。さあ、お昼にしましょう」
「ありがとう。この匂いもそうだけど。シロウさんと一緒に食べるご飯も、僕にとっては特別だよ」
それはよかったです、とシロウさんは穏やかに笑み、僕の隣に腰を下ろした。
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