上 下
4 / 24
第1章:エルフの国編

第3話 偵察隊

しおりを挟む
 王室特殊兵団スターライツ1番隊隊長のヴォルド・ハイツは王室特殊兵団本部の魔力感知部から聖王せいおうの森で異変があったと報告を受けたので、聖王の森の中心部まで150名程いる1番隊を率いて赴いていた。

「まだ見つかりそうにありませんね」

 1番隊Aチームリーダーで副隊長兼任のリン・アルキアはそうヴォルドに話しかけた。

「聖王の森は空間が乱れやすいからな。それに今回のは前例がない程激しい。いくら聖王の森に慣れている俺たちでも簡単には見つけられないだろうよ」

 ヴォルドはリンにそう答えながら、今後の方針を伝える。

「これから隊を3つに分散して捜索を行う。リン達Aチームは東方面、ヒステラ達Bチームは西方面、ギャットマン達Cチームは北方面、各チームから連絡要員2名と護衛要員4名をここに残して行くように。それから、各チームから3名ずつ南方を捜索するために俺に同行してくれ。」

 先程ここに来るために南方から入ってきたので普通の森ならわざわざ折り返してまで捜索する必要はないだろうが、ここは聖王せいおうの森、特殊な空間性質をしている森のためもう一度捜索しない訳にはいかないのだ。
 全隊員もそれを分かっていたので誰一人として疑問を抱かなかった。
 ヴォルドが指示を終えると、皆指示通りに散っていき、ヴォルド達は南方へ向かった。

□□□□□

 1番隊が分散してから約15分後、ヴォルド達南方捜索隊に動きがあった。

「隊長、約1km先に強い魔力を感じます。」

「ああ、ようやく見つけたようだな」

隊員の1人がヴォルドに報告すると、ヴォルドも、気づいていたようだが、少し安堵した。
 この巨大な魔力を持った存在が、もしも敵対する者であったのなら、早期発見が望ましいからだ。
 ヴォルド達は気を引き締め、1キロ先の気配に近づいていった。
 すると、前方にひとつの人影が見えてきた。
 どうやら人間のようだ。
 その人間は何か叫んでいるようだが、ヴォルド達には一応聞こえはしたが、何を言っているのか理解出来なかった。

「この世界の言葉ではなさそうですね」

 別の隊員は確信をもってそう言う。
 王室特殊兵団スターライツの入団条件の1つとして、この世界に存在する8つの言語全てを操ることが出来るというものだ。
 王室特殊兵団は王室直轄の特殊部隊のようなもので、時にはスパイや暗殺といった任務まで行うからである。
 つまり、団員の知らない言語を話す者は、消滅した種族の言語、もしくは言語を強制統一され独自の言語を失ったものであると考えられていた。
 しかし、この世界での人間言語としては、バギランド語もしくはコータリオン語の2つのみである。
 エルフ族や精霊族が主に話すシャイル語を話す国もあるが、この人間が話している言語はこの世界のどれでもなかった。
 また、この世界の人間に比べ服装が異なっていたため、彼らはもう一つの可能性を考えた。
 それは───

「そこの人間、両手を頭の上に上げて座れ。大人しくすれば手荒な真似はしない」
 隊員の一人が念の為8ヶ国語で話をかけてみたが、伝わらなかったようだ。

「無駄だ。こんなこと考えたくないが奴は異世界人である可能性が高い」

「異世界人!?」

 ヴォルドのまさかの発言に隊員達は動揺したが、ヴォルドはお構い無しに命令を出す。

「奴を包囲し、捕縛ほばくし連行する。俺が縄で捕らえるからお前らは奴の気を引け」

 了解の声と同時に隊員は命令通りに動いた。まるで先程の動揺が嘘だったかのように。

 そして異世界人と思われる者を包囲し、ヴォルドが縄で縛り上げ、他のチームと合流し、本部に連行するのだった。
 縄で縛り上げた時に異世界人と思われる者は何か言っていたが、言葉が理解出来ないので無視しておいた。
 しばらく放っておいたら、何故か大人しくなった。

(しかしなぜ巨大な魔力を持ちながら無抵抗なんだ?普通何かしらの抵抗もあっていいはずなのだが・・・)

 ヴォルドは少し警戒心を抱いた。
だが、それは今考えても仕方の無いことなので、後の尋問で答えを得ようと考えた。

「通信班はとりあえず今回のことを国王陛下とケイト団長にお伝えしてくれ。それから、これから尋問室に連行するので尋問をするにあたって言語が通じないだろうからケイト団長に意思疎通コミュニケーションを使ってほしいと言うことも伝えておいてくれ」

 了解の声につづき、通信班が先に動き出すと、ヴォルド達は王室特殊兵団スターライツ本部に向かうのだった。






 
しおりを挟む

処理中です...