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第1章:エルフの国編
第16話 セーナ祝帰還式②
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セーナの演説が終わり、大広場の人集りが落ち着いてきた夕暮れ時、大和は一人で街を歩いていた。
ほぼ一日街を歩き回っていたため、王都シャーリスの地図はだいたい頭に入った。
大和は昔から道を覚えるのが得意なのだ。
そんな大和に声をかけてくるものがいた。
「よお大和、楽しんでるか?」
話しかけてきたのは、王室特殊兵団1番隊Cチームリーダーのギャットマンだ。
「ギャットマンさん!?お疲れ様です。おかげ様で楽しめております」
「はは、それなら良かった。実はお前に言っておきたいことがあってな」
「言っておきたいこと?」
大和が聞き返すと、ギャットマンは少し険しい表情になり、大和に詰め寄る。
「ここじゃいえねぇからちょっとこっち着いてこい」
大和はギャットマンの言う通りに、路地裏に連れていった。
「わりぃな。こんなところで」
「極秘事項なのでしょう?しかたありませんよ」
「それで、お前に話しておきたいことなんだがな、どうやらこの国に黒いマントに虎と熊の画面被った2人組が侵入しているらしい」
「黒マントと動物の仮面ですか・・・」
「ああ、そうだ。奴らの目的はまだわからんが、奴らの動きがこの式典で活発化しているのは間違いない。もしかするとこれから何か仕掛けてくる可能性がある。セーナ様が狙われることもあるだろう」
「なるほど・・・」
大和も少し、事の重大さを理解した。
「そこで大和、これはヴォルド隊長から預かってきた物があってな・・・」
ギャットマンがそう言いながら魔法陣を描き、その中から取り出したのは、凄まじいオーラを放つ1本の剣だった。
「これは?」
「これをお前を渡すようにと言われた」
大和は少し驚きながら剣を眺める。
「この剣はヴォルド隊長の姉上、つまり先々代の王室特殊兵団団長が使っていたものだ」
「ヴォルド隊長のお姉様の形見ってことですね。でもいいんですか?俺なんかが持ってても」
大和は大変恐れ多いことだと理解しているので、自分がそれに相応しいのかどうかが気になる。
しかしギャットマンはそれに対し、誰もが驚く事実を告げる。
「この剣は斬星神剣メテオと言ってな。次元神と呼ばれる伝説上の神が創った5本の剣のうちの1本なんだ。そしてこの剣はには意思が宿っていて、自分の持ち主を自分で選ぶんだ。お前がヴォルド隊長と模擬戦をやった時、お前はこの剣に気に入られたみたいでよ。そんでお前が持ち主に選ばれたってことだから、模擬戦の後王室特殊兵団の武器職人に手入れしてもらってさっき出来上がったから俺が代わりに持ってきたってわけよ」
大和は正直言っている意味が半分わからなかった。
次元神と呼ばれるものは図書館の本を読んだ時に出てきたので知っていたが、大和はその神が創った剣に自分がどこを気に入られたかがわからない。
しかも大和より強い者は沢山いるのにも関わらずだ。
大和の中に疑問が残ったが、大和は結局覚悟を決めて受け取ることにした。
「わかりました。この剣に相応しいと周りから思われるように精進致します」
「おう、頑張れよ」
ギャットマンは大和のこれからが成長を楽しみになった。
「話が逸れちまったが大和、今朝は任務は明日からでいいって言われたらしいが、ヴォルド隊長からお前はこれからさっき言った黒マントと仮面の奴らの捜索任務に当たれとのことだ」
「了解。それで剣を渡しに来たんですね」
「まあな。もし怪しいヤツを見かけたら連絡してくれ。じゃあ頼んだぞ」
「了解」
ギャットマンは大和にヴォルドからの伝令を伝えると、自分の任務に戻っていった。
□□□□□
大和がギャットマンから斬星神剣メテオを受け取っていた頃、ヴェルジオはエルザから教わったヒステラの特徴を元にナズエルに憑依されているヒステラを探し当て、現在ヒステラと対面しているところだった。
ヴェルジオは2人の周りに透明化結界を貼り、ナズエルと話している。
「ようナズエル。計画は順調か?」
ヴェルジオが話しかけると、男性のヒステラから女性のナズエルの声が聴こえる。
「久しぶりねヴェルジオ。計画は順調よ。このまま問題なければ2時間後にはセーナ・シャーリスをあの世に送れるわ」
「そうか」
「しかしなんであんたが王都シャーリスにいるわけ?あなたは計画の責任者だけど実行には関係なかったでしょ?」
「今朝ジドル様にお前らに協力するのと2日前に現れた異世界人を捕らえることを命じられた。最もお前らが俺の協力が必要なほど不甲斐ない輩だとは思っていない。だから俺は異世界人を捕らえることに集中したいのだが、それでいいか暗殺を実行するお前に直接聞きたくてここに来た」
ヴェルジオは王都シャーリスに来た理由を説明した。
「あらそう。協力は必要ないわ。私とエルザだけで出来るわ」
ナズエルは自信満々にヴェルジオに言い放った。
「そうか。なら俺は異世界人に集中する。せいぜい頑張ることだな」
ヴェルジオが表情を変えずに言うと、別れの挨拶もないまま姿を消した。
ヴェルジオが姿を消すと、ナズエルは意識を潜め、ヒステラの意識が戻ってきた。
「あれ・・・!?俺は何をして・・・」
ナズエルが体を乗っ取っている間はヒステラは意識を失っているわけだが、その間の記憶がヒステラにはない。
「まあ今はそんなことを考えてる場合じゃねぇか」
ヒステラは自分が今なにをしていたのかわからないまま、報告を受けた侵入者の捜索を再開したのだった。
□□□□□
日が沈み、王都シャーリスを照らすのは街の灯りのみとなった頃、セーナの夜の演説、と言っても閉会の挨拶のようなものが始まろうとしていた。
王都シャーリスに侵入した怪しい黒マントと仮面の2人組の捜索に王室特殊兵団1番隊と4番隊が当たっているが、成果はまだ得られない状況だった。
そんな中大和は、セーナの演説が行われる大広場に向かっているところだった。
大広場は3番隊が警備をしているが、セーナの演説を聴きにくる大勢の者達を一人一人見られるわけではない。
大和はその大衆の中に黒マントと仮面の奴らが変装でもして紛れ込むと考えていた。
そして大和にはまだ使いこなせていないものの、帝王眼があるのでもしかしたら大衆の中から侵入者を見つけられるかもしれないと考えた。
大和は大広場の人々を観察していると、後ろから声を掛けられた。
「お?大和じゃねーか」
大和が振り向くと、そこに立っていたのはヴォルドだった。
「ヴォルド隊長!?何故ここに?」
「侵入者がこんな大規模な式典で何か仕掛けてくるとしたら人が少ない場所より逆に多い場所だと思ってな。お前もそう思ってきたんだろ?」
「ええ、俺の場合、使いこなせてはいないですが帝王眼があります。もしかしたら何か怪しい動きを見つけられると思いまして」
「ほーう、いい考えだな。やっぱお前みたいな面白い奴に斬星神剣メテオを譲ってよかったぜ」
「ありがとうございます。俺も斬星神剣メテオを頂くことが出来たことを光栄に思っています」
「ははっ、そうか。おっ?もう始まるみたいだぜ?」
ヴォルドにそう言われると、大広場に集まる人々が大きな歓声と拍手を始めた。
大和は大広場に注意を向けつつ、セーナが立つバルコニーに目を向ける。
□□□□□
昼間の演説の時と同じくらい人が集まる大広場で、セーナの夜の演説が始まろうとしている。
セーナは昼間と同様に、バルコニーの部屋で出番を待っている状態だった。
昼間と違う点といえば、父である国王ドズム・シャーリスがいることだ。
ドズムはセーナを後ろから見守っている。
「さあ皆さんお待たせしました。この式典最後のセーナ・シャーリス王女殿下の演説です!」
昼間の勢いと変わらない歓声と拍手を浴びながら、セーナは昼間と同様にそれに応えるように手を振り、勢いが落ち着くとセーナは演説を始めた。
「親愛なるシャーリス国民の皆様、こんばんわ。本日は私の留学帰りをお祝いいただきありがとうございました。この式典は、シャーリス国民の皆様の温かいお気持ちがとてもたくさん伝わってきました。式典はまもなく終了となりますが、今後とも皆様のお気持ちに応え、傍に寄り添い、そして共にこの先の未来に歩んでいければと、願っております。改めまして、本日はありが・・・!!」
セーナが最後のセリフを言おうとした瞬間、大広場の人々の最前列の横から、突然王室特殊兵団の団員である、ヒステラ・ベルトフが飛び上がり、魔法陣を展開してセーナに攻撃を仕掛けてきた。
「死ね。魂壊光線!!」
突然の攻撃に、誰もすぐに動くことが出来なかった。
しかもそれは仲間であるはずの王室特殊兵団の団員による攻撃であるということが大きいだろう。
ヒステラの放った光線がセーナに当たろうとした瞬間、セーナは死を意識した。
(え?・・・私・・・死んじゃうの?)
それはまるで時間が引き伸ばされたようにゆっくりと流れているようだった。
しかし、そんなセーナを守るように、セーナがよく知るあの男が光線を消し切った。
□□□□□
大和とヴォルドは、セーナの演説を聴きながら大広場の人々を観察していた。
「ヴォルド隊長、俺は前列を見てきます」
「わかった。俺は引き続きこちらを見ておく」
大和は前列に向かうと、セーナの演説が終わろうとしていた。
そして、まさにセーナが最後の言葉を言おうとしたその時、大和は視界の中に違和感を感じた。
(あれ?あいつのオーラの色急にが変わったぞ?)
大和がそう思った次の瞬間、その男は飛び上がろうとしていた。
(なっ!?あいつまさか!!)
大和がそう考えた瞬間、その男はセーナがいるバルコニーの方へ飛び上がった。
大和は男に合わせるようにして、男の方へ飛び上がった。
「死ね。魂壊光線!!」
男が放った光線が、セーナに向かっていく。
(マズイ!このままじゃセーナが!)
大和はそう考えると、即座に剣を抜き、頭に浮かんだ技を放つ。
「抜刀術・魔法物崩壊斬!!」
大和が放った斬撃は、男が放った光線を消し去った。
それを見ていた大広場の人々は、パニックになって逃げ惑う。
ヴォルドや3番隊の隊員たちが避難誘導をしているが、あまり円滑に進んでいないようだ。
「クソっ!」
セーナを殺そうとした男はそう言うと、セーナのいるバルコニーの柵の上に立つ。
大和はそれに対し、バルコニーの内側に立ち、男に向かって剣を構える。
「大和・・・」
「セーナ様、お怪我はありませんか?」
「ええ、大丈夫よ。助けてくれてありがとう・・・」
セーナは安心したのか、大和に礼を言うと気絶してしまった。
マナカは倒れるセーナを支えるように横に立った。
「ヒステラ!貴様、どういうつもりだ!!」
マナカはヒステラを激しく睨み、大声を出す。
「あら?私の正体に気づかないのかしら?」
マナカを馬鹿にするように、ヒステラは女性の声で話し始め、部屋にいる者達を驚かせた。
「貴様・・・ヒステラじゃないな?」
口を開いたのはドズムだった。
ドズムは聖眼を発動させてヒステラを見る。
「あら?なかなかやるのね。そうよ、私の名前は妖魔魔術師ナズエル。見破るとはさすがはエルフの王といったところかしら」
ヒステラの体で話す女性は、隠す事なくそう言った。
「まあいいわ。本当は王女を殺したらこの体を捨てて逃げるつもりだったけど予想外の邪魔が入ったわね」
「マナカさん、セーナ様達をお願いします」
「お前はどうするんだ?」
「俺がこいつを引き止めます。その間に安全な所へ行って下さい」
「わかったわ。だが一つ頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
「可能なら、ヒステラをあいつから助けてやってほしい」
「わかりました。俺なりに頑張ってみますよ」
「頼んだぞ」
マナカはそう言うと、セーナを抱えながら他の護衛と共に部屋にいるものを安全な所へ誘導する。
「あら?逃がすと思ったかしら?魂束縛鎖」
ナズエルはそう言うと、マナカ達の方へ向かって魔法で創られた黒い鎖を放った。
黒い鎖がマナカたちを襲う・・・かに思えたが、そのようなことにはならなかった。
「万物切断」
ナズエルが放った黒い鎖は、大和の剣によって切られた。
その間に見事マナカ達は脱出ができた。
「クッ!いちいち邪魔をするな!」
「それはこっちのセリフだ。その男の人生をくだらぬ策略で邪魔するな」
激高するナズエルに怯むことなく、大和は自分でも驚くほど強い口調で言い返した。
「ふんっ!そんなにこいつの体が大事なら返してやる」
ナズエルはそう言うと、ヒステラの体から黒いオーラとなって出ていった。
ヒステラの体がそのまま倒れると、ナズエルは大和の前に本来の姿を現した。
その姿は青い肌に黒い髪といった、大和の感覚では毒々しいものであった。
「そういえばこの国に異世界人が現れたって聞いたけど、その強さと見た目からしてあなたのようね。でも安心しなさい。私たちの首領はあなたを欲しがってるから殺さないでおいてあげるから」
「俺を欲しがってるだと?」
「ええ、そうよ。そんなことはいいから下で続きをしましょう」
ナズエルはそう言うと、バルコニーから飛び、さっきまで大勢の人々がいたが、今は数名の王室特殊兵団の団員しか残っていない大広場に降り立った。
大和もそれに続くように大広場に降り立ち、ナズエルと対峙する。
ほぼ一日街を歩き回っていたため、王都シャーリスの地図はだいたい頭に入った。
大和は昔から道を覚えるのが得意なのだ。
そんな大和に声をかけてくるものがいた。
「よお大和、楽しんでるか?」
話しかけてきたのは、王室特殊兵団1番隊Cチームリーダーのギャットマンだ。
「ギャットマンさん!?お疲れ様です。おかげ様で楽しめております」
「はは、それなら良かった。実はお前に言っておきたいことがあってな」
「言っておきたいこと?」
大和が聞き返すと、ギャットマンは少し険しい表情になり、大和に詰め寄る。
「ここじゃいえねぇからちょっとこっち着いてこい」
大和はギャットマンの言う通りに、路地裏に連れていった。
「わりぃな。こんなところで」
「極秘事項なのでしょう?しかたありませんよ」
「それで、お前に話しておきたいことなんだがな、どうやらこの国に黒いマントに虎と熊の画面被った2人組が侵入しているらしい」
「黒マントと動物の仮面ですか・・・」
「ああ、そうだ。奴らの目的はまだわからんが、奴らの動きがこの式典で活発化しているのは間違いない。もしかするとこれから何か仕掛けてくる可能性がある。セーナ様が狙われることもあるだろう」
「なるほど・・・」
大和も少し、事の重大さを理解した。
「そこで大和、これはヴォルド隊長から預かってきた物があってな・・・」
ギャットマンがそう言いながら魔法陣を描き、その中から取り出したのは、凄まじいオーラを放つ1本の剣だった。
「これは?」
「これをお前を渡すようにと言われた」
大和は少し驚きながら剣を眺める。
「この剣はヴォルド隊長の姉上、つまり先々代の王室特殊兵団団長が使っていたものだ」
「ヴォルド隊長のお姉様の形見ってことですね。でもいいんですか?俺なんかが持ってても」
大和は大変恐れ多いことだと理解しているので、自分がそれに相応しいのかどうかが気になる。
しかしギャットマンはそれに対し、誰もが驚く事実を告げる。
「この剣は斬星神剣メテオと言ってな。次元神と呼ばれる伝説上の神が創った5本の剣のうちの1本なんだ。そしてこの剣はには意思が宿っていて、自分の持ち主を自分で選ぶんだ。お前がヴォルド隊長と模擬戦をやった時、お前はこの剣に気に入られたみたいでよ。そんでお前が持ち主に選ばれたってことだから、模擬戦の後王室特殊兵団の武器職人に手入れしてもらってさっき出来上がったから俺が代わりに持ってきたってわけよ」
大和は正直言っている意味が半分わからなかった。
次元神と呼ばれるものは図書館の本を読んだ時に出てきたので知っていたが、大和はその神が創った剣に自分がどこを気に入られたかがわからない。
しかも大和より強い者は沢山いるのにも関わらずだ。
大和の中に疑問が残ったが、大和は結局覚悟を決めて受け取ることにした。
「わかりました。この剣に相応しいと周りから思われるように精進致します」
「おう、頑張れよ」
ギャットマンは大和のこれからが成長を楽しみになった。
「話が逸れちまったが大和、今朝は任務は明日からでいいって言われたらしいが、ヴォルド隊長からお前はこれからさっき言った黒マントと仮面の奴らの捜索任務に当たれとのことだ」
「了解。それで剣を渡しに来たんですね」
「まあな。もし怪しいヤツを見かけたら連絡してくれ。じゃあ頼んだぞ」
「了解」
ギャットマンは大和にヴォルドからの伝令を伝えると、自分の任務に戻っていった。
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大和がギャットマンから斬星神剣メテオを受け取っていた頃、ヴェルジオはエルザから教わったヒステラの特徴を元にナズエルに憑依されているヒステラを探し当て、現在ヒステラと対面しているところだった。
ヴェルジオは2人の周りに透明化結界を貼り、ナズエルと話している。
「ようナズエル。計画は順調か?」
ヴェルジオが話しかけると、男性のヒステラから女性のナズエルの声が聴こえる。
「久しぶりねヴェルジオ。計画は順調よ。このまま問題なければ2時間後にはセーナ・シャーリスをあの世に送れるわ」
「そうか」
「しかしなんであんたが王都シャーリスにいるわけ?あなたは計画の責任者だけど実行には関係なかったでしょ?」
「今朝ジドル様にお前らに協力するのと2日前に現れた異世界人を捕らえることを命じられた。最もお前らが俺の協力が必要なほど不甲斐ない輩だとは思っていない。だから俺は異世界人を捕らえることに集中したいのだが、それでいいか暗殺を実行するお前に直接聞きたくてここに来た」
ヴェルジオは王都シャーリスに来た理由を説明した。
「あらそう。協力は必要ないわ。私とエルザだけで出来るわ」
ナズエルは自信満々にヴェルジオに言い放った。
「そうか。なら俺は異世界人に集中する。せいぜい頑張ることだな」
ヴェルジオが表情を変えずに言うと、別れの挨拶もないまま姿を消した。
ヴェルジオが姿を消すと、ナズエルは意識を潜め、ヒステラの意識が戻ってきた。
「あれ・・・!?俺は何をして・・・」
ナズエルが体を乗っ取っている間はヒステラは意識を失っているわけだが、その間の記憶がヒステラにはない。
「まあ今はそんなことを考えてる場合じゃねぇか」
ヒステラは自分が今なにをしていたのかわからないまま、報告を受けた侵入者の捜索を再開したのだった。
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日が沈み、王都シャーリスを照らすのは街の灯りのみとなった頃、セーナの夜の演説、と言っても閉会の挨拶のようなものが始まろうとしていた。
王都シャーリスに侵入した怪しい黒マントと仮面の2人組の捜索に王室特殊兵団1番隊と4番隊が当たっているが、成果はまだ得られない状況だった。
そんな中大和は、セーナの演説が行われる大広場に向かっているところだった。
大広場は3番隊が警備をしているが、セーナの演説を聴きにくる大勢の者達を一人一人見られるわけではない。
大和はその大衆の中に黒マントと仮面の奴らが変装でもして紛れ込むと考えていた。
そして大和にはまだ使いこなせていないものの、帝王眼があるのでもしかしたら大衆の中から侵入者を見つけられるかもしれないと考えた。
大和は大広場の人々を観察していると、後ろから声を掛けられた。
「お?大和じゃねーか」
大和が振り向くと、そこに立っていたのはヴォルドだった。
「ヴォルド隊長!?何故ここに?」
「侵入者がこんな大規模な式典で何か仕掛けてくるとしたら人が少ない場所より逆に多い場所だと思ってな。お前もそう思ってきたんだろ?」
「ええ、俺の場合、使いこなせてはいないですが帝王眼があります。もしかしたら何か怪しい動きを見つけられると思いまして」
「ほーう、いい考えだな。やっぱお前みたいな面白い奴に斬星神剣メテオを譲ってよかったぜ」
「ありがとうございます。俺も斬星神剣メテオを頂くことが出来たことを光栄に思っています」
「ははっ、そうか。おっ?もう始まるみたいだぜ?」
ヴォルドにそう言われると、大広場に集まる人々が大きな歓声と拍手を始めた。
大和は大広場に注意を向けつつ、セーナが立つバルコニーに目を向ける。
□□□□□
昼間の演説の時と同じくらい人が集まる大広場で、セーナの夜の演説が始まろうとしている。
セーナは昼間と同様に、バルコニーの部屋で出番を待っている状態だった。
昼間と違う点といえば、父である国王ドズム・シャーリスがいることだ。
ドズムはセーナを後ろから見守っている。
「さあ皆さんお待たせしました。この式典最後のセーナ・シャーリス王女殿下の演説です!」
昼間の勢いと変わらない歓声と拍手を浴びながら、セーナは昼間と同様にそれに応えるように手を振り、勢いが落ち着くとセーナは演説を始めた。
「親愛なるシャーリス国民の皆様、こんばんわ。本日は私の留学帰りをお祝いいただきありがとうございました。この式典は、シャーリス国民の皆様の温かいお気持ちがとてもたくさん伝わってきました。式典はまもなく終了となりますが、今後とも皆様のお気持ちに応え、傍に寄り添い、そして共にこの先の未来に歩んでいければと、願っております。改めまして、本日はありが・・・!!」
セーナが最後のセリフを言おうとした瞬間、大広場の人々の最前列の横から、突然王室特殊兵団の団員である、ヒステラ・ベルトフが飛び上がり、魔法陣を展開してセーナに攻撃を仕掛けてきた。
「死ね。魂壊光線!!」
突然の攻撃に、誰もすぐに動くことが出来なかった。
しかもそれは仲間であるはずの王室特殊兵団の団員による攻撃であるということが大きいだろう。
ヒステラの放った光線がセーナに当たろうとした瞬間、セーナは死を意識した。
(え?・・・私・・・死んじゃうの?)
それはまるで時間が引き伸ばされたようにゆっくりと流れているようだった。
しかし、そんなセーナを守るように、セーナがよく知るあの男が光線を消し切った。
□□□□□
大和とヴォルドは、セーナの演説を聴きながら大広場の人々を観察していた。
「ヴォルド隊長、俺は前列を見てきます」
「わかった。俺は引き続きこちらを見ておく」
大和は前列に向かうと、セーナの演説が終わろうとしていた。
そして、まさにセーナが最後の言葉を言おうとしたその時、大和は視界の中に違和感を感じた。
(あれ?あいつのオーラの色急にが変わったぞ?)
大和がそう思った次の瞬間、その男は飛び上がろうとしていた。
(なっ!?あいつまさか!!)
大和がそう考えた瞬間、その男はセーナがいるバルコニーの方へ飛び上がった。
大和は男に合わせるようにして、男の方へ飛び上がった。
「死ね。魂壊光線!!」
男が放った光線が、セーナに向かっていく。
(マズイ!このままじゃセーナが!)
大和はそう考えると、即座に剣を抜き、頭に浮かんだ技を放つ。
「抜刀術・魔法物崩壊斬!!」
大和が放った斬撃は、男が放った光線を消し去った。
それを見ていた大広場の人々は、パニックになって逃げ惑う。
ヴォルドや3番隊の隊員たちが避難誘導をしているが、あまり円滑に進んでいないようだ。
「クソっ!」
セーナを殺そうとした男はそう言うと、セーナのいるバルコニーの柵の上に立つ。
大和はそれに対し、バルコニーの内側に立ち、男に向かって剣を構える。
「大和・・・」
「セーナ様、お怪我はありませんか?」
「ええ、大丈夫よ。助けてくれてありがとう・・・」
セーナは安心したのか、大和に礼を言うと気絶してしまった。
マナカは倒れるセーナを支えるように横に立った。
「ヒステラ!貴様、どういうつもりだ!!」
マナカはヒステラを激しく睨み、大声を出す。
「あら?私の正体に気づかないのかしら?」
マナカを馬鹿にするように、ヒステラは女性の声で話し始め、部屋にいる者達を驚かせた。
「貴様・・・ヒステラじゃないな?」
口を開いたのはドズムだった。
ドズムは聖眼を発動させてヒステラを見る。
「あら?なかなかやるのね。そうよ、私の名前は妖魔魔術師ナズエル。見破るとはさすがはエルフの王といったところかしら」
ヒステラの体で話す女性は、隠す事なくそう言った。
「まあいいわ。本当は王女を殺したらこの体を捨てて逃げるつもりだったけど予想外の邪魔が入ったわね」
「マナカさん、セーナ様達をお願いします」
「お前はどうするんだ?」
「俺がこいつを引き止めます。その間に安全な所へ行って下さい」
「わかったわ。だが一つ頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
「可能なら、ヒステラをあいつから助けてやってほしい」
「わかりました。俺なりに頑張ってみますよ」
「頼んだぞ」
マナカはそう言うと、セーナを抱えながら他の護衛と共に部屋にいるものを安全な所へ誘導する。
「あら?逃がすと思ったかしら?魂束縛鎖」
ナズエルはそう言うと、マナカ達の方へ向かって魔法で創られた黒い鎖を放った。
黒い鎖がマナカたちを襲う・・・かに思えたが、そのようなことにはならなかった。
「万物切断」
ナズエルが放った黒い鎖は、大和の剣によって切られた。
その間に見事マナカ達は脱出ができた。
「クッ!いちいち邪魔をするな!」
「それはこっちのセリフだ。その男の人生をくだらぬ策略で邪魔するな」
激高するナズエルに怯むことなく、大和は自分でも驚くほど強い口調で言い返した。
「ふんっ!そんなにこいつの体が大事なら返してやる」
ナズエルはそう言うと、ヒステラの体から黒いオーラとなって出ていった。
ヒステラの体がそのまま倒れると、ナズエルは大和の前に本来の姿を現した。
その姿は青い肌に黒い髪といった、大和の感覚では毒々しいものであった。
「そういえばこの国に異世界人が現れたって聞いたけど、その強さと見た目からしてあなたのようね。でも安心しなさい。私たちの首領はあなたを欲しがってるから殺さないでおいてあげるから」
「俺を欲しがってるだと?」
「ええ、そうよ。そんなことはいいから下で続きをしましょう」
ナズエルはそう言うと、バルコニーから飛び、さっきまで大勢の人々がいたが、今は数名の王室特殊兵団の団員しか残っていない大広場に降り立った。
大和もそれに続くように大広場に降り立ち、ナズエルと対峙する。
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そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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