大学の図書館で手に取った本が何故か異世界への扉でした

山下レ央

文字の大きさ
20 / 24
第1章:エルフの国編

第19話 妖魔達の企み

しおりを挟む

 会議室にいた者たちが王室特殊兵団スターライツ本部を出て大広場に向かう途中、大和はケイトが言っていた大魔皇帝についてヴォルドに質問する。

「ヴォルド隊長、大魔皇帝ってなんですか?」

「あーそっか、お前にはまだ話してなかったっけ。大魔皇帝ってのはこの国から遥か東のネルフォーネ大陸全土を領土とするレオルヘイズ魔族連合帝国に住む魔族を統べる皇帝だ」

「魔王じゃないんですか?」

「魔王っていうのはその大魔皇帝の配下5名の王に与えられた称号だ。ついでに言うと、魔王の中でも大魔皇帝の子供2人は別格とされているが、他の魔王もとんでもなく強いらしい」

 大和は、この世界では魔王より上の位があることを初めて知った。
 元の世界では、魔王というと魔族のトップで勇者とやり合ってるというイメージが一般的だったので、大和は少し驚いた。

「なるほど・・・そいつらってやっぱり人類やエルフとかと敵対してるんですかね?」

「ああそうだ。ただ例外は1つある。レオルヘイズ帝国の隣国の人間国家インジル王国は魔の力を崇拝する民族であることからそいつらとは敵対せずに友好関係を築いてるらしい」

「なんか複雑ですね・・・」

「まあ地政学的なこともあるんだろう。インジル王国は元々小国の島国で周囲に人間国家がなかった。おまけに一番近い国が魔族の国となると敵対するのはバカがやることだからな」

 大和にもヴォルドが言ってることが何となくわかった気がした。
 人間なのに魔族に手を貸すなんて、などと思ってしまうのは仕方ないが、周りに敵対したら100%蹂躙されるような国がすぐ側にある国家の下に生まれたなら、そのような選択をする方が確実に生き残れるからだ。

「あと、レオルヘイズ帝国ってどんな国なんですか?」

「レオルヘイズ帝国は6つの王国によって構成されてる。少し仕組みは違うが、連邦国家のようなものだ。
構成国は北側にある魔王ギラン・ノルヴァが治めるグライデル国、
東側にある魔王サキュリナ・レオルヘイズが治めるジスリア国、
南側にある魔王デーラス・デモントスが治めるデモニシア国、
西側にある魔王グリア・レオルヘイズが治めるブレクシニア国、
そして友好の証として大魔皇帝から魔王の称号を与えられ魔王となった国王ローザン・ヴォーチェが治めるインジル国だ。
そして大陸の中央部に位置するのは大魔皇帝の直轄地で、大魔皇帝バルゼビス・レオルヘイズが治めるレオルヘイズ帝国だ」

「よく覚えてますね・・・」

「ん?これくらいは王室特殊兵団スターライツにいる以上覚えておかなきゃいかんだろ?お前も頭に叩き込んでおけよ」

「うっす」

 大和がヴォルドから大魔皇帝の詳細について話を聞きながら走っているうちに、ケイトが待つ大広場に到着した。

□□□□□

 街は深夜になり、いつもなら静まり返る時間帯だが、今日はエルフシャーリス王国の王女である、セーナ・シャーリスの暗殺未遂という事件があったのだ。事件に対する国民の感心は高く、王都シャーリス中は心配の声で溢れていた。
 ケイトは会議室にいた他の団員よりも転移魔法によって早く到着していたので、大和が使った封印術を調べていたようだ。

「お、皆こっちだ」

 ケイトが走ってくる団員が見えると、彼らに向かって声をかけた。
 ケイトはら周りにみんなが集まったのを確認すると、早速尋問を始めようとする。

「そろったね。大和、封印術を解いてくれ」

「わかりました。封印解除術雪解けゆきど!」

 大和はケイトの指示通りに封印術を解いた。
 大和が魔法を唱えたことにより、ナズエルを覆っていた半球状の万年雪は溶けていく。
 雪が溶け、ナズエルに意識が戻ったようだ。

「よう、目が覚めたみたいだな。とりあえず話を・・・」

 ケイトが話を始めようとした瞬間、意識の戻ったナズエルはケイトに殴りかかった。
 しかしそれはケイトの隣にいたジェイルによって止められていた。

「団長が話してるんだから大人しくしときなよ?それに今君がどんな状況かわかるだろ」

 ジェイルが不気味な笑顔でナズエルに言うと、ナズエルは少し大人しくなった。

「ジェイル、別に止めなくても良かったんだぞ?」

「団長のてはわずわせたくないからねー」

「わかったよ。とりあえず下がっとけ」

 ケイトはジェイルを宥めると、気を取り直して尋問を始める。

「とりあえず君に聞きたいことが山ほどあるんだけど、大人しく答えて貰えないかな?」

「ふんっ・・・」

 ナズエルはケイトの方を見ようともせずに無視をした。

「答える気がないってことでいいかな?」

「見ればわかるだろ長耳野郎ども。言っておくが私はどんなに拷問されようが陵辱を受けようが貴様ら如きに話すことはない!」

 ナズエルは絶対に口を割らない宣言をした。
 だが、ケイトたちも簡単に口を割らないことは何となく想像していたため、ケイトはある方法を使うことにした。

「わかった。口を割らないんなら仕方ない。アダム、の使用を許可する。こいつに使ってやれ」

「御意」

 ケイトに指示されたアダムはナズエルの前まで歩いていき、左手をナズエルに向かってかざし、魔法を唱える。

記憶覗メモリーピープ

 アダムが魔法を唱えた瞬間、ナズエルが突然頭を抱えて苦しみだした。

「なんだ!?何が起きてるんだ!?」

「大和、お前は見るのが初めてで驚く気持ちはわかるが少し落ち着け」

「え・・・あ、はい・・・すみません」

 大和はヴォルドにそう言われて、周りの団員を見たが、皆慣れているという感じで冷静だった。
 大和が周りを見ていたうちに、アダムは左手を下げ、魔法を止めた。
 それと同時にナズエルが苦しむのは止まったが、まるで力尽きたかのよう倒れ込んだ。

「アダム、どうだった?」

「はい、やはり今回の事件には大魔皇帝が糸を引いているのは確定ですが、それよりも興味深い内容がいくつか見つかりました 」

「そうか・・・それで、興味深い内容とは?」

「はい、まずはこの者達の他にも多くの仲間がいるということです。そしてその仲間達はバギランド王国の反体制派と手を組んで来月にクーデターを起こさせるつもりらしいです」

「クーデターだと!?」

 同盟国でクーデターが計画されていたと知って、流石のケイトも驚いた。
 しかし、アダムはどんどんとんでもない報告を続けていく。

「はい。しかしそれはただのクーデターではなく、今回のセーナ様暗殺が失敗した場合の保険の役割も果たすものでした」

「保険?どういう関係があるんだ?」

「それはバギランド王国政府に紛れ込ませた妖魔達を使ってセーナ様とバギランドの王女との会談をセッティングをさせるそうです。そのタイミングで反乱軍を蜂起させ、その混乱に乗じてセーナ様の暗殺と国家転覆を成し遂げるようです」

「なるほど・・・随分と計画的だな」

 ケイトは妖魔達が予想以上に計画性のある行動をしており、相手に先手を打たれていたことを痛感した。
 危うく今後も上手く奴らの手のひらの上で踊らされるところであったのだ。
 ケイト自身、少し責任を感じていたのか、拳を握りしめながら話を聞いていた。
 そんなケイトに対し、アダムの報告はまだ続く。
 
「しかしなぜこのような敵対もしていないシャーリス王国やバギランド王国を潰す必要があるのか、これが大魔皇帝に繋がります」

 アダムのその言葉を聞いていたケイト達は、よりいっそう緊張感をもって話を聞く。

「妖魔帝王ジドルは大魔皇帝からある命令を受けていました。もしもその命令を達成することができたら魔王の座を与えるという褒美を用意して。
そのためにまずは魔族と明確に敵対しているエルフ族の結束を弱めようとしたようです。国王陛下のご息女であり、跡取りであるセーナ様を暗殺し、それにより心が弱った国王陛下を暗殺、そしてエルフ族を統べる王がいなくなったことにより、シャーリス王国での内乱を起こさせようとしていました。
そしてその計画が失敗した場合の保険の役割も兼ねているバギランド王国での反乱は、ジトルが魔王になった時の領土確保のためという訳です」

「そういうことか・・・今後の奴らの動きは大体読めた。国王陛下に報告してバギランドに警戒態勢をとってもらうよう警告して頂くしかないな」

 ケイトは今後の妖魔の動きに先手を打ち、バギランドでの反乱を失敗させるためにこちらも策を立てようと考えた。

「なあアダム、そのバギランドの裏切り者のまではわかったりしない?」

「申し訳ございません。どうやらこの者とは面識が薄いものと見られます。そのため裏切り者が潜入しているという状況のみしか把握していないようです」

「そうか、ありがとう。じゃあ妖魔たちの構成員とかはわかった?」

「はい。全員とまではいきませんでしたが、幹部と思われる者が数名浮かびました」

「教えてくれ」

「妖魔帝王ジドルの下に幹部は7名。その中ではっきりと確認出来たのは4名だけです。
まずはジェイルが戦った妖魔剣士ヴェルジオ。こいつが幹部のまとめ役らしいです。
そしてヴォルドが倒した妖魔魔術師エルザ。こいつはまだ幹部としては新参らしいです。
他に確認できたは妖魔仙人二ギア、妖魔賢者リブレイといった者達が確認できました」
 
 ケイトは今まで聞いたことを頭の中で整理しながら話を聞き、これからどのように行動するかの策を考えていた。

「わかった。俺から聞きたいことは以上だが、他に言っておきたいことはあるか?」

「いや、以上で終わりだ。また何かあれば報告する」

「おっけー、とりあえず今回の件の内容を直ぐに国王陛下に報告しに行く。報告には俺とヴォルドとジェイル、そして今回セーナ様を守り、ナズエルに勝利した大和が行く」

 指名された大和は特に驚くことなく、ケイトの指名に頷いた。
 この事件で姫を救い、暗殺者に勝利までしたのだから重要参考人として呼ばれること予想がついていた。
 ケイトは続いて、他の者たちへの命令を下す。

「ギルコードは直ぐに持ち場に戻り、マナカに今回のことを報告してくれ」

「了解!」

「アダム達5番隊はナズエルを特別留置所へ連れていき、引き続き監視を続けろ」

「御意」

「ルイス達6番隊とサユリ達4番隊はエルザの亡骸を処分決定が下るまで見張っておくように」

「「了解!」」

「ペテル達7番隊は引き続き聖王せいおうの森の監視を続けてくれ」

「わかりました」

「ヴォルド達1番隊とジェイル達3番隊は警察や軍と協力して街の警備をするように、とそれぞれ副隊長に伝えてくれ。それと1番隊Bチームにはヒステラのそばにいるように伝えてやってくれ。伝達を終えたら王室特殊兵団スターライツの本部で待ち合わせだ」

「おう、気遣いありがとな」

「りょーかい」

「それではそれぞれの任務へ向かうように!」

 ケイトがそういうと、団員たちはそれぞれの持ち場へ向かった。

「さて大和、とりあえず本部に戻りながら聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「え?ああ、いいですよ」

 大和は聞かれる内容を察していたため、驚くことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...