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第1章:エルフの国編
第19話 妖魔達の企み
しおりを挟む会議室にいた者たちが王室特殊兵団本部を出て大広場に向かう途中、大和はケイトが言っていた大魔皇帝についてヴォルドに質問する。
「ヴォルド隊長、大魔皇帝ってなんですか?」
「あーそっか、お前にはまだ話してなかったっけ。大魔皇帝ってのはこの国から遥か東のネルフォーネ大陸全土を領土とするレオルヘイズ魔族連合帝国に住む魔族を統べる皇帝だ」
「魔王じゃないんですか?」
「魔王っていうのはその大魔皇帝の配下5名の王に与えられた称号だ。ついでに言うと、魔王の中でも大魔皇帝の子供2人は別格とされているが、他の魔王もとんでもなく強いらしい」
大和は、この世界では魔王より上の位があることを初めて知った。
元の世界では、魔王というと魔族のトップで勇者とやり合ってるというイメージが一般的だったので、大和は少し驚いた。
「なるほど・・・そいつらってやっぱり人類やエルフとかと敵対してるんですかね?」
「ああそうだ。ただ例外は1つある。レオルヘイズ帝国の隣国の人間国家インジル王国は魔の力を崇拝する民族であることからそいつらとは敵対せずに友好関係を築いてるらしい」
「なんか複雑ですね・・・」
「まあ地政学的なこともあるんだろう。インジル王国は元々小国の島国で周囲に人間国家がなかった。おまけに一番近い国が魔族の国となると敵対するのはバカがやることだからな」
大和にもヴォルドが言ってることが何となくわかった気がした。
人間なのに魔族に手を貸すなんて、などと思ってしまうのは仕方ないが、周りに敵対したら100%蹂躙されるような国がすぐ側にある国家の下に生まれたなら、そのような選択をする方が確実に生き残れるからだ。
「あと、レオルヘイズ帝国ってどんな国なんですか?」
「レオルヘイズ帝国は6つの王国によって構成されてる。少し仕組みは違うが、連邦国家のようなものだ。
構成国は北側にある魔王ギラン・ノルヴァが治めるグライデル国、
東側にある魔王サキュリナ・レオルヘイズが治めるジスリア国、
南側にある魔王デーラス・デモントスが治めるデモニシア国、
西側にある魔王グリア・レオルヘイズが治めるブレクシニア国、
そして友好の証として大魔皇帝から魔王の称号を与えられ魔王となった国王ローザン・ヴォーチェが治めるインジル国だ。
そして大陸の中央部に位置するのは大魔皇帝の直轄地で、大魔皇帝バルゼビス・レオルヘイズが治めるレオルヘイズ帝国だ」
「よく覚えてますね・・・」
「ん?これくらいは王室特殊兵団にいる以上覚えておかなきゃいかんだろ?お前も頭に叩き込んでおけよ」
「うっす」
大和がヴォルドから大魔皇帝の詳細について話を聞きながら走っているうちに、ケイトが待つ大広場に到着した。
□□□□□
街は深夜になり、いつもなら静まり返る時間帯だが、今日はエルフシャーリス王国の王女である、セーナ・シャーリスの暗殺未遂という事件があったのだ。事件に対する国民の感心は高く、王都シャーリス中は心配の声で溢れていた。
ケイトは会議室にいた他の団員よりも転移魔法によって早く到着していたので、大和が使った封印術を調べていたようだ。
「お、皆こっちだ」
ケイトが走ってくる団員が見えると、彼らに向かって声をかけた。
ケイトはら周りにみんなが集まったのを確認すると、早速尋問を始めようとする。
「そろったね。大和、封印術を解いてくれ」
「わかりました。封印解除術雪解け!」
大和はケイトの指示通りに封印術を解いた。
大和が魔法を唱えたことにより、ナズエルを覆っていた半球状の万年雪は溶けていく。
雪が溶け、ナズエルに意識が戻ったようだ。
「よう、目が覚めたみたいだな。とりあえず話を・・・」
ケイトが話を始めようとした瞬間、意識の戻ったナズエルはケイトに殴りかかった。
しかしそれはケイトの隣にいたジェイルによって止められていた。
「団長が話してるんだから大人しくしときなよ?それに今君がどんな状況かわかるだろ」
ジェイルが不気味な笑顔でナズエルに言うと、ナズエルは少し大人しくなった。
「ジェイル、別に止めなくても良かったんだぞ?」
「団長のては煩わせたくないからねー」
「わかったよ。とりあえず下がっとけ」
ケイトはジェイルを宥めると、気を取り直して尋問を始める。
「とりあえず君に聞きたいことが山ほどあるんだけど、大人しく答えて貰えないかな?」
「ふんっ・・・」
ナズエルはケイトの方を見ようともせずに無視をした。
「答える気がないってことでいいかな?」
「見ればわかるだろ長耳野郎ども。言っておくが私はどんなに拷問されようが陵辱を受けようが貴様ら如きに話すことはない!」
ナズエルは絶対に口を割らない宣言をした。
だが、ケイトたちも簡単に口を割らないことは何となく想像していたため、ケイトはある方法を使うことにした。
「わかった。口を割らないんなら仕方ない。アダム、アレの使用を許可する。こいつに使ってやれ」
「御意」
ケイトに指示されたアダムはナズエルの前まで歩いていき、左手をナズエルに向かって翳し、魔法を唱える。
「記憶覗」
アダムが魔法を唱えた瞬間、ナズエルが突然頭を抱えて苦しみだした。
「なんだ!?何が起きてるんだ!?」
「大和、お前は見るのが初めてで驚く気持ちはわかるが少し落ち着け」
「え・・・あ、はい・・・すみません」
大和はヴォルドにそう言われて、周りの団員を見たが、皆慣れているという感じで冷静だった。
大和が周りを見ていたうちに、アダムは左手を下げ、魔法を止めた。
それと同時にナズエルが苦しむのは止まったが、まるで力尽きたかのよう倒れ込んだ。
「アダム、どうだった?」
「はい、やはり今回の事件には大魔皇帝が糸を引いているのは確定ですが、それよりも興味深い内容がいくつか見つかりました 」
「そうか・・・それで、興味深い内容とは?」
「はい、まずはこの者達の他にも多くの仲間がいるということです。そしてその仲間達はバギランド王国の反体制派と手を組んで来月にクーデターを起こさせるつもりらしいです」
「クーデターだと!?」
同盟国でクーデターが計画されていたと知って、流石のケイトも驚いた。
しかし、アダムはどんどんとんでもない報告を続けていく。
「はい。しかしそれはただのクーデターではなく、今回のセーナ様暗殺が失敗した場合の保険の役割も果たすものでした」
「保険?どういう関係があるんだ?」
「それはバギランド王国政府に紛れ込ませた妖魔達を使ってセーナ様とバギランドの王女との会談をセッティングをさせるそうです。そのタイミングで反乱軍を蜂起させ、その混乱に乗じてセーナ様の暗殺と国家転覆を成し遂げるようです」
「なるほど・・・随分と計画的だな」
ケイトは妖魔達が予想以上に計画性のある行動をしており、相手に先手を打たれていたことを痛感した。
危うく今後も上手く奴らの手のひらの上で踊らされるところであったのだ。
ケイト自身、少し責任を感じていたのか、拳を握りしめながら話を聞いていた。
そんなケイトに対し、アダムの報告はまだ続く。
「しかしなぜこのような敵対もしていないシャーリス王国やバギランド王国を潰す必要があるのか、これが大魔皇帝に繋がります」
アダムのその言葉を聞いていたケイト達は、よりいっそう緊張感をもって話を聞く。
「妖魔帝王ジドルは大魔皇帝からある命令を受けていました。もしもその命令を達成することができたら魔王の座を与えるという褒美を用意して。
そのためにまずは魔族と明確に敵対しているエルフ族の結束を弱めようとしたようです。国王陛下のご息女であり、跡取りであるセーナ様を暗殺し、それにより心が弱った国王陛下を暗殺、そしてエルフ族を統べる王がいなくなったことにより、シャーリス王国での内乱を起こさせようとしていました。
そしてその計画が失敗した場合の保険の役割も兼ねているバギランド王国での反乱は、ジトルが魔王になった時の領土確保のためという訳です」
「そういうことか・・・今後の奴らの動きは大体読めた。国王陛下に報告してバギランドに警戒態勢をとってもらうよう警告して頂くしかないな」
ケイトは今後の妖魔の動きに先手を打ち、バギランドでの反乱を失敗させるためにこちらも策を立てようと考えた。
「なあアダム、そのバギランドの裏切り者のまではわかったりしない?」
「申し訳ございません。どうやらこの者とは面識が薄いものと見られます。そのため裏切り者が潜入しているという状況のみしか把握していないようです」
「そうか、ありがとう。じゃあ妖魔たちの構成員とかはわかった?」
「はい。全員とまではいきませんでしたが、幹部と思われる者が数名浮かびました」
「教えてくれ」
「妖魔帝王ジドルの下に幹部は7名。その中ではっきりと確認出来たのは4名だけです。
まずはジェイルが戦った妖魔剣士ヴェルジオ。こいつが幹部のまとめ役らしいです。
そしてヴォルドが倒した妖魔魔術師エルザ。こいつはまだ幹部としては新参らしいです。
他に確認できたは妖魔仙人二ギア、妖魔賢者リブレイといった者達が確認できました」
ケイトは今まで聞いたことを頭の中で整理しながら話を聞き、これからどのように行動するかの策を考えていた。
「わかった。俺から聞きたいことは以上だが、他に言っておきたいことはあるか?」
「いや、以上で終わりだ。また何かあれば報告する」
「おっけー、とりあえず今回の件の内容を直ぐに国王陛下に報告しに行く。報告には俺とヴォルドとジェイル、そして今回セーナ様を守り、ナズエルに勝利した大和が行く」
指名された大和は特に驚くことなく、ケイトの指名に頷いた。
この事件で姫を救い、暗殺者に勝利までしたのだから重要参考人として呼ばれること予想がついていた。
ケイトは続いて、他の者たちへの命令を下す。
「ギルコードは直ぐに持ち場に戻り、マナカに今回のことを報告してくれ」
「了解!」
「アダム達5番隊はナズエルを特別留置所へ連れていき、引き続き監視を続けろ」
「御意」
「ルイス達6番隊とサユリ達4番隊はエルザの亡骸を処分決定が下るまで見張っておくように」
「「了解!」」
「ペテル達7番隊は引き続き聖王の森の監視を続けてくれ」
「わかりました」
「ヴォルド達1番隊とジェイル達3番隊は警察や軍と協力して街の警備をするように、とそれぞれ副隊長に伝えてくれ。それと1番隊Bチームにはヒステラのそばにいるように伝えてやってくれ。伝達を終えたら王室特殊兵団の本部で待ち合わせだ」
「おう、気遣いありがとな」
「りょーかい」
「それではそれぞれの任務へ向かうように!」
ケイトがそういうと、団員たちはそれぞれの持ち場へ向かった。
「さて大和、とりあえず本部に戻りながら聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「え?ああ、いいですよ」
大和は聞かれる内容を察していたため、驚くことはなかった。
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