青春少女 北野麻由美はたった一度の青春を謳歌する

益木 永

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第4章

第39話

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 御伽先輩から聞いた話は私の頭の中で様々な謎を提示させてきたけれど、そうして考える時間はあっという間だったと告げるかのように。
「あ、そろそろ着くからね」
 御伽先輩からそう伝えられたのだ。
 私の目の前に建つそれは、まさにあの時の古本屋さんだ……あの、パラレルワールドを生成する絵本を買ったあのお店。よく考えると、何でこのお店にそんな絵本が売ってたんだろう? やっぱり、この辺りは色々と疑問が容易に思い浮かぶことばかりだ。
「おばあちゃーん、来たよぉー」
 御伽先輩のイメージにピッタリなとってもおっとりとした間延びする響きがする声音は、まさしく古本屋の中にいるお婆ちゃん……御伽先輩のお婆ちゃんに向けて放たれたものだ。多分、お店の中でもハッキリと聴こえるぐらいには大きい声だと思う。
 まさしくそんな声がちゃんと聞こえたようで。
「おや、かなこ。来たのかい」
 お店からお婆ちゃんが顔を出してきた。……やっぱり、あの時のお婆ちゃんだ。
「おや……あんたさんは?」
「あ、この子お婆ちゃんが言ってた子でしょ? 私の後輩で、北野麻由美ちゃん」
「あ、えと……よろしくお願いします!」
 私が反射的に顔を下げると「そこまでかしこまらなくてもいいよ」という声が聴こえる。うん、確かにちょっとこの場に相応しくない位には堅い挨拶だったかもだけどっ。
「とりあえずお店の前だし中入っちゃお。問題ないかな?」
「問題ないよ。商品を汚すとかしなかったらね」
「わ、わかりました。それじゃお邪魔しますっ」
 お店だし、そりゃお店の迷惑にならないようにしないとね……。

 そうして私はあの時以来久々にお店の中にお邪魔した訳だけど……当然ながらその時と変化があったかと言われたら当然ながら変化はない。そんなに時間も経ってないからそうそう派手に変わる訳でも無いし。
「ねえ、麻由美ちゃん。どうしてここに来たの?」
「えっ?」
 御伽先輩から不意に質問を受ける。
「いやね……お婆ちゃんから話聞いたって言った所から話すんだけど、それだけ高校の制服を着てる子が来る事が珍しいの、ここ」
「あ、そういう事なんだ」
 あえては言わないけど……まあ、同い年くらいの子が行きやすいってなるお店じゃないもんね……お婆ちゃんが言ってたっていうのもそういう事なのかも。
 でも、
「どうしてここに来たって言われれも……なんとなくとしか」
「理由は無いって事なんだ……割と思い切るタイプっていうか?」
「あ、あはは……そうかもしれないです」
 何だかちょっと軽く尋問を受けている感覚がする。他意は無いんだろうけど……。
「何回かここに来たってお婆ちゃんが言ってたし、その子の特徴を聞くとあ……もしかして、西城くんが言ってた麻由美ちゃんって子を思い出す様な話が出てきたから、こうして呼んでみたって形なの」
「そうなんですねー……え?」
 今、御伽先輩が聞き捨てならない事を言わなかった?
「あれ、どうしたの?」
「す、すみません……私、ここまだ一回しか来てない筈なんですけど……」
 それを聞いた御伽先輩は目を丸くする。
「……えっ?! 嘘っ、お婆ちゃん確かに何回かここに来てたって言ってたのに……」
「ほ、本当に?」
「えぇ……お婆ちゃん、本当に変わった子だって言ってたし……」
 どう言う事なんだろう。
 これ、お婆ちゃんに聞いてみた方が良いかもしれない。
「お婆ちゃんっ!」
 御伽先輩は店のカウンターの奥の方へ少し駆け足で向かっていく。少し大きい声を上げていきながら。多分、私と同じことを考えてこの行動に移ったのだろう。しばらくすると、御伽先輩がひょこっとまたカウンターの奥から現れる。
「麻由美ちゃんっ、一緒に来て!」
「え、あ。はい!」
 御伽先輩の勢いに釣られるように私は後をついていった。
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