青春少女 北野麻由美はたった一度の青春を謳歌する

益木 永

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第1章

第10話

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  *


 ……私は目を開いた。
「うん、ちゃんと戻ってきているよね」
 私はすぐに、手元にあったスマホを確認する。日付、特に何年かの情報を見る……うん、スマホのカレンダーの日付は間違いなく今年……私が高校一年生の時の年度になっている事は確かだ。
 絵本の力を駆使した後に増える、書きこまれたページ。前に移動した時の絵の次のページにやはり、というか追加されていた。私はそのページに『この時に移動する様に』念じた。
 前もやった時もそうだけど、どういう理屈でこんな現象が起きるのか全く意味が分からない。けど、確かなのはページに対して何かしらを念じると今、ここにいる私の意識は様々な時間軸に移動していくという事はなんとなく理解しつつある。
 ……とりあえず、今回もこの方法で成功する事ができたみたいだ。
「……」
 ……。
「はぁ……」
 けど、私はさっきまでいた高校二年生の私の世界でとても落ち込むことがあった。
 あれ以上、話を掘り下げたらリリーから不自然に見られかねないという理由から、何も聞く事ができなかったけど、二年生の時点で西城は私以外の子……サッカー部のマネージャーをやっている御伽さんと付き合うって事を知ってしまったのだ。
 これは、とてもショックな事だった訳だけど……やはり、この絵本は完全に望み通りの時間や世界に移動するって言う訳でもない事は確認できた。
 あくまで、この絵本の効果だと思われるのは以下の事だ。一つ目、空白のページに対して私が何かしらを念じる。例えるなら……私が今から一カ月前の頃に戻りたい、と念じた際、この絵本はその念じた時の状況を空白のページに描き込むのと同時に私の意識をその念じた時間帯に移動させてくれる。
 二つ目は、その描き込まれたページだ。この描き込まれたページに私がこの時に行く、と念じるとその時の状況から継続して戻っている。つまり、時間移動した間はまるで私は一瞬意識を失ったかの様に思える様な状況を引き起こしていると言えるかもしれない。
 この二つの点から、この絵本では私が念じた様に自由に時間を行き来する事ができる、という点が考えられると思う。
 そこで、私が懸念しているのはこの絵本の効果がどこまで適用されるのか、という事だ。
 私はここで利用を出来るだけ避けたいと考えるのは、少なくとも高校生の時より前、もしくは後に行く事は避けたいと考えている。理由としては、下手により遠くの時代へ行くと私の身に何が起きるのか読めないからだ。
 少なくとも、私が生まれるより前とかおばあちゃんになっている頃に行きたい、と念じるのは明らかにリスクがある。というか、念じた時に何が起きるのかちょっと想像したくない……。
 また、気になるのは私が念じる事に描きこまれていくページについてだ。これは、確認してみる限りだと一度描き込まれたページは、その時点で保存された状態になっていると言っても良い。つまり、は一度絵本に何かしらの光景が描き込まれた後は、その光景が更新された事は現状確認できていない。それは、つまり新しい所へ時間移動する際は次の空白のページに描き込まれるって事になる。
 ただ、絵本という形である以上は始めのページから終わりのページまでがあるという事。もしかしたら、光景を何かしらの方法で消す事は出来るかもしれないけど、その方法がわからない以上は無暗に乱用する事は避けた方が良いかもしれない。
「……この絵本、本当に不思議だなあ」
 私は一人呟く。
 本当に不思議な絵本だ。まさか、たまたま来店した古本屋で見つけた空白のページしかない絵本、だと思ったらこんな時間移動が出来るなんてビックリすぎる。未来の技術でも使われているんじゃないかってくらいには現実味のないものだ。
「でも、これがあれば……」
 けれど、そんな深い事を考えるより重要な事がある。
「……あの未来を変えられるかもしれない、って事だよね……」
 もしかしたら、この絵本を使えば西城と私の仲が発展する事にだって使えるし、何で御伽さんと付き合う事になったのか、と言った様々な疑問がわかるかもしれない。
 何より……違った可能性の青春を体験する事も可能だという事。
「いや、でも下手に乱用するのは……」
 けど……それには相応のリスクが伴うかもしれない。
「……けど、もしかしたらこれを活用できるのはもしかしたらチャンスかも」
 けれど、私はこの絵本を手に入れた以上はどうにかして活用してみたいと思う。多分、心の中でたった一度だけ、と思っていた青春を……!
「うん、決めた!」
 私は決意を固めた。この時間移動が出来るあまりにも不思議な絵本を使って様々な可能性を体験していく、というある種、たった一度の青春の謳歌へ活用させようと。
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