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第2章
第20話
しおりを挟むこの呼ばれ方は完全に、私が藍春と衝突しかけた上で藍春に突っかかられる様になった原因の出来事の始まりだった筈だ。……確か、このタイミングで藍春が通るという事……。
「……良いよ~」
私はリリーへの返事をしながら、覚えている方向に向く。藍春がこちらへ向かって歩いているのが見えた。……よし、私がゆっくり歩いたらこれはトラブルが起こらないかも……。
私は、しっかり注意確認をした上でリリーの所へと歩いていく。よし、藍春がゆっくり通り過ぎていく。このままだったら前の様な感じで藍春に尻もち付かせるとか、そういうのはないよね?
「……」
私はリリーの元へと歩いていく。けれど、その際に引っ掛かるものがあった。
藍春がこっちを少し睨みつけていた様な……。
「それで、リリー何?」
「それがね……」
私はリリーの話を聞きながら、先ほどの藍春のリアクションを少し考えていた。少なくとも衝突を回避する事は出来た訳だけど……。
けれど、引っ掛かるものはあった。明らかに、藍春はこちらを睨みつけている様に見えたのだ。明確に敵意丸出しっていうのが伝わる感じではないけれど、少なくとも気づいたらわかるっていう視線で私の方を見ていた。
それも、薄っすらと好意的な目線ではないと感じられるようなこちらに対して貫く様な敵意に感じた様な……。
リリーが聞いてきた事に対して、私は一応ある程度答えた後に授業は始まった。授業中は何事もなく進んだ。藍春が明確に何かこっちへしてくる、なんて事も特になかったしリリーと普通に会話をしたし、間違いなく何事も無かった。
少し、引っ掛かるものはあったけどね……。
「ただいま~……はぁ」
家に帰宅した私は親に言われた通り、自室へと入っていった。制服から私服に着替える必要もあるし、間もなく夕食が出来るとも言われたのですぐにリビングへと戻らないと。
それよりもだ。
「一応、上手くいったんだよね……」
私は通学カバンから絵本を取り出す。
『あなたの人生の本』というとても不思議な題名の絵本。けれど、この絵本を開くとビックリするほど統一感のない絵がいくつも描かれて行って……そして、空白のページが途中から広がっていく。
この絵本が、まさに普通の絵本ではないって事はこれだけでもわかる。
私は間違いなくあの時の行動で最初にこの絵本を開いた時とは違う選択を選んだという事になるんだ……。
「それにしても」
この絵本、とても不思議である。時間を巻き戻せる絵本ってビックリするほど現実感が無さ過ぎる! けれど、私が今日体験した事はまさに心当たりのある過去で……私はその過去と違う選択肢を間違いなく取ったという事だ。
「でも、やっぱり気になるのよね~……」
違う選択をしたからこそ、これからの出来事は変わってくるだろうなとも考えるけれど、一つ気になるのはやはり藍春の視線である。
もしかして、あの出来事ってただ藍春が敵意を隠さないきっかけでしか無かったんだろうか? 元々私に対して何か思っていたって事……なんだろうか?
気にはなるけど、話しかけにくいし……。
でも、これでハッキリした事がわかる。この絵本の時間を巻き戻す力は本物であるという事だっ!
つまり、これを使えば色々な青春を体験する事が可能なんじゃないかって言う事。私は色々な選択をこの絵本を駆使して体験する事が出来るのはほぼ確実に出来るんじゃないかという確信が今回の出来事で間違いなく固定化されたと言っても良い。
……けれど、もしもの事がある。
こういう装置って大体何かしらの代償も否定できないよね……創作物でもありがちだもん。無い事もあるけど。
けれど、私はそれでも良いと思う。何故なら、その問題を解消するのも私なりの青春のページになるんじゃないかって思えるからだ。どうせ、悩んで迷って立ち止まるくらいなら何でも前向きに進むべきなんだ。
どんな事になったとしても、私はやはり色々な青春を選択していきたいし、造っていきたいと思う。
自分なりの青春体験って奴を――。
「よしっ!」
私は改めて気合を入れ直す。
これからもこの絵本を使って違う選択をしてみよう。そして私の、私だけの青春を送ってみようという決意を決めた。
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