青春少女 北野麻由美はたった一度の青春を謳歌する

益木 永

文字の大きさ
20 / 41
第2章

第20話

しおりを挟む

 この呼ばれ方は完全に、私が藍春と衝突しかけた上で藍春に突っかかられる様になった原因の出来事の始まりだった筈だ。……確か、このタイミングで藍春が通るという事……。
「……良いよ~」
 私はリリーへの返事をしながら、覚えている方向に向く。藍春がこちらへ向かって歩いているのが見えた。……よし、私がゆっくり歩いたらこれはトラブルが起こらないかも……。
 私は、しっかり注意確認をした上でリリーの所へと歩いていく。よし、藍春がゆっくり通り過ぎていく。このままだったら前の様な感じで藍春に尻もち付かせるとか、そういうのはないよね?
「……」
 私はリリーの元へと歩いていく。けれど、その際に引っ掛かるものがあった。
 藍春がこっちを少し睨みつけていた様な……。
「それで、リリー何?」
「それがね……」
 私はリリーの話を聞きながら、先ほどの藍春のリアクションを少し考えていた。少なくとも衝突を回避する事は出来た訳だけど……。
 けれど、引っ掛かるものはあった。明らかに、藍春はこちらを睨みつけている様に見えたのだ。明確に敵意丸出しっていうのが伝わる感じではないけれど、少なくとも気づいたらわかるっていう視線で私の方を見ていた。
 それも、薄っすらと好意的な目線ではないと感じられるようなこちらに対して貫く様な敵意に感じた様な……。
 リリーが聞いてきた事に対して、私は一応ある程度答えた後に授業は始まった。授業中は何事もなく進んだ。藍春が明確に何かこっちへしてくる、なんて事も特になかったしリリーと普通に会話をしたし、間違いなく何事も無かった。
 少し、引っ掛かるものはあったけどね……。


「ただいま~……はぁ」
 家に帰宅した私は親に言われた通り、自室へと入っていった。制服から私服に着替える必要もあるし、間もなく夕食が出来るとも言われたのですぐにリビングへと戻らないと。
 それよりもだ。
「一応、上手くいったんだよね……」
 私は通学カバンから絵本を取り出す。
『あなたの人生の本』というとても不思議な題名の絵本。けれど、この絵本を開くとビックリするほど統一感のない絵がいくつも描かれて行って……そして、空白のページが途中から広がっていく。
 この絵本が、まさに普通の絵本ではないって事はこれだけでもわかる。
 私は間違いなくあの時の行動で最初にこの絵本を開いた時とは違う選択を選んだという事になるんだ……。
「それにしても」
 この絵本、とても不思議である。時間を巻き戻せる絵本ってビックリするほど現実感が無さ過ぎる! けれど、私が今日体験した事はまさに心当たりのある過去で……私はその過去と違う選択肢を間違いなく取ったという事だ。
「でも、やっぱり気になるのよね~……」
 違う選択をしたからこそ、これからの出来事は変わってくるだろうなとも考えるけれど、一つ気になるのはやはり藍春の視線である。
 もしかして、あの出来事ってただ藍春が敵意を隠さないきっかけでしか無かったんだろうか? 元々私に対して何か思っていたって事……なんだろうか?
 気にはなるけど、話しかけにくいし……。
 でも、これでハッキリした事がわかる。この絵本の時間を巻き戻す力は本物であるという事だっ!
 つまり、これを使えば色々な青春を体験する事が可能なんじゃないかって言う事。私は色々な選択をこの絵本を駆使して体験する事が出来るのはほぼ確実に出来るんじゃないかという確信が今回の出来事で間違いなく固定化されたと言っても良い。
 ……けれど、もしもの事がある。
 こういう装置って大体何かしらの代償も否定できないよね……創作物でもありがちだもん。無い事もあるけど。
 けれど、私はそれでも良いと思う。何故なら、その問題を解消するのも私なりの青春のページになるんじゃないかって思えるからだ。どうせ、悩んで迷って立ち止まるくらいなら何でも前向きに進むべきなんだ。
 どんな事になったとしても、私はやはり色々な青春を選択していきたいし、造っていきたいと思う。
 自分なりの青春体験って奴を――。
「よしっ!」
 私は改めて気合を入れ直す。
 これからもこの絵本を使って違う選択をしてみよう。そして私の、私だけの青春を送ってみようという決意を決めた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...