青春少女 北野麻由美はたった一度の青春を謳歌する

益木 永

文字の大きさ
27 / 41
第3章

第27話

しおりを挟む
「練習、頑張ってるじゃん」
 折角だから、と西城に言われて私たちは人の目が通らない体育館脇の細長い小さいスペースで二人で座って話をしていた。
 こんな人目が通らない所をチョイスするなんて……私はかなりドキドキと心臓を動かしている状態ではあるが、それを西城に気づかせたくはなかったのでなんて事がないように振る舞っている……西城はこういう所、鈍いし。
「まあね。夏の大会はあと一歩で決勝戦だったし、次はちゃんと優勝できるようにしていきたいっつーかさ」
「そっか、確かに西城くんならそうかも。私も見てたけど、負けちゃったんだっけ?」
「そうなんだよ……本当に」
 西城が話しているのは、夏休み中でのサッカーの大会の話だ。
 うちのサッカー部は結構良い所まで行っていたけど、準決勝で敗退してしまった。あの時の西城、今まで見た事ないレベルで動きが悪くなっていたような。
 別に試合中って訳じゃない。ただ、敗退が確定した後の西城の動きはいつもと変わらないように見せながらもその実、明らかに違ったというそれだけの話だった。
「私、素人だからちゃんとした事は言えないけど……西城くんなら皆を引っ張って優勝まで行けると思う。これは本当に、そう思う」
「北野さん……」
 私なりに精一杯のエール……では、あるんだけど西城に届いているんだろうか。素人っていうのは本当だ。私が優勝できる、なんて言ったってそれが保証になるかと言われたら違う。
 でも、西城は私がそういうエールを送った事に対しては。
「ありがとう……北野さんもそう言ってくれるなら、精進していかないとな」
 笑顔で、感謝の気持ちを伝えてくれた。
 それはどこまで本心かはわからないけれど、西城は少なくとも感謝をしたいって思ったんじゃないかなとは私は思う。
 それだけでも充分なんだから。
 

 その後、私たちはそれぞれ別行動へと戻っていった。
 必要以上に一緒にいる理由もないしね。あの後も少しは話を続けたけどそれで良かったし、西城もまだ部活あるって言ってたし。僅かな休憩時間の少しの時間でしかない。
「うーん……」
 でもちょっとだけセンチメンタルな気持ちかも……。
 これでは行けない。センチメンタルな気持ちになるのを誤魔化す事は難しくても、引きずる事だけは勘弁ッ! ちゃんと気分転換をしないとこういう時は。
「ん? 麻由美、あんたまだいたの?」
「あ、リリー」
 私は聞き馴染みのあるその声でリリーが声を掛けてきたのだと気づく。
「というか、それはこっちの台詞でもあるって。リリーも残ってたんだすぐに帰ったのかと」
「それどういう意味よ。私も理由なく即帰るって訳じゃないんだからさ」
 とは言ってもリリーってすぐに帰るからなあ……と内心思う。
 それぐらいには、私の印象では学校が終わった後すぐに『一緒に帰らない?』って聞いてくるのだリリーは。すぐに帰るイメージ、付くよ。
「でも、リリーはどうして?」
「私はね、友だちから部活の手伝いをしてって頼まれて」
 そんな軽く……。
「はえー、手伝いとかしてるんだ」
「おいおい……たまに手伝いのお願い頼まれるんだからね? 地味に先輩からの評価が高いんだからさ」
 何の評価? まあいいや。手伝いって事は要はサポートとかそういうのなんだろうな……私、リリーの他の友だちが入ってる部活知らないし。聞いたら教えてくれるとは思うけど、本人に聞く訳でもないからやっぱり微妙なのよね……話す時は話すんだけど。
「でもリリーって本当に色んな人と付き合うっていうか面倒を見るっていうか……そんな感じ?」
 私たちは廊下を歩きながら話を進めていた。目的地は自然と下駄箱の方向。
「そりゃね……体験イベントもそういう所行ったし」
「それもそうかっ、でも何でリリーはそんなに世話好きって感じなんだろう?」
 軽いやり取りではある。多分、他の人から見ると他愛のない会話だなあって感じなんだろうねこれも。
「うーん、何でだろう。特に理由は無いんだけど」
「うん」
 リリーが何てこともない調子で答える。
「やっぱり、私はこれが性に合うんだろうなって。なんだか放っておけないわけで」
「……まあリリーならそう答えるかもって思ってたよ」
「ハハッ、何それ」
 リリーの表情は軽やかだ。
 本当に、リリーはそういう人の事を見ているのが伝わってくるなあと私は思うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...