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第3章
第27話
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「練習、頑張ってるじゃん」
折角だから、と西城に言われて私たちは人の目が通らない体育館脇の細長い小さいスペースで二人で座って話をしていた。
こんな人目が通らない所をチョイスするなんて……私はかなりドキドキと心臓を動かしている状態ではあるが、それを西城に気づかせたくはなかったのでなんて事がないように振る舞っている……西城はこういう所、鈍いし。
「まあね。夏の大会はあと一歩で決勝戦だったし、次はちゃんと優勝できるようにしていきたいっつーかさ」
「そっか、確かに西城くんならそうかも。私も見てたけど、負けちゃったんだっけ?」
「そうなんだよ……本当に」
西城が話しているのは、夏休み中でのサッカーの大会の話だ。
うちのサッカー部は結構良い所まで行っていたけど、準決勝で敗退してしまった。あの時の西城、今まで見た事ないレベルで動きが悪くなっていたような。
別に試合中って訳じゃない。ただ、敗退が確定した後の西城の動きはいつもと変わらないように見せながらもその実、明らかに違ったというそれだけの話だった。
「私、素人だからちゃんとした事は言えないけど……西城くんなら皆を引っ張って優勝まで行けると思う。これは本当に、そう思う」
「北野さん……」
私なりに精一杯のエール……では、あるんだけど西城に届いているんだろうか。素人っていうのは本当だ。私が優勝できる、なんて言ったってそれが保証になるかと言われたら違う。
でも、西城は私がそういうエールを送った事に対しては。
「ありがとう……北野さんもそう言ってくれるなら、精進していかないとな」
笑顔で、感謝の気持ちを伝えてくれた。
それはどこまで本心かはわからないけれど、西城は少なくとも感謝をしたいって思ったんじゃないかなとは私は思う。
それだけでも充分なんだから。
その後、私たちはそれぞれ別行動へと戻っていった。
必要以上に一緒にいる理由もないしね。あの後も少しは話を続けたけどそれで良かったし、西城もまだ部活あるって言ってたし。僅かな休憩時間の少しの時間でしかない。
「うーん……」
でもちょっとだけセンチメンタルな気持ちかも……。
これでは行けない。センチメンタルな気持ちになるのを誤魔化す事は難しくても、引きずる事だけは勘弁ッ! ちゃんと気分転換をしないとこういう時は。
「ん? 麻由美、あんたまだいたの?」
「あ、リリー」
私は聞き馴染みのあるその声でリリーが声を掛けてきたのだと気づく。
「というか、それはこっちの台詞でもあるって。リリーも残ってたんだすぐに帰ったのかと」
「それどういう意味よ。私も理由なく即帰るって訳じゃないんだからさ」
とは言ってもリリーってすぐに帰るからなあ……と内心思う。
それぐらいには、私の印象では学校が終わった後すぐに『一緒に帰らない?』って聞いてくるのだリリーは。すぐに帰るイメージ、付くよ。
「でも、リリーはどうして?」
「私はね、友だちから部活の手伝いをしてって頼まれて」
そんな軽く……。
「はえー、手伝いとかしてるんだ」
「おいおい……たまに手伝いのお願い頼まれるんだからね? 地味に先輩からの評価が高いんだからさ」
何の評価? まあいいや。手伝いって事は要はサポートとかそういうのなんだろうな……私、リリーの他の友だちが入ってる部活知らないし。聞いたら教えてくれるとは思うけど、本人に聞く訳でもないからやっぱり微妙なのよね……話す時は話すんだけど。
「でもリリーって本当に色んな人と付き合うっていうか面倒を見るっていうか……そんな感じ?」
私たちは廊下を歩きながら話を進めていた。目的地は自然と下駄箱の方向。
「そりゃね……体験イベントもそういう所行ったし」
「それもそうかっ、でも何でリリーはそんなに世話好きって感じなんだろう?」
軽いやり取りではある。多分、他の人から見ると他愛のない会話だなあって感じなんだろうねこれも。
「うーん、何でだろう。特に理由は無いんだけど」
「うん」
リリーが何てこともない調子で答える。
「やっぱり、私はこれが性に合うんだろうなって。なんだか放っておけないわけで」
「……まあリリーならそう答えるかもって思ってたよ」
「ハハッ、何それ」
リリーの表情は軽やかだ。
本当に、リリーはそういう人の事を見ているのが伝わってくるなあと私は思うのだった。
折角だから、と西城に言われて私たちは人の目が通らない体育館脇の細長い小さいスペースで二人で座って話をしていた。
こんな人目が通らない所をチョイスするなんて……私はかなりドキドキと心臓を動かしている状態ではあるが、それを西城に気づかせたくはなかったのでなんて事がないように振る舞っている……西城はこういう所、鈍いし。
「まあね。夏の大会はあと一歩で決勝戦だったし、次はちゃんと優勝できるようにしていきたいっつーかさ」
「そっか、確かに西城くんならそうかも。私も見てたけど、負けちゃったんだっけ?」
「そうなんだよ……本当に」
西城が話しているのは、夏休み中でのサッカーの大会の話だ。
うちのサッカー部は結構良い所まで行っていたけど、準決勝で敗退してしまった。あの時の西城、今まで見た事ないレベルで動きが悪くなっていたような。
別に試合中って訳じゃない。ただ、敗退が確定した後の西城の動きはいつもと変わらないように見せながらもその実、明らかに違ったというそれだけの話だった。
「私、素人だからちゃんとした事は言えないけど……西城くんなら皆を引っ張って優勝まで行けると思う。これは本当に、そう思う」
「北野さん……」
私なりに精一杯のエール……では、あるんだけど西城に届いているんだろうか。素人っていうのは本当だ。私が優勝できる、なんて言ったってそれが保証になるかと言われたら違う。
でも、西城は私がそういうエールを送った事に対しては。
「ありがとう……北野さんもそう言ってくれるなら、精進していかないとな」
笑顔で、感謝の気持ちを伝えてくれた。
それはどこまで本心かはわからないけれど、西城は少なくとも感謝をしたいって思ったんじゃないかなとは私は思う。
それだけでも充分なんだから。
その後、私たちはそれぞれ別行動へと戻っていった。
必要以上に一緒にいる理由もないしね。あの後も少しは話を続けたけどそれで良かったし、西城もまだ部活あるって言ってたし。僅かな休憩時間の少しの時間でしかない。
「うーん……」
でもちょっとだけセンチメンタルな気持ちかも……。
これでは行けない。センチメンタルな気持ちになるのを誤魔化す事は難しくても、引きずる事だけは勘弁ッ! ちゃんと気分転換をしないとこういう時は。
「ん? 麻由美、あんたまだいたの?」
「あ、リリー」
私は聞き馴染みのあるその声でリリーが声を掛けてきたのだと気づく。
「というか、それはこっちの台詞でもあるって。リリーも残ってたんだすぐに帰ったのかと」
「それどういう意味よ。私も理由なく即帰るって訳じゃないんだからさ」
とは言ってもリリーってすぐに帰るからなあ……と内心思う。
それぐらいには、私の印象では学校が終わった後すぐに『一緒に帰らない?』って聞いてくるのだリリーは。すぐに帰るイメージ、付くよ。
「でも、リリーはどうして?」
「私はね、友だちから部活の手伝いをしてって頼まれて」
そんな軽く……。
「はえー、手伝いとかしてるんだ」
「おいおい……たまに手伝いのお願い頼まれるんだからね? 地味に先輩からの評価が高いんだからさ」
何の評価? まあいいや。手伝いって事は要はサポートとかそういうのなんだろうな……私、リリーの他の友だちが入ってる部活知らないし。聞いたら教えてくれるとは思うけど、本人に聞く訳でもないからやっぱり微妙なのよね……話す時は話すんだけど。
「でもリリーって本当に色んな人と付き合うっていうか面倒を見るっていうか……そんな感じ?」
私たちは廊下を歩きながら話を進めていた。目的地は自然と下駄箱の方向。
「そりゃね……体験イベントもそういう所行ったし」
「それもそうかっ、でも何でリリーはそんなに世話好きって感じなんだろう?」
軽いやり取りではある。多分、他の人から見ると他愛のない会話だなあって感じなんだろうねこれも。
「うーん、何でだろう。特に理由は無いんだけど」
「うん」
リリーが何てこともない調子で答える。
「やっぱり、私はこれが性に合うんだろうなって。なんだか放っておけないわけで」
「……まあリリーならそう答えるかもって思ってたよ」
「ハハッ、何それ」
リリーの表情は軽やかだ。
本当に、リリーはそういう人の事を見ているのが伝わってくるなあと私は思うのだった。
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