35 / 41
第3章
第35話
しおりを挟む今、私がしたい事……それは先ほどのやり取りの最後に起因する。
完全に私はあそこで日和ってしまった。日和るタイミングではないのに。あれは最後のチャンスだった場面だ。……一応、誰かに迷惑かかる形にはならないし大きな影響も無いとは思うんだけど、絵本の事もやっぱり気になるしなあ。
そうして私は絵本をカバンから取り出す。
この絵本に念じれば、時間移動ができる過去のアクションからも証明済みである。とはいっても、移動先で私がどうしているかは割とランダム……というか、想定していない場面に移動している事もあるのだ。
これは、慎重に考えないとねーと思いながら私は近くの女子トイレに移動する。……ここに来て急に私は色々と悩むのは何でなのかっ、今まであんなにホイホイ使っていたのに!
そういう独白を重ねながらも私は個室に入ってまだ残っている空白のページを開く。
……とりあえず、これを使えば時間移動は出来る。
私は絵本に念じるようにあのイメージを思い浮かべる――。
次に私が気づくといた場所は……トイレの個室だった。
つまり、今回は場所が変わっていない? と思ったけれど……。
「あれ……ここって」
個室から出ると明らかに場所が違っていた。私がさっき入った女子トイレではない女子トイレにいた様だった。スマホの時間を確認してみると、私は意外な情報を目にする。
「えっ、時間が違う……」
その情報は、明らかに私が念じた時期とは異なるもので――。
スマホに出ていた日付は明らかに数日前の放課後のものを指していた。明らかに、時間の巻き戻り方がオーバーすぎる……。一体、私はどんな念じ方をすればこんな時間移動を起こしちゃうのか……。
「……とりあえず、帰ってみるかなあ」
けれど、また時間移動の能力を使うのは憚れた。とりあえず、今日の所は帰って……という感じにしてみようかなあ。そんな風に私は思った。
そんな私が下駄箱の所まで行き、自分の下駄箱の中を確認した時だろう。
「あれ……?」
明らかに、中に何か入っていた……自分の靴以外にも。私はその何かに不意打ちを覚えた。数日前どころか、ずっとそういうイベントは起きた経験が私には無いのだ。これ、一体どう言う事なの?
そう思いながら私はその入っている物体を取り出す。
……私の手にあったのは、封筒……それも手紙とか入れる形の奴だ。
「え……ラブレター?!」
私は反射的に叫ぶ。だって、こんなのラブレターしか無いじゃない! と、私はそのまま封筒を開いて手紙の中身を確認する。
そして、その中を見た瞬間私はそうした興奮が一瞬で引っ込むようなその手紙の内容に驚愕するのだった。
『今日、あなたが持っているその絵本について話があります。……校舎の屋上に、来てください』
……どう言う事?
「これ、誰が……?」
絵本の事、誰かに話したっけ? 私はそうした疑念を抱えつつもとりあえず手紙に指示されている校舎の屋上まで向かっていく事にした。流石に、ここまで大きな展開とは言っても私はとんでもない目に晒されるとか、そう言う訳じゃない気がするけれど……。
そうして、私は手紙の指示された通りに屋上までの階段を歩き進めていた。こんな時間だからか、人気は殆どない。皆無では無いんだけどね……でも、まばらにしか見かけないから殆どの人は帰っているのだと思う。
窓から差し込む日が完全に赤く染まっているのを見ると、何だか凄い……怖いような気がする……やっぱりホラーな展開に巻き込まれる奴なんだろうか? そういう不安があるけれど、行かないのはもっと怖いよね……。
そう思いながら手紙に書いてあった屋上の扉前に辿り着く。
ここ、本来なら立ち入り禁止だとは思うし、何なら鍵が掛かっている筈なんだけど、扉前には誰もいない……つまり、この先に?
そう考えながら、私は無意識に扉の取っ手を掴む。そして、捻る。
鍵は掛かっていなかった。
「あ、あの~……誰か、いるんですか~……」
そうして、私はゆっくりと扉を開く。外がどういう風になっているのかは少ししか視界が確保されていない状況では良く見えない。……なら、大丈夫なのか?
何も保証がされていないけど、私は決心して扉を思いっきり開けて屋上へ駆け抜ける様に一気に入り込む。そこにいたのは。
「あ……北野さん、来たんだね」
そこに立っていたのは。
「東谷……?」
「そうだね。色々と探していたんだけど、やっと見つけたんだ、それを持っている人」
ど、どう言う事? 私は彼に、質問を投げかける。
「あの、それってどう言う事なの?」
「とりあえず、僕が言えるのは……実は、その絵本を探していたんだ。必死に探していたんだけど、北野さんが持っているって踏んで手紙を送りつけて見たけど……ビンゴって感じだったね」
東谷、一方的だな……これ、私は話に置いてけぼりにされている様な気がするんだけど?
「ちょっと! 私に色々と説明してもらわないと流石に状況読み込めないって!」
「あ、ごめん。確かに、一から説明しないと行けなかったね……」
私の勢いに気圧されてたじろいだようだったが、東谷はコホンッと咳払いをして語り始める。
「僕は、未来からやってきたんだ……ちょっとした事故で、この時代へやってきてしまったその絵本を回収するために、ね」
……未来から、やってきた?!
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる