青春少女 北野麻由美はたった一度の青春を謳歌する

益木 永

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第3章

第34話

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 それは放課後。珍しく部活動がお休みなのだ、と今朝から話していたから彼が一人になったタイミングを狙って私は話しかけた。
 丁度手持ち無沙汰だったらしく、すんなりと西城は私との話に応じてくれた。
 そして、私はいきなり御伽先輩との関係について聞いた。それが、先ほどの会話のいきさつになっている。やはり、というかなんというか……西城はいきなりそんな事を聞かれてかなり驚いている。あと、いきなりすぎて反応にも困っていそう。
「……とにかく、私が聞きたいだけっていうか本当に」
 少し言い訳じみているかも……と思いつつも、これだけはどうしても聞いておかないといけないと思った。
 そういう意思のアピールが見えたのか。
「あー……北野さんなら話してもいいかも」
 そう言う風に西城は、この疑問に対して応じてくれる事となった。
「御伽先輩は前年からサッカー部のマネージャーをしている先輩なんだけど……実はその前から交流があってさ」
「えっ、そうなんだ?!」
 私は純粋に驚いた。西城と御伽先輩って前からずっと仲良かったんだ……。
「いや、なんというかさ……中学生の時から先輩後輩? として仲良くさせてもらってたんだ」
「へえ~」
 何だか、やたら仲が良いと思っていたけど……中学生の頃からの仲だったんだ……知らなかった。
「あ、これ実の所誰にも話していないんだけどね。ある意味、初めましてって感じだよ……南さんも知らないだろ?」
「え、んー……それもそうだ」
 確かにリリーからそんな話聞いた事無いんだよな……でも、意外と知っていたり? いや、そんな事は置いといて。
「でも何故それ言ってないの? 言うほど重大な秘密って感じでもないし」
「あーやっぱりそう思うよな……」
 西城は頭を抱えるような仕草をする。あー……うーん、とと声が漏れ出ていた。
 意外な情報とはいえ、知っている人は確実に知っているような情報だ。そんな話を何故、西城はこう言ってないんだろうか。……もしかすると、言う機会が無かったのかなあ。
「悩むくらいなら、別に言わなくても良いかな」
「そ、そう? それなら助かる……」
 私が配慮するようにそう言うと、西城はその仕草を辞めた。……よし、ここで改めて聞かないと。
「それで、西城くんは御伽先輩とずっと仲が良いって事はわかったんだけど……西城くんはどうしたいの?」
「えっ……」
「やっぱりそれは聞きたいかもって」
 これは、ちゃんと聞いておかないといけない。西城には悪いけど、やっぱり聞き出したい事なのだ……と。
「あー……そういうのストレートに聞かれると、いざと言うと何も思いつかないな……」
「それで良いから、言ってみてよっ」
 むしろそっちの方が本当にハッキリとする。だから、言って欲しいと私は心の中で願う。そんなやたらと押しの強い私に少し引き気味の様子の西城だったけど、観念するかの様にこう答えた。
「……俺、御伽先輩と付き合いたいって思ってるんだ」
 ――やっぱり、か。
 私はここでハッキリとさせる事ができた。多分、西城は近いうちに御伽先輩と付き合う。これは確実に、どんなミラクルが起きたとしても。
 西城は付き合うという選択肢を……御伽先輩に対してする。
「そっか……はぁー、言えるじゃんちゃんとそう言う事」
「むぅ……」
 わかりにくいけど、西城は少しだけ頬を膨らませているのに気づく。珍しい姿を見れたな……と思いつつ、私は続ける。
「こういうの、隠すくらいならストレートに言っちゃいなよ! ほら、御伽先輩だってそういう男の子と付き合いたいって思うし」
「そ、それはそうか……」
「そそ。それで良いって」
 私は西城が一体どういう気持ちなのか、やっとの事で引き出せたと思う。それ自体は清々しい事だったと思うんだけど。
「それじゃ、私はこれで。西城もちょっと一人で考えたいでしょ?」
「あ、そうだね……やっぱり、待った」
 その場から離れようとした私を、西城は引き留める。
「俺、今日の北野さんが少し変だと思う。何か、言いたい事が無いんじゃないか?」
「えっ……?」
 一瞬、私はその返答にたじろぐ。まさか、ここでこんな事を言われるとは思っていなかったからだ。……いや、こういう時がチャンスじゃないのか? 多分、ここを逃したら私は二度と西城に想いを伝える事はできない。
 これは、西城が自ら無自覚に作り出した私に向けての最後のチャンスなのだ。こういう時に、私は何か言うべき……ではあったんだけど。
「あー……うん、特にない! でも、西城が御伽先輩と付き合えたら良いなとは思ってるから、それじゃ」
「えっ、あうん。それじゃあ」
 嘘ではない。けれど、言いたい事はそれではない。
 私はその場からやや小走りで離れる。後ろを振り向くと、そこには誰もいない……西城も。
「……あーっ、やっちゃったー!!!」
 私は絶叫する。
 いや、西城にあんな事言われたってつまり私の好意が西城にも丸見えだったって事だよね?! これ、私すごい面倒くさい女みたいな感じになってるんだけど?!
 私は完全に身を屈めて顔を隠す。他者から見たらその仕草はさっきの西城みたいな事をしているだろう。この場には誰もいないんだけどね!
「あそこでちゃんと言っとけば……良かったのにー!」
 ただ、問題はある。
 あれは言うべきだった。あそこで私が告白して、そして振られる事でちゃんと決着を付けるべきことだった。
 あんな誤魔化しを肝心な所でするなんて……どうかしてるんだけど、私!
 ……もしかしたら、こういう時にあれを使うべきなのでは? と一瞬考える。
「でも、別にあれ使ったところで自己満足でしかないよね……」
 今回の件は果たして能力を使うべきか? いや、気持ち的には使いたいけど今まで以上に自己満足感が凄いというか。違う選択肢を選びたいようなシーンだったのはそうだというか。
 あー! もうどうすればいいのか! というか、まず落ち着け私。
「すぅー……はぁー……」
 私は思いっきり深呼吸をする。誰もいない廊下で一人これだけ大きな事をしても幸いながら誰も知らないだろう。何故ここで深呼吸? みたいなリアクションは目撃されたら確実に言われるだろうけどね。
 人がいなくて本当に良かった。ちゃんと、冷静になって考えないと。
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