13 / 13
第十三話 墓参り
しおりを挟む◆◆◆◆
空の墓がある墓地についた時には、すっかり薄暗くなってしまった。
蒼は寺の境内に置かれた仏花販売所で一対の花とお線香を購入すると、柏木と蒼はお墓に向かった。
空の墓は墓地の入り口からほど近いところだった。蒼は慣れた手つきで仏花と線香を供えるとその場にしゃがみこみ手を合わせた。柏木も同じように手を合わせる。
蒼は誰に聞かせるともなく、ぼそりぼそりと呟き始めた。
「空・・俺はずっと疑問に思ってる。あの日、あの崖で、何が起こったんだって?空はもう自力では車椅子を動かせないと思ってた。でも、違っていたのか?本当は手動の車いすを動かして、自ら海に落ちたのか?それとも、やっぱり事故で亡くなったのか、空?」
ひとり呟く蒼の言葉を、柏木は黙って聞いていた。蒼の言葉はなおも続く。
「空・・俺は近い将来、お前の元に行くことになると思う。大学に入ってすぐだったかな?何でもないところで、躓いたり・・壁にぶつかったりするようになってさ。視神経がやられてるってわかった時には、すぐに遺伝病の事が頭をよぎったよ。案の定、病院に行けば・・遺伝病の発症だって言われちゃった」
「蒼!?」
柏木は蒼の告白に驚き、思わず彼の名前を呼んでいた。蒼は悲しげに微笑み、柏木に目をやったのち、再び空のお墓に目をやった。
「大人になれば発症率は限りなく低くなりのに・・こんなこともあるんだな、空。やっぱり、俺とお前は双子なんだね。同じ存在。でも、同じ遺伝子なのに・・大樹は空がいいんだって。嫉妬しちゃうよ。双子でも同じ存在じゃない。だから、空。俺はお前とは、違う生き方をするつもりだよ」
「蒼・・」
「空はあの岸壁で死ぬことを、望んでいたよな?症状が進めば俺の気持ちも揺らぐのかもしれないけど、今は俺は寿命が尽きるまで生きていくつもりなんだ。辛くて苦しいし、医療費も掛る。人に迷惑をかける人生になると思うけど・・あとどれだけあるかわからない自分の時間で、自分だけの何かを探してみるつもりなんだ」
蒼は不意に立ち上がる。柏木もつられて立ち上がる。蒼は空のお墓を見つめながら呟いていた。
「空・・もう少し天国で待っていて。俺はまだこの世界で、もがいてみようと思っているから。今まで中途半端に生きてきた俺だけど、最後くらい何か目的を持って生きたい」
「・・蒼」
不意に柏木が蒼を抱き寄せた。蒼は驚いて目を丸くしたが、抵抗することなく柏木の胸に収まった。柏木の腕の中はほんのりあたたかく、心地よいものだった。柏木がそっと蒼に呟く。
「蒼・・俺も人生の模索中だ。思い通りの作品を書けずに、不安になったりイライラしたりしている。みんな誰もが、人生で躓いて転んで、起き上がれないときがある。でも、それでいいんだと思う。蒼、お前もなんにでも挑戦すればばいい。お前が疲れ果てちまって立ち上がれない時には、俺がお前を守るから」
「・・ありがとう、直人。俺も直人が人生で疲れ果ててしまった時には、俺が守るよ」
「それは、ありがたいね。ところでBL小説の参考に、男同士のカップルが夜の繁華街を散策するシーンを取材したいんだが・・俺と一緒に実践してみないか?」
「いいね、そういえばお腹がすいた」
「じゃあ行きますか」
柏木は蒼から身を離すと、墓地を後にして身をひるがえし繁華街の方に向かう。蒼もそれに続き歩き出す。踏み出す第一歩には、様々な可能性が含まれている事を、蒼に肌で感じていた。
可能性の第一歩。
苦悩に満ちた人生への、第一歩かもしれない。あるいは、心を満たし癒してくれる人生への第一歩かもしれない。
様々な可能性を持った人生への歩みを蒼はしっかりと踏み出す。
『兄さん・・蒼・・』
不意に名前を呼ばれたような気がして、蒼は背後をふりかえった。だが、声の主は立ってはいなかった。蒼は少し涙ぐみながら、弟の空に話しかけていた。
(もう少し待っていてくれ、空。俺が行けばもう寂しくはないだろ?でも今は・・もう少しだけ)
蒼は先行く柏木の手を掴んだ。柏木はぎょっとして一瞬硬直したが、少し照れつつもその手を振り払うことなく歩きつづけた。
ほんのり赤らんだ二人の頬の色を、街灯の光が照らしだしていた。
(おわり)
◆◆◆◆◆
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる