9 / 26
兄、暁月高宗。
しおりを挟む
◆◆◆◆
俺は椅子に座り淹れたてのコーヒーを飲んでいる。カフェインが体に染み渡る。しみじみとコーヒーを味わっていると、ベータ女子が背後から話しかけてきた。
「落ち着きましたか、暁月さま?」
「はい。ご心配をおかけしました」
騒ぎを聞きつけて部屋にやってきたベータ女子は、俺の悲しい胸の内を聞いてくれた。彼女は俺が書くベータ男色の耽美小説に興味を示し、親身になってくれた。嬉しい。
不意に三日月が咳払いをして、俺たちの会話を邪魔してきた。
「それでは、暁月さまの希望は‥‥耽美小説を好むアルファと番いたいということでよろしいですね?」
「わがままを言ってごめんなさい、三日月さん。アルファと番うことで趣味や好みまで喰われるとは知らなくて‥‥。でも、アルファが耽美小説好きなら、俺の趣味は喰われず生き残りますよね?」
三日月は少し考えるとベータ女子に声を掛けた。
「アルファとオメガが番った際の、オメガ性の嗜好の変化について書かれた論文が欲しい。君、頼めるかな?」
「はい、探してきます」
「よろしく頼む」
ベータ女子が部屋を去る前にLINEを交換したかったが、婚活中の身であること思い出して自重した。
「では失礼しますね、暁月さま」
「はい」
ベータ女子が部屋を後にすると、途端に静けさに包まれる。三日月アドバイザーはこちらをしばらく見つめた後に口を開いた。
「正直なところ、暁月さまがこれほど動揺されるとは思いませんでした。アルファと番ったオメガ性の嗜好が変化することは、義務教育の段階で習うのですが‥‥全くご存知なかったようですね?」
義務教育の段階で習うのか。あー、なるほど。学校に通ってなかった時期があるから、その時か。俺はアドバイザーに事情を話すことにした。
「実は学校に通えない時期があって、その時に教わるべき教育を履修できなかった可能性が高いです」
「なるほど。それは暁月さまのお兄様の件で騒動に巻き込まれた時期の事ですね。」
「あれ?兄の事をご存知なんですか?」
「勿論です。暁月高宗さまは、S級アルファですし‥‥色々と騒動もありましたので」
そうなのだ。俺の実兄の暁月高宗はS級アルファとして生まれて、将来を期待された人物だ。実際、兄さんは凄かった。
最高峰の大学に通いながら、オリンピックの各種目で金メダルを総なめにした強者である。最多金メダル数でギネスブックに載っている。
容姿端麗な筋肉美男子の活躍に、世界中が熱狂したものだ。
オリンピックを引退後は、スポンサーであった某殺虫剤会社に就職。そこで研究者として着実に実績を重ね、兄の論文は常に注目の的で世間を活気づかせた。
しかし、ゴキブリ恐怖症の俺のために、兄さんが地球上のゴキブリを半年で駆逐する薬剤、『バスターX』の開発に着手した事により歯車が狂い始める。
開発半ばであったが軍事転用の危険があるとされ、家族もろとも政府に隔離され監視対象にされてしまったのだ。
嘘みたいな話だが、事実だ。
笑いたい奴は笑え。俺は泣く(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
◆◆◆◆◆
俺は椅子に座り淹れたてのコーヒーを飲んでいる。カフェインが体に染み渡る。しみじみとコーヒーを味わっていると、ベータ女子が背後から話しかけてきた。
「落ち着きましたか、暁月さま?」
「はい。ご心配をおかけしました」
騒ぎを聞きつけて部屋にやってきたベータ女子は、俺の悲しい胸の内を聞いてくれた。彼女は俺が書くベータ男色の耽美小説に興味を示し、親身になってくれた。嬉しい。
不意に三日月が咳払いをして、俺たちの会話を邪魔してきた。
「それでは、暁月さまの希望は‥‥耽美小説を好むアルファと番いたいということでよろしいですね?」
「わがままを言ってごめんなさい、三日月さん。アルファと番うことで趣味や好みまで喰われるとは知らなくて‥‥。でも、アルファが耽美小説好きなら、俺の趣味は喰われず生き残りますよね?」
三日月は少し考えるとベータ女子に声を掛けた。
「アルファとオメガが番った際の、オメガ性の嗜好の変化について書かれた論文が欲しい。君、頼めるかな?」
「はい、探してきます」
「よろしく頼む」
ベータ女子が部屋を去る前にLINEを交換したかったが、婚活中の身であること思い出して自重した。
「では失礼しますね、暁月さま」
「はい」
ベータ女子が部屋を後にすると、途端に静けさに包まれる。三日月アドバイザーはこちらをしばらく見つめた後に口を開いた。
「正直なところ、暁月さまがこれほど動揺されるとは思いませんでした。アルファと番ったオメガ性の嗜好が変化することは、義務教育の段階で習うのですが‥‥全くご存知なかったようですね?」
義務教育の段階で習うのか。あー、なるほど。学校に通ってなかった時期があるから、その時か。俺はアドバイザーに事情を話すことにした。
「実は学校に通えない時期があって、その時に教わるべき教育を履修できなかった可能性が高いです」
「なるほど。それは暁月さまのお兄様の件で騒動に巻き込まれた時期の事ですね。」
「あれ?兄の事をご存知なんですか?」
「勿論です。暁月高宗さまは、S級アルファですし‥‥色々と騒動もありましたので」
そうなのだ。俺の実兄の暁月高宗はS級アルファとして生まれて、将来を期待された人物だ。実際、兄さんは凄かった。
最高峰の大学に通いながら、オリンピックの各種目で金メダルを総なめにした強者である。最多金メダル数でギネスブックに載っている。
容姿端麗な筋肉美男子の活躍に、世界中が熱狂したものだ。
オリンピックを引退後は、スポンサーであった某殺虫剤会社に就職。そこで研究者として着実に実績を重ね、兄の論文は常に注目の的で世間を活気づかせた。
しかし、ゴキブリ恐怖症の俺のために、兄さんが地球上のゴキブリを半年で駆逐する薬剤、『バスターX』の開発に着手した事により歯車が狂い始める。
開発半ばであったが軍事転用の危険があるとされ、家族もろとも政府に隔離され監視対象にされてしまったのだ。
嘘みたいな話だが、事実だ。
笑いたい奴は笑え。俺は泣く(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
◆◆◆◆◆
50
あなたにおすすめの小説
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
昨日まで塩対応だった侯爵令息様が泣きながら求婚してくる
遠間千早
BL
憧れていたけど塩対応だった侯爵令息様が、ある日突然屋敷の玄関を破壊して押し入ってきた。
「愛してる。許してくれ」と言われて呆気にとられるものの、話を聞くと彼は最悪な未来から時を巻き戻ってきたと言う。
未来で受を失ってしまった侯爵令息様(アルファ)×ずっと塩対応されていたのに突然求婚されてぽかんとする貧乏子爵の令息(オメガ)
自分のメンタルを救済するために書いた、短い話です。
ムーンライトで突発的に出した話ですが、こちらまだだったので上げておきます。
少し長いので、分割して更新します。受け視点→攻め視点になります。
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
月・木更新
第13回BL大賞エントリーしています。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる