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ラケールは偽りの恋人

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レスキリアン王国の王都に僕は住んでいる。

現国王は、クリストフェル = レスキリアン。王国民にとても人気がある国王だ。だが、僕は尊敬も敬意も払っていない。むしろ、嫌いだ。

僕が畏敬の念を抱くのは、今から三代前の国王アロイージオ = レスキリアンだけだ。かの国王の偉大な功績を褒め称えているのは、おそらくオメガ性の王国民だけだろう。

アロイージオ国王は、ジェンダーフリー政策に生涯注力した人物であった。それまで、オメガ性に生まれた者は、差別され迫害されることが当たり前の世の中だった。だが、国王は法律により、性差による差別を禁止した。また、オメガ性を希少種として保護する法律も作った。

他の政策は悉く失敗し、貧民を増やし「愚王」と呼ばれた国王だが、僕は彼には感謝している。だって、彼がいなければ、僕は学園に通う機会はなかっただろう。学生寮で朝食を食べる機会も、もちろん与えられなかっただろう。

「朝から考え事か、ルチア?」

「上位アルファのラケールと、共に朝食をとることを可能にした、三代前の国王に感謝していたところ。それで、ニンジンは食べないの?」

「甘く煮た人参は苦手だ。食うか、ルチア?」

「侯爵家の令息を、食べ物で買収するつもらり?でも、頂きます。はい、あーん」

僕は口を開いて、ラケールに「ちょうだい」をした。ラケールは呆れ顔で、フォークに刺した人参を僕の口に放り込んだ。僕は甘い人参を咀嚼しながら、ラケールに笑顔を見せた。

「甘煮の人参は、僕も苦手なんだよね」
「苦手な癖に欲しがるなよ、ルチア」

「ラケールの恋人ですから、君の苦手な人参を、愛をもって引き受けたのです。僕に感謝して欲しいなー、ラケール?」

「偽の恋人がよく言う」

学生寮の学食で、こんな甘々関係を披露していると当然噂になる。僕とラケールが恋人関係にあると、多くの学生たちは勘違いしている。

「ルチアが俺の恋人のふりをするから、俺は全くモテない。俺の青春を返せ」

「僕の優しい幼馴染みは、アルフレート兄上と僕の関係を表沙汰にしないために・・恋人のふりをしてくれている。ラケールには、感謝しているんだよ?大好きだよ、ラケール~」

「けっ、言ってろ」

ラケールは、そっぽを向いてしまった。僕はそんなラケールに新たな話題をふった。

「ところで、情報通のラケール。何か新しい話題はない?こう、ドキドキするような」

「はぁー。ルチアの聞きたい話題は一つだろ?だが、ようやくルチアの期待に応じられそうだ。来週から、男爵子息が編入してくるらしいぞ。この時期の編入は珍しいよな?」

ラケールの親族が学園の理事会に所属している為、情報が早く入る。だが、それでも一週間前まで、ラケールも情報を掴めなかったとは、情報統制がされているな。

「名前は、アンリ = プラデス。プラデス男爵の子息で、下位オメガだそうだ」

「ビンゴ!!」
「何がビンゴだよ、ルチア?」

僕はラケールの質問には答えず、ニコニコ微笑んだ。アンリは男爵令息だが、実際には現国王の落とし胤なのだ。ふふ、ついに主人公の登場だ!

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