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1巻
1-3
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そっと彼の顔を見て美羽は息を呑んだ。彼はとても苦しそうに顔を歪め、その額に薄らと汗を滲ませていたからだ。
「……くっ」
智章はうめきながらゆっくり躯を離すと、脱力して美羽の隣に横たわった。彼は片腕を上げて目を覆い、息を弾ませている。全力疾走をしたあとのように激しく上下する胸板を見て、彼は体調が悪いのかと心配になる。
だがその一方で、引き締まった腹筋の下にある黒い茂みからそそり勃つ彼自身は、未だに漲っている。美羽の愛液で光るそれは赤黒く、ピクピクとしなっていた。しかも反り返り方の角度からして、彼の欲望は収まるどころかまだ昂ぶったままなのがわかる。
それを目にしただけで、緊張のあまり美羽の口の中はからからになった。
わたしは? わたしはまだ智章さんに抱いてもらいたいの? ――心の中で自分に問いかけてみると、その答えはすぐに出た。
もちろん、イエス!
「智章さん……」
美羽は勇気を出し、手を伸ばして彼の腕にそっと触れる。
「触るな!」
苛立った怒声にビックリして、美羽は慌てて手を引っ込めた。
「ご、ごめんなさい」
「違う、……そういう意味じゃない」
智章は億劫そうに息を吐き出してから、視界を遮っていた腕をゆっくり下ろす。
「男の燃え上がった性欲は、そう簡単に抑えられないんだよ。今、美羽に触れられたら……お前を最後まで抱かずにいられなくなる。バージンのお前を」
真面目に言ったかと思ったら、彼はふっと笑い、手を伸ばして美羽の頬に触れた。
「悪い、美羽はもうバージンじゃないな」
美羽はそんなことは気にしていないと激しく頭を振り、抱いてほしいという願いを瞳に込める。
「確かに、わたしはバージンじゃなくなったけど、でもそれはわたしが望んだことなの。今も抱いてほしいって思ってる。智章さんがまだ求めてくれるなら、もう一度わたしを――」
最後まで言い終わらないうちに、智章に引き寄せられ唇を奪われた。情熱的なキスに加え、触れ合っている部分から感じる彼の激しい鼓動に、美羽の躯は一気に燃え上がった。
「もう一度美羽を抱きたいかって? 当然抱きたいに決まってるだろ! ずっと……ずっとこの腕に抱きたいと思っていたんだ」
これは美羽が智章と出会ってすぐ惹かれたように、彼もひと目で美羽に好意を抱いてくれたということ?
そう思うと躯中から喜びが湧き上がり、何も話せなくなる。じっと智章を見ていると、彼は鼻で美羽の頬を誘惑するように撫でる。
「痛みを帳消しにするくらいの快感を与えてやる」
智章は小さな声で囁くと、美羽をベッドに押し倒した。視界がぐるっと回って目をぱちくりさせる美羽の横で、彼は背を向けて下を見ながら手を動かしている。
「何をして……?」
少し躯を起こすと、ベッドの上に置かれた破けた四角い包み紙が美羽の目に入った。
もしかして、あれがコンドーム? ――今更だが妙に生々しさを感じ、美羽は恥ずかしくなって躯を丸めて枕に顔を埋める。
「おい、顔を背けるなよ」
智章の言葉に、美羽はほんの少し身動きして上目遣いをした。
「なあ、そんな色っぽい顔で俺を見るな。めちゃくちゃにしたくなるだろ」
「えっ?」
ピンク色に染まった頬、じっと智章を見つめる潤んだ瞳。それらが彼の欲望に火をつけたなんて、美羽は全く気付いていない。
「この天然の恐ろしさ……思い出した。でも今は、美羽を抱く方が先だ」
智章は覆いかぶさり、再び美羽の唇を求めてきた。貪るようなキスは何度も角度を変えて、正気に戻っていた美羽の理性をゆっくり溶かしていく。躯の隅々に手を這わす彼の愛撫や、口腔を蠢く生々しい舌の感触に躯が震えて、下腹部の奥が甘く痺れる。
「……っ、んぁ、……やぁ」
今度は、まるで生クリームを舐めるように、智章のねっとりした舌が美羽の躯を這う。そのたびに敏感に反応して、蕩けてしまいそうだ。
その手がやがて下へと移動し、濡れた黒い茂みを掻き分ける。彼は閉じた襞を押し開き、濡れた蜜口に指を挿入した。くちゅくちゅと音を立てながら膣内を掻き回し、時折壁を強く擦る。
「ダメ! ……そんな、あっ……躯が、おかしく……なっちゃう」
「もっとおかしくなればいい。快楽で蕩ける美羽を、俺に見せてくれ」
早鐘を打つ心音が耳の奥でうるさく響く。美羽の全てを食べつくすようなキスと愛撫に、頭がぼんやりとしてきた。
感じられるのは、躯を支配する甘美な快感のみ。
「もう、ダメ……。わたし、変に……あ……っ、っんぁ!」
美羽は泣きそうになりながら、シーツを強く握った。
「クソッ! お前、俺の理性を失わせるのが上手すぎる」
智章は美羽の双脚の間に割って入ると、膝の裏に手を入れて片足を抱えた。ぱっくりと開いた襞から覗く蜜口にいきり勃つ彼自身をあてがい、そのまま一気に貫く。
「あぁ……っ!」
一瞬、またあの痛みに襲われると思った。でも今度は痛さよりも、膣壁を押し広げる異物の硬さや、狭い場所を無理やりこじ開けて突き進んでくる窮屈さの方が大きい。
「……痛いか?」
美羽は、奥歯を噛み締めて頭を振る。
「ちょっとじんじんするけど……痛いっていうより、すごくきつくて……大きくて、息がしにくい」
正直に話しているだけなのに、何故か智章の頬がバラ色に染まる。
「おまっ。どうしてそう簡単に男を喜ばせることを言えるんだよ。……ああ、もうダメだ!」
そう言って、智章はゆっくり律動を始めた。引いては寄せる波動のように、大きくて硬く漲った彼自身が一定のリズムを刻む。膣壁を擦られるたびに腰が甘く痺れ、その度に美羽は喘ぎを漏らした。
「美羽、……美羽」
胸に秘めた恋情を吐露するような彼のかすれ声に、美羽は胸がきゅんとなった。同時に、心臓を鷲掴みにされたような痛みを覚えて無性に泣きたくなる。
恋情を吐露? ……違う、それは自分に向けられたものではなく、忘れられない元カノへの想いに違いない。
「……俺は、ずっと……この日を」
無意識なのか、智章はそんな独り言を呟く。
やっぱり彼は、自分を抱きながら……元カノへの想いをぶつけている!
身代わりとして抱かれることが、こんなにも辛いものだとは思わなかった。
それでも智章を拒もうとはせず、美羽は乱暴に彼の背に両腕を回して自分の方へ抱き寄せた。乳房が潰され、結合がさらに深くなって苦しいが、自分の想いだけは伝えたい。愛しさを込めて智章の背を撫で上げると、彼の躯が小刻みに震えた。
「頼むから……俺を煽るな。箍が外れてしまう」
智章は歯を食い縛って必死に何かを我慢しているようだったが、上手くいかなかったのだろう。舌打ちした直後、律動を速めてきた。
激しい動きに合わせて、めくるめく喜びが血流に乗って躯を支配していく。それが怖くて美羽はギュッと目を閉じたが、やはり頭の先からつま先まで駆け抜ける甘美な嵐には抗えない。
「あっ……ん、っ……はぁ」
智章はぐちゅぐちゅと淫靡な愛液の音を立てて抽送し、膣壁を擦り上げてくる。
痛いほどの快感にたまらず躯を捻るが、それでも容赦なく突き上げられた。
「あっ、あっ……っんぁ、もう……ダメッ!」
もう助けてほしかった。この身を支配する恍惚のうねりから。
美羽が泣きそうな声で喘ぎ続けていると、智章は荒い息遣いをしながらふたりの間に手を滑らせ、ぷっくり膨らんだ蕾を指の腹で強く擦る。
「はぁ、……っん、ああ……っ!」
その瞬間、美羽の躯の中で何かが爆発したのではないかと思うくらいの快感が弾けた。自分の悲鳴が遠くでこだましているのを聞きながら、一気に脱力した。
そんな美羽を、智章は何にも代えがたい宝であるように抱きしめた。腕に力を込められ、腰がさらに密着する。膣内に収まっている彼の昂ぶりは未だに芯を失わず、深く奥へと埋め込まれたままだ。
収縮を繰り返す膣に合わせて、彼のものがドクンドクンと脈打つ。その振動を意識してしまい、美羽は知らず知らず彼自身を締め付けていた。
「ちょっと、休憩させてくれ」
智章は笑いながらゆっくり躯を離し、コンドームの処理をする。それが終わると、自分の躯の上に美羽を引き寄せて掻き抱いた。
優しい仕草に胸が熱くなるが、そうされればされるほど泣きたくもなる。その意味を考えたくはなかったが、自分の気持ちを誤魔化すことはできない。
わたしは、智章さんの元カノに嫉妬してる! ――思わず口に出してしまいそうになるのをぐっと堪え、美羽は少し身を起こして彼を見つめた。
「どうした?」
智章の言葉に小さく頭を振りながら、彼の左目の下に手を伸ばす。政木には、そこに泣きボクロがあった。智章にホクロはないが、もうそんなことはどうでもいい。政木以外の男性に恋ができるか不安だったけれど、今の美羽の心を占めるのは優しく抱いてくれる智章のみ。
でも彼は? 智章は美羽だけを見つめてくれている?
正直、そうは思えなかった。最初はもちろん美羽自身を見てくれていただろう。だが、途中から智章は美羽に元カノを重ねて抱いているように感じたからだ。
「深く考えるな」
「えっ?」
智章は、自分の肩の窪みに美羽の顔を引き寄せる。
「とにかく、今は何も考えずに休むんだ。かなり自制したせいか、俺も少し躯が辛い。美羽、あとでちゃんと話そう」
そう言って、智章は静かに目を閉じた。美羽が彼の胸に抱かれたまましばらくじっとしていると、頭上から寝息が聞こえてきた。それを機に、ゆっくり彼から離れる。秘所にズキズキとした痛みが走り、美羽は思わず顔をしかめたが、その痛みを堪えてできるだけ素早く服を着る。
帰る準備が整ったところで、静かにベッドに眠る智章に目を向けた。彼は寝息を立てて、まだ気持ちよさそうに眠っている。
「……ごめんなさい」
美羽は静かに謝った。智章は〝あとで話そう〟と言ったのに、彼の話を聞かずこのまま逃げ出すことを選んだからだ。
臆病なのだろう。智章から〝欲望と恋心は別で、美羽の気持ちは受け入れられない〟と言われるのが怖い。〝元カノを忘れられない〟という言葉を聞きたくない。だから、このまま彼と一緒のベッドでゆっくり休むなんてできなかった。
美羽はバッグの取っ手を掴み、ベッドに眠る智章に目をやった。もう一度間近で愛しい人の顔を見たいという欲求から、自然とベッドへ行こうとしていることに気付き、慌てて踵を返す。
それがいけなかった。二つある取っ手のうち一方しか持っていなかったため、バッグの中身が飛び出し、勢いよく絨毯に散らばってしまった。
どうしてこんな時に限って、ミスをするのだろう。
「ん……」
智章のうめき声にギョッとして、美羽はとっさにしゃがみ込む。途端秘所に走る疼痛に声を出してしまったものの、彼が深い眠りから目覚める気配はなかった。
美羽は安堵からホッとするが、すぐに飛び散った荷物をバッグに入れると、振り返りもせず部屋から出ていった。
四
「それで逃げるように帰ってきたの?」
信じられないと言いたげな朱里に、美羽は椅子の上で躯を小さくして頷く。
智章に抱かれた金曜の夜。朱里から智章とパーティを抜けたあとの詳細が知りたいとメールが届いていたが、すぐに話す気にはなれず、週明けに会社で話すと言ってそのままにしていた。
そして月曜日の今日。管理課に所属する美羽と朱里は、午前中から業務の一環である受付を担当する予定になっていた。朝礼が終わって受付に着くなり朱里に催促され、たった今、全て話し終えたところだった。
「どうして自分で相手の気持ちを決めつけるの? あの人が美羽を元カノに見立てたかなんて、本人に聞かないとわからないのに」
「ごもっともです、はい」
「そんなことだから、社員証までなくすんだからね」
「ええっ? ど、どうしてそのことを知ってるの!? あっ、犯人は瑞穂ちゃんね」
美羽は、今朝出社して初めて社員証を失くしたことに気付いた。偶然、エレベーターで一緒になった総務課の同期、佐藤瑞穂にその話をしたあと、美羽はすぐに人事課へ行き社員証の再発行手続きをした。その間に彼女は、美羽の失態を朱里に話してしまったのだろう。
「そう、瑞穂から聞いたの。で、社員証のID無効の手続きは無事終わったの?」
「人事課の人にちょっと嫌みを言われたけど大丈夫。新しい社員証は帰る前にはできてるから、あとで取りにきてくれって言われた」
美羽はポケットから仮の社員証を入れたカードホルダーを取り出し、朱里に見せてから首にかける。
「じゃ、そっちは解決。あとは、その人とのことだけね。連絡先の交換もしていなければ、どこで働いているのかもわからないんでしょ?」
「うん。知ってるのは彼の名前だけ」
どうして連絡先の交換をしなかったのかと訊ねられる前に、美羽は朱里から顔を逸らす。
そこまで頭が回らなかったと話すこともできたが、自分がどれほど智章に心を奪われたのか打ち明けるのはまだ妙に気恥ずかしい。
そんな自分に呆れながら、美羽は誰もいない広い受付を見渡した。
旅行会社パシフィックトラベル・ジャパンは中規模の旅行会社で、池袋にあるオフィスビルの十階にある。大手旅行会社がツアープランを販売するのとは違い、ここでは客の要望に沿ったオリジナルプランを提案している。そのため海外へ買い付けに行く実業家や、個人旅行を楽しむ富裕層、社員旅行を計画する会社が主な顧客となっていた。
顧客に自由に旅を選んで楽しんでもらうため、それを手助けする社員たちも堅苦しいイメージを与えないよう、男女共に制服はない。男性はスーツが多く、ラフすぎない格好を心掛けている。女性は、華美にならない程度の、露出を控えた服を着るようにしていた。美羽や朱里が働いている管理課は受付も担当しているので、特に服装には気を付けている。
美羽は誤魔化すように、今着ているニットワンピースの袖についていた糸くずをつまんではゴミ箱へ入れたり、受付にある応接室の予約表に目をやったりする。だが、先ほどから朱里が何も言わないのが気になり、美羽は恐る恐る隣に目を向けた。
すると、それを待っていたかのように、朱里は優しく美羽の腕に触れてきた。
「もう一度、その人と会えたらいいね」
やっぱり朱里には何もかもバレてる。美羽は、降参とばかりに苦笑した。
「うん、そうだね。もし智章さんと再会できたら、それこそ運命かも」
そう答えながらも、美羽は簡単に彼と再会できるなんて思っていなかった。もし出会えたら、ふたりは運命の赤い糸でつながっていることになるのでは? だが、そんな奇跡は滅多に起こるものではない。
美羽が小さくため息をついた時、受付の電話が鳴った。内線だと確認してから、朱里が受話器を取る。
「受付の下條です。……はい、応接室の予約ですね。午後は……」
美羽は先ほど見ていた予約表を朱里の前へ滑らせ、その間に備品の補充をしようと立ち上がった。そのタイミングで今度は美羽の前にある電話が鳴り、内線のランプが点滅する。
「受付の藤田です」
『……チッ、下條さんじゃなかった』
愛想良く答えた途端、舌打ちに続いて残念そうな男性の声。
また彼ね――美羽は怒るどころか口元を緩めて再び椅子に腰を下ろした。
「観光事業課トラベルプラン係の越智さん、ご用件はなんでしょうか?」
『あっ、やっぱ俺ってバレバレ? それなら下條さんを出してよ。今日のAタイムは彼女が担当だって知って、内線をかけたのに』
朱里のことが大好きだと公言する二十六歳の越智誠一の言葉に、美羽は笑みを零した。
管理課は他の課とは違い、九時から十三時までのAタイムと十三時から十七時までのPタイムという独特の区切りを設けている。受付の仕事は顧客を出迎えるだけでなく雑用も多いため、途中で集中力が切れないようシフト制になっていた。つまりAタイムに受付に座れば、Pタイムは管理課に戻ってテレフォンオペレーターをすることが決まっている。
社内にいるのは変わらないのに、朱里が受付にいる時を狙って内線をかけてくるのは何故か。
理由はただひとつ。管理課での仕事は基本オペレーターなので、内線は課長が取る。だから朱里と直に話をしたいと望む男性社員は、彼女が受付に座るのを見計らい、我先にと内線をかけてくるのだ。もちろん、越智も朱里に想いを寄せる男性社員のひとりだった。
「残念でした。朱里ちゃんは今、応接室の予約を受けてます」
『うわ、本当タイミングが悪いよな。あのさ、悪いんだけど会議室Cにコーヒーを八人分持ってきてくれないかな?』
「八人分ですね。わかりました」
『できれば、下條さんに持ってきてもらえると……』
「それはお約束できません。お茶運びの順番は、わたしたちの間で決めているので」
『……だよね。いつもそう言ってるもんね。それじゃ、コーヒーよろしく』
受話器を下ろすと、朱里が美羽の袖を引っ張る。
「誰?」
「越智さん。コーヒーを会議室に届けてくれって。朱里ちゃんを出せ出せってうるさいのなんの」
ニタニタする美羽に対して、朱里は無表情で「あっそ」と言うだけでそっけない。美羽の知る限り、こんな態度を取るのは越智に対してだけだった。
そもそも、朱里は誰に対しても人当たりのいい態度で接するが、自分の心に踏み込まれないよう一線を画している。越智に対してもそうしていたのに、なんとかして朱里の牙城を崩そうと、あの手この手で近づいてくる彼の姿に苛立ち、やがて愛想笑いもしなくなった。それでも彼は諦めず、朱里の心を手に入れるため頑張っていた。
「じゃ、わたしが行ってくるね」
「ごめんね、気を付けてね」
美羽は受付カウンターから出て、応接室と会議室の近くにある給湯室に向かった。
豆を挽き、コーヒーメーカーにセットする。トレーを台の上に載せると、棚からシュガースティックとミルクを手にし、数分待つ。ここまでは順調だ。
「コーヒーは、もう大丈夫ね」
淹れ立てのコーヒーを注いだカップをトレーに載せ、美羽はゆっくり会議室へ向かった。八人分ということもありトレーは重く、そのせいで粗相をしてしまわないかと緊張したが、無事に会議室までたどり着き、ドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを押し開き中へ入った今も、美羽はコーヒーから目を離さない。零さないように気を付けて進み、テーブルの脇で足を止めた。
「藤田さん、ありがとう」
聞き慣れた越智の声を耳にし、美羽の緊張が解ける。しかし、コーヒーカップを手にして顔を上げた途端、美羽は固まってしまった。
真正面に座り腕を組んでこちらを見ている男性の姿に、思考が全て吹っ飛ぶ。
「やあ、こんにちは。……藤田さん」
今、親しげに美羽の名を呼んだ男性の声。聞き間違いではない。美羽の心臓がドキンと跳ね、息が詰まりそうになる。
どうして? 何故!? ――もう二度と会うことはないと思っていただけに、いろいろな思いが頭の中をぐるぐる回る。
だが、これだけは間違いない。目の前にいるのは、数日前に一度だけ関係を結んだ智章だ。
驚愕を隠せない美羽に対し、人当たりの良さそうな表情を浮かべる智章だったが、こちらを見る彼の目は笑っていない。怒りのような激しい感情が見え隠れするその瞳を、まっすぐ美羽だけに向けていた。
怒っている……。彼は美羽がひとりで逃げたことに苛立ちを露にしている。
そう思った途端、美羽の顔から一気に血の気が引いた。
「藤田さん、危ない!」
越智の叫びを耳にした時はすでに遅かった。
美羽が手にしていたトレーとコーヒーカップは、大きな音を立てて床へ落ちた。足元にはカップ同士がぶつかって無残に割れた欠片が散らばり、コーヒーは絨毯に染みを作っていく。
「す、すみません!」
「おい、何をやってるんだよ!」
他の社員の怒号が響く中、美羽は慌てて膝をつき割れたカップを拾いながら、何度も謝る。越智はすぐに手伝おうとしてくれたが、美羽は大丈夫と彼の手を遮った。
その間もずっと視界に入る彼のことばかり考えてしまい、手が自然と震える。
どうして彼がここに? まさか、自分を追いかけてきたとか!?
その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「失礼します! ……ちょっ、美羽!」
部屋に響いたのは朱里の声。受付にいる朱里にまで、社員たちの怒鳴り声が届いたのだろう。受付業務を誰かに頼んで飛んで来てくれたことが嬉しくもあったが、迷惑をかけたのも事実。そのことに動揺し、またも破片を落としてしまった。美羽は度重なる自分の失態に、思わず天を仰ぎたくなる。
「……大変申し訳ありません。少し狭くなりますが、会議室Dへお移りいただけますか?」
テキパキとした朱里の対応に、そこにいた人たちは文句を言いながらも部屋を出ていった。
室内がシーンと静まり返ってひとりになったと思い、すぐさま割れたカップを全て拾った。そこで初めて肩から力を抜き、美羽は深くため息をつく。
「いくらビックリしたからって、いったい何やってるのかしら、わたし」
「そうだな」
急に真後ろから聞こえた声に、美羽は雷に打たれたようにビクッとして振り返った。ドアにもたれて腕を組み、じっと鋭い視線を放つ智章の瞳とぶつかる。
「俺は怒ってるんだ。話をしようと言ったのに、勝手に帰りやがって」
彼の言葉は鋭い矢となって、美羽の心臓に突き刺さる。その痛みに躯がふらつき、慌てて傍にあるテーブルに手をついた。転ばずに済んで胸を撫で下ろすものの、智章を前にして何を話せばいいのかさっぱりわからず、美羽はただ唇を引き結ぶ。
そんな美羽を眺めながら、智章は話を続ける。
「俺がどれほど苛立ち、焦ったか……お前にはわからないだろうな」
「ま、まさか会社までわたしを追いかけてきたの?」
勇気を出して訊ねる美羽に対し、智章は呆気に取られたように口をポカンと開けた。
「俺が美羽を追いかけてきたって? いや、それはない」
鼻を鳴らして一蹴する彼に、美羽の顔から表情が消える。
ロマンス映画ならここで〝キミを追いかけてきたんだ〟と言って恋に発展するだろう。当たり前だが、想像していたような展開にならないとわかり、美羽の脳裏に浮かんだロマンティックな光景がさっと消えていく。
ショックで口も利けないでいると、智章がいきなり腹を抱えて笑い出した。
「お前、何だよその表情! そんなあからさまな顔をしたら、何を考えているのかバレバレだって」
えっ、わたしの心を読まれてる!? ――慌てて両手で顔を隠すがもう遅い。指の隙間からそっと窺うと、彼は落ち着き払った様子で美羽を見ていた。
「俺がここにいる理由……それは俺もパシフィックトラベル・ジャパンの社員だからだよ。神戸支社から今日付けでここ、本社に異動になった。あの時言っただろう? 東京に引っ越してきたって」
そういえば、彼はパーティ会場で引っ越してきたばかりだと美羽に話してくれた。彼が言っていたのはそういうことだったのかと、やっと気付いた。ただ、同じ会社だとは思わなかったけれど。
「それじゃ、わたしがいきなりこの部屋に入ってきて、智章さんもビックリしたのね」
「いや」
「えっ?」
どうして驚かないのだろう。普通、数日前にその場限りのセックスをした相手と同じ職場だと知ったら、狼狽しても不思議ではないのに。
もう何がなんだがわからない。いろいろな感情が込み上げてきて泣きそうになる。
美羽は、それを抑えるように震える唇を手の甲で隠した。
「表情をコロコロと変えるのは、相変わらずか。……これだよ」
智章はスーツの内ポケットから何かを取り出してテーブルの上に置くと、美羽に向かって滑らせた。美羽は慌ててそれを受け止める。
「えっ? これ、わたしの……社員証!?」
どうして彼が持っているんだろう。美羽は問いかけるように面を上げた。
「それで種明かしになったか? あの日、目が覚めたらお前が消えていた。どこへ行ったのかと思ってベッドから出ようとしたら、シーツの上からそれが落ちたんだ。まさか美羽が俺の父……いや、俺の異動先にいるなんてな。正直、どうにかして美羽を探し出して不満のひとつも吐いてやろうと思ったけど、同じ職場ならいつでも会える。だからここでお前に会っても驚かなかったってわけさ」
智章の言葉どおりなら、部屋でつまずいてバッグの中身が飛んだ時に、社員証だけがベッドの上に落ちたのだろう。絨毯の上に落ちたバッグの中身は、全て回収したのだから。
またも彼の前で醜態を晒したことが恥ずかしくて、美羽は目を閉じて社員証を強く握り締めた。
「それで、俺から逃げた理由は何? 俺とのセックスが気持ちよくなかったから?」
突然放たれたあからさまな言葉に、美羽は頬をほんのり染めながらぶんぶん頭を振る。
「じゃどうして? もしかして、バージンを捨てるために俺を利用したとバレるのが嫌だったのか?」
その言いように美羽は息を呑む。どうしてそんな風にきつい言い方をするのかわからず戸惑う美羽に、智章は器用に片眉を上げて問いかける。
「そうだろ? 付き合ってもいない男に、普通はバージンをあげたりしない。つまり、お前はバージンを捨てたくて、俺を利用したんだ」
聞き捨てならない智章の言葉に、美羽は半歩前に足を踏み出す。
「ち、違います! わたし、智章さんのこと好きだもの! ただ、わたしは智章さんだけを見てたのに、智章さんは途中からわたしを……その、元カノに見立てて抱いたから、それが辛くて」
美羽はそこでハッと我に返り、羞恥から頬を紅潮させた。自分が何を口走ったのかわかったからだ。
「ごめんなさい! わたしの勘違いかもしれないけど、そう感じた途端、智章さんの傍にいるだけで胸が痛くて……、それで、だから!」
「……くっ」
智章はうめきながらゆっくり躯を離すと、脱力して美羽の隣に横たわった。彼は片腕を上げて目を覆い、息を弾ませている。全力疾走をしたあとのように激しく上下する胸板を見て、彼は体調が悪いのかと心配になる。
だがその一方で、引き締まった腹筋の下にある黒い茂みからそそり勃つ彼自身は、未だに漲っている。美羽の愛液で光るそれは赤黒く、ピクピクとしなっていた。しかも反り返り方の角度からして、彼の欲望は収まるどころかまだ昂ぶったままなのがわかる。
それを目にしただけで、緊張のあまり美羽の口の中はからからになった。
わたしは? わたしはまだ智章さんに抱いてもらいたいの? ――心の中で自分に問いかけてみると、その答えはすぐに出た。
もちろん、イエス!
「智章さん……」
美羽は勇気を出し、手を伸ばして彼の腕にそっと触れる。
「触るな!」
苛立った怒声にビックリして、美羽は慌てて手を引っ込めた。
「ご、ごめんなさい」
「違う、……そういう意味じゃない」
智章は億劫そうに息を吐き出してから、視界を遮っていた腕をゆっくり下ろす。
「男の燃え上がった性欲は、そう簡単に抑えられないんだよ。今、美羽に触れられたら……お前を最後まで抱かずにいられなくなる。バージンのお前を」
真面目に言ったかと思ったら、彼はふっと笑い、手を伸ばして美羽の頬に触れた。
「悪い、美羽はもうバージンじゃないな」
美羽はそんなことは気にしていないと激しく頭を振り、抱いてほしいという願いを瞳に込める。
「確かに、わたしはバージンじゃなくなったけど、でもそれはわたしが望んだことなの。今も抱いてほしいって思ってる。智章さんがまだ求めてくれるなら、もう一度わたしを――」
最後まで言い終わらないうちに、智章に引き寄せられ唇を奪われた。情熱的なキスに加え、触れ合っている部分から感じる彼の激しい鼓動に、美羽の躯は一気に燃え上がった。
「もう一度美羽を抱きたいかって? 当然抱きたいに決まってるだろ! ずっと……ずっとこの腕に抱きたいと思っていたんだ」
これは美羽が智章と出会ってすぐ惹かれたように、彼もひと目で美羽に好意を抱いてくれたということ?
そう思うと躯中から喜びが湧き上がり、何も話せなくなる。じっと智章を見ていると、彼は鼻で美羽の頬を誘惑するように撫でる。
「痛みを帳消しにするくらいの快感を与えてやる」
智章は小さな声で囁くと、美羽をベッドに押し倒した。視界がぐるっと回って目をぱちくりさせる美羽の横で、彼は背を向けて下を見ながら手を動かしている。
「何をして……?」
少し躯を起こすと、ベッドの上に置かれた破けた四角い包み紙が美羽の目に入った。
もしかして、あれがコンドーム? ――今更だが妙に生々しさを感じ、美羽は恥ずかしくなって躯を丸めて枕に顔を埋める。
「おい、顔を背けるなよ」
智章の言葉に、美羽はほんの少し身動きして上目遣いをした。
「なあ、そんな色っぽい顔で俺を見るな。めちゃくちゃにしたくなるだろ」
「えっ?」
ピンク色に染まった頬、じっと智章を見つめる潤んだ瞳。それらが彼の欲望に火をつけたなんて、美羽は全く気付いていない。
「この天然の恐ろしさ……思い出した。でも今は、美羽を抱く方が先だ」
智章は覆いかぶさり、再び美羽の唇を求めてきた。貪るようなキスは何度も角度を変えて、正気に戻っていた美羽の理性をゆっくり溶かしていく。躯の隅々に手を這わす彼の愛撫や、口腔を蠢く生々しい舌の感触に躯が震えて、下腹部の奥が甘く痺れる。
「……っ、んぁ、……やぁ」
今度は、まるで生クリームを舐めるように、智章のねっとりした舌が美羽の躯を這う。そのたびに敏感に反応して、蕩けてしまいそうだ。
その手がやがて下へと移動し、濡れた黒い茂みを掻き分ける。彼は閉じた襞を押し開き、濡れた蜜口に指を挿入した。くちゅくちゅと音を立てながら膣内を掻き回し、時折壁を強く擦る。
「ダメ! ……そんな、あっ……躯が、おかしく……なっちゃう」
「もっとおかしくなればいい。快楽で蕩ける美羽を、俺に見せてくれ」
早鐘を打つ心音が耳の奥でうるさく響く。美羽の全てを食べつくすようなキスと愛撫に、頭がぼんやりとしてきた。
感じられるのは、躯を支配する甘美な快感のみ。
「もう、ダメ……。わたし、変に……あ……っ、っんぁ!」
美羽は泣きそうになりながら、シーツを強く握った。
「クソッ! お前、俺の理性を失わせるのが上手すぎる」
智章は美羽の双脚の間に割って入ると、膝の裏に手を入れて片足を抱えた。ぱっくりと開いた襞から覗く蜜口にいきり勃つ彼自身をあてがい、そのまま一気に貫く。
「あぁ……っ!」
一瞬、またあの痛みに襲われると思った。でも今度は痛さよりも、膣壁を押し広げる異物の硬さや、狭い場所を無理やりこじ開けて突き進んでくる窮屈さの方が大きい。
「……痛いか?」
美羽は、奥歯を噛み締めて頭を振る。
「ちょっとじんじんするけど……痛いっていうより、すごくきつくて……大きくて、息がしにくい」
正直に話しているだけなのに、何故か智章の頬がバラ色に染まる。
「おまっ。どうしてそう簡単に男を喜ばせることを言えるんだよ。……ああ、もうダメだ!」
そう言って、智章はゆっくり律動を始めた。引いては寄せる波動のように、大きくて硬く漲った彼自身が一定のリズムを刻む。膣壁を擦られるたびに腰が甘く痺れ、その度に美羽は喘ぎを漏らした。
「美羽、……美羽」
胸に秘めた恋情を吐露するような彼のかすれ声に、美羽は胸がきゅんとなった。同時に、心臓を鷲掴みにされたような痛みを覚えて無性に泣きたくなる。
恋情を吐露? ……違う、それは自分に向けられたものではなく、忘れられない元カノへの想いに違いない。
「……俺は、ずっと……この日を」
無意識なのか、智章はそんな独り言を呟く。
やっぱり彼は、自分を抱きながら……元カノへの想いをぶつけている!
身代わりとして抱かれることが、こんなにも辛いものだとは思わなかった。
それでも智章を拒もうとはせず、美羽は乱暴に彼の背に両腕を回して自分の方へ抱き寄せた。乳房が潰され、結合がさらに深くなって苦しいが、自分の想いだけは伝えたい。愛しさを込めて智章の背を撫で上げると、彼の躯が小刻みに震えた。
「頼むから……俺を煽るな。箍が外れてしまう」
智章は歯を食い縛って必死に何かを我慢しているようだったが、上手くいかなかったのだろう。舌打ちした直後、律動を速めてきた。
激しい動きに合わせて、めくるめく喜びが血流に乗って躯を支配していく。それが怖くて美羽はギュッと目を閉じたが、やはり頭の先からつま先まで駆け抜ける甘美な嵐には抗えない。
「あっ……ん、っ……はぁ」
智章はぐちゅぐちゅと淫靡な愛液の音を立てて抽送し、膣壁を擦り上げてくる。
痛いほどの快感にたまらず躯を捻るが、それでも容赦なく突き上げられた。
「あっ、あっ……っんぁ、もう……ダメッ!」
もう助けてほしかった。この身を支配する恍惚のうねりから。
美羽が泣きそうな声で喘ぎ続けていると、智章は荒い息遣いをしながらふたりの間に手を滑らせ、ぷっくり膨らんだ蕾を指の腹で強く擦る。
「はぁ、……っん、ああ……っ!」
その瞬間、美羽の躯の中で何かが爆発したのではないかと思うくらいの快感が弾けた。自分の悲鳴が遠くでこだましているのを聞きながら、一気に脱力した。
そんな美羽を、智章は何にも代えがたい宝であるように抱きしめた。腕に力を込められ、腰がさらに密着する。膣内に収まっている彼の昂ぶりは未だに芯を失わず、深く奥へと埋め込まれたままだ。
収縮を繰り返す膣に合わせて、彼のものがドクンドクンと脈打つ。その振動を意識してしまい、美羽は知らず知らず彼自身を締め付けていた。
「ちょっと、休憩させてくれ」
智章は笑いながらゆっくり躯を離し、コンドームの処理をする。それが終わると、自分の躯の上に美羽を引き寄せて掻き抱いた。
優しい仕草に胸が熱くなるが、そうされればされるほど泣きたくもなる。その意味を考えたくはなかったが、自分の気持ちを誤魔化すことはできない。
わたしは、智章さんの元カノに嫉妬してる! ――思わず口に出してしまいそうになるのをぐっと堪え、美羽は少し身を起こして彼を見つめた。
「どうした?」
智章の言葉に小さく頭を振りながら、彼の左目の下に手を伸ばす。政木には、そこに泣きボクロがあった。智章にホクロはないが、もうそんなことはどうでもいい。政木以外の男性に恋ができるか不安だったけれど、今の美羽の心を占めるのは優しく抱いてくれる智章のみ。
でも彼は? 智章は美羽だけを見つめてくれている?
正直、そうは思えなかった。最初はもちろん美羽自身を見てくれていただろう。だが、途中から智章は美羽に元カノを重ねて抱いているように感じたからだ。
「深く考えるな」
「えっ?」
智章は、自分の肩の窪みに美羽の顔を引き寄せる。
「とにかく、今は何も考えずに休むんだ。かなり自制したせいか、俺も少し躯が辛い。美羽、あとでちゃんと話そう」
そう言って、智章は静かに目を閉じた。美羽が彼の胸に抱かれたまましばらくじっとしていると、頭上から寝息が聞こえてきた。それを機に、ゆっくり彼から離れる。秘所にズキズキとした痛みが走り、美羽は思わず顔をしかめたが、その痛みを堪えてできるだけ素早く服を着る。
帰る準備が整ったところで、静かにベッドに眠る智章に目を向けた。彼は寝息を立てて、まだ気持ちよさそうに眠っている。
「……ごめんなさい」
美羽は静かに謝った。智章は〝あとで話そう〟と言ったのに、彼の話を聞かずこのまま逃げ出すことを選んだからだ。
臆病なのだろう。智章から〝欲望と恋心は別で、美羽の気持ちは受け入れられない〟と言われるのが怖い。〝元カノを忘れられない〟という言葉を聞きたくない。だから、このまま彼と一緒のベッドでゆっくり休むなんてできなかった。
美羽はバッグの取っ手を掴み、ベッドに眠る智章に目をやった。もう一度間近で愛しい人の顔を見たいという欲求から、自然とベッドへ行こうとしていることに気付き、慌てて踵を返す。
それがいけなかった。二つある取っ手のうち一方しか持っていなかったため、バッグの中身が飛び出し、勢いよく絨毯に散らばってしまった。
どうしてこんな時に限って、ミスをするのだろう。
「ん……」
智章のうめき声にギョッとして、美羽はとっさにしゃがみ込む。途端秘所に走る疼痛に声を出してしまったものの、彼が深い眠りから目覚める気配はなかった。
美羽は安堵からホッとするが、すぐに飛び散った荷物をバッグに入れると、振り返りもせず部屋から出ていった。
四
「それで逃げるように帰ってきたの?」
信じられないと言いたげな朱里に、美羽は椅子の上で躯を小さくして頷く。
智章に抱かれた金曜の夜。朱里から智章とパーティを抜けたあとの詳細が知りたいとメールが届いていたが、すぐに話す気にはなれず、週明けに会社で話すと言ってそのままにしていた。
そして月曜日の今日。管理課に所属する美羽と朱里は、午前中から業務の一環である受付を担当する予定になっていた。朝礼が終わって受付に着くなり朱里に催促され、たった今、全て話し終えたところだった。
「どうして自分で相手の気持ちを決めつけるの? あの人が美羽を元カノに見立てたかなんて、本人に聞かないとわからないのに」
「ごもっともです、はい」
「そんなことだから、社員証までなくすんだからね」
「ええっ? ど、どうしてそのことを知ってるの!? あっ、犯人は瑞穂ちゃんね」
美羽は、今朝出社して初めて社員証を失くしたことに気付いた。偶然、エレベーターで一緒になった総務課の同期、佐藤瑞穂にその話をしたあと、美羽はすぐに人事課へ行き社員証の再発行手続きをした。その間に彼女は、美羽の失態を朱里に話してしまったのだろう。
「そう、瑞穂から聞いたの。で、社員証のID無効の手続きは無事終わったの?」
「人事課の人にちょっと嫌みを言われたけど大丈夫。新しい社員証は帰る前にはできてるから、あとで取りにきてくれって言われた」
美羽はポケットから仮の社員証を入れたカードホルダーを取り出し、朱里に見せてから首にかける。
「じゃ、そっちは解決。あとは、その人とのことだけね。連絡先の交換もしていなければ、どこで働いているのかもわからないんでしょ?」
「うん。知ってるのは彼の名前だけ」
どうして連絡先の交換をしなかったのかと訊ねられる前に、美羽は朱里から顔を逸らす。
そこまで頭が回らなかったと話すこともできたが、自分がどれほど智章に心を奪われたのか打ち明けるのはまだ妙に気恥ずかしい。
そんな自分に呆れながら、美羽は誰もいない広い受付を見渡した。
旅行会社パシフィックトラベル・ジャパンは中規模の旅行会社で、池袋にあるオフィスビルの十階にある。大手旅行会社がツアープランを販売するのとは違い、ここでは客の要望に沿ったオリジナルプランを提案している。そのため海外へ買い付けに行く実業家や、個人旅行を楽しむ富裕層、社員旅行を計画する会社が主な顧客となっていた。
顧客に自由に旅を選んで楽しんでもらうため、それを手助けする社員たちも堅苦しいイメージを与えないよう、男女共に制服はない。男性はスーツが多く、ラフすぎない格好を心掛けている。女性は、華美にならない程度の、露出を控えた服を着るようにしていた。美羽や朱里が働いている管理課は受付も担当しているので、特に服装には気を付けている。
美羽は誤魔化すように、今着ているニットワンピースの袖についていた糸くずをつまんではゴミ箱へ入れたり、受付にある応接室の予約表に目をやったりする。だが、先ほどから朱里が何も言わないのが気になり、美羽は恐る恐る隣に目を向けた。
すると、それを待っていたかのように、朱里は優しく美羽の腕に触れてきた。
「もう一度、その人と会えたらいいね」
やっぱり朱里には何もかもバレてる。美羽は、降参とばかりに苦笑した。
「うん、そうだね。もし智章さんと再会できたら、それこそ運命かも」
そう答えながらも、美羽は簡単に彼と再会できるなんて思っていなかった。もし出会えたら、ふたりは運命の赤い糸でつながっていることになるのでは? だが、そんな奇跡は滅多に起こるものではない。
美羽が小さくため息をついた時、受付の電話が鳴った。内線だと確認してから、朱里が受話器を取る。
「受付の下條です。……はい、応接室の予約ですね。午後は……」
美羽は先ほど見ていた予約表を朱里の前へ滑らせ、その間に備品の補充をしようと立ち上がった。そのタイミングで今度は美羽の前にある電話が鳴り、内線のランプが点滅する。
「受付の藤田です」
『……チッ、下條さんじゃなかった』
愛想良く答えた途端、舌打ちに続いて残念そうな男性の声。
また彼ね――美羽は怒るどころか口元を緩めて再び椅子に腰を下ろした。
「観光事業課トラベルプラン係の越智さん、ご用件はなんでしょうか?」
『あっ、やっぱ俺ってバレバレ? それなら下條さんを出してよ。今日のAタイムは彼女が担当だって知って、内線をかけたのに』
朱里のことが大好きだと公言する二十六歳の越智誠一の言葉に、美羽は笑みを零した。
管理課は他の課とは違い、九時から十三時までのAタイムと十三時から十七時までのPタイムという独特の区切りを設けている。受付の仕事は顧客を出迎えるだけでなく雑用も多いため、途中で集中力が切れないようシフト制になっていた。つまりAタイムに受付に座れば、Pタイムは管理課に戻ってテレフォンオペレーターをすることが決まっている。
社内にいるのは変わらないのに、朱里が受付にいる時を狙って内線をかけてくるのは何故か。
理由はただひとつ。管理課での仕事は基本オペレーターなので、内線は課長が取る。だから朱里と直に話をしたいと望む男性社員は、彼女が受付に座るのを見計らい、我先にと内線をかけてくるのだ。もちろん、越智も朱里に想いを寄せる男性社員のひとりだった。
「残念でした。朱里ちゃんは今、応接室の予約を受けてます」
『うわ、本当タイミングが悪いよな。あのさ、悪いんだけど会議室Cにコーヒーを八人分持ってきてくれないかな?』
「八人分ですね。わかりました」
『できれば、下條さんに持ってきてもらえると……』
「それはお約束できません。お茶運びの順番は、わたしたちの間で決めているので」
『……だよね。いつもそう言ってるもんね。それじゃ、コーヒーよろしく』
受話器を下ろすと、朱里が美羽の袖を引っ張る。
「誰?」
「越智さん。コーヒーを会議室に届けてくれって。朱里ちゃんを出せ出せってうるさいのなんの」
ニタニタする美羽に対して、朱里は無表情で「あっそ」と言うだけでそっけない。美羽の知る限り、こんな態度を取るのは越智に対してだけだった。
そもそも、朱里は誰に対しても人当たりのいい態度で接するが、自分の心に踏み込まれないよう一線を画している。越智に対してもそうしていたのに、なんとかして朱里の牙城を崩そうと、あの手この手で近づいてくる彼の姿に苛立ち、やがて愛想笑いもしなくなった。それでも彼は諦めず、朱里の心を手に入れるため頑張っていた。
「じゃ、わたしが行ってくるね」
「ごめんね、気を付けてね」
美羽は受付カウンターから出て、応接室と会議室の近くにある給湯室に向かった。
豆を挽き、コーヒーメーカーにセットする。トレーを台の上に載せると、棚からシュガースティックとミルクを手にし、数分待つ。ここまでは順調だ。
「コーヒーは、もう大丈夫ね」
淹れ立てのコーヒーを注いだカップをトレーに載せ、美羽はゆっくり会議室へ向かった。八人分ということもありトレーは重く、そのせいで粗相をしてしまわないかと緊張したが、無事に会議室までたどり着き、ドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを押し開き中へ入った今も、美羽はコーヒーから目を離さない。零さないように気を付けて進み、テーブルの脇で足を止めた。
「藤田さん、ありがとう」
聞き慣れた越智の声を耳にし、美羽の緊張が解ける。しかし、コーヒーカップを手にして顔を上げた途端、美羽は固まってしまった。
真正面に座り腕を組んでこちらを見ている男性の姿に、思考が全て吹っ飛ぶ。
「やあ、こんにちは。……藤田さん」
今、親しげに美羽の名を呼んだ男性の声。聞き間違いではない。美羽の心臓がドキンと跳ね、息が詰まりそうになる。
どうして? 何故!? ――もう二度と会うことはないと思っていただけに、いろいろな思いが頭の中をぐるぐる回る。
だが、これだけは間違いない。目の前にいるのは、数日前に一度だけ関係を結んだ智章だ。
驚愕を隠せない美羽に対し、人当たりの良さそうな表情を浮かべる智章だったが、こちらを見る彼の目は笑っていない。怒りのような激しい感情が見え隠れするその瞳を、まっすぐ美羽だけに向けていた。
怒っている……。彼は美羽がひとりで逃げたことに苛立ちを露にしている。
そう思った途端、美羽の顔から一気に血の気が引いた。
「藤田さん、危ない!」
越智の叫びを耳にした時はすでに遅かった。
美羽が手にしていたトレーとコーヒーカップは、大きな音を立てて床へ落ちた。足元にはカップ同士がぶつかって無残に割れた欠片が散らばり、コーヒーは絨毯に染みを作っていく。
「す、すみません!」
「おい、何をやってるんだよ!」
他の社員の怒号が響く中、美羽は慌てて膝をつき割れたカップを拾いながら、何度も謝る。越智はすぐに手伝おうとしてくれたが、美羽は大丈夫と彼の手を遮った。
その間もずっと視界に入る彼のことばかり考えてしまい、手が自然と震える。
どうして彼がここに? まさか、自分を追いかけてきたとか!?
その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「失礼します! ……ちょっ、美羽!」
部屋に響いたのは朱里の声。受付にいる朱里にまで、社員たちの怒鳴り声が届いたのだろう。受付業務を誰かに頼んで飛んで来てくれたことが嬉しくもあったが、迷惑をかけたのも事実。そのことに動揺し、またも破片を落としてしまった。美羽は度重なる自分の失態に、思わず天を仰ぎたくなる。
「……大変申し訳ありません。少し狭くなりますが、会議室Dへお移りいただけますか?」
テキパキとした朱里の対応に、そこにいた人たちは文句を言いながらも部屋を出ていった。
室内がシーンと静まり返ってひとりになったと思い、すぐさま割れたカップを全て拾った。そこで初めて肩から力を抜き、美羽は深くため息をつく。
「いくらビックリしたからって、いったい何やってるのかしら、わたし」
「そうだな」
急に真後ろから聞こえた声に、美羽は雷に打たれたようにビクッとして振り返った。ドアにもたれて腕を組み、じっと鋭い視線を放つ智章の瞳とぶつかる。
「俺は怒ってるんだ。話をしようと言ったのに、勝手に帰りやがって」
彼の言葉は鋭い矢となって、美羽の心臓に突き刺さる。その痛みに躯がふらつき、慌てて傍にあるテーブルに手をついた。転ばずに済んで胸を撫で下ろすものの、智章を前にして何を話せばいいのかさっぱりわからず、美羽はただ唇を引き結ぶ。
そんな美羽を眺めながら、智章は話を続ける。
「俺がどれほど苛立ち、焦ったか……お前にはわからないだろうな」
「ま、まさか会社までわたしを追いかけてきたの?」
勇気を出して訊ねる美羽に対し、智章は呆気に取られたように口をポカンと開けた。
「俺が美羽を追いかけてきたって? いや、それはない」
鼻を鳴らして一蹴する彼に、美羽の顔から表情が消える。
ロマンス映画ならここで〝キミを追いかけてきたんだ〟と言って恋に発展するだろう。当たり前だが、想像していたような展開にならないとわかり、美羽の脳裏に浮かんだロマンティックな光景がさっと消えていく。
ショックで口も利けないでいると、智章がいきなり腹を抱えて笑い出した。
「お前、何だよその表情! そんなあからさまな顔をしたら、何を考えているのかバレバレだって」
えっ、わたしの心を読まれてる!? ――慌てて両手で顔を隠すがもう遅い。指の隙間からそっと窺うと、彼は落ち着き払った様子で美羽を見ていた。
「俺がここにいる理由……それは俺もパシフィックトラベル・ジャパンの社員だからだよ。神戸支社から今日付けでここ、本社に異動になった。あの時言っただろう? 東京に引っ越してきたって」
そういえば、彼はパーティ会場で引っ越してきたばかりだと美羽に話してくれた。彼が言っていたのはそういうことだったのかと、やっと気付いた。ただ、同じ会社だとは思わなかったけれど。
「それじゃ、わたしがいきなりこの部屋に入ってきて、智章さんもビックリしたのね」
「いや」
「えっ?」
どうして驚かないのだろう。普通、数日前にその場限りのセックスをした相手と同じ職場だと知ったら、狼狽しても不思議ではないのに。
もう何がなんだがわからない。いろいろな感情が込み上げてきて泣きそうになる。
美羽は、それを抑えるように震える唇を手の甲で隠した。
「表情をコロコロと変えるのは、相変わらずか。……これだよ」
智章はスーツの内ポケットから何かを取り出してテーブルの上に置くと、美羽に向かって滑らせた。美羽は慌ててそれを受け止める。
「えっ? これ、わたしの……社員証!?」
どうして彼が持っているんだろう。美羽は問いかけるように面を上げた。
「それで種明かしになったか? あの日、目が覚めたらお前が消えていた。どこへ行ったのかと思ってベッドから出ようとしたら、シーツの上からそれが落ちたんだ。まさか美羽が俺の父……いや、俺の異動先にいるなんてな。正直、どうにかして美羽を探し出して不満のひとつも吐いてやろうと思ったけど、同じ職場ならいつでも会える。だからここでお前に会っても驚かなかったってわけさ」
智章の言葉どおりなら、部屋でつまずいてバッグの中身が飛んだ時に、社員証だけがベッドの上に落ちたのだろう。絨毯の上に落ちたバッグの中身は、全て回収したのだから。
またも彼の前で醜態を晒したことが恥ずかしくて、美羽は目を閉じて社員証を強く握り締めた。
「それで、俺から逃げた理由は何? 俺とのセックスが気持ちよくなかったから?」
突然放たれたあからさまな言葉に、美羽は頬をほんのり染めながらぶんぶん頭を振る。
「じゃどうして? もしかして、バージンを捨てるために俺を利用したとバレるのが嫌だったのか?」
その言いように美羽は息を呑む。どうしてそんな風にきつい言い方をするのかわからず戸惑う美羽に、智章は器用に片眉を上げて問いかける。
「そうだろ? 付き合ってもいない男に、普通はバージンをあげたりしない。つまり、お前はバージンを捨てたくて、俺を利用したんだ」
聞き捨てならない智章の言葉に、美羽は半歩前に足を踏み出す。
「ち、違います! わたし、智章さんのこと好きだもの! ただ、わたしは智章さんだけを見てたのに、智章さんは途中からわたしを……その、元カノに見立てて抱いたから、それが辛くて」
美羽はそこでハッと我に返り、羞恥から頬を紅潮させた。自分が何を口走ったのかわかったからだ。
「ごめんなさい! わたしの勘違いかもしれないけど、そう感じた途端、智章さんの傍にいるだけで胸が痛くて……、それで、だから!」
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