17 / 29
sideイリアス
5話
しおりを挟む
「番への道筋の手掛かりを探しに森へ行ったが、精霊に攻撃されたんだ」
端的に事実を告げると、ブシアはぽかんと口を開けて固まった。
「え?何故、精霊が攻撃など?そんな話は聞いたことありませんけど?」
「私が探している人が、『森の民』だからだろうな」
「あー、あの精霊に愛されてるって一族ですか?あれ、でもあの一族って滅びませんでした?」
怪訝な顔になるブシアを横目に見て、私はベッドから降りて衣装室に足を向けた。手早く着替えを済ませると、シャツのカフスボタンを留めながらブシアを振り返った。
「生き延びてくれていたらしい。で、私を助けた人間が、その人のはずなんたが……」
「あれ、でも助けてくれたのって山羊獣人の薬師でしたよ?」
「山羊獣人?あの人は森の民だから人族のはずだが?」
「でも報告にあったのはその獣人だけですが。……あ、そうだ」
何かを思い出したのか、ジャケットの内ポケットに手を突っ込むと、引っ張り出したものを私に差し出した。
「イリアス様が意識をなくしている時に握りしめていた物です。大事な物なんでしょ?」
ブシアの手に乗る物を凝視する。それは、私の血の染みが残るハンカチだった。
「一応洗ったんですけどね。血液の汚れってなかなか落ちなくて。すみません」
そのハンカチを私は黙って受け取った。指が触れた瞬間に、愛しいあの人の気配が感じ取れる。私はそっと目を閉じるとハンカチを唇に寄せ口付けた。
ああ、君の気配だ………………。
彼の気配を、焦がれる気持ちのまま愛くしむ。
「……ブシア、少し夢を渡ってくる」
「道筋、見つかりました?」
問いかけに頷くと、ブシアはニヤリと笑った。
「その怪我のまま行くと驚かれちゃいますからね、ちゃんと治してくださいよ。それから」
一旦口を噤むと、「フム…」と思案顔になる。
「そうですね。今度何かしでかしたら、母君に連絡しますからね」
その言葉に、私は思わず顔を顰めてしまった。
□■
精神の世界に渡り彼の気配を探る。そして辿り着いた先は小ぢんまりとした古い家で、彼はソファの上でスヤスヤと眠りについていた。
私はソファの側に立ち、眠る彼をじっと見つめた。
柔らかい若菜色の髪が縁取る顔は、思わず息を潜めてしまうくらい繊細で美しい造形だった。眠っている事もあり、生きてこの世に存在している事を疑ってしまうほどだ。
迂闊に触れてしまえば消えてしまいそうで、もしそうなったら二度と見付け出せないのでは…と思えてしまう。
触れることを躊躇いながら、でもこの世で唯一の人を手に入れたくて、私の中の獣が狂いそうなほどに暴れ悶えている。
私は敢えてゆったりとその場に跪くと、手を伸ばし眠る彼の頬をそっと撫でてみた。
造り物めいた美しい顔は、ちゃんと人間の温かさを宿していて、私はほっと息をつく。
改めて彼を見ると、どうやら随分と疲れているらしく、少し顔色が悪い。森で私を助けてくれたのは間違いなく彼だ。一生懸命に手を尽くしてひと一人助けたのだから、この疲労具合も納得できる。
ここまで彼を疲れさせた原因が私自身だと思うと申し訳ない気もするけど、私のために全力を尽くしてくれたのだと思うと嬉しさが湧き上がってしまう。
浅ましい感情に苦笑いを洩らしていると、不意に彼が苦しそうに顔を歪めた。
「……………ん、」
小さく苦悶の声が出ている。
ーーーー夢、か?
ふと監獄に押し込めているあの男が思い浮かんだ。あの男の執着。あれの影響かもしれない……。
額にかかる髪を払い、そっと身を屈めた。
「私の愛しい君。君の承諾もなく夢を訪れることを許して……」
額に口付けて、そろりと彼の夢に身をすべり込ませた。
端的に事実を告げると、ブシアはぽかんと口を開けて固まった。
「え?何故、精霊が攻撃など?そんな話は聞いたことありませんけど?」
「私が探している人が、『森の民』だからだろうな」
「あー、あの精霊に愛されてるって一族ですか?あれ、でもあの一族って滅びませんでした?」
怪訝な顔になるブシアを横目に見て、私はベッドから降りて衣装室に足を向けた。手早く着替えを済ませると、シャツのカフスボタンを留めながらブシアを振り返った。
「生き延びてくれていたらしい。で、私を助けた人間が、その人のはずなんたが……」
「あれ、でも助けてくれたのって山羊獣人の薬師でしたよ?」
「山羊獣人?あの人は森の民だから人族のはずだが?」
「でも報告にあったのはその獣人だけですが。……あ、そうだ」
何かを思い出したのか、ジャケットの内ポケットに手を突っ込むと、引っ張り出したものを私に差し出した。
「イリアス様が意識をなくしている時に握りしめていた物です。大事な物なんでしょ?」
ブシアの手に乗る物を凝視する。それは、私の血の染みが残るハンカチだった。
「一応洗ったんですけどね。血液の汚れってなかなか落ちなくて。すみません」
そのハンカチを私は黙って受け取った。指が触れた瞬間に、愛しいあの人の気配が感じ取れる。私はそっと目を閉じるとハンカチを唇に寄せ口付けた。
ああ、君の気配だ………………。
彼の気配を、焦がれる気持ちのまま愛くしむ。
「……ブシア、少し夢を渡ってくる」
「道筋、見つかりました?」
問いかけに頷くと、ブシアはニヤリと笑った。
「その怪我のまま行くと驚かれちゃいますからね、ちゃんと治してくださいよ。それから」
一旦口を噤むと、「フム…」と思案顔になる。
「そうですね。今度何かしでかしたら、母君に連絡しますからね」
その言葉に、私は思わず顔を顰めてしまった。
□■
精神の世界に渡り彼の気配を探る。そして辿り着いた先は小ぢんまりとした古い家で、彼はソファの上でスヤスヤと眠りについていた。
私はソファの側に立ち、眠る彼をじっと見つめた。
柔らかい若菜色の髪が縁取る顔は、思わず息を潜めてしまうくらい繊細で美しい造形だった。眠っている事もあり、生きてこの世に存在している事を疑ってしまうほどだ。
迂闊に触れてしまえば消えてしまいそうで、もしそうなったら二度と見付け出せないのでは…と思えてしまう。
触れることを躊躇いながら、でもこの世で唯一の人を手に入れたくて、私の中の獣が狂いそうなほどに暴れ悶えている。
私は敢えてゆったりとその場に跪くと、手を伸ばし眠る彼の頬をそっと撫でてみた。
造り物めいた美しい顔は、ちゃんと人間の温かさを宿していて、私はほっと息をつく。
改めて彼を見ると、どうやら随分と疲れているらしく、少し顔色が悪い。森で私を助けてくれたのは間違いなく彼だ。一生懸命に手を尽くしてひと一人助けたのだから、この疲労具合も納得できる。
ここまで彼を疲れさせた原因が私自身だと思うと申し訳ない気もするけど、私のために全力を尽くしてくれたのだと思うと嬉しさが湧き上がってしまう。
浅ましい感情に苦笑いを洩らしていると、不意に彼が苦しそうに顔を歪めた。
「……………ん、」
小さく苦悶の声が出ている。
ーーーー夢、か?
ふと監獄に押し込めているあの男が思い浮かんだ。あの男の執着。あれの影響かもしれない……。
額にかかる髪を払い、そっと身を屈めた。
「私の愛しい君。君の承諾もなく夢を訪れることを許して……」
額に口付けて、そろりと彼の夢に身をすべり込ませた。
146
あなたにおすすめの小説
BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。
佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
パン屋の僕の勘違い【完】
おはぎ
BL
パン屋を営むミランは、毎朝、騎士団のためのパンを取りに来る副団長に恋心を抱いていた。だが、自分が空いてにされるはずないと、その気持ちに蓋をする日々。仲良くなった騎士のキトラと祭りに行くことになり、楽しみに出掛けた先で……。
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました
岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。
そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……?
「僕、犬を飼うのが夢だったんです」
『俺はおまえのペットではないからな?』
「だから今すごく嬉しいです」
『話聞いてるか? ペットではないからな?』
果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。
※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。
憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。
Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。
満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。
よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。
愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。
だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。
それなのに転生先にはまんまと彼が。
でも、どっち?
判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。
今世は幸せになりに来ました。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角@書籍化進行中!
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる