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受け視点
7.
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「パスティ様、貴方様のご婚約が決定しました」
馬車に乗って到着したのは、この国の公爵家の邸宅。四大公爵の中でも一番の勢力を誇り、その力に相応しい立派な屋敷だった。
その公爵の執務室のソファに座り、俺は当主から伝言を受けていた。
「殿下、学びの途中ではございますが、遊学はここで終わりです。帰国の準備をせよとのお達しがございました」
「ーーーそうか……。分かった」
俺は重々しく告げる公爵に、鷹揚に頷いてみせた。
この国の友好国、ディアンダー国が俺の生国だ。そこの第五王子として誕生した俺は、生まれ持った紫の瞳と膨大な魔力から、先々魔導師を束ねる魔塔の主になることが決まっていた。
今回の遊学は、魔塔主になる前の最後の自由時間だった。
目的は勿論あってこの国を遊学先に選んだが、その目的も達成できた。
ならば父王が戻れというこのタイミングが、戻り時なんだろう。
「出発は?」
「明後日と考えております」
「なるほど。ではこのまま屋敷に滞在していいな?」
「勿論でございます」
恭しく頭を垂れる公爵を冷めた目で眺めると、俺は徐ろに立ち上がり客間へ案内するために現れた執事の元へ進もうと脚を動かした。
「ーー宜しいのですか?」
貴族らしい、含んだ様な物言いに、俺は「はっ」と嘲るように嗤った。
「何がだ?」
「ご婚約者様の事、何もお尋ねにならないとは……」
「ふ……。人の事を種馬扱いする奴ってことだろ?」
始祖である英雄王の瞳を後世に残すためだけの婚姻。相手が誰であれ関係ない。
「公爵、貴方に言う事でもないが、俺は結婚はしないと遊学に出る時に父に申している。そも、俺の子といって必ず瞳を受け継ぐものでもあるまい」
くるりと踵を返す。実際、俺が生まれるまで数百年単位で、英雄王の瞳を持つものは現れていない。
「王家の血筋が絶えなければよい。公爵が口出す事でもないな」
そう言い捨てると、振り返りもせずに執務室を後にした。
案内差れた客間は、歓談室、寝室、ダイニングルーム、執務室からなる豪華な部屋だった。
英雄王の瞳である紫色は禁色だから、それに近い青色で彩られた部屋。
明らかに王族のための部屋に、俺は苦笑いを洩らした。
「たかたか第五王子のために、ご苦労な゙事だ……」
歓談室の革張りのソファに座ると、待機していた侍女が茶の準備を始める。
優美な手付きで準備されたカップを無感動に眺め、もういい、とばかりに退室させた。
誰もいなくなった部屋で、行儀悪くごろりとソファに寝転がる。
片腕を顔に載せ、俺は自嘲するような嗤いを浮かべた。
「別に何かを期待してこの国を訪れた訳じゃない……」
帰国する事に一片の不満もない。
ただ………。
そうただ、何となく………。
「虚しい…………」
昔、この国へ大使として訪れたことがある。
勿論まだ五歳だか六歳だかの時だったから、ただのお飾りの大使だったけれど。
懐かしく思い出す景色には、一人の男の姿があった。
馬車に乗って到着したのは、この国の公爵家の邸宅。四大公爵の中でも一番の勢力を誇り、その力に相応しい立派な屋敷だった。
その公爵の執務室のソファに座り、俺は当主から伝言を受けていた。
「殿下、学びの途中ではございますが、遊学はここで終わりです。帰国の準備をせよとのお達しがございました」
「ーーーそうか……。分かった」
俺は重々しく告げる公爵に、鷹揚に頷いてみせた。
この国の友好国、ディアンダー国が俺の生国だ。そこの第五王子として誕生した俺は、生まれ持った紫の瞳と膨大な魔力から、先々魔導師を束ねる魔塔の主になることが決まっていた。
今回の遊学は、魔塔主になる前の最後の自由時間だった。
目的は勿論あってこの国を遊学先に選んだが、その目的も達成できた。
ならば父王が戻れというこのタイミングが、戻り時なんだろう。
「出発は?」
「明後日と考えております」
「なるほど。ではこのまま屋敷に滞在していいな?」
「勿論でございます」
恭しく頭を垂れる公爵を冷めた目で眺めると、俺は徐ろに立ち上がり客間へ案内するために現れた執事の元へ進もうと脚を動かした。
「ーー宜しいのですか?」
貴族らしい、含んだ様な物言いに、俺は「はっ」と嘲るように嗤った。
「何がだ?」
「ご婚約者様の事、何もお尋ねにならないとは……」
「ふ……。人の事を種馬扱いする奴ってことだろ?」
始祖である英雄王の瞳を後世に残すためだけの婚姻。相手が誰であれ関係ない。
「公爵、貴方に言う事でもないが、俺は結婚はしないと遊学に出る時に父に申している。そも、俺の子といって必ず瞳を受け継ぐものでもあるまい」
くるりと踵を返す。実際、俺が生まれるまで数百年単位で、英雄王の瞳を持つものは現れていない。
「王家の血筋が絶えなければよい。公爵が口出す事でもないな」
そう言い捨てると、振り返りもせずに執務室を後にした。
案内差れた客間は、歓談室、寝室、ダイニングルーム、執務室からなる豪華な部屋だった。
英雄王の瞳である紫色は禁色だから、それに近い青色で彩られた部屋。
明らかに王族のための部屋に、俺は苦笑いを洩らした。
「たかたか第五王子のために、ご苦労な゙事だ……」
歓談室の革張りのソファに座ると、待機していた侍女が茶の準備を始める。
優美な手付きで準備されたカップを無感動に眺め、もういい、とばかりに退室させた。
誰もいなくなった部屋で、行儀悪くごろりとソファに寝転がる。
片腕を顔に載せ、俺は自嘲するような嗤いを浮かべた。
「別に何かを期待してこの国を訪れた訳じゃない……」
帰国する事に一片の不満もない。
ただ………。
そうただ、何となく………。
「虚しい…………」
昔、この国へ大使として訪れたことがある。
勿論まだ五歳だか六歳だかの時だったから、ただのお飾りの大使だったけれど。
懐かしく思い出す景色には、一人の男の姿があった。
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