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第3話 見下し過ぎて見上げるのは美人だったら許される!

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 さてと、それじゃ行くとするか
10枚出した金貨の内、半分渡して半分取り上げる

 「まずは半分、成功したらもう半分だ……途中で裏切ったら……分かるよな?」

 「あ、ああ……勿論だ……」

 流れてくる感情は服従、恐怖……そして恭順
 完全に金に目が眩んでいるので、今の所裏切る気がゼロなのが分かる。飴と鞭はもう見せた
 裏切れば隣で転がっている相方の様になるのは理解出来ている様だ
更に実験がてら『俺のやる事に疑問は持たずに服従する』という記憶の譲渡もしておく

 と、なれば長剣を返しておこう。案内させるのに俺が持っていると怪しまれるしな、短剣だけシャツの中に隠し持っておく




 「リジルか、ザジはどうした?」

 「ああ、急な腹痛起こしやがってよ。俺一人で連れていく所さ……なーに大人しいもんだ、二人もいらねーよ!」

 すれ違った教団員と自然な受け答えをしている。記憶を奪って俺の命令を聞くだけの傀儡にする事も考えたが、加減がまだ分からない
 それにこう言った時にボロがでて面倒が起きる事も考えられる、上手く誤魔化したもんで2・3話すと疑いもせずにすれ違う

 「後は、そこの突き当たりが獄長の部屋だ……そこまで案内したら部屋の隅で震えてろ、すぐに終わらせる。そしたらご褒美をくれてやる」

 後ろは振り返らない様に言ってある、首だけで合図を送って来る
 こうまで従順だと慈悲心が湧いて来るが、スマナイな……せめてお前が助かる様、祈る位はしておくよ……どの神様にかは覚えてないけどな……


 「失礼します、教団員リジル・ジャローム入ります」

 ノックして室長室へと入っていくリジルの後ろについて俺も部屋へと入る……中に居たのは、椅子に座った中年のハゲた小太りの男と、傍に立つ青白い髪をした少女
 ここの室長……だが、自らを獄長と呼ばせる権力志向のサディスト……カルフォンソ・ジャローム
 そこにいるのに存在感を全く発さない小柄な少女……だが暗殺集団であるジャローム教団が産んだ最高傑作と言われる殺戮人形『殺しの子供達キリング・チルドレン』シリーズの一人、フィアル……『抹殺妖精フィアル』

 この二人がザジの記憶通りに部屋の中にいる……初対面だが、顔も名前も分かるってのは不思議な物だな
 特にフィアルに関してはサディストの獄長よりも恐怖の対象なのか、教団に関する記憶を辿るとやたらと殺の字が出てきて羅列された……

 見た目は小さな12歳位の少女……140センチ位で青白い髪はショートボブ、上級教団員の制服である革製品の生地だが、ノースリーブシャツにハーフパンツという軽装である
 ただ小柄な少女が持つには不釣り合いな腰に差してある二本の小太刀、二本差しの侍に見えなくもないが可憐と言って差し支えない顔には一切の表情と呼べる物が浮かんでいない……それが余計に存在感を希薄にしている


 「君を呼んだ覚えはないのだがね……一体、何用かね?それに後ろのその男は、尋問官の所へ連れていくはずだったが?」

 カルフォンソの感情が流れてくる……呆れ、侮蔑、警戒……まぁ、そりゃそうだな

 「そ、それが……その~……」

 俺の方へ目で訴えてくるリジル……
やはり俺がやる事に疑いは持たないっていう偽造した感情を譲渡しても、これからどうするんだ?と不安げな感情を流してくる。無条件で信じさせるってのも難しいのか……実験はここまでだな、まぁいい

 「何だ?ここに連れてこられたのは間違いだったのか?失礼しました、何分記憶が無いので無作法をしてしまった様で」

 背を向けて部屋から出る振りをする……リジルからは焦り、獄長であるカルフォンソからは……憤怒と……愉悦!

 想定通りだ!案の定、カルフォンソが目配せをしてフィアルが俺の視界から消える……現れた先は俺を見て狼狽えるリジルの背後!あらかじめ予測してないと完全に見失っていた……
 実行する瞬間まで敵意を感じる事すら出来なかった……だが、これで俺の勝ちだ!

 リジルの太ももへと小太刀を一振り抜いて、突き刺すフィアル

 「がああぁぁぁ!!!」

 絶叫するリジル、こいつ運がいいな……脚なら死ぬ可能性も減るだろ、肉盾ご苦労だったな!
 真面にやっていたら触れる事が出来ていたか分からないスピードだが、目安はくれてやっていた。俺か、リジルかは賭けだったが愉悦に浸りたいなら見知った無能者を誹った方がサディズムは満たされる
 のけ反るリジルに構わず、フィアルの剥き出しの腕を掴んだ!

 フィアル・ジャローム 16歳 ジャローム教団上位暗殺員から 中位精霊魔法の記憶習得 中位回復魔法の記憶習得 上位双刀術の記憶習得 上位体術の記憶習得 上位感覚強化の術習得 上位身体強化術の記憶習得 高位気配遮断の記憶習得 高位気配察知の記憶習得 高位状態異常耐性の記憶習得 最高位???の記憶の断片を獲得


 凄まじい能力の記憶の数々が一気に流れ込んでくる!下位暗殺員とは比べ物にならない程の格上スキルが目白押しだ!最高位???の記憶の断片ってのは何だ?これだけ獲得しているになってるな……詳しく調べる時間はない、今は後回しだ

 ……そしてそれとは裏腹に、この娘自身の記憶は驚くほど何もない……物心ついた時から訓練を強制され、一緒に育った仲間とすら殺し合い洗脳された人生の中で、自らの心を殺していく過程だけは走馬燈の様に一気に追体験出来た

 全ての記憶を奪ったザジの、二分の一以下の年齢とは言え、これでは十分の一にも満たない記憶量だ。考える事を拒否する事で日々の記憶を、過去の思い出を拒絶している……

 16歳という年齢に見えない少女の凄惨な生き様に、哀愁の念が心を過る……そんな彼女の力なら、このままカルフォンソを制圧出来るかもしれないが用心に越した事は無い
 
 まだよく分からない条件があるので念の為にフィアルの人生の記憶を一部だけ上書きして、上位双刀術と体術の記憶と一緒に彼女の中へ戻す……



 ハッと我に返ったフィアルが俺から離れ距離を取る、記憶の消去・再入力に自己防衛本能が働いているのだろうか?表情に一瞬の焦りが見えた、流れて来た感情はほんの一瞬だけだが……

 「おや?そこの簡単な命令すら遂行出来ない駄犬を心配しているのかね?残念ながらそっちの人形は私の命令に絶対服従でね……私以外の命令には反応しないのだよ!」

 「ああ、知ってるよ!の命令以外の事は聞かない『殺戮人形』だって事もな!」

 「報告には記憶喪失とあった様ですが……キリング・チルドレンの事を知っているとは不可解ですね、取り押さえなさい人形!喋れるなら腕や足の一本・二本斬り飛ばして構いません!!」

 「今だフィアル!死なない程度にそのクソ加虐野郎を斬り裂け!!」




 上位体術の記憶が戻ったフィアル……記憶から操るスキルを行使する!上位体術のスキルで襲い掛かり、上位双刀術を使って二刀流の小太刀を振るう……

 「ば……馬鹿な!?ガバァッ!!」

 自分の圧倒的優位を疑わず、傲慢な姿勢のまま椅子にふんぞり返って、盛大な愉悦心を満たそうとしていたカルフォンソの胸が十文字に斬り裂かれる!
 ……えーっ!?その出血量ほっといたら死ぬんですけど!?俺の命令が拙かったか?……仕方ない、急ぐとしよう!

 「フィアル、俺が回復魔法を使い終わったら『今、使ったのは回復魔法です』って言ってくれ!」

 「イエス、マスター……」

 主の記憶をカルフォンソから俺に書き換えられ一切、感情の籠らない声で答えてくるフィアル。グズグズしている暇はない、記憶を奪い切る前に死なれたら困るのは俺だ!ぶっつけ本番だがやれる事はやろう
 俺はカルフォンソに近づき回復魔法を実体化する、一番回復量のデカイ魔法を傷口めがけて光を放つ!

 癒しの光が盛大に出血する胸の傷口を塞いでいく……が、ある程度出血が治まり緩やかになった位だ。何か不思議な光景だな、まるで逆再生映像をみてるみたいだ
 何なんだろうなこの現象……駄目だ!思い出せない!

 「今……使ったのは……回復魔法……です……」

 ああ、そうだ!回復魔法だ!成功だ、俺は回復魔法を使えるしコストは記憶の消去だけでいい様だ。思い出したらまた使えるな
 これならカルフォンソを完全に治す事が出来るし、ずっと呻いているリジルも治せるがそれも全部後回しだ

 まずは、幾分マシになったとはいえ動けなくなった無能獄長から洗いざらい知ってる事を吐いて貰うとしよう
 胸を斬り裂かれ苦しそうに呼吸をしていて喋る事は出来ないだろうが、吐き出して貰うのは言葉じゃなくて記憶だ
 散々、愉悦の感情を流し込んでくれたサディストに容赦はしない。直に触れた方が効果も高いから仕方ないのもあるしな!



 机に土足で上がるとか大変失礼なので、ちゃんと靴を脱いで机の上に立つ……余り変わらないのは分かっちゃいるがな!
 椅子に座ってふんぞり返って見下していた奴を、さらに上から見下して机の上から顔面を踏んず蹴る
 
 カルフォンソ・ジャローム 45歳 ジャローム教団高位暗殺員から 上位回復術の記憶取得 上位体術の記憶再取得 高位斧槍術の記憶取得 高位統率指揮の記憶取得

 こいつの記憶量は凄いな!一々全部見てられない……最近の俺に関する記憶だけ選んで後は全部破棄だ、こいつを治す気は無くなった。放っておけば出血多量でどうせ助からない
 それじゃあもう一個実験するとしよう……
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