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フィアルが王太子許嫁を了承した事により、バーミンガムの問題は一時の解決を見せた。だが、もう一つの問題……フリーブラッドの侵攻は苛烈さを増していた。
病床の父ミリアルドは、それでも戦場に立とうとした。残り最後の命を燃やし尽さんばかりに……
そんな父に代わらんと、自らフィアルは戦場に赴く事となる。当然、ミリアルドは反対したが、一度言い出したら聞かない所も母譲りのフィアル。
母・マリエルにミリアルドをベッドに縛り付けておくようお願いして、無理矢理に指揮権を拝借しての出陣に、ミリアルドは生きた心地がしなかったと言う……
が、西国一の紫苑は戦場にこそ咲き誇った……
フィアルには三つの才能があった。
一つ目はマリエル譲りの美貌。二つ目が、これまたマリエルから譲り受けた『癒やしの魔法』の才能。
残念ながらマリエル程、癒やしの秘術とも呼べるような魔法の才能に恵まれた訳ではなかった……だが戦場で傷付いた末端の一兵士にも、懸命に癒やしの魔法を施す自軍の美将に、シェリオン軍の士気は沸きに沸き立った。
三つ目は武芸の才。母の魔法の才能に届くべくもないコンプレックスから武芸に打ち込んだのが始まりだったが、そこは父譲りの武芸の才を開花させたのであった。
大国フリーブラッドが数の暴力で押し寄せようと、フィアルを守らんとする少数だが精鋭のシェリオン軍の敵ではなく。また数の力でフィアルの前に辿り着いた者達は、紫苑の花舞うような武芸によって血の華を咲かせた。
そしてもう一つ、才能と呼ぶには別の力に守られたフィアルは、大国フリーブラッド相手に初陣を大勝で飾ったのであった。
獅子の子は獅子……英雄フィアル・シェリオンの誕生であった。これこそがフィアル自身の第二の不幸でもあったのかもしれない……
病床の父に代わり、連戦連勝を続けるフィアルだったが、急停止が掛かる事となる。
フリーブラッドとの戦い……ではなく、バーミンガムとの問題が再発する時期が来たからである。
フィアルと王太子・ジェリドが16歳となり、フィアルは結婚出来る年齢となった。後はジェリドが王侯貴族の通う学院を卒業して18歳になれば二人は婚姻を結ぶ事となる。
王侯貴族の結婚となれば、盛大な政である。事前に何度も両家が入念な打ち合わせをする必要があった……が、シェリオン家にとっては戦の真っ最中でそれ所ではない。シェリオン軍はフィアルの双肩に懸かっていると言っても過言ではない状況で、花嫁になる準備を出来る余裕などあろうはずもなかった。
バーミンガム王国からも支援はあった……が、少数精鋭のシェリオン軍は地の利を活かして大軍であるフリーブラッドと戦ってこれたのである。数と物資が送られて来た処で、それを指揮する人間がいなくてはただの消耗戦でしかない。無駄に命が散っていくなど、フィアルには耐えられる事ではなかった。どれだけバーミンガム王家からの要請があろうとシェリオン領を離れる訳にはいかなかったのである。
これに不服と唱えたのがジェリド。王子としての面子を潰されたと思い、周囲にも不満を漏らしていた。その間隙を突く者が現れたとて、何も可笑しな事はなかった……
ジェリドの通う学院の同級生、後に側妃となる『アルマダ・フランチェスカ』はこう告げた
「フィアル・シェリオンはジェリド王子の愛情を利用して援軍を送らせているだけ」
と……
事実では無い。だがジェリドからして見ればそうとも取れる状況で、自分の事を気にも留めない婚約者がもしかしたら……と、邪推を繰り返す事で、事実として勝手に出来上がっていく。
そうなると後は簡単だった……
「シェリオン家がフリーブラッド帝国と戦えているのは、シェリオン家が裏でフリーブラッド帝国と繋がっているから」
子供の頃の妄想を共感され……
「フィアルは売女、貴族なのに一兵士にまで癒やしを施すとか噂されています」
都合良く曲解された事実を情報として流され……
「私は違う、私だったら王子の愛情に全力で答えますのに」
情熱的な愛の言葉を囁かれれば……
手の届かない紫苑より、近くの花に惹かれるのは、とても簡単な事だった。
しかしフィアルは弁明しようにも学院にはおらず、王国の最果てに位置する遠い西の地で戦うほかなかった。
本来ならばフィアルも王侯貴族の子女として学院に通わねばならないはずだった……が、フィアルは英雄だった。もう一人の英雄である父は病魔に犯されていた。不幸が不幸を呼ぶとは、正にこの様な事を言うのであろう。
だがしかし……負の連鎖は止まらない。
業を煮やしたフリーブラッド帝国の大侵攻が始まったのである。大国が一地方領を制圧するために、恥も外聞も無く、フリーブラッドの戦力ほぼ全てを投入しての決戦。
結果、フリーブラッド軍は将兵合わせて7割を失う大敗北を喫した。そしてシェリオン軍は……英雄ミリアルド・シェリオンと多数の兵士を失った。
数の上ではシェリオンの勝利と言えるであろう……だが失った者は余りにも大きく、シェリオンの地はその支えを失い混迷を迎える。
そして最後の不幸がフィアルに訪れた……
病床の父ミリアルドは、それでも戦場に立とうとした。残り最後の命を燃やし尽さんばかりに……
そんな父に代わらんと、自らフィアルは戦場に赴く事となる。当然、ミリアルドは反対したが、一度言い出したら聞かない所も母譲りのフィアル。
母・マリエルにミリアルドをベッドに縛り付けておくようお願いして、無理矢理に指揮権を拝借しての出陣に、ミリアルドは生きた心地がしなかったと言う……
が、西国一の紫苑は戦場にこそ咲き誇った……
フィアルには三つの才能があった。
一つ目はマリエル譲りの美貌。二つ目が、これまたマリエルから譲り受けた『癒やしの魔法』の才能。
残念ながらマリエル程、癒やしの秘術とも呼べるような魔法の才能に恵まれた訳ではなかった……だが戦場で傷付いた末端の一兵士にも、懸命に癒やしの魔法を施す自軍の美将に、シェリオン軍の士気は沸きに沸き立った。
三つ目は武芸の才。母の魔法の才能に届くべくもないコンプレックスから武芸に打ち込んだのが始まりだったが、そこは父譲りの武芸の才を開花させたのであった。
大国フリーブラッドが数の暴力で押し寄せようと、フィアルを守らんとする少数だが精鋭のシェリオン軍の敵ではなく。また数の力でフィアルの前に辿り着いた者達は、紫苑の花舞うような武芸によって血の華を咲かせた。
そしてもう一つ、才能と呼ぶには別の力に守られたフィアルは、大国フリーブラッド相手に初陣を大勝で飾ったのであった。
獅子の子は獅子……英雄フィアル・シェリオンの誕生であった。これこそがフィアル自身の第二の不幸でもあったのかもしれない……
病床の父に代わり、連戦連勝を続けるフィアルだったが、急停止が掛かる事となる。
フリーブラッドとの戦い……ではなく、バーミンガムとの問題が再発する時期が来たからである。
フィアルと王太子・ジェリドが16歳となり、フィアルは結婚出来る年齢となった。後はジェリドが王侯貴族の通う学院を卒業して18歳になれば二人は婚姻を結ぶ事となる。
王侯貴族の結婚となれば、盛大な政である。事前に何度も両家が入念な打ち合わせをする必要があった……が、シェリオン家にとっては戦の真っ最中でそれ所ではない。シェリオン軍はフィアルの双肩に懸かっていると言っても過言ではない状況で、花嫁になる準備を出来る余裕などあろうはずもなかった。
バーミンガム王国からも支援はあった……が、少数精鋭のシェリオン軍は地の利を活かして大軍であるフリーブラッドと戦ってこれたのである。数と物資が送られて来た処で、それを指揮する人間がいなくてはただの消耗戦でしかない。無駄に命が散っていくなど、フィアルには耐えられる事ではなかった。どれだけバーミンガム王家からの要請があろうとシェリオン領を離れる訳にはいかなかったのである。
これに不服と唱えたのがジェリド。王子としての面子を潰されたと思い、周囲にも不満を漏らしていた。その間隙を突く者が現れたとて、何も可笑しな事はなかった……
ジェリドの通う学院の同級生、後に側妃となる『アルマダ・フランチェスカ』はこう告げた
「フィアル・シェリオンはジェリド王子の愛情を利用して援軍を送らせているだけ」
と……
事実では無い。だがジェリドからして見ればそうとも取れる状況で、自分の事を気にも留めない婚約者がもしかしたら……と、邪推を繰り返す事で、事実として勝手に出来上がっていく。
そうなると後は簡単だった……
「シェリオン家がフリーブラッド帝国と戦えているのは、シェリオン家が裏でフリーブラッド帝国と繋がっているから」
子供の頃の妄想を共感され……
「フィアルは売女、貴族なのに一兵士にまで癒やしを施すとか噂されています」
都合良く曲解された事実を情報として流され……
「私は違う、私だったら王子の愛情に全力で答えますのに」
情熱的な愛の言葉を囁かれれば……
手の届かない紫苑より、近くの花に惹かれるのは、とても簡単な事だった。
しかしフィアルは弁明しようにも学院にはおらず、王国の最果てに位置する遠い西の地で戦うほかなかった。
本来ならばフィアルも王侯貴族の子女として学院に通わねばならないはずだった……が、フィアルは英雄だった。もう一人の英雄である父は病魔に犯されていた。不幸が不幸を呼ぶとは、正にこの様な事を言うのであろう。
だがしかし……負の連鎖は止まらない。
業を煮やしたフリーブラッド帝国の大侵攻が始まったのである。大国が一地方領を制圧するために、恥も外聞も無く、フリーブラッドの戦力ほぼ全てを投入しての決戦。
結果、フリーブラッド軍は将兵合わせて7割を失う大敗北を喫した。そしてシェリオン軍は……英雄ミリアルド・シェリオンと多数の兵士を失った。
数の上ではシェリオンの勝利と言えるであろう……だが失った者は余りにも大きく、シェリオンの地はその支えを失い混迷を迎える。
そして最後の不幸がフィアルに訪れた……
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