深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

文字の大きさ
8 / 124
1人目

機転

しおりを挟む
 第二層、ここが裏迷宮だとしても風土の特徴は話に聞いた『豪風の草原』と全く同じだった。ならば起こるはずだ、半刻に一度発生する 二層の名前の由来になった死のトラップが。

「シズク! 俺が『今!』って合図をしたら<反転リバース>を使ってくれ!」
「はい!」

 <反転リバース>とはその名の通りスキルの効果を反転するスキルのはずだ。珍しいが地上でも何人か同じスキルを持っている奴を見たことがある。
 俺は魔兎とシズクの間に立つようにして、間違ってもシズクが喰われないようにする。シズクならもし喰われたとしても自身で瞬時に回復出来るかもしれないが、転生者なら怪我に不慣れかもしれない。パニックを起こすとスキルの発動に支障が出るし、俺が守るのが最善だろう。

「きゅっ」

 魔兎は首を傾げ、恐ろしさを忘れさせる鳴き声が耳に届く。

 ───来る! 

 加速する思考、だが遅い。既に奴の姿は前から消えている。

「っ……!!」

 右側が真っ暗になり、視界が急に狭くなったことに気付く。

「<治癒ヒール><治癒ヒール>!」

 泣きそうなシズクの声が聞こえた瞬間、視界が元に戻り、抉られた右頭部を吐き捨てる魔兎が視野のスレスレ、右斜め後ろに映る。

 ──不味マズい!! 後ろに回られた!!

 ほぼ反射、思考よりも早く右腕をシズクの首の高さに差し込む。と同時に凄い勢いで体が腕に引っ張られ、雫を巻き込む形で後ろに転んだ。

「っ<治癒ヒール>!」

 声と同時に千切られた右腕が瞬時に再生。またも魔兎に背後を取られ、右腕の痛みが来るよりも早く膝を立てて魔兎と向き合─── 

「きゅいっ?」

 ─── 背中側から魔兎の声。

 だが、魔兎はまだ目の前に居た。最悪の可能性がよぎるが、しかし今は目の前の魔兎に精一杯。振り返れば、それこそ死が待っているだろう。

「……っ2匹目!!!」

 シズクが叫び、想定した最悪の可能性が正しいことを知らされる。あと2分30秒、これは……流石に詰んだか? 絶望的状況になぜか笑えてしまう。

「リューロさん! <対象変更ターゲットチェンジ>!」

 俺の名を呼ぶシズクの声で現実に再び引き戻される。その声はまだ生を諦めていない声だった。

 ──っていうか<対象変更ターゲットチェンジ>……? 
  
 確か自己対象のスキルを任意の対象に発動させることが出来るスキルだったか?  俺が持ってるスキルは……そうか! シズクの天才的なひらめきを理解した俺は賞賛の声を送りたくなる気持ちを抑えて、前と後ろの魔兎に叫ぶ。

「<逃亡エスケープ>っ!!!」

 <逃亡エスケープ>は逃げることに関わる全てのステータスをアップさせ、副効果として戦意を喪失させることが出来るスキルだ。つまり、これにかかった魔兎は─── 

「「きゅっっ!!!!!!!!!!!」」

─── こんな風に声にならない悲鳴をあげて、まさしく脱兎のごとく全力で逃亡してくれる。

 それにしても、シズクはどうして<逃亡エスケープ>の副効果なんで知っていたんだろうか。少し疑問に思いながらも、シズクのスキルで展開されている時計を見ると現在時刻は17時29分、魔兎2匹相手に1分は稼げなかっただろうし、彼女の奇策が無かったら俺たちは死んでいたな。

「リューロさん!」

 気を抜いた俺の背中を叩くシズクの声、それとほぼ同時に地鳴りのような低い轟音が鳴り始める。

「さっきので、いっぱい来てます!!! 」

 いっぱい来てる? 何が?

 と聞く前に答えは眼前に現れた。はるか遠くから白い何かが波のように押し寄せてくる。雪崩のように轟音と共に凄まじいスピードで押し寄せるそれは
 
「魔兎……」

 そういえばどこかで見たことがある。魔兎は自分より遥かに強い敵から逃げる時に仲間を呼ぶことがある、と。

「む、無理じゃん……」

 自然災害のような圧倒的死の恐怖にシズクは、力が抜けたようにへたりこんでしまう。

 だが、さっきので十分に時間は稼げた。現在時刻、17時29分30秒。

「きゃっ」
「<軽量化ウェイトリダクション>!」

 俺はへたり込むシズクに覆い被さるように押し倒して、スキルを発動させる。

「今だ!!」
「え、あっ! <反転《リバース》>!」

 17時29分50秒、シズクの<反転《リバース》>によって、俺の体重が普段の何倍にもなる。

 あと10秒、魔兎の軍勢がたどり着くよりも早く─── 『死の豪風』が発生する。




 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

《カクヨム様で50000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

処理中です...