深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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豪風

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「雫、俺にしっかり掴まれ。あと目を瞑っていた方がいい」

 俺に覆い被さられたことで、びっくりして目を見開いてる雫はそれでも冷静に言葉に従って、俺の両腕をしっかり持って目を瞑った。

 駆け寄ってくる魔兎の足音が四方八方から聞こえる中、さっきまでとは明らかに違う生ぬるい風が頬を撫で始める。時計を見た、あと5秒だ。

 視界の端に魔兎の姿が見える。先頭の兎の赤い目が妖しく光って、獲物を狩る目付きになった。五月蝿さを増す魔兎の接近とは対称的に、風は驚く程に静かになる。あと3秒。

 先頭の魔兎は俺たちとの距離が数歩程になったことで、遂にその足を地面から離して一直線に飛んで向かってくる。視界を占める白いもふもふの面積がどんどんと大きくなっていって、「喰われる!」と思ったその次の瞬間

 ───バン!

 耳を思い切り殴られたような衝撃音と同時に魔兎はぶっ飛んでいった。

 酷い耳鳴りの中、俺はそれでも目を開けて『死の豪風』の恐ろしさをこの目で記録しようとしたが、風によって舞い上がった砂によってそれすらも叶わない。俺は諦めて、雫が吹っ飛ばされないようにしっかり守ることに専念することにした。


***


「うわぁ」

 殺人鬼でも見たかのような雫の目に気付かないフリをしながら、俺は真っ赤に染まった草原の中で魔兎にとどめを刺していく。

 ひゅうひゅうと息を荒らげる魔兎は、その外見だけを見れば可哀想と思ってしまうがそれでも魔物には違いない。

「雫もやらないでいいのか? 良い経験値になるぞ」
「い、いや……わ、私はイイかな……」

 下半身が無くなった魔兎を見せたが、断られた。まぁそれもそうか。雫のステータスならレベリングする必要もさして無いのだろう。

 それにしても魔兎の牙の鋭さは凄いな。ダガーナイフが無かったから仕方なく傍で転がっていた魔兎を殴り殺して、牙を1本抜き取ったんだが、大きさ的には指の2関節分ぐらいしか無いのに驚くほどスルスルと刃が入る。とは言え、武器にするには手回しが悪すぎるが。

 そうして、トドメを刺した魔兎の数が150匹に達した頃─まぁ合間合間の『死の豪風』で死体が飛ばされていなければもう100匹は居ただろうけど─頃合のいい時間になったということで『セーフゾーン』で夕食を取る事になった。

 雫が何らかのスキルによって亜空間から取り出してきた『おにぎり』なる食べ物、それを言われた通り複雑怪奇な手順で皮を剥ぎ、恐る恐る口に運ぶ。

「ど、どうですか?」
「なんだ……これ……美味すぎる!!!」

 転生者と言うのはこれほど美味しいものがある世界に生きていたのか!? 凄い、どれだけ発展した世界なんだ!

 太陽が出っぱなしの夜、俺と雫はダンジョンの中、誰も知らない場所で2人きり、確かに生を味わっていた。
 
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